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向日葵の檻ー死にたい俺が君を探し当てるまでー  作者: みい


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ep.2


「律は家では何してるの?」


「ゲームか、Youtube観てる」


「僕はさ、千歳お兄ちゃんに教わってから折り紙にハマってる」


 祐希はそう言ってランドセルから折り紙を出した。


「いま丁度、うちの病院に飾る千羽鶴を一緒に折ってるんだ」


 見事な手さばきで、あっという間に折り鶴を作ってみせた。

 あの時の俺は折り方さえ、知らなかった。


 心の奥に刺さったままの棘が揺れ始めた。

 冷静さを取り戻すように卵焼きを口に運ぶ。なんとも味気ない黄色。温かな口内に冷たさだけが侵入した。弁当は冷め切っていた。

 液晶の明かりだけが温度を持っているようだった。


 キーボードの上で行く先を見失っている手を見つめた。まるで眼を持った棘が俺を監視してるように思えた。唾を飲み込み、震える指で一つ目のキーを叩いた。


 神社の投稿へコメントを綴る。


『初めまして。とても素敵な神社ですね。』


 何の変哲もないただの感想。

 何でもいい、とにかく落ち着かない心を戻したかった。

 そのまま、神社の鳥居を眺めていると、昔一人で御守りを買いに行ったことを思い出した。それは当時少ないお小遣いを溜めて、どうしても欲しかった物。


 そんな懐かしさに浸っていると、返信が届いた。

 通知音が、まるで弾丸のように脳内を貫く。気づけば椅子ごと後ろへ倒れそうになっていた。

 打ち付けた背中の痛みで声が出ない。


 いや……違う。

 俯くと震えた足が視界を捉えた。

 あの日、祐希の自宅前で待っていた時のように。


 ただの違和感かも知れない。

 でも、それがほんの僅かでも関係ない。もう後悔だけはしたくなかった。


 拳を足へと振りかざす。

 痛い。

 俺だけは今を生きている。

 これは祐希からの……いや、あの日の俺からのバトンだ。


 言い聞かせるように覚悟を決め、手を動かした。


「コメントなんて初めてです。ここは白鶴神社という白い鳥居が有名な所でなんですよ。すごく綺麗ですよね。妹も私もラッキーカラーが白なので、行ってみたいんです。」


 その文面からは姉妹の仲の良さが垣間見えた。

 窓の外からバイクの音だけが届く。

 拍子抜けした。


 そのまま次の名物らしき写真の投稿へもコメントを送った。鼓動は次第に落ち着きをみせていく。


『美味しそうですね。どこの名物なんですか?』


 またすぐに返信がきた。

 通知音が鳴るまでの数秒が、まるで秒読みのように感じられた。


「ばら寿司です。岡山県の郷土料理なんですよ。妹の好きな物ばかりで、きっと喜んでくれると思います。」


 優しいお姉ちゃん像が浮かぶ。

 一人っ子の自分には羨ましくも思えた。だが、その直後に吐き気がした。俺が祐希に抱いていたのも、そんな無邪気な友情ではなかっただろうか? それが彼を追い詰めたのではないか?

 黒い画面のテレビにぼんやりと映る自分と目が合った。子どもだった自分にうんざりした。


 無表情のまま花屋の写真へコメントを送る。


『花には興味がなく、今まで一度も花屋に入ったことは無いですが、ここはすごく目を惹かれますね。』


 今度は打ち込んだあとに秒数を刻んだ。

何か引っ掛かる。


 一、二、三………

 そして十五を数えた時に通知音が鳴った。

 彼女は、ずっとここで誰かを待っているのか?


「私は幼い頃からお花屋さんが大好きで、ここはよく行く憧れのお店なんです。いつか妹と二人で、なんて想像してます。」


 天井を見上げると白だけが瞳に映る。ほっとした。

 全くもって幸せそうだ。

 ヘッダーの向日葵はきっと、その花屋で購入したものだろう。

 安心したら急に腹が減ってきた。


 再度弁当を温め直し、ついでにインスタント味噌汁のカップにも手を伸ばした。

 ケトルから沸騰する音が聞こえ始め、電子音が静けさを切る。

 カップに注ぎ入れふわりと湯気が立つと、味噌を溶いた。


 そう言えば「み、そ、し、る。仲間ハズレはどれ?」と昔、祐希が出した問題を思い出した。今思えば簡単すぎるのに答えられなかった。


 鼻から息が漏れる。思わず笑っていた。

「ド、レ、ミ……。……仲間外れは、『る』だ」

 ドレミの音階には『る』だけがない。

 並べられた文字に仲間ハズレがあるなんて、なぞなぞで言えば超初級。

 気づけば答えなんて、すぐーー。


 味噌汁を溶かす手が止まった。

 やはりまだ違和感が居座っている。

 気づけ。

 箸は一膳。料理は二人分。いつか、という不確定な未来。



 ――仲間外れは、どれだ?



 祐希からのメッセージに思えた。





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