第75話 乱戦
三月二十日、〇四時四十五分。
ライオン・ポート沿岸は、夜明け前の闇を切り裂く数多の探照灯と、水平線を埋め尽くす鉄の壁に支配されていた。
「リヴァイアサンコントロールより各機、最終確認よ。敵予想戦力、シュテルツァー7個師団……約900機。加えて機甲、歩兵師団が海岸線を埋めているわ。……これ、本当にやるの?」
マリア少尉の震える声に、漆黒の機体『アスラ』のコクピットでカイ・イサギ少将が不敵に口角を上げた。
「マリア、別に問題ないんじゃないのか? ……この程度の数、朝の散歩には少し賑やかすぎる程度だ」
カイが操縦桿のトリガーを引くと、アスラの背部冷却システムが白銀の蒸気を噴き上げ、マンガニス反応炉が獣のような咆哮を上げた。
「リヴァイアサン中隊、各小隊、プランA。……地獄の門を開けるぞ!」
「目標補足! 距離1800、敵シュテルツァー! 数、30……いや、50! 続々出てくるぞ!」
AAUの防衛部隊、M-1A1『アイアン・デューク』の群れが、海岸線の砂を撒き散らしながら90mm戦車砲を一斉に放つ。
――ズガガガガガァァァンッ!!
その弾雨の正面、ダークイエローの巨躯が猛然と突っ込んだ。
第二小隊長、ハインリヒ・シュミットの『ケーニヒスパンター』だ。
「フン……。避ける必要もないな、この程度の豆鉄砲!」
重装甲に火花を散らしながら、シュミット中佐は両手持ちの電磁ガンブレード『グラム』を肩口から水平に構える。
旋回性能を極限まで高めた腕部が、敵のアイアン・デュークが次弾を装填する隙を与えず、その懐へ滑り込んだ。
「まずは貴様からだ。……貫け!」
――ガギィィィンッ! ズドォォォォォンッ!!
グラムの切っ先が敵の胸部装甲に接触した瞬間、内蔵された120mm対要塞ライフルが至近距離で炸裂した。
厚さ300mmを超える圧延鋼板が、内側からの圧力で紙細工のように弾け飛び、直線上に居た他四機を巻き込み、アイアン・デュークは一撃で鉄の屑へと変わる。
「アラン! 漏らした鼠を叩け!」
「了解ッ! ウォォォォォォ!!」
アランの四腕機『カーリー』が、ハインリヒの影から躍り出る。
右下の高振動電磁刀『チャンドラハス』が帝国機『ヴルク・アクス』を縦に一閃し、左上の電磁鉄甲『マハカーラ』が裏拳で隣の敵機の頭部を文字通り「粉砕」した。
流体モーターによる人間離れした動きは、S-AGDK(シュテルツァー用 操縦席備付 対G加圧身体保護機構)が無いAAU機では追いつける筈もなかった。
AAU機は義務として、緊急脱出装置を標準装備している。
S-AGDKの代わりに付いている緊急脱出装置。
皮肉にも、それらが機体の性能を低下させている事に、彼らは薄々気がつき始めていた。
「わたしも暴れたい! ソルガおじさま、行くよ!」
エルザの『ケートス』がビーチから速度を上げて『オーディン』に追従する。
オーディンと合流したケートスは軽快に要塞内の段差を飛び越えて行く
要塞全体が炎に包まれる中、その上空200mの「空」を、一機の怪物が支配していた。
「……流石に多いな」
カイの『アスラ』が、独立マンガニス推進機構を全開にし、高高度跳躍。200mの空域から、左腕の144mm自動ライフル『ヴァルキリー』を乱射する。
ドン!ドン!ドン!ドン!
二秒に一発の定期的な発射音。
弾道に生じる独特の歪みを、カイの異常な空間把握能力が全弾を帝国機『グロズ・クヴァル』の脳天に命中させる。
「さて、門番の相手は終わりだ。……本丸を叩く」
アスラが急降下。
ターゲットは、海岸線を封鎖する巨大な対艦防壁。
右腕のパイルバンカーが、艦船用の炸薬を装填し、重厚な音を立ててスライドした。
「パイルバンカー……一撃で十分だ。……死ね!!」
――カチッ、ドォォォォォォォォンッ!!!
