ep.4
「ねえ、いつか2人で行ってみない?」
「え?」
「僕と律の2人なぞなぞ旅」
「うん」
車窓から流れるように景色が過ぎる。
周りの喧騒が自分だけを浮き彫りにした。
新幹線に揺られながら更新された記事に順に目を通す。
「妹といつか行きたいカフェ」
昔ながらの小ぢんまりとした雰囲気のある喫茶店が写っていた。正直、女子ウケしそうには見えない外観だった。小さな看板には『センブリ』と書かれてあるのがギリギリ見えた。
何だ……。
脳みそがかき混ぜられていくようで、気味が悪い。
リュックからペットボトルを出し、水を口へと流した。ただの水なのに、鉄っぽさが口内を過ぎた気がした。
再度パソコンの画面へと向き合う。
次の記事へと目を送った。
「妹が好きな花」
写真には大きな花がアップで写されていた。緑の茎の先端に十数株ほどの黄色い花が鮮やかに写る。俺は花に全く興味が無い。向日葵やチューリップくらいなら分かる程度だ。
毎回映え目的で写していたと思えた花は、もしかしたら妹の好きな……?
突如鉄っぽさが口内へと蘇る。
急いで1つ前の記事へ戻った。
無い……。
どこを探しても花は写り込んでいなかった。自身の頭にあたかも存在していたルールが一発で破壊された。
花は、映えや妹の好みでは無いのか?
積み上げた積み木が、土台から崩れる感覚だった。
納得いかないまま、頭の隅に疑問を残し、次の記事へと指を滑らせた。
「妹といつか乗りたいもの」
昔ながらの手漕ぎ舟、背景には白壁の建物と、柳並木が見える。川には柳の緑が反射していた。ここは一瞬で分かった。
「このなぞなぞ書いた先生ね、岡山県の美観地区って所の出身なんだって」
祐希の輝いた瞳を思い出した。
ここは『二人なぞなぞ旅』の目的地。
綺麗にまとめれば不思議な縁とでも言える。でも今の俺には、祐希が出したなぞなぞのようにも思えた。
一緒に行こう。
叶わなかった願いが導かれるように必然へと舵を切る。
リュックに付けたままの合格御守をぎゅっと握った。
次で更新は最後だった。
「妹の机」
写真が目に飛び込むと同時に内蔵がえぐられるように一気に吐き気が襲った。
机の上にはおびただしい程の参考書に問題集の束。
消しゴムは先端がどす黒く真っ二つに割れている。白いシャーペンが明らかに異質な赤みを帯びていた。
胃から今にも溢れ出そうな液体を阻むように飲み込んだ。
背筋に冷たさとドロリとした汗が流れる。
まるであの時のようだった。
「もう少し遊ぶ時間をあげてください」
あの日、祐希の母の血走った目に俺は逃げた。見たことのないそれは幼心にはただの凶器に思えた。
肩で息をしながら何度も体内から飛び出そうとする液をむりやり押し返す。
口を両手で塞ぎ込むと、乾きに痛む目がそれを探し始めた。
あった。
右端に少し濃いめのピンクの花が逆さに吊るされている。
枯れているようにも見えた。
やはり何かある。
花を調べようとスマホに指をかけたが、すぐに止めた。今の俺に、そんな優雅な知識を詰め込む余裕なんてない。
それよりもこの机に置かれた消しゴムが、祐希の筆箱から見えた物とあまりにも似ていたのを思い出していた。
更新された4枚と、過去の写真、順に見比べ始めた。
どこだ。
何度も何度も往復しては、隠れているはずの何かを必死に求めた。
「岡山、岡山です」
気付いた時には電車は停止していた。冷徹なほど感情を持たないアナウンスに寒気がした。
急いでリュックを背負いパソコンを脇に抱えるとホームへと飛び出した。
岡山と表示された無機質な看板と目が合った。
新幹線の発車ベル、周囲の観光客の笑い声。
騒がしく思えたのはそれでは無かった。
突っ立ったままでいる俺を、避けるように人影が流れていく。
まるで自分だけが形を持たぬ檻に囚われているようだった。
岡山の空気に臓器全てが、震え出し始めた。




