継母と娘? 食卓バトル
天国の父さん、これはどういうことですか。俺は何か悪いことをしたんでしょうか。
シルヴィアのお父さん、トーマスさんの家で食事をさせてもらうことになり大きなテーブルで食事をしていた。
俺はなぜかシルヴィアの隣に座らせられ何かあるとシルヴィアにくっつかれていた。
しかし、どうしても納得いかないことがある。
「あ、あのさ……俺と会ったことあるの?」
「もちろん! 九歳のころ、ケイトのお父さんに会いにきたパパと一緒にいたじゃない」
全く覚えてません。
「一緒に遊んだことも全部覚えてるわ。一緒に木登りしたり探検したり……」
記憶に全くない。とうとう俺もボケたのかと思うくらい全く覚えがない。
しかしトーマスさんも俺のことを知っているし父さんのことも知っているので間違いとかそういうのではないようだった。
トーマスさんは父さんの友人だったらしく死んだ旨を伝えると悲しそうに目を伏せたが俺を見て喜んでくれた。
「あんなに小さかった坊やがこんなに成長して……時が経つのは早いもんだ」
全く覚えていないのだがなんとなく知っているような雰囲気がありどうも変な感じになる。
「そ、それで……婚約っていうのは……?」
「ほら、私が帰るとき『ケイトのお嫁さんになりたい!』って言ったら『いいぜ、俺がお前のこと守ってやる』って。もう嬉しくて嬉しくてずーっとこの言葉を支えに過ごしてきたのよ」
アベルたちの視線が痛い。そしてユリアの視線が怖い。
エレナさんはトーマスさんに何か言い外に出ていった。例の用事だろうか。
こんな感じで食事を続けていると突然ユリアが水の入ったコップを落とした。
コップが床に落ち割れてしまう。じわりと床に水が染みていきユリアがそれを片付けようとしゃがみこんだ。
「すいません、手が滑ってしまって……」
思わず習慣で俺はユリアの手を止めさせ破片を拾い集める。こういうときユリアはいつもドジって指を切るのだ。
「大丈夫か? 怪我してないか?」
「大丈夫です」
いささか不機嫌な感じだったが恐怖を感じるほどではなかった。
その際、シルヴィアが不機嫌そうに袋を持ってきた。
「これに捨てて。そんなドジな子は放っておいていいよ」
なぜか俺を挟んで不安な空気が漂う。アベルとルカに助けを求めようと視線をやったが思い切り逸らされた。サラにも一応視線をやるが案の定即効で逸らされる。
「あ、私ちょっと外の空気吸ってきます。気にしないでくださいね」
そう言ってユリアが早足で外に出ていった。突然すぎる行動に驚いたが止める間もなかった。
「一応付いていくわ。あの子のことだし」
サラがユリアを追って外に出ていく。というか多分あいつは逃げたかっただけだと思う。
ルカが複雑そうな視線を扉に向けアベルは割れたコップの破片が入った袋を見つめていた。
俺、どうすればいいんだよ……。
サラは少しトーマスさんの家から離れたところでユリアを見つけた。
「ユリア、どうし――」
声をかけようと近寄る寸前、ユリアは目の前にあった木を見つめ何を思ったか全力で殴った。
そして、メキメキと音を立てて木が倒れなんとも歪なことになった。
このとき、サラは思った、想像以上にやばい。
「ケイト君は渡しませんケイト君にくっつく人はお仕置きですケイト君を困らせる人もお仕置きですケイト君がいないと……ケイト君ケイト君ケイト君」
やばいなんてものじゃない、危険だ。サラは思わず身震いした。
「あ、あのさ、ユリア……だ、大丈夫?」
一応声をかけてみる。すると相変わらず不機嫌そうな表情をしている。
「サラちゃん、どうかしました?」
意思疎通はできるようなのでサラはほっとした。これで会話が成り立たなくなったらアウトである。
できるだけ平静を装いつつ今の心境を伺うことにしてみる。問題はユリアの気持ちだ。
「いや、突然外に出るから心配になって……」
「大丈夫です。気にしなくていいです」
目が暗い。せめて気持ちを浮上させないと。そう思いサラはユリアの手を握った。
「気にするわよ、そ、その……………………と、友達だし」
できるだけ言いたくなかった言葉を無理やり口にしたせいかサラの顔は引きつっていた。
しかし効果はあったようでユリアの顔に笑顔が浮かぶ。
「友達……! 嬉しいです! サラちゃんが言ってくれるなんて!」
嬉しそうに手を握り返すユリアを見てサラは思わず視線を逸らしてしまった。
ああ、こいつ面倒だな……という風に。
ユリアとサラが出ていったあとアベルとルカが気まずそうにケイトとシルヴィアを見ていた。
「女って怖いな」
「うん、怖いね」
思わず漏れてしまった本音。彼らは見ていた。あえて故意にコップを落としたユリアを。ルカはアベルをちらりと見て問いかけた。
「ユリアの態度、どう思う?」
「あれは……恋愛どうこうじゃないな」
このとき、正直ルカは驚いた。アベルからそんな答えが返ってくるなんて。
「じゃあ、どういうの?」
「なんていうか……突然継母が現れて父親に近づいているのを見てそれに対抗意識燃やす娘って感じだな」
思わず納得しかけてルカは水を飲んだ。的確すぎる。
しかし、アベルから見るとケイトとユリアの関係は親子なのかと突っ込みたい衝動を抑えてルカは再び聞いた。
「じゃあ、チャンスとかだとは思ってないんだ」
「チャンス?」
本気でアベルは首を傾げているようだった。ルカはその意味に気づくのに数秒かかった。
「……もしかして自覚ない……ああ、納得」
ルカは心の中で言わないほうがいいと判断し心の中にそっとしまいこんだ。
アベルはやはりわからないのか首を傾げたままである。知らないなら知らないでいいこともあるのだ。
「まあ、僕から言えることは自分の気持ちに正直になったほうがいいよってこと。言葉にしないと通じないんだから」
その真意をアベルが知るのはもう少しだけ先のこと。
ケイト→父 ユリア→娘 シルヴィア→継母 だとするとアベルは近所のおじさんでルカとサラは近所の新婚さんでいいと思いました(どうでもいい)