第40話 酒
二週間の地獄のような模擬戦が終わり、狂犬たちが「魔王」に膝を屈した夜。
ハインツは、デリ・ガート近郊の、軍関係者すら寄り付かない場末の酒場を貸し切らせた。
そこには、贅沢な装飾も、軍の規律を強いる静寂もない。
ただ、酒の匂いと、戦い終えたばかりの猛獣たちの熱気がこもっていた。
中央の長机に、ハインツがどっしりと腰を下ろす。
「……まずは、一緒に酒を飲もう。中隊の結成祝いだ。階級は一旦、この店の外に置いてこい」
その言葉を合図に、帝国のエリートたちが、各々の「素顔」を晒し始めた。
猛獣たちの乾杯
「……ふん、中隊長の奢りなら、遠慮なく飲ませてもらう」
副長のソルガが、眉間の傷を指でなぞりながら、琥珀色のウィスキーをグラスに注いだ。
「あんな神業を見せつけられた後だ。シラフで中隊長と向き合うのは、心臓に悪い」
「あら、ソルガ中佐。あんなに惨敗したのがそんなにショックでしたの?」
エルザが、十九歳らしい生意気な手つきでカクテルグラスを弄ぶ。
「私は平気です。おじい様……いえ、ハインツ中隊長。次は必ず、あなたの背中の死角を暴いてみせますから。それまでは、貴方の勝ちにしておいてあげます」
「ははは! 言うようになったな、お嬢ちゃん」
豪快に笑いながらビールジョッキを掲げたのは、第四小隊のガリアスだ。
「俺とヴォルフの親子狙撃を一度も捉えさせなかったのは、歴史上あんただけだ。ハインツ中将……あんたは、俺たちが人生で出会った中で最大の『壁』だよ」
その隣で、息子のヴォルフはまだ緊張が解けない様子で、ビールのジョッキを握りしめている。 「俺は……あの時、後ろからパイルバンカーを突きつけられた瞬間、自分が死んだと錯覚しました。俺たちの迷彩を完全に見破るなんて……」
「無駄よ、ヴォルフ少尉」
冷淡な声で割り込んだのは、ヘルガだ。彼女はウォッカのボトルをラッパ飲みしそうな勢いで、グラスに並々と注いでいる。
「あの人の機動は、光学レンズや計算で追えるものじゃない。殺気そのものをセンサーにしている……狂気の領域よ。私は……嫌いじゃないわ。あんなに美しく壊されたのは、初めてだもの」
「陸の人たちは、賑やかでいいわね」
海軍から来たアンジャリが、妹分のマリスと顔を見合わせ、皮肉げに笑った。
「マリス、どう思う? 私たちを海上の戦いで翻弄したあの『ルシフェル』。」
「お姉さま、あの機体は……人間が乗るものではありません」
マリスが冷ややかに答える。
「ですが、あの時の中隊長の視線……冷徹で、けれど、どこか遠くを見ているような。あの瞳に従うのは、対艦中隊より楽しいのかも知れません」
酒が回るにつれ、不協和音だった中隊員たちの間に、不思議な連帯感が生まれていった。
ハインツは、酔いつぶれることなく、静かにメンバーたちの顔を見渡していた。
「ジュリアン、お前はどうだ。あまり飲んでいないようだが」
ハインツが、影のある青年ジュリアンに声をかける。
ジュリアンは、逆関節の『ロキ』を駆る時のように、掴みどころのない微笑を浮かべた。
「……僕は、ただ、この光景を眺めているのが好きなんです。帝国最強のエリートたちが、一人のアザリア人に……いえ、一人の老兵に心服している。この皮肉が、最高の肴ですから」
「アザリア人、か……」
ハインツが、自嘲気味に呟いた。
その一言で、酒場の空気が一瞬、凍りつく。
彼がなぜここにいるのか。
家族を養うために軍規を曲げて、エリートパイロットと言う肩書を盾に『アゼリア人』でありながら軍人になった男。
誰もが口にしないが、部下達の認識はこれであった。
「……中隊長」
ソルガがまっすぐにハインツを見た。
「俺は、祖国がアザリア人を迫害していることは知っていた。しかし……それがこれほど現実的な、地獄のような話だとは思わなかった」
「アタシもだよ。何の意味があるんだ、こんなこと」
ヘルガも真剣な表情で言葉を継いだ。
だが、ハインツは言葉を返せなかった。
彼らが口にする同情は、あくまで「誇り高き軍人の正義」に根ざした清潔な怒りだった。
ハインツ以外のメンバーにとって、帝国によるアザリア人への迫害は、自分たちが思っているような、そんな生優しいものだとは知る由もなかったのだ。
ハインツの脳裏を過るのは、ゲヘナ大陸中央部にある収容所の記憶だ。
そこは灼熱地獄だ。
昼夜を問わず熱がこもり、収容所は地獄の様相を醸し出す。
昼は常に35度前後、夜は気温こそ下がるが常に90%を上回る湿度の不快感が、ゆっくりと確実にアゼリア人達を死の淵へと誘っていく。
マンガニスの粉塵を肺に吸い込み、血を吐きながら泥水を啜る老いた同胞。
病に伏した赤子を抱え、絶望さえ許されずに石を運ぶ母親たちの群れ。
帝国の繁栄という華やかな舞台の真下、光も届かぬ底なしの沼で、名前さえ奪われて「消費」されていく者たちの阿鼻叫喚。
目の前の部下たちが抱く「不当な軍規による差別への憤り」など、ハインツが見てきた絶望の表層をなぞる、あまりに無垢で「生優しい」感情に過ぎない。
多少の市民権の制限、富裕層への重税、あるいは公共施設からの締め出しといった、そのような「表面上の差別」こそが迫害のすべてであると、彼らは信じて疑わなかったのだ。
その足元に、死すら救いとならない暗黒が広がっていることなど、彼らの世界には存在し得なかった。
(語ったところで、この者たちの耳に届くのは、加工された悲劇に過ぎん……。それに、彼らの正義を私の泥で汚す必要もない)
それはハインツなりの、無知な部下たちへの慈悲であり、同時に、決して埋めることのできない絶対的な孤独の証明でもあった。
「……中隊長」
ソルガがグラスを置き、まっすぐにハインツを見た。
「俺たちは、帝国の思想を全部信じているわけじゃない。少なくとも、この中隊にいる連中は、何かしら『外れた』連中だ。あんたがアザリア人だろうが、魔王だろうが関係ない。俺たちが信じるのは、俺たちをねじ伏せたその『腕』だけだ」
「そうですわ、ハインツ中隊長」
エルザが、少しだけ赤くなった顔で、真剣な眼差しを向ける。
「あなたが何のために戦うかなんて、どうでもいい。ただ、あなたが率いるこの『ザハーク』が、世界をどう塗り替えるのか……それを一番近くで見たいんです」
ハインツは、胸のポケットから一枚の写真を取り出した。
泥とマンガニスにまみれた収容所で、消え入りそうな命の灯火を守っていた、娘クリスの写真だ。
今の彼女は、帝国の医療と栄養によって、ようやく頬に赤みが戻り始めている。
「……私は、この娘を人並みに結婚させてやりたい。ただ、それだけのために、再びステッキを握った。そのためなら、私は喜んでアメリの大地を焼き、世界の敵となろう」
その告白は、あまりにも私的で、あまりにも重かった。
だが、その純粋なまでの執着が、狂犬たちの魂を揺さぶった。
「結婚、か……」
ヘルガが、パイルバンカーで敵を貫く時のような鋭い笑みを浮かべた。
アゼリア人は差別される。
結婚も難しいのであろう。
「いいわね。なら、その結婚式、私たちが護衛してあげるわ。世界で一番、物騒で、最高な花嫁の親衛隊よ」
「ははは! そいつはいい! 俺の息子も、その頃には一人前の男になってるだろう。ヴォルフ、お前、クリスさんの婿養子に立候補するか?」 「や、やめてくれよ親父! 中隊長の前で何を……!ちょっと写真見せてください。中隊長。あ、かわいい!年も近いんだな」
ヘルガがヴォルフの首をがっしりと掴んでホールドする。
「なんだい、アタシだって近いんだぜ!結婚してやろうか?」
「いや!いい、いいって!」
「なんだよ、遠慮か?照れるなよ」
ヘルガの脇に抱えられたヴォルフの赤面を見て、酒場に大きな笑い声が弾けた。
アザリア人への迫害、帝国の傲慢、新興国家の歪み……。
それらすべてを忘れることはできないが、この瞬間だけは、彼らは一つの「部隊」になっていた。
出撃前
夜が更け、アンジャリとマリスが海軍特製の歌を口ずさみ始め、エルザがソルガに戦術論で絡み、ガリアスがハインツと第二次大戦の思い出話を語り合う。
ハインツは、空になったグラスを置き、立ち上がった。
「……明朝、発つ。アメリ大陸、AAUの防衛線を突破し、我らの力を世界に知らしめる」
全員が、一斉に立ち上がった。
酔いは、一瞬で消え去っていた。
そこにあるのは、死を運ぶ「ザハーク」の牙たちだ。
「ソルガ、お前の『オーディン』が道を拓け」 「了解、中隊長」
「ヘルガ、エルザ、ジュリアン。近・中距離は貴様らに任せる」
「ことごとく粉砕してあげますわ」
「ミサイルの花束を贈って差し上げます」
「機動で攪乱しますよ」
「アンジャリ、マリス。海からの支援は頼むぞ」 「おまかせを」
「深淵に引き摺り込んで差し上げますわ」
「ガリアス、ヴォルフ。援護は貴様らだ。味方に仇なす輩を食い止めろ」
「双頭の荒鷲、見せてやりますよ」
「……任せてください」
最後に、ハインツは『ルシフェル』のコックピットに想いを馳せた。
そこにはクリスの写真があり、そしてこれから奪うことになる無数の命への覚悟がある。
「……仕事だ、諸君。世界に『魔王』の恐怖を刻みつけるぞ」
「了解!!!!」
七人の精鋭たちの咆哮が、魔王伝説の最初の合図となった。
オマケ
「……親父、少し時間をくれ」
ヴォルフが、上気した顔を隠しもせず、隣のガリアスの袖を引いた。
それは飲み始めて一時間ほど経った頃だった。
その瞳には、模擬戦での敗北を塗り替えるほどの、隠しきれない高揚が宿っている。
「なんだ、ヴォルフ。中隊長の前だぞ。無様を晒すな」
ガリアスが鼻を鳴らしてジョッキを置くと、ヴォルフは声を潜め、しかし確信に満ちた口調で告げた。
「……さっき、中隊長に小声で言われたんだ。『俺のスコアを超えたら、娘をやる』と。……親父、手伝ってくれ。親父にもスコアを回す。親子で連携を組めば、不可能な話じゃないはずだ」
ガリアスは一瞬、目を丸くして固まった。
それから、ひきつったような笑みを浮かべると、近くで静かに飲んでいたソルガと、アンジャリの後ろにいたマリスを無言で手招きした。
不審げに寄ってきた二人に向かって、ガリアスは震える肩を抑え、喉の奥から絞り出すような笑い声を漏らした。
「おい、ソルガ。マリス。……この若造の戯言を聞いてやってくれ。中隊長に『スコアを超えたら娘をやる』と言われて、本気で獲りに行くつもりだそうだ。俺に戦果を分けてやるから手伝えだとよ」
一瞬、酒場の喧騒が止まった。
次の瞬間、ガリアスが椅子から転げ落ちんばかりに喉を鳴らしたのを合図に、猛烈な大爆笑が爆発した。
「ガハハハハハ! 聞いたか今の! 中隊長のスコアを、超えるだと!?」
ガリアスは涙を流しながらテーブルを叩き、ソルガもまた、眉間の傷を歪めて肩を激しく揺らしている。
「……ククッ、ヴォルフ少尉。貴公、それは……ハハッ、それはいい。人類の歴史を書き換えるどころか、神話に喧嘩を売るつもりか。傑作だ」 あの冷静沈黙なソルガが、膝を打って笑い転げている。
マリスに至っては、あまりの滑稽さに口元を押さえ、震えながら背を向けた。
「……フフ、アハハハ! すみません、失礼……。ですが、あまりに……あまりに身の程を知らなさすぎて……!」
酒場全体が、ヴォルフ一人を置き去りにして、狂ったような笑い声の渦に飲み込まれた。
「おいヴォルフ! 中隊長のスコアだぞ!? 毎日百機落としたって一ヶ月はかかるぞ!」
「ガリアス! お前、息子に『死ぬまで働け』って呪いをかけられた気分はどうだ!」
「親父にスコアを分ける!? ハハハ! お前、まずその『正典』を拝んできな!」
「な、なんだよ……そんなに、そんなにおかしいことなのかよ……?」
顔を真っ赤にして狼狽するヴォルフの前に、ハインツが和かに一枚の個人記録票を手渡した。
「いいか、ヴォルフ。これがゲルマーの至宝、ハインツ・ゼ・ゲーヴェア中将の『正典』だ。よく見て、自分の無知を呪え。――そして、笑え!」
ヴォルフが恐る恐るその紙を覗き込んだ。
ハインツ・ゼ・ゲーヴェア:通算戦果
シュテルツァー:322
戦車:2104
火砲:323
要塞、陣地等: 532
艦船:5
車両:1932
「…………」
ヴォルフの思考が、文字通り凍結した。
周囲の爆笑が、遠くの波音のように聞こえる。 「322」という数字。
そして「2104」という戦車撃墜数。
それは一兵卒が戦場で遭遇する数さえ遥かに凌駕している。
自分が「超えてやる」と息巻いていた壁は、空を突くような巨塔などではなく、初めから存在しない地平線の彼方にあった。
ヴォルフは絶句し、手に持っていたジョッキをカタカタと震わせた。
高揚感は一瞬で霧散し、ハインツという男が背負っている「怪物」の質量が、残酷なまでの重圧となって少年の肩にのしかかった。
ハインツは、爆笑の嵐のなか、一人真っ白に燃え尽き、魂が抜けたように呆然としているヴォルフを静かに見つめ、わずかに口角を上げた。
「……意気込みだけは買っておこう、ヴォルフ。だが、私のスコアは戦場での『生存数』だ。この数字の裏には、それ以上の仲間の死がある。……死ぬなよ。私は生き延びたら、勝手にスコアが付いてきただけだ」
「はい」
ヴォルフは、その言葉を出すのが精一杯であった。
(それでな、WW2の時はシュテルツァーが少な過ぎたのだよ。ヴォスト・ウラル・スクラップ。今は崩壊して内紛を繰り返しているあの国。狩っても狩ってもよく湧いて出てきたものだ)
ハインツは一瞬、WW2の思い出に心を惹かれていた。
それは亡き戦友達と交わしたスコア談義が、もたらした悲しくも美しい思い出であった。
つい先ほどまでの万能感は微塵もなく、ただ「魔王」のあまりに遠い背中に、ヴォルフはただ圧倒されるしかなかった。
デリ・ガートの場末、猛獣たちが「魔王」に膝を屈し、笑いと熱狂の中で一つの「部隊」となった狂乱の夜から数時間後。
1983年9月、早朝。
二日酔いの頭を冷やすような冷たい霧が立ち込める駐屯地の一角に、コンテナを囲んで中隊員たちが集まっていた。
コンテナには「帝国陸軍参謀本部・特選供給品」の封印。
バールでこじ開けられた蓋の下から現れたのは、昨夜の酔いも吹き飛ばすような、圧倒的な「威圧感」を放つ漆黒の山だった。
「……嘘でしょ。これ、アタシたちが着るの?」 ヘルガが、金のモールが施された黒の上衣を指先でつまみ上げた。 「昨夜は『魔王の軍勢』なんて盛り上がったけど……本気でこっち(魔王側)に染め上げる気ね。参謀本部の連中、性格悪いわ。最高に気に入ったけど!」
「ヘルガ大尉、不敬ですよ。……ですが、この仕立て……」
ジュリアンは、届いたばかりの制服の袖を通し、鏡もなしにボタンを一つずつ確実にはめていった。
「ただの布じゃない。帝室におさめられるような最高級品ですよ。……中隊長、これは『英雄』への最高の贈り物ですね。死装束としても完璧ですよ」
「死装束、か。ジュリアン中尉、お前は相変わらず縁起の悪いことを言う」
ソルガが、重厚な黒のロングブーツに足を通し、カカトを叩きつけた。
「だが、この乗馬ズボンの裁断……機動時の脚の動きを一切妨げない。機能美という点では、帝国軍の歴史上、最も合理的だ。……悪くない」
「あら、ソルガ中佐。機能性だけを語るなんて野暮ですね」
エルザが、膝丈のプリーツスカートを翻し、軽やかにターンしてみせた。
「見てくださいな、この金のモール。黒地に映えるこの光沢……まるで、闇に散る火花のようですわ。ねえ、マリス? これ、私たちをより『美しく恐ろしいもの』に見せるための舞台衣装ですのよ」
「……そうね、エルザ」
マリスは、自分に与えられた制服の胸元をじっと見つめていた。
「黒……閣下の『ルシフェル』と同じ色。お姉さま、私たち、これで本当にあの人の眷属になるのですね」
マリスは、まるで吸血鬼の映画にでも入り込んだかのように、嬉しそうに何度もターンしてスカートを翻している。
「ええ、マリス。もう引き返せないわ」
アンジャリが、マリスの制服の襟を整え、妖艶な微笑を浮かべる。
「海軍の白も良かったけれど、この死を纏うような黒も素敵。クラーケオスに並んだらどれほど映えるかしら……うふふ」
「お、おい親父! ちょっと待ってくれよ。 ブーツの履き方が分からないんだよ。それにこのズボン、なんか横に膨らんでて変じゃないか?」
ヴォルフが、慣れない正装に四苦八苦していた。
昨夜の「スコア談義」で魂を抜かれたショックがまだ顔に残っている。
「ガッハッハ! ヴォルフ、お前はまだ着こなされてるな!」
ガリアスは既に制服を纏い、太い腕を組んで笑っている。
「いいか、その膨らんだズボンは、馬……いや、シュテルツァーに乗る者の誇りだ。その格好で閣下の隣に立て。……少しは『娘さんを狙う男』らしく見えるぞ?」
「親父! 中隊長の前でその話はもう……!」
ヴォルフが真っ赤になって絶叫した瞬間。
カツ、カツ、カツ。
規則的なステッキの音が、霧の向こうから響いてきた。
全員が息を呑み、直立不動の姿勢を取り、敬礼をする。
制服の魔力であった。
現れたハインツは、既に「魔王」そのものだった。
中将の階級章を付けた漆黒の制服。
金のモールは朝日を浴びて、まるで神話の魔王の装飾のような危険な輝きを放っている。
昨夜、酔った部下たちを見守っていた「老兵」の面影はそこにはない。
「……揃ったな、狂犬ども」
ハインツの声が、冷たく、重く響く。
「本部は我々に、バラバラの私服ではなく、一つの色を与えた。それは、貴様らがもはや個人の兵士ではなく、帝国という名の刃……『ザハーク中隊』であるという烙印だ」
ハインツは一人一人の顔を射抜くように見た。
「制服が黒いのは、返り血を目立たせないためだ。金が輝くのは、絶望の淵にいる同胞に、我らが来たことを知らせるためだ。……ジュリアン、お前はどう思う」
影から現れたジュリアンが、新制服の襟を弄びながら不敵に笑う。
「……最高の皮肉ですね、閣下。アザリア人のあなたが、この帝国の美学を体現したような黒を纏い、最も純粋な帝国軍人として戦場を焼く。……この制服、僕は気に入りました。舞台装置としては満点だ」
ハインツは満足げに頷き、コンテナの横に立つヴォルフの前で足を止めた。
「ヴォルフ少尉。制服が重いか?」
「……いえ! 重くはありません。ただ、この金のモールに恥じない戦果を挙げられるか……それを考えていました」
「良い答えだ。だが、昨夜言ったことを忘れるな。……スコアではなく、生き延びろ。この黒い布が、貴公らの血で染まるのを見たくはない」
「了解!!!!」
霧が晴れていく出発の朝。
漆黒と黄金を纏った七人の猛獣たちが、魔王を先頭に、自らの機体へと歩き出す。




