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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
9章:協会朗唱
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弱く、堕ちる





 翌日、ウェルスによって届けられたケイトは目を覚まさず、眠ったままだ。セレスが看てみたが病気の類は特にないらしく、目を覚ますのを待つのが一番だと診断された。

 その間、ケイトをつきっきりで看ているわけにもいかないので、訓練所の一部を借りれるよう手続きし、ミラとユリア、アベルが訓練所に訪れた。

 ルカとサラは魔法を学び直し。シルヴィアは道具を買い足すとのことで、今日はまず二人の訓練からということになったのだ。

 訓練所は戦闘部が管理しており、訓練所の受付に協会長からの承認を受けている旨を伝えたのだが……。

「にゃあ?」

「いやだから、第11訓練所の使用許可が協会長から……」

「でもこんにゃの見たことにゃいー」

 まったりマイペースな猫耳娘が受付担当で非常に手こずっていた。ミラもひくひくと顔が引きつっている。猫耳娘の尻尾がゆらゆらと動き、ユリアがそれを目で追っている。

「ははは、そうかっかするなミラ」

 後ろからの声に振り返るとそこにはトレアの姿。

「あ、トレア姐さん」

 猫耳娘がトレアを見て耳をピンと立てる。

「リクシィー、その許可証は正式なものだから通してやりな。わからないなら他の誰かに聞くなりしなきゃダメだぞ」

「はいにゃー」

 ついでにと案内役を買って出たトレアに三人はついていく。それを手を振りながら見送る猫耳娘。

「亜人も増えたわね」

「そうだねー。あの子はケットシーだけど。クーシーやハーフエルフ系とかもちょこちょこ増えたし。エルフェリアはまだ全然かなぁ」

 シルヴィアの種族、エルフェリアは森を愛する民。そもそも都会に出ることが稀だ。

 ケットシーやクーシーは出稼ぎを兼ねて社会進出が増えており、協会にもそれなりの数がいるとのこと。しかし、やはり耳や尻尾を隠している子も多いらしく、さっきのように人間の前で猫耳や尻尾をさらけ出す方が珍しい。

「少しずつ変わったね」

「……ああ、ウェルスが変えようとしているからな」

 ウェルスの名前が出てミラは表情を曇らせる。

「……そうね。ウェルスは正しいよ。でも、絶対にそれが正義とは限らない」

「ま、色んな奴がいれば色んな考えがある。それだけのことだ」

 ミラが重苦しく吐き捨てるのとは対照的にトレアは軽く返す。

「ほら、ここだ。好きに使ってくれ。あ、でも終わったらできるだけ片付けはしろよ? 掃除するのも大変なんだから」

「わかってるわよ。トレアも仕事中なのにごめんね」

「いいっていいって。俺は幹部の中でもそんなに仕事があるわけじゃないしな。……諜報部とかに比べたら、うん……」

 なぜか尻すぼみになっていくトレアの声にミラは首をかしげるが、結局聞き取れずに終わった。

「んじゃ、頑張れよ。そっちの二人もガンバ」

 ユリアとアベルに手を振って訓練所から出て行くトレアを二人は目だけで追う。

「あの人、動きに全く無駄がないですね」

「ああ、あれは恐らく無意識でやってるな」

 感心したように二人がトレアのことを話している。ちなみに、無意識でやっているのはそうなのだが、あまりにも無意識に気配を消しすぎてたまに気づかれないこともあるとかないとか。

「さて、とりあえず二人の実力チェックだけど……アベル」

 神妙な様子でアベルをじっと見るミラ。

 それに対しアベルは「ついにきたか」と表情に出して目線をそらす。

「あんた、薬切れてきてるね?」

 びくりとアベルが僅かに震える。ユリアはよくわかっていないのか首を傾げている。

「……それが?」

「悪いことは言わないわ。薬を飲むのやめなさい。ちょうど切れかけてるんだから今こそ――」

「俺はあれがないと!!」

 声を荒らげたアベルにユリアは肩を揺らす。アベルが駄々をこねる子供みたいに声を出したからだろうか。

「確かに、薬の効果が切れてきてるせいか動きが鈍くなってるけど……いったいいつになったら止める気? 続けてたらいけないってわかってるんでしょ?」

「なんであんたにこのことで説教されなきゃいけないんだ……! 俺が服用してることくらい、初めて会った時から知ってたくせに!!」

「そりゃ知ってたけど、別に違法でもないし。ただ、このまま続けたら――」

「ああわかってるよ!! どうせ手元に薬がないからな!! 服用したくてもできねぇよ!!」

「……ならいいけど」

 ユリアが心配そうにアベルを見て、ミラと交互に見ながら不安そうに声をかける。

「あの……アベル君病気なんですか?」

 薬=病気だと思ったのだろう。ユリアはアベルの顔色を伺うが、アベルは目をそらして短く答える。

「違う」

「確かに、ここ最近調子が悪そうでしたが……無理しちゃだめですよ?」

 ここ最近、がどこまでを指すのかはわからないが、アベルは歯を食いしばり何か言おうとして、やめた。

「……弱く、なる……」

 自分の手のひらを見つめ、アベルは悔しそうに唇を噛んだ。





 アベルが弱くなっている。

 それは監獄を訪れる前、もっと言えばオークションのあたりからそれは感じていた。

 原因は恐らく、アベルの服用していた薬の副作用。

 服用することで通常状態よりも魔力量が増加し、身体能力を高める効果のあるそれは、一種のドーピングでしかない。違法でもなければ特に制限もない。しかし、あまりに長く服用し続けたアベルは薬物依存に近い状態になっており、副作用も恐らく通常よりひどいものになっているだろう。唯一マシなところがあるとすれば、服用期間か。毎日服用とかではないので、月に一度、とかそんなもので済む。だからこそ、中毒になるまで服用し続けたアベルは異常とも言える。考えられるとすれば、上乗せして服用して、効果をさらに高めるという暴挙をしたとしか思えない。風邪薬のように複数飲んでも効果がないものとは違い、ドーピングのため、量によって効果が変わる。もし、そうだとしたら、既に体が限界になりつつあるのではないだろうか。


 現在、アベル、ユリアの実力を知るために、軽くて合わせをさせているのだがやはりアベルの調子が悪い。動きが鈍いのもあるが、キレがない。

 たった今も、ユリアの突きに対応できず、左肩を負傷してしまった。

「ご、ごめんなさいアベル君! えっと、その……」

「……俺が避けられないと思わなかったんだろ? 別にお前のせいじゃねぇよ」

 ユリアがアベルに療術を施すが、アベルの顔は浮かないままだ。

 正直、まずいかもしれない。


 ――このまま本番を迎えると、アベルの勝目は薄いだろう。


 アベルの相手がまだ誰かわからないが、よほど相手が弱いか慢心でもしない限りは無理だ。

 カルラなんて化物は論外だが、それでも弟子たちが苦戦した監獄官並のやつらがうじゃうじゃいる協会だ。当然、幹部は協会でも役職を持つ実力者及び有力者。準幹部は幹部ではないものの、時期幹部や幹部並に強い実力者ばかり。監獄の下っ端で苦戦していたのだから、かなり危ないだろう。

 さて、どうしたものか。


 ――ま、アベルの方がケイトより勝率は高いだろうし。


 そう自分を納得させて一度手合わせを止めた二人とこれからについて話し合った。



ちなみにアベルの薬は通常では入手できない特製です

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