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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
9章:協会朗唱
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目覚めたのは病室


 かつて、クラン・アミーユを手助けした存在。今でもなお人々を支えている協会がそれだ。

 千年近くの時を経てなお当時の現役がルーチェであるがゆえに働いている。

 それは、多くの出会いと別れを繰り返したということの証明でもあり、終わりの見えない奉仕。













 その後、ケイトたちは協会に運び込まれ、協会附属病院へと入院した。

 そして二日後、ケイトはようやく目を覚ました。



 体が痛い、はずだった。

 気だるさはあるものの、先程よりはマシな感覚に重い瞼を開く。

 まず目に映ったのは綺麗な天井。木製ではないのでそこそこいい部屋ではないかと推測できるが詳細まではわからない。

 ゆっくりと体を起こしてみると、疲労感と頭痛はしたものの、痛みはほとんどなかった。ただ、起き上がった拍子に軽くめまいに襲われたがその程度だ。

 病室のような場所で、どうやら個室らしいが狭く感じず、どちらかといえば広々としている。大型の病院に行ったことがないからかよくわからないのだが、個室ってなかなかとれない気がする。

 よく見ると部屋の隅に自分のボロボロになった服が置いてあり、今着ているのは病人怪我人に着せる寝巻きのようなものだった。

 まったく状況がつかめず困惑していると部屋の扉が開く。すると、到底看護師には見えない露出と気だるげで退屈そうな表情をした女性が入ってくる。口にくわえているものが一瞬タバコかと思ったがどうやら棒つきのキャンディらしく、それを一度口からとって言う。

「あれぇ? 起きてるじゃーん。ボク、気分はどぉ?」

 間延びした甘ったるい声。一応本人は普通に問診しているつもりなのだろうがボディラインがモロにでる服と露出された手足……なんと上はノースリーブで下は尻がギリギリ隠れるかどうかの超ミニスカにガーターベルトである。加えて、胸がものすごく浮き出る。服の素材かデザインのせいかとても自己主張が激しい。

 そんなものを見たせいか途端に気分が沈み込み無言になって女性から距離を取る。できるだけ関わりたくない人種なのは間違いない。

「あっれぇ? 人見知りだったりするのかなー? あたしはレフ。ここ、協会本部の医療部副部長でぇーす」

 協会本部、医療部副部長。


 ――協会本部医療部副部長!?


 思わず二度見してしまったがこんな人がか!?

 協会本部といえば各国から人が集まり、もはや経済や流通の要にもなっている大組織で冒険者にとっては欠かせない存在だ。その本部ではそれぞれ依頼を管理するためだとか、魔物狩りだとか各地の情報に関する真偽だとかを優秀な人材が日夜様々な対策をしており、それこそ幹部級なら羨望と憧憬の眼差しで見られるであろう人だろう。医療部なんかは療術や病気の研究、附属病院にて冒険者一般人問わず治療をして人々に安心を与えるところだと聞いている。

 それなのに痴女まがいの女性が医療部副部長ってなんの冗談だ!!

 自称医療部副部長のレフさんは首を傾げて言葉を続ける。

「うむむん? 全然反応してくれないんですけどぉー。ボクさぁ、もしかして無視してる?」

 あなたみたいな人は苦手なんですできるだけ関わりたくないです。とは言えないのでどうしよう。だめだ、吐き気してきた。

 ――ごめんなさいごめんなさい許してくださいもう嫌なんです。


 ――って、俺は誰に言ってるんだ。


 謎の脳内謝罪で自分に疑問を抱いていると、第三者が部屋に入ってくる。

「あら、レフ。あなたが診察してたの?」

「あっ……」

 見覚えがある、というか知っている人だ。

 その人はこちらの視線に気づき、にこりと微笑んで近づいてくる。

「久しぶりね、ケイ君」

 一時的な記憶喪失になり、シャオリーさんに世話になっていたときに会った彼女はあの時の呼び方で呼んでくる。元の名前と大差ないせいか、愛称にも聞こえるな。

「お久しぶりです、セレスさん」

 協会の医療部部長、セレス・ディッセターレさんは柔らかい笑顔を浮かべた。彼女は元々千年前の英雄たちに名を連ねる人物で、協会の要である。療術を得意とし、医者としても活躍している女医さん。

