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向日葵の檻ー死にたい俺が君を探し当てるまでー  作者: みい


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3/6

ep.3

 翌日は朝から腹の調子が悪かった。

 朝食も摂らず会社へと着いたが、満腹のような感覚がある。


『二人分の料理に、一膳の箸』


 あの写真が脳内にのっぺりと貼り付いている。なんとも言い難い気持ち悪さのままデスクへと向かった。


 前かがみのまま椅子を引き腰を掛けると、殺風景さに目が泳いだ。


 デスクが異様に片付いている。

 昨日は確か書類を数冊置いたままで、朝から打ち込むデータのファイルを右端に寄せて帰ったはず。


 思考が追いつかないでいると、耳元で上司の声が聞こえた。

 肩が跳ねたまま上から引っ張られるように固まった。


「平山、お前確か無駄に有給だけは溜まってるよな〜?」


 上司の口から飛ぶ唾が、まるでスローモーションに見える。その声一つ一つが、招き入れられた渦の中で泡のように遠のいていく。


 お前なんて要らない。


 そう聞こえた。

 何かの切れる音が鼓膜を揺らした。

 同時に腕がだらりと垂れ下がる。

 張り詰めた弦が一気に弾け飛び、奏でる音は無くなった。


 何故だろう。

 呼吸が軽く感じる。

 口角が上がると偽りの仮面は真っ二つに砕けた。


 ゆっくりと立ち上がると右側に見えた上司の顔をじっと見た。

 眉間に皺を寄せ、クズとして俺を見るその目に、胸の内に潜む棘が狙いを定めた。


「何だよ。早く行けよ」


 何かヤバいものをあしらうように手を振る様が滑稽だった。


 鞄を手に持ち振り向くと視線が一気に集まった。もう見なくてもいいその顔が妙に可笑しかった。

 ポケットに突っ込んでいた社員証をデスクに放り投げた。

 ふっと鼻から息が走ると、俺はそのまま黙って会社を後にした。



 思い切り伸びをする。

 見上げた青空は、ただ鮮やかで眩しい。足元にへばりつくような短く伸びた影。

 きっと背丈はあの頃くらいの……。

 両足を掌で2度叩くと、自宅まで走った。



 家に着くと額から汗が流れるほどだった。部屋に干したままのタオルをもぎ取りシャワーを浴びた。

 職場から逃げた俺を、祐希はどう思うだろう?

 あの日の雨を思い出していた。

 届けられなかった手紙。

 滲んだ名前に被せられた足跡。

 ボロボロになった封筒から覗く御守りを、手で包むように家まで走った。

 逃げるように。


 今度こそーー


 どうか俺を見ててくれ。

 ずっと許さなくて構わないから……


 シャワーを止めると急いで着替えを済ませた。

 下着を数枚、着替えを数着無造作にリュックへと詰め込む。

 もう、迷いは無かった。


 パソコンを開くと、そこには通知の赤が並んでいた。1つ、2つ……一時間おきに。

 今までの更新頻度と比べると異常でしか無い。


 まるで気付いて貰うためだけに、懸命に文字を絞り出したように思えた。




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