開幕準備
運命の日、11月22日。
なぜか試合をする闘技場が人でごった返していた。
「……えーっと」
「どういうことかしらこれ……」
客席にあたるところには空きがないほど人が詰めかけており、歓声も凄まじい。ざっと見た感じ、一般人ではなさそうなので協会員が大半だろう。
そんな観客に見られないように裏手でウェルスさんとミラさんが向かい合う。
「な・ん・で! こんなに人集まってるのよ!!」
「じ、実はだな……」
曰く、幹部たちにこの試合の話をしたらある幹部が「マジかー、儲け時やん」と言い出し、ウェルスさんに内緒で当日の計画を立てて勝敗の賭け事と飲食販売をさっきになって報告されたらしい。
協会長権限で即刻撤退させることも考えたらしいがすでに賭けの券が相当行き渡っているらしい。利益はきちんと上に報告して上納するからと言われ、ウェルスさんも渋々納得したのだと。
「くっそ……やられた……モネダのやつ……」
本当に想定外だったのかイライラしながらウェルスさんは言う。なんだか、その苛立ちが計画を邪魔されたみたいで少し不自然に感じた。
「そっちの部下は?」
「あいつらなら向かいの出口にいる。闘技場に出たらわかるだろうよ」
それだけ言ってウェルスさんはミラさんの腕を掴む。
「お前も上の席いくぞ。弟子と一緒に観戦してたんじゃ余計な入れ知恵しそうだしな」
「……わかってるわよ」
納得はしたようだが、俺たちに向かってミラさんは振り返り、はっきりと力強い言葉をかけた。
「あんたたちの全力ぶつけなさい。信じてるから」
ユリアは「はい!」と元気よく返事をし、ルカとサラも頷く。アベルは無表情で、シルヴィアは俯いていたがその言葉をしっかり飲み込んだようだ。
……まあ、俺補欠なんだけど。
すると、そこにヴィオとカースさんが現れる。
「ヤッホー」
「ししょーと一緒に観戦してるからねー!」
どうやら観客席で観る予定らしい。せっかくの激励をありがたく受け取っておこう。俺補欠だけど。
ふと、ヴィオは何か思い出したようにアベルに近づく。
「あ、そうだ。これ渡しておくね。万が一のために」
そう言ってアベルの手に何かを握らせ、ヴィオはカースさんと一緒に観客席側へと向かった。
「がんばってねー」
ヴィオがひらひらと手を振って応援の言葉をかけてくれる。それを受けてアベルはため息をつき、吐き捨てた。
「言われるまでもねぇよ」
渡された何かを見もせずしまったアベル。少しだけ、調子が戻ったような気がした。
開始直前。合図とともに闘技場に出る段取りになっている。
「絶対に勝ちます」
ユリアが力強く断言する。
「やってやるよ」
アベルもそれに同意するように頷く。
「僕らを舐めてる大人を後悔させてやろう」
ルカがどこか楽しそうな苛立っているような声で言う。
「ま、負けないんだから!」
サラは少し自信なさげだが勝つ意欲を見せた。
「ぜぇったいに勝つ!!」
なぜかはりきるシルヴィアはなんとなくだが見返してやるという気持ちが伝わってきた。誰に対してかまではわからないが。
「あれ、ケイト君は気合入れないんですか?」
「ノリが悪いな」
「少しくらい空気読もうよ」
「やる気見せなよ」
「盛り上げてよー」
「なあ? 俺補欠だってわかっててお前ら言ってる?」
ああ、なんでこう、俺ってこういう役回りなんだろう……。
ミラは嘆く。
「結局、私は見守るしかできないのよね」
ウェルスは嗤う。
「――さあ、始めようじゃないか」
カースは嘲笑う。
「しょうもない出来レースを……ね」
次章から協会戦始まります。が、その前に番外をいくつか。