それは終わりではなく幕開け
「な、なんだったんだろう、あの人……」
ルカが呟いた一言に全員が頷く。なんかまた会いそうだ。関わりたくないような見た目だったけど。
するとガサガサと何かが近づいてくる音が聞こえる。全員その音に反応し振り返り――硬直した。
「このクソガキどもぉぉぉぉぉぉ!!」
魔物よりも恐ろしい形相のエレナさんがそこにいた。
額に少し汗を浮かべ髪が乱れている。それに加え悪魔のようなオーラとドスのきいた声で思わず震え上がった。
「いい度胸してんじゃないの~。とりあえず一人三発、女子は一発で許してあげるわ……歯ぁ食いしばりなさい!!」
「ごごごごごめんなさい!! とりあえず平手は……!」
「平手? 何言ってんの? グーで殴り抜くに決まってんでしょ。女子はデコピン」
明らかに扱いの差が激しすぎる!! でも突っ込んだら回数増やされそうなので黙っておこう。
今にも殴りそうな雰囲気を漂わせる中、倒れている魔物を見つけたエレナさんは魔物のほうに目をやり眉を潜めた。
「……これ、誰が倒した?」
「え、誰って――」
「質問を変えるわ、さっきまで誰がいた?」
エレナさんの真剣な瞳に気圧される。別にやましいことはないのになぜか自分が悪く感じてしまう。
「さ、さっき、変な仮面つけた人が魔物を……」
「は? 仮面?」
ユリアが答えると気の抜けた声とともに微妙そうな表情を浮かべた。
「……仮面……やりそうで怖いけどないか……」
少し考える素振りをして魔物を見るとトドメをさすかのように剣を一閃した。
魔物は僅かばかりうめき声をあげると息絶えたのかぴくりとも動かなくなった。
「……やっぱ人工魔物……チッ」
エレナさんは何かを取り出し数秒黙ると用を終えたのかこちらを振り返った。
「とりあえずお仕置きは村で。こんな村から離れたところで気絶されても困るし」
「そ、そんなに離れてるんですか? ていうか気絶するほど殴るんですか!?」
「かなーり離れてるよ。むしろどうやってここまできたのあんたたち」
もはや呆れ気味の声。汗かいてたし全力疾走だったのかな。
すると、今まで黙っていたルカが口を開いた。
「空間転移系の魔法に引っかかったみたいなんです。この魔物がついてるジュエルに空間転移系のがありました」
「空間転移?」
エレナさんはどこからかジュエルを出して示してみせた。
「これのどれか?」
「……いつ取ったんですか?」
もっともすぎる疑問だ。本当にこの人いつ取った。
エレナさんは軽くスルーし白っぽい物をつまんで見せた。
「……割といいジュエルじゃない。……五人も転移させたからもう使えないだろうけど」
再びジュエルをしまうと何事もなかったかのように来た方へ歩く。俺たちが動かないので少し不機嫌そうに指で示した。
「帰るわよ。何、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「え、いや……」
「さっさと帰るよ……嫌な感じがするから」
こうして、魔法使いの村での事件は解決した。
少しずつ動き始める、物語の序章として。
男はマギアの隣国マレの方角へ歩いていた。
実に楽しそうに、愉快そうに笑みを浮かべて。
「まったく、実ニ楽しいコトになりそうダヨ」
男は仮面に触れながら先程の出来事を思い出した。
あの黒髪の少年、人工魔物、動き出す影――。
「ヤッパリ罪深い姫は呪いに囚われ続ける運命なのカナ。あー、彼女元気カナー、できれば絶望のドン底にいてくれると小生としては嬉シイんだケドナー」
男は愛する『姫』のことを想い呟いた。
「小生ノお姫様……どうか絶望で壊レテ――」
それはまるで睦言のように優しく、甘く――狂気に満ちていた。
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