 典型的な美形とされる容姿の長く美しい金髪と碧眼で、線の細い女性であるセレスさんはレフさんとは違って露出もなく、清楚でありながらも凛とした服装である。レフさんは見習って欲しい、是非とも。

「レフ。ケイ……ケイト君は私が診るから大丈夫よ」

「えー? いいんですかぁ?」

「というより、恐らくあなたはケイト君の苦手なタイプだもの。あなたも診察の時くらいはちゃんとした格好をしなさい。男性が皆、そんな格好で喜ぶわけではないのよ?」

「はぁーい」

 わかっているのか相変わらず間延びした様子で返事をすると部屋から出ていった。

 そして、ベッドでまだぼんやりしている俺の横、ベッドのそばに椅子を置いてセレスさんは言った。

「さて、気分はどう? 痛いところとか変な感じしないかしら?」

「いえ……特に。ちょっとだるいくらいです。あと頭痛が少し……」

「ええ、そうね。だるいのはまだ仕方ないかしら。頭痛は――吐き気とかする?」

「……さっきまで少し」

 原因は別だけど。

 すると、セレスさんはふふっと笑ってなにかに書き込みながら続ける。

「ごめんなさいね。レフがまさか診察すると思わなくて。あの子、悪い子ではないのだけれど」

 吐き気の原因がどうやら正しく理解されていたようだ。

「体は動かせる? あ、無理して動かそうとしなくてもいいわよ」

 ゆっくりと自分の意思で腕と足を動かすと、特に違和感もなく動かせるようだ。それを確認して、セレスさんは安心したように言った。

「よかった。後遺症も特になさそうね。もう数日したら万全に戻れると思うわ」

「はあ……」

「あ、そういえばお腹すいてない? 一応寝ている間に点滴一度したんだけれど病院食食べる?」

「食べます……あの」

「ああ、それと、ケイ君の仲間はすぐ近くの病室だから後で案内するわ。歩けるだろうし、リハビリにもなるからね」

「あ、そうなんですか……いや、その」

「あとはー……服だけど替えはある? ボロボロになってたのよね、着ていたの。しばらくはそれで過ごしてもらうけど、ないならなにか適当なの用意するわよ?」

「ありますけど……あの、すいません――」

 どうしよう、肝心なこと言わせてくれない。

「……さて、じゃあ診察とケアも済んだことだし、ケイ君の聞きたいことを聞こうかしら」

「あ、はい」

「物事には順序があるからね。焦る気持ちはわかるけど、落ち着いてくれると嬉しいな」

 実際、危険もないであろう場所で気を張りすぎたとは思う。

 セレスさんはそんな俺をゆっくりと諭す。

「そう落ち込まないで。確かに今の状況がわからないのは混乱するもの。それで、まず何から話そうかしら」

「えっと……なんで俺はここにいるんでしょう?」

「そうね。まず私の聞いた範囲の情報しかないけれど――」


 話を聞いていると、どうやらミラさんと監獄長の戦いで俺たちが人質に取られ、そこに協会長が乱入。ミラさんと俺たちを協会で預かることになり、怪我をしていた俺らが附属病院に搬送されたと。


「ミラちゃんは病院にはいないから、会いたかったら言ってね。……ただウェル君が了承するかちょっと怪しいけど」

 後半小声であまり聞き取れなかったがミラさんには会えないらしい。

 とりあえず食事を持ってきてくれるらしく、病室で一人残されてなんとなく窓の外を見る。

 よく晴れた空に小鳥が一瞬横切り、静かな時間が続く。ベッドから降りてみると、少し体は重いもののちゃんと動く。そのまま窓をあけて外を一望すると、眼下には美しい街並みが広がっていた。何階にいるのかまではわからないが病院の上の方に位置するらしい。

 一度は憧れるであろうアマデウス首都、ユースティティア。そこに来たというのに、まったく心が踊らない。



 ここに、なにか澱んだものがいそうで。




協会でどたばたします。用語説明とかも載せたいなぁ……

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