凄まじい反動がアスラの右腕を跳ね上げるが、カイは即座に脚部スラスターを逆噴射し、その衝撃を機体全体の「旋回力」へと転換した。
衝撃波が防壁を内側から粉砕し、鉄筋コンクリートの破片が敵の歩兵師団の上に降り注ぐ。
1.3km後方。
波打ち際。
低姿勢で地を這う二機の蜘蛛。
ガリアスとヴォルフの『トール』と『ウール』だ。
「親父、敵の次世代機V-10Rか?あの形。脚部が海岸でロックしたな」
「ああ、ヴォルフ。……砂を噛むとはな。粗悪な技術融合の末路だ。その苦しみ、終わらせてやれ」
――ズゥゥゥゥンッ!!
――ズゥゥゥゥンッ!!
――ズゥゥゥゥンッ!!
重く乾いた発射音。
120mm滑空ライフルから放たれたマンガニス炸裂弾は、1.3キロ先の防衛線の僅かな隙間を縫い、敵シュテルツァーの股関節をピンポイントで撃ち抜いた。
続いて、『見たことないハデなヤツ」を連続で撃ち抜く。
ライオン・ポート沿岸防衛線。
帝国とAAUの連合軍が築き上げた「鉄の防波堤」を、一筋の黒い閃光が、そして一機の魔王が蹂躙し始めた。
「ハインツ副長、右の師団を。――『扉』は俺がこじ開けます!」
「了解だ、カイ隊長。……諸君、遅れるな。この絶望的な数は、我々の進化を証明するための供物に過ぎん!」
カイの『アスラ』が、足底の三連駆動ローラーを絶叫させ、海面からそのまま要塞の垂直壁を駆け上がる。
その動きは物理法則を嘲笑い、敵の重装甲機『アイアン・デューク』が砲身を向けるよりも早く、砲身を撃ち抜く。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
次々に放たれる144mm弾が、密集する敵シュテルツァー隊の急所を次々と貫通していく。
二秒に一発の発射間隔。
回避したはずの敵機が、歪んだ弾道に吸い込まれるように爆散する。
アスラがローラー走行で歩兵部隊を蹂躙しながら要塞中央の防門へと突っ込む。
その背後、一歩遅れて降り立ったはずのハインツの『ルシフェル』が、驚異的な機動でアスラの死角から迫る敵機を次々と射抜いた。
「隊長、そのまま行け! 背後は私が預かっている!」
ハインツは訓練での気づきを、実戦で完璧な「神の援護」へと昇華させていた。
アスラの超機動を追うのではなく、アスラが敵を惹きつける「中心」であることを利用し、その周辺に生まれる「敵の硬直」を120mmライフルで精密に狩り取る。
ドドゴォ!ドゴオォォ、ドゴオォォン!!
「副長、最高のタイミングだ!!」
アスラの右腕、巨大パイルバンカー『コキュートス』が火を噴く。
――ドガァァァァァァァァンッ!!
要塞砲の重厚なハッチが、中身ごと粉砕され、内部のマンガニス貯蔵庫を誘爆させる。
ライオン・ポート沿岸の「シュテルツァー整備工場」と化した波打ち際。
そこは、硝煙と高圧蒸気、そして整備兵たちの怒号が渦巻く、戦場よりも熱い「戦場」だった。
「緊急弾薬補充車両、入ります! どけっ、死にたくなけりゃ道をあけろ!!」
揚陸艦から吐き出された巨大な装軌式補給キャリアが、砂飛沫を上げて戦線の直後へ滑り込む。
それと同時に、天から「漆黒」と「青」の影が降ってきた。
――ドォォォォンッ!!
