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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 3章:亜人の婚約者
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亜人の婚約者




 ナトゥーラの森は見たこともないような植物が沢山あり思わず手を伸ばしかけたが毒性のものばかりらしいのでやめた。

 先頭を歩くエレナさんは何度か立ち止まったりきょろきょろするのを繰り返しており何だか不安だ。

「大丈夫、迷ってない、大丈夫……私は方向音痴じゃない方向音痴じゃないほうこうおんちじゃない……」

 やっぱりこの人駄目かもしれない。というか今、私って言ったような――。

 すると、俺の思考を遮るように植物型の魔物が唸り声を上げて現れた。

 全員武器を構え攻撃を仕掛けようとした――が、その前に魔物が倒れた。

「え?」

 さすがに予想してなかったので驚いてしまった。よく見ると、魔物の傍に誰かいた。

「もうっ……手こずらせないでよね。さて、急いで戻――!?」

 俺たちの存在に気づいたのか弓を持った影が近づいてきた。

 それは少女だった。新緑を思わせる短い緑色の髪。それよりも深い翠の瞳。狩人のような服装にいかつい弓。

 そして何より目立つ少し尖った耳。人間離れした美しさ。間違いなく亜人だ。

 亜人は基本は人間に近いものなのだが身体的特徴があったり潜在能力が高いなど優秀な種族が多いらしい。

「そこの人間!! ここを立ち去りなさい!! 怪しい動きをしたら射るわよ!!」

 弓を構え威嚇する少女を見てルカが驚いたように呟いた。

「エルフェリア……」

 サラもルカ同様驚いているのか絶句していた。

 エルフェリア……聞き覚えのない単語だ。

 すると、エレナさんは特に驚いた様子もなく少女に近寄り訪ねた。

「ねぇ、パタラ村ってこの辺だったよね? 悪いけど案内してくれない?」

「はぁ!? ちょっとあんた、この弓が見えないの!? 立ち去れって言ってんでしょ!!」

 激昂する少女に臆することもなく近づくエレナさん。さすがとしか言えない。

 むしろ少女のほうが怯えている。

 その時、何の前触れもなく倒れた魔物が動き出し暴れ出した。

 そばにいたエレナさんと少女は反応したが少女の方は僅かに遅れ、魔物の攻撃を受けてしまった。

 近くの木に強く体を打ち付けそのまま気絶してしまったのかぴくりとも動かない。

「ああもう!! 面倒なんだから!!」

 エレナさんが少女を抱え魔物から離れた瞬間、魔物が電撃を浴びた。

 後ろを見るとどうやらルカの魔法によるものだとわかった。

「炎だと森まで燃やしちゃうからね」

 正真正銘魔物が息絶えたのを確認し魔法が消える。エレナさんは抱えてきた少女に声をかけるが全く反応がない。息はしているようで毒などにやられたわけでもないらしい。

「どうするの、エレナさん?」

 サラが問うとエレナさんが難しそうな顔をした。

「うーん、多分この子、アタシの目的の村の子だと思うのよ。ついでに連れていけばいいんだけど……たどり着くかな……」

 最後の一言でこの人への信頼が揺らいだ気がした。もしかしなくてもこの人方向音痴じゃないか?

 すると少女は気がついたのかゆっくりと目を開けた。

「あ、起きたみたいですよ」

 すると少女はその場の状況に戸惑っているのかしばらく静止したあと飛び起きて距離をとった。

「あ、あんたたち、何が目的なのよ!? も、もしかしてあいつらの仲間? そ、それとも――」

「おい、落ち着けって」

 俺が思わず声をかけると少女は黙り込んだ。どうしたんだろうか。エレナさんに視線をやるとそのまま話せと目で訴えていた。ともかく言葉を続けてみる。

「このエレナさんがどうやらお前の村に用があるみたいなんだよ。せっかくだから案内してくれないか?」

「……悪い人?」

 少し疑うような目を俺ではなくエレナさんとみんなに向ける。

「悪い奴じゃないよ。大丈夫」

 そう言うと警戒を解いたのか俺に近づいてきた。

 じっと見極めるような目に少し戸惑う。

「あなた、名前は?」

「え、俺? ケイト・フィアンマ……」

 少女は目を見開き「やっぱり」と呟いた。



 信じてもらえたのか今俺たちは村に案内してもらっている。というか俺の名前を聞いた瞬間少女の対応が変わった。

「お前、何かしたのか? なんであんなに反応変わってんだよ」

「さあ……」

 ルカとサラは少女に興味津々なようで目を輝かせている。一方、ユリアはなぜか不機嫌そうだった。

「ユリア、どうした?」

「……………………よくないです」

「は?」

 よくわからない言葉を呟いていたが結局よくわからないままだった。

「ついたよ! ここがパタラ村。ちょっと待っててね」

 小さな苗木のようなものに手をかざすと何かが解けたように村が姿を現した。

 それと同時に数人の亜人が俺たちの姿を見てぎょっとした。

 全員武器を片手に俺たちを取り囲み警戒している。

「みんな待って待って! 実は――」

「シルヴィア! おかえり! そしてエレナさんお久しぶり!」

 俺たちを取り囲んでいた亜人たちはその男の人を見て横にはけた。

 四十代くらいのおじさんでもちろん亜人。その人はエレナさんを見て嬉しそうに笑った。

「そろそろ来る頃だと思ってましたよ! にしてもお弟子さん増えましたねぇ」

「うん、まあね……何年ぶりにここに来たんだろ……」

「うーん、私がまだ若い頃ですから――」

「パパ! それよりも!」

 少女が二人の話を遮り俺の腕をつかんだ。密着する状態になり抗議の声をあげようとした瞬間、少女の驚きの発言にかき消された。


「ついに来たのよ! 私のだーいすきなケイトが!」


 沈黙。仲間も、エレナさんも取り囲んでいる亜人の人たちも驚きと衝撃で目を丸くしていた。

 逆になぜか少女とおじさんだけが楽しそうだった。

「おお、ケイト君! 本当だ、久しぶりだな!」

 ものすごく親しげに声をかけてくるおじさんに戸惑いを隠せない。

 俺が言葉に詰まっているとユリアが俺と少女を引き離した。

「な、ななななんですか!! ケイト君にくっついちゃだめです!」

「何? 婚約者の私がくっついて何が悪いの?」

 続けての爆弾発言に俺が一番驚いた。

「こ、婚約者!? なに言って――」

「思ってたより早く来てくれたのね! まだ結婚可能年齢じゃないから仕方ないけど会いに来てくれただけでも嬉しい!」

 少女の発する一言一言にユリアの血の気が引いていく気がする。まさに顔面蒼白。

 少女はまだ呆然としているアベルたちに宣言するように言った。


「私はシルヴィア・アルセント。ケイトの婚約者よ。肝に銘じておいてね!」





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