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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
9章:協会朗唱
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不幸は更に降りかかる



 どうせ俺は補欠だよ。

「ケイト君、元気出してくださいー」

 うるせぇ、俺は補欠なんだから放っておいてくれ。

「ケイトすっかり拗ねちゃったじゃなないですか、ミラさん」

 うるせぇルカ。拗ねてなんかないよ。


「仕方ないじゃない。実力的にケイトを外すしか」


 ぐさりと胸に何かが突き刺さるかのような感覚に死にたくなる。

 ミラさんの言葉がなによりも正しい。悔しいけど反論できない。

 そもそも5回戦しかないのだから誰かが補欠になることは確実だっただろうにそれに気づかず、ミラさんに信頼されてるとか浮かれているのが悪い。

 俺は今、夕食の準備を例のキッチンでしている。食材はセレスさんが買ってきてくれたもので、5日ここで過ごすからということでとりあえず2日分ほどの量がある。それ以降は俺たちが買いにいってくれと。まあ初日だしどこに何があるかわからないからサービスなんだろう。

 カヴァロ――アマデウスではキャベツと呼ばれるそれを一心不乱に千切りにしながら、煮込んでいる途中のカチャトーラを確認し、もう少し煮込んでおこうと再び残りのキャベツを切り刻む。

 切り終えたところでトンノ――アマデウスでいうツナと和えてドレッシングをかけて大皿に盛り、サラダの完成。そして煮込んでいると中のカチャトーラに鶏肉を入れてほどよく混ぜる。しばらくして馴染んできたら人数分の皿を用意して盛り付ける。

 簡易だが『カチャトーラ』と『トンノとカヴァロのサラダ』が完成し、食事をする机に並べ、パンを一人分に切り分けでそれもそれぞれの前に並べた。

「ケイト……そんなに拗ねないでよ……」

「ミラさん何を言っているんですか、拗ねてませんよ、俺」

「せめて無表情やめて言って……」

「補欠の俺にできることなんてそうですねメシを作るくらいですもんね」

「あーもう! うじうじしないっ!! 今度好きなもの買ってあげるから!!」

「え、本当ですか」

 我ながら暗い気分が一瞬で吹っ飛んだことにちょろいなと感じてしまう。物欲はあんまりない方だと思っていたがミラさんに言われるとやっぱり嬉しい。

「はいはい、武器でも本でも好きなの買ってあげるからいつまでもうじうじ拗ねないで」

「……わかりました」

 信頼なんてなかった。いやある意味信頼できる強さの判断だけど。

「それで、ウェルスが選抜者を決めている間に私たちは協会から長距離離れなければ外出もある程度許可されているわ。具体的にはセントラルマーケットあたりまでね」

 セントラルマーケットは協会のすぐ近くに見えた巨大なところだろう。あそこなら一通りのモノが揃うらしいしそこで必要なものは買い足せということなんだろう。

「それと、訓練場も使用許可は降りてるから少しでも鍛えておきなさい。ただし、無理して体壊すのだけは絶対にダメ。前日はできる限り休むように」

 ミラさんのアドバイスに全員頷くなり返事をするなりして同意する。なお、俺は無言だ。拗ねてなんかないし。

「私が今更訓練してもなぁ……一応聞きたいこととか教えて欲しいことがあったらやってみるけど5日……実質3、4日の訓練じゃ付け焼刃ってレベルじゃないからなぁ……」

 今夕食なのでもう4日も訓練時間がない。明日と明後日、明々後日の3日くらいで、4日後はできる限り休む日なのでそれだけでどうにかできる範囲のことをするしかない。

「まあ、何かあったら言いなさい。……この際全員分の携帯水晶買ったほうがいいのかしら」

 ミラさんがブツブツと考え始めるが、全て聞こえないので皆食事を続ける。やっぱりこれ二日分もたないなぁと全員の食べっぷりでわかる。このメンバー大半が健啖家なのだ。

 俺は明日、マーケットに行ってみるか。




 夕食後、部屋に小さな風呂はあるものの、7人全員順番に入るととても時間がかかる。どうしたものかと悩んでいると、ミラさんがヘイムさんに連絡して聞いてくれた。


『風呂ならそのまま宿舎の大浴場とシャワー室があるから好みで利用してくれて構わないよ。ただし、清掃とかの都合で時間によっては入れない場合があるから気をつけて。あと、女性用の大浴場、今整備中だから男性用の大浴場と交代で使ってるから、好きな時にはいれないと思うよ』


 そう聞いて、女性陣は順番で部屋の風呂を遣うことにし、ルカとアベルはシャワー室に行くことに決めた。俺はどうしようかな。

「ケイトも部屋のお風呂使う?」

「んー……俺も部屋でいいかな。協会の人がいると気になって落ち着けないし」

 シャワー派は多いだろうが、アウローラ人の悲しき性か、浴槽ですっきりしたいのだ。最悪長くなくてもいいから。

「じゃあ順番をじゃんけんで決めようか」

 女性陣四人と俺でじゃんけんの結果、サラ、ユリア、シルヴィア、ミラさん、俺ということに。

 ……うん、俺いつ入れるかなこれ。

 時刻は現在20時頃。サラが浴槽に湯を張っている。ちょっとはしゃいでる声が聞こえてくるのできっと風呂がいい機能でもついていたんだろう。



 21時。まだ俺が入れそうな気配はない。女って風呂長いよな……。

 その頃にはアベルとルカが既に戻ってきており、さっぱりした様子で俺に声をかけてくる。

「風呂待ってねーでシャワーにすればいいだろ」

「シャワー綺麗だったよ」

「……いや、ほら、せっかく待ってるんだし……」



 22時。ユリアをシルヴィアが入れ替わるのを目撃した。

「……」

「シャワー行けばいいのに。それか大浴場」

「……今行ったら何のために待ったのかわからねぇだろ」

「無駄に時間浪費するよりはよくない?」

 ルカは本を読みながらソファでくつろいでいる。なんというか、リラックスしすぎだろ。

「アベルは?」

「あー、なんか外出かけるって。シャワー浴びたのにどこ行くんだろうね」



 23時。ミラさんが出てこない。

 そしてアベルが帰ってきた。

「ああああああああああ!! なんでお前らそんなに風呂長いの!?」

「ご、ごめんごめん。色々お風呂楽しくてつい……」

 サラが苦笑しながらなにやら羊皮紙らしきものとインクを使って研究らしきことをしている。アベルはよく見ると複数の店の袋を持ってお菓子を買い込んでいることがわかる。お前そのために外出たのか。

「お風呂楽しかったです! すごいですね! 泡がぶわーって!」

 ユリアも楽しそうにはしゃいでおり、髪を拭きながらシルヴィアも付け足した。

「多分新しい浴槽とかなんだと思う。色々機能あったみたいで……あとケア道具とか結構揃ってたし……」

「……俺もう大浴場行ってくる……」

 ミラさんが出てくる気配ないし、もうなんかいいや……。

「シャワーにすればいいのに」

「湯に浸かりたいんだよ、俺は」

 最低限の持ち物――財布とかここでの身分証明書を持って地図に従って大浴場へと向かう。徒歩5分もしないはずだ。

 協会の宿舎の廊下は時間のこともあり、人があまりいないが、たまにすれ違う程度には見かける。監獄と違って制服がないようなものだからか皆服装が自由というか個性的というか。

 魔法使いのようなローブの人物が居るかと思えばスカウトのような身軽そうな人もいる。色々な協会員がいて成り立つだからこそだろうが近くで見てみるとなんとまとまりのないことか。

 各々が自由気ままで自己主張が激しい。まあそれは監獄も同じだが。

 歩いていると、大浴場らしき場所が見えてきて近づいてみると受付が目に入った。そこに男性が一人いる。

 受付の人だろうか。浴場前の看板の近くに設置された場所でなにやら雑誌を読んでいる。

 壁にはなにやら色々利用時間についての注釈があり、よく見るとついさっき数分前まで大浴場が女性の利用時間だったらしい。交代で使ってるからか利用時間の入れ替わりが激しいな。

「すいません、今大浴場って入れますか?」

 受付の男性に声をかけると顔を上げて俺を見てから何かに気づいたように手元に有る紙を見て言った。

「うん? ああ君、例の客人か。悪いけど大浴場は今……えっと、準備中でね。もう少し待ってもらうか小浴場でいいなら構わないよ」

「小浴場?」

「大浴場よりも小さいんだけどほとんど変わらないよ。こうやって掃除の時片方だけでも使えるようにしてるんだ」

 なるほど、小浴場は大浴場より狭いだけか。

「じゃあ小浴場でお願いします」

「はいよ。じゃあ利用者の名前お願いね」

 紙に名前や所属を示す欄があり、そこに名前だけ記入して鍵を受け取った。

「ロッカーがあるからそこの鍵に合うところ使ってね。通路に案内あるけどそこでまっすぐだから小浴場はすぐわかるはずだよ」

「ありがとうございます」

 そう言って通路を進むと分かれ道がすぐに見える。近くまで行くが案内らしきものが見えない。とりあえずまっすぐ進んでみると扉が見えたので開けてみる。間違ってたらさすがにわかるだろう。

 脱衣所らしいところには人の気配がない。掃除と大浴場の交代時間ギリギリだったので人がいないのだろう。

 そう思って渡された鍵に合うロッカーを探すがなぜか合うところが見当たらない。


 まさか、ここ大浴場の脱衣所なんじゃね?


 その瞬間、ガラガラと引き戸が開く音が聞こえ、咄嗟にそちらに視線を向ける。

 いや、向けたのが恐らく俺の最大の失敗だっただろう。

 そこには、風呂上りでタオルを巻いた一人の女性がいたからだ。


「…………」

「…………」


 まだ濡れた赤い髪。タオルでしか身を隠していない女性。どことなく幼く見える顔立ちだが、現在無表情のためとても大人びて見える。というか見覚えがある。オークション事件の時、俺たちに協力していた協会員の人だったはず。


「…………」

「…………」


 お互い無言。いや、動くべきなのはわかってるのだが、体が言うことを聞いてくれない。

 女性が何も言わずに手を伸ばして俺へと向けたかと思うと――銃が彼女の手に出現した。


「――この変態があああああああああああああ!! 風穴あけてやる!!」

「すみませっ、ちょ、待って、ごめんなさい、違うんです――あああああああああああああああああ」


 俺たちの絶叫を聞いて受付の人ともう一人担当の女性が駆けつけて、なんとか大事にはならなかったものの、数発魔力弾を受け、打撲を複数くらい、俺はボロボロになり、風呂も僅かにしか入ることができなかった。




ケイトのお国は風呂文化が結構根付いていてシャワーだけだと満足できない模様。ルカとサラはどっちでもいい派ではあるもののサラはやっぱり女の子なので入ってみたい。ちなみに大浴場は協会員なら無料で利用でき、風呂道具持参でない場合は道具貸出でプラス料金。

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