『アスラ』と『ケートス』。
蹂躙の最前線を走る二機が、限界まで回したローラーの急ブレーキをかけ、猛烈な砂煙を上げる。
「補充だ!パイルバンカー杭換装。 早めに頼む!」
カイ・イサギ少将の鋭い声。
強制空冷スリットからは鋼鉄が焼き付いた匂いが漏れ出ている。
ハッチが開くよりも早く、整備班長が拡声器で絶叫した。
「アスラ右腕、パイルバンカー薬莢パージ! 予備杭、第4規格(超硬質耐久型)だ! ライフル弾倉、早くしろ! 遅れた奴は海に叩き落とすぞ!!」
アスラの周囲を、蟻のような数のメカニックたちが取り囲む。
高熱を帯びた『コキュートス』の整備用強制排莢レバーが強制解放されると、中から赤熱した巨大な薬莢が「ガランッ!」と重い音を立てて砂浜に落ち、周囲の水分を瞬時に沸騰させた。
かつてないパイルバンカーの連発で杭が焼き付いているのだ。
「右腕、冷却ガス注入! 杭、装填完了!」
たちどころに冷却ガスが減圧音と言う絶叫を上げる。
「左腕『ヴァルキリー』、弾倉――交換、急げッ!」
大型クレーン車が、アスラの左腕へ巨大な144mm弾倉をガチリと叩き込む。
その間わずか四十秒。
カイはコクピットで計器を見つめ、マンガニス濃度の回復を確認すると同時に、すでに脚部スラスターの予熱を開始していた。
「カイお兄さま、こっちも終わるよ!」
隣では、エルザの『ケートス』が座っていた。
『トール・ハンマー』の再装填――地上で最も危険な作業の一つだ。
「エルザ大尉、機体の姿勢維持! 入れ終わるまでは衝撃厳禁だ。信管が作動するぞ!」
「わかってるってば! 早くおねがい、あそこの要塞砲、まだ生きてるの!」
メカニックたちが泥にまみれながら、ミサイルポッドの再装填を強行する。
予備弾薬コンテナから八発のミサイルが、自動アームによって吸い込まれていく。
右腕の『八岐大蛇』には、180mmのフレシェット超空洞弾が次々と送り込まれた。
「ミサイル、オールグリーン! 補給完了です!」
「ありがと! お礼は、あの要塞砲を壊してくることだね!」
――キィィィィィィィン!!
リロード完了と同時に、二機のマンガニス反応炉が咆哮を上げた。
整備兵たちがクモの子を散らすように飛び退く。
「カイ少将、気をつけて……!」
通信管制室のマリアの声が響く間もなく、アスラの脚部ブースターが火を噴いた。
砂を爆風で巻き上げ、二機は再び、敵の断末魔が響くライオン・ポートの奥深くへと消えていく。
「……怪物どもめ」
砂まみれになった整備班長が、空になった薬莢を蹴り飛ばしながら、ニヤリと笑った。
「あんな連中に追い回される敵さんが、同情したくなるほど哀れだぜ」
戦場へ戻るアスラの背後には、巨大な白い水柱と、絶望を運ぶ黒い航跡だけが残されていた。
「アラン、右から三機! ……叩け!」
「承知ッ、シュミット中佐! 『マハカーラ』、砕けろぉ!!」
わずか一分の戦闘で八機――敵一個中隊が、文字通り「屠られた」。
第二小隊の二人に近接戦闘を挑んだ者たちの末路は、あまりに哀れであった。
「弱い。……弱すぎるな、中佐」
「カイやハインツといった『歴史上の化け物』と比べるな。あいつらに比べれば、ただの玩具だ。……だが油断はするなよ、アラン」
「了解だ、中佐!」
ハインリヒの『ケーニヒスパンター』が、敵の帝国機『ゴル・ベイン』が繰り出すパイルバンカーを、大剣『グラム』の一閃で斬り飛ばす。
防御を喪失し、無防備に晒された胴体へ、アランの『カーリー』が躍り出た。
四本の腕をフル稼働させ、死角から次々と重要部位を断ち切っていく。
連日の訓練で、アスラとルシフェルという二柱の「神」に追い回されてきた彼らにとって、一般兵が操る主力機など、もはや止まっているも同然であった。
「ソルガおじさん、12時方向! 敵『コロッサス』級指揮官機!」
「……見えている。エルザ、そのまま跳べ!」
ガァン! ガァン! ガァン!
エルザが跳躍したわずか〇・五秒後。
彼女が先ほどまでいた空間を、ソルガの放った徹甲弾が音速で切り裂き、その先にいたコロッサス二機を連続で屠った。
「ソルガおじさん、か……」
「えっ、嫌だった?」
「……いや。ソルガおじさんと呼べ」
ソルガの『オーディン』が、背部の多重光学サイトを展開して一・三キロメートル先の霧を透視する。
――パンッ!
