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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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監獄退去



「随分と好き勝手やったようだな? クラウィス」

 ドスのきいた声でクラウィスを睨みつける男。武器こそ出さないものの協会長、ウェルス・ビレイサーは圧倒的殺気をクラウィスに向ける。クラウィスも分が悪いとわかっているのか下手に動こうとはしない。

 ウェルスはどうやってここに侵入したのか謎ではあるが少なくともクラウィスを諌めに来たらしい。

「監獄の結界が消えたからおかしいと思って来てみれば……。ミラもなぜこっちに来たんだ。はじめから協会に来るんだ」

「だって――」

「だってじゃない。弟子がああなってもまだ言う気なのか?」

 そう言われると反論できないのかミラは口を噤む。

 すると、扉の向こうからどたどたと足音が複数響き、大きな音を立てて開かれた。

「クソ親父! 先に乗り込みやがって!!」

「ちょっとアーサーさん今入るのは――」

 扉を開いたのは金髪美少年。まだ十代前半の幼さを残す容姿ではあるものの、表情は大人びている歪さが見て取れる。ケイトたちよりも幼いその少年をコーダが止めようとするが、部屋の中で倒れるサヨを見て顔色を変える。

「っ――!? サヨ!!」

 ミラやウェルス、クラウィスらを無視して血まみれで倒れ伏すサヨに駆け寄るコーダ。

 サヨは息はしているものの動くことはできず、意識も危うい。

「コーダ。邪魔だ。それごと持って出て行け」

 クラウィスのやや苛立った声を聞いてコーダは顔を俯ける。何を思ったかはわからないが、サヨを横抱きで持ち上げ、部屋から出ていった。その際、金髪の少年がコーダとサヨに視線を向けたが、何も言わずにクラウィスを睨んだ。

「監獄長……今回のあんたは度が過ぎている……!」

「おやおや、協会副長君か。相変わらず小さいから見えなかったよ」

 小馬鹿にした言い方に副長と呼ばれた少年は眉を一瞬だけを動かして苛立った声音で続ける。

「罪人ではない少年少女への暴行指示にミラ・エルヴィス様の不当な拘束、及び恐喝。我々協会としては見過ごすわけにはいかない」

 すると、少年を遮るようにウェルスが手で制し、クラウィスを見たまま言った。

「俺が来たのは事を公にしないことを条件にミラ、及びその弟子をこちらに引き渡すことだ。お前はそこまで馬鹿じゃない、だろ?」

「なっ……! あいつを正攻法で引きずり下ろすチャンスだっていうのになんでそんな条件を!」

 アーサーがウェルスに抗議するもそれは無視され、クラウィスが渋々と呟く。

「……ちっ、お前も同じ穴の狢のくせして……」

 舌打ちすると同時に汚れた手袋を床に捨てて指を鳴らすと檻が消えて弟子が床に転がる。わずかに意識のあったユリアもいつの間にか気絶しており、よほど疲労しているのだろ。

 慌ててミラが駆け寄ろうとしてウェルスがその腕を掴む。

「今のお前にその権利があると思っているのか? アーサー。その子たちを全員医療部に必要があるなら魔導部にも連絡入れろ」

「わかってますよクソ親父。全員ジュエルで転送します。そっちはそっちで好きにやってください」

 そう言って少年ことアーサーは転移ジュエルで弟子たちと揃ってその場から消えた。

 残されたクラウィス、ウェルス、ミラは相変わらず気まずいというか触れたら切れるナイフのように重々しい鋭い空気だ。

「クラウィス。ミラはお前に渡すつもりはない。引かないっていうなら俺が相手になろう」

「さすがにお前とミラ同時に相手にするほど馬鹿じゃない。今は引いてやるよ、今は」

 不機嫌そうに眼帯に触れながらクラウィスは続ける。

「立派だな。惚れた女を囲うために宿抑えて自分にところに来るように誘導までするお前にはかなわないよ」

「お前ほど頭イカれてねぇよ。いくぞ、ミラ」

 クラウィスに向ける声とは対照的に、優しく心配するような声。

 ミラの腕を掴もうとして、振り払われる。ある程度予想はしていたのか、ウェルスは少し悲しそうに表情が暗くなる。

「ミラ……」

「あんた……」

 ミラの声は不機嫌というか不愉快極まりないそれだ。ウェルスが再び声をかけようとして、ミラは大声で叫ぶ。


「猫かぶってるの気持ち悪いのよ!!」


 途端、クラウィスがそれを聞いて吹き出す。一度笑ってしまったからか腹を押さえながら笑いをこらえ用途必死になっているのが見て取れた。

 一方、言われたウェルスは何とも言えない表情でミラをじっと見る。そして、なぜか笑顔になりながらミラの体を肩に担いだ。

「面白いこと言うなーミラは。はははははははははははははは」

「放せ!放しなさいよ!!」

「だーれが放すかもう逃がさねぇよ」

 その声はクラウィスに向けたもの以上に低く怒りが混じっており、思わずミラも息を呑む。

「さーてまずは弟子たちの治療して洗の……懐柔してからだな」

「今とんでもないこと口走ったわね!? 放せー!! だからあんたのところ行きたくなかったのよ!!」

「だからってあの変態監獄長に頼ろうとするなこの馬鹿!!」

 しょうもない痴話喧嘩が始まりクラウィスは珍しくため息を吐く。

「出て行くならさっさと出て行ったらどうだ」

『言われなくても!』

 ウェルスとミラは声を揃えて叫ぶ。その様子に、わずかに苛立ったのかクラウィスは顔を引きつらせる。

 ミラがぎゃーぎゃー言いながら暴れるそばでウェルスが転移ジュエルを使おうとする。それを妨害しようとするミラがウェルスの顔と手を引っ張って子供のように喚いていた。

 しびれを切らしたクラウィスが苛立ちながら指を鳴らすと二人の姿が部屋から掻き消え、監獄の裏口に転移した。監獄において絶対権限を持つクラウィスにしかできないことで、裏口でも相変わらず喧嘩をしている二人だったが、部屋から消えたのでそれはクラウィスの知らぬことだった。





監獄編はここらで区切りに。ケイトたちや監獄官のプロフィール的なのをどこかでそのうち載せられたらいいなぁと。

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