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三姉妹爆笑交響曲 — 大学生篇から陽翔&結音誕生まで  作者: リンダ


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75/111

21歳

楽曲企画「ふるさとの味 -Shiso & Summer-」


(寮ラウンジ。赤紫蘇ジュースの余韻が残る夜)


優子「なぁみっちゃん、今の香りそのまま曲に閉じ込めたくない?」

光子「わかる〜。うちらの“ふるさと”が口いっぱいに広がる感じ、音で再現したいっちゃん。」



コンセプト


“ひと口で帰れる場所”。

赤紫蘇ジュースの甘酸っぱさ、実家の台所の湯気、夕立あとの土の匂い、縁側の風鈴、家族の笑い声。

味覚・嗅覚・記憶が一体化する瞬間を、和音色×ポップスで。


編成(FIVE PEACH★アコースティック・バージョン)

•光子:エレキベース(フレットレス/暖かいミドル)、コーラス

•優子:ドラム&パーカッション(ウッドブロック/シェイカー/和太鼓ワンポイント)、コーラス

•小春:ピアノ&キーボード(フェルトピアノ+ストリングス・パッド/グロッケン)

•美香:ピアノ・オブリガート&トロンボーン(ブレスのように歌う)

•奏太:アコギ(フィンガーピッキング)、エレキ(クリーン・カッティング)


楽曲構成

1.Intro(0:00–0:18)

 グラスの氷の音をサンプリング→グロッケンで“氷のきらめき”モチーフ(5音)

 フェルトピアノの分散和音(C△7add9 → D7sus4 → G△7)

2.Verse A(0:18–0:48)

 アコギのアルペジオ+フレットレスのスライドで“湯気”を描写。

 Drはブラシでそっと。歌詞は台所の情景。

3.Pre-Chorus(0:48–1:06)

 コード一段上へ(Em7 → D/F# → G△7 → A7sus4)。

 「ただいま」の言い出しかけを、伸ばすコーラスで期待を溜める。

4.Chorus(1:06–1:36)

 キラッとストリングス+パッド。パーカッションに和太鼓を一打だけ。

 メロは上昇線で“ふくらむ香り”。

 (G△7 → Bm7 → C△7 → D7 / Em7 → D/F# → G△7)

5.Bridge(2:05–2:35)

 トロンボーン・ソロ。赤紫蘇の“ほのかな渋み”を長音で。

 ベースはハーモニクス、Drはウィンドチャイム。

6.Last Chorus(2:35–3:10)

 合唱的コーラスを重ね、テンポを2%だけ押し上げ“帰巣本能”を演出。

 最後は氷のSEでフェードアウト。



歌詞(抜粋)


Verse A


台所の湯気が 窓に絵を描く

しそ色の風が 胸の奥まで帰ってくる

「ただいま」言う前に 笑い声が先に落ちてくる


Chorus


ふるさとの味は 甘くて少しすっぱい

泣いた日さえ そっと包むよ

氷が鳴いたら 夏がほどけていく

グラス越しの空 君と分け合った


Bridge


遠回りしても 鼻先でわかる

この香りの方角が 私の地図



サウンドの“味付け”メモ

•“甘み”=メジャー7thとadd9で透明感

•“酸味”=一瞬の#11、sus4で引っかかりを

•“香りの立ち上がり”=グロッケン&ピアノの高域を弱めのアタックで

•“のどごし”=フレットレスのスライド・グリッサンド



博多弁MC(ライブ用)


優子「この曲はね、うちらの“ただいま”ば音に閉じ込めたと。聴き終わったら、みんなのふるさとが、ちょっとだけ近う感じたら嬉しかね。」

光子「途中キラッて鳴る音、氷やけん。赤紫蘇ジュースで乾杯しよる気持ちで、耳ころがして聴いてね〜!」



ジャケット案

•霧がかった夏