精密な一射が敵重装機の殿を潰した瞬間、その頭上からエルザの『ケートス』が舞い降り、一八〇ミリ耐水ショットガン『八岐大蛇』を叩きつけた。
ドゴォォ! ドゴオォォ、ドゴオォォン!!
「あはははっ! 逃げ道がないから慌ててるよ!」
ソルガが射線を引き、敵を追い込み、退路を断ち切った場所へ、エルザが寸分の狂いなく上空から散弾を注ぎ込む。
それは、第一小隊の「死の連携」が完全に完成した瞬間であった。
海中では、アンジャリとマリスが『ドラウプニル・アンカー』を振るい、埠頭から逃走を図る敵装甲車両を次々と深海へと引き摺り込んでいた。
「何というか……港へ次々に逃げ込んでくるわね」
「お姉さま、引き摺り込みすぎて、こちらの埠頭はもう『在庫』がいっぱいですわ」
「クスクス。マリス、やりすぎよ。怖い子ね」
「お姉さま! お姉さまの方こそ、わたしよりずっと多いんですからね!」
一方、陸地ではガリアスとヴォルフの狙撃班が、風景に溶け込む完璧な偽装を施し、静かに獲物を待っていた。
彼らが放つのは、かつての「魔王」に叩き込まれた、「神の領域」の弾丸。
――ズゥゥゥゥンッ!!
――ズゥゥゥゥンッ!!
――ズゥゥゥゥンッ!!
姿なき死神の銃声が轟くたびに、敵の重火器が沈黙し、シュテルツァーが必ず一機、内側から破裂するように沈んでいく。
どこから撃たれているのかさえ判らぬまま、敵軍はただ恐怖に塗り潰されていった。
「リヴァイアサンコントロールより各機……状況確認。敵二個師団の第一防衛線を、突破。……すごい……すごいわ!」
マリアの声が感動で震える。
モニターに映るリヴァイアサン中隊は、わずか十機でありながら、九百機のシュテルツァーが築いた「絶望」を、バターを熱いナイフで切るように切り裂いていた。
「ハインツ副長! 残りのオモチャ、どちらから料理したい?」
「ハッ、隊長。私に選ばせてくれるのか? ……ならば、最も敵の密度が高い中央、地獄の真っ只中へ連れて行ってくれ!」
漆黒の阿修羅とメタリックブラックの魔王が、再び咆哮を上げる。
ライオン・ポートの地獄は、まだ始まったばかりだった。
ライオン・ポート中央広場。そこは鋼鉄の死体が積み上がる「墓標の街」と化していた。
カイお兄さま、ハインツおじさん! 敵の増援が来るよ! ……うわぁ、本当に蟻の群れみたい!」
「お、おじさんだと……?」
「えっ、嫌だった?」
「……いや。ハインツおじさんと呼べ」
「「「クスクス!」」」
無線に響く愉快そうな笑い声に、カイが怪訝そうに割り込む。
『アスラから各機。……第三小隊、どうかしたのか?』
「何でもありませんわ、カイ様。末っ子が、あまりに可愛らしく思えただけですの」
そう答えるマリスもまた、口元を綻ばせていた。
この無線を聴いていたソルガの表情は、まるで幼い孫娘と語らう好好爺のようであった。
上空50メートルで滞空するエルザの『ケートス』が、街を埋め尽くす数百機のシュテルツァーを指差した。
帝国とAAUが威信を懸けて投入した精鋭、鋼鉄の海。
だが、リヴァイアサン中隊の面々に、もはや「数」への恐怖はなかった。
「副長、あれが敵のメインディッシュか?」
「フッ……。少々、硬いだけの鉄屑にしか見えんよ、隊長!」
海岸線から、敵エースが操るプロトタイプ機、超重装甲機『タイタン』が地響きを立てて突進する。
「ビーチから撃ち抜いてくれる!」
タイタンのパイロットが叫び、120mm砲を振りかざす。
だが、その足元の砂浜が、爆発的な勢いで陥没して即座に転倒した。
「……あら、ビーチは足場が不安定で怖いですわね?」
海中から、アンジャリの『クラーケオス』とマリスの『クラーケン』がゆらりと浮上した。
硬質ワイヤーが何重にもタイタンの足に絡みついている。
二機の対艦シュテルツァーから30mm四連装機関砲が同時に撃ち込まれた。
ドドドドドン!ドドドン!ドドドン!
