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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
9章:協会朗唱
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契約成立





「ふーん、弟子とこっちの若手の手合わせの勝敗でねぇ……」

 メガネをかけて仕事をしていたウェルスさんがミラさん(とトレアさん)の案に少し考えるような素振りをする。

「お前の弟子がそんなに強いようには見えないが?」

 はっ、と鼻で笑って別の書類に手を伸ばしながらウェルスさんは続ける。

「どうせ勝敗なんて目に見えている。だいたい、お前の弟子程度じゃこっちの若手に勝てるはずないだろ。お前は教育が下手すぎる」

「ウェルスだけにはそれ言われたくないと思うわよ」

 嘲笑うウェルスさんの横で手伝っていたリーフさんが小声で呟いたのを俺ははっきりと聞いていしまった。


 俺たちは綺麗に片付いた協会長の執務室でミラさんの後ろに並んで黙っている。後ろにトレアさんとヘイムさん、セレスさんがいるが三人は特に何か言う様子はない。

「だいたい、それを受けるメリットが俺にはない。万が一若手どもが負けたらお前はここから離れるんだろ? じゃあお前の弟子が負けたらお前は何をする? ここに留まるだけなら現状で十分だ」

 たしかに、協会に残留するならこの状態でもいいわけだし、受ける理由はないだろう。ミラさんはどうするつもりだろうか。

「……私があんたの言うこと聞いてやるわよ」

 その言葉に、ぴたりと手を止めるウェルスさん。リーフさんも驚いたように目を見開く。

「ほう……たとえばもし俺がメイド服を着て奉仕しろって言っても聞くか?」

「くっそ変態ジジイめ!! ああ、いいわよ受けてやるわよ! その代わり。そっちが負けたら私に付きまとわないでよね! あと言うこと聞くのは私だからあんたが弟子たちに言うことを聞かせるのは却下よ!!」

「お前の弟子はこの際どうでもいい。お前から言うこと聞くって言ったんだからな。あとでやっぱりダメって言うなよ。リーフ新しい契約書もってこい」

「どれだけ本気なのよ!!」

 リーフさんがやれやれと言わんばかりに棚から綺麗な紙を取り出す。羊皮紙かと思ったら違うようだ。ウェルスさんがそこになにやら書き込み、それをミラさんに渡す。

「契約内容だ。確認したらサインしろ。血判はいらない。それは血盟契約書じゃないからな」

 内容は以下のとおりだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ウェルス・ビレイサーの若手に限る部下とミラ・エルヴィスの弟子による試合を行う。


 ●ウェルス・ビレイサー陣営が勝利の場合、ミラ・エルヴィスはウェルス・ビレイサーの命令を受け入れること。ただし弟子はウェルス・ビレイサーの命令を聞き入れずとも良い。


 ●ミラ・エルヴィス陣営が勝利の場合、ウェルス・ビレイサーはミラ・エルヴィスの行動に制限をつけず、今後付きまとうことを禁止する。


 試合の形式は1対1を5試合行い、最終的な勝ち星の数によって陣営の勝敗を決定するものとする。武器の種類は一人3種類までとし、魔法は即死級や試合禁止級のものを使用不可とする。道具の持ち込みは無制限。特に禁止指定はないが、その場の状況で審判が反則だと判断した場合無効となる。

 また、相手を故意に殺害した場合は殺害した陣営の敗北となる。

 両者が同時に戦闘不能となった場合は引き分けとし、双方に勝ち星はつかない。

 勝ち星の総数が引き分けた場合、補欠が試合を行うこととする。補欠を誰にするかは特に制限はないものとする。


 また、協会の若手に関しては、幹部職、または準幹部に連なる者を選抜。それ以外は双方の話し合いによって選抜者を決定とする。


 試合実施日は11月22日、協会の大闘技場で行う。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 今日が17日なので5日後か。

 ざっと目を通し、ミラさんは気になったことをウェルスさんに聞く。

「補欠に関してだけど制限がないっていうのは?」

「幹部準幹部で若手となるとだいぶ絞られるからな。若手ではあっても幹部準幹部ではない人間をそこに入れる可能性もある。正直な話、まだ誰が参加できるかわからないからな。候補に挙げられるやつらが軒並み現在出張または仕事に追われている。交渉はギリギリまでするつもりだからな」

 実施日が5日後なのはつまり選抜者と交渉する期間なのだろう。たしかにすぐに全員集まれないのはしょうがない。

「それと、さすがに全員実年齢が若いやつらばかりじゃない。ミラも見ただろうがアーサーを候補に入れている」

「アーサー……ああ、あの子ね。いいんじゃない、あの子なら。カルラとかだったらさすがに反対してたけど」

 つまりそのアーサーという人物はカルラよりも弱いのだろうか。

「カルラなんて入れたらこっちの勝ち星が確実に減るからね」

「ああ、まああいつはそうだな。協会の中でも規格外だ」

「選抜者が決まったらきちんと見せてくれるんでしょうね」

「ああ、そのときは呼ぶ。22日までは弟子たちは例の部屋で過ごすように。ミラもそっちで過ごせ」

 双方書類にサインし契約が完了すると、ウェルスさんは薄く笑った……ような気がした。




 その後、ヘイムさんに先ほど専属云々になったら使っていい部屋に案内され、そこで久しぶりに弟子とミラさん7人が落ち着いて向き合えた。

「さて……5日後に勝てなかったら……私はここに残るわけだけど」

 ちょっと表情が暗いミラさん。やっぱり負けたときのことを想像して凹んでいるのだろうか。

「できる限り勝ちに行きなさい。幹部といえども若手ならあんたたちでも十分勝機はある」

 そう強い声音で言うミラさんは、俺たちを信じているという気持ちがはっきりと伝わってくる。修行していた期間、あんまり成長していないと自分は思っていたみたいだけど、ミラさんは俺たちを信じて賭けにでてくれた。俺は無理だと思ったけれどミラさんが信じているのに頑張らないでどうするんだ。

 ミラさんの信頼に応えなければ。

「わかりました! ミラさんのためにも俺たちがんばります」

「私もがんばって勝ちますー!」

「はあ……仕方ねぇなぁ……」

「僕たちをそこまで信頼しているなら」

「アタシたちもその期待に応えないと」

「目指すは完全勝利! ですね!」


 俺、ユリア、アベル、ルカ、サラ、シルヴィアの意思もまとまり、ミラさんはどこか安心したように……初めて見る、含みのない穏やかな笑みを浮かべた。









「あ、ケイト補欠ね」








 ……えっ。












 ――えっ?

主人公戦力外通告。主人公とはいったい……うごごごご

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