タイタンは二秒も持たずに、四散した。
「お姉さま、撃ちすぎですわ。まあ、わたしもですけど」
「ええ、マリス。……余りにもマヌケに転んでいたから、つい。早く壊れすぎて驚いたわ。海に帰りましょう」
市街地。
『キマイラ』『オーディン(帝国版)』『スレイプニル』『アイアンゴーレム』。
帝国軍第22強襲対シュテルツァー中隊。
帝国のトップエース四機を要するエース中隊である。
だが、彼らが気がつくよりも早く、その命脈は絶たれた。
――シュンッ……!
――シュンッ……!
バキン!
ガキン!ドゴオオオオオオオオォォォン
オーディンのコクピットが後方から弾け飛び、スレイプニル首付け根に僅かに露出しているマンガニスパイプを撃ち抜かれた。
空気の震えさえ置き去りにする極音速の狙撃。 偽装により、味方からもどこに居るのか分からない狙撃小隊。
ガリアスの『トール』とヴォルフの『ウール』。
「親父、俺が先に倒したな」
「バカ言えヴォルフ!オレは頸部マンガニスパイプをぶち抜いだんだぜ」
「お!じゃあ、俺は次は、あの黄色のやつのマンガニスパイプだ」
「ああ、ヴォルフ。……俺はグレーのデカいやつのバイタルを抜く……」
――シュンッ……!
――シュンッ……!
ガキン!ドゴオオオオオオオオォォォン!
ドォォン!
『キマイラ』の機体背面、たった数センチの露出部であるマンガニスパイプが粉砕され、機体は四散する。
『アイアンゴーレム』は、鉄壁の装甲はそのままに、内部の心臓部だけを抉り抜かれた。
胸部と腹部の装甲のわずかな隙間に、弾丸を通したのだ。
「ガッハッハッハ。ヴォルフ、さっきも、今も、俺の方が上だなぁ」
「何だと親父!、まだ居るだろう!」
――シュンッ……!
――シュンッ……!
ガキン!
ベキン!
ドゴオオオオオオオオォォォン!
エース機四機が同時に撃墜された事実に驚愕する残党たちも、間髪入れずに沈黙した。
ある者は燃料室を、ある者はコクピットを。
一撃で急所を貫かれた彼らは、反撃することはおろか、脱出することさえ許されなかった。
白銀の装甲を纏った近接特化高機動型エースパイロット。
通称『アイスセイバー』。
撃墜数67。
それが、ハインツの『ルシフェル』に唯一肉薄した。
「その機体! ルシフェルだなぁ!ハインツ・ゼ・ゲーヴェア!老いぼれが、トップエースの私のスピードに追いつけるかぁ!!」
アイスセイバーが、帝国の高圧蒸気システムを限界まで使い、氷の閃光となってルシフェルに切りかかる。
だが、ハインツは笑っていた。
「……直進だけは速いな。だが、『神』を知った私を楽しませてくれるのかな」
ルシフェルが最小限のステップで刃をいなし、逆転する機体挙動を、アスラとの訓練で磨き上げた機動で制御。
アイスセイバーが次弾を放とうとした瞬間にはすでに、胸部にメタリックブラックの拳が届いていた。
「さらばだ。……これでエースとは驚きだ」
――カチィィィィィンッ
ドォォォォォォォォンッ!!!
至近距離でのえぐり上げるようなパイルバンカー。
艦船用炸薬の衝撃波がアイスセイバーを内部構造ごと粉砕し、白銀の装甲は一瞬で歪んだ鉄の塊へと変貌した。
ガキン、カキーン。
戦火に包まれた市街地に、ルシフェルのパイルバンカーが自動装填される硬質な排莢音だけが、若きエースへの弔鐘のように響き渡たる。
「副長、仕上げです! 三個師団、中央突破で吹き飛ばす!残弾は?」
「残弾は補充したいところだな。了解だ、カイ隊長!!」
漆黒のアスラとルシフェルが、肩を並べて加速する。
その背後では、エルザの笑い声と、シュミット、アランの咆哮が、死の島となったライオン・ポートに響き渡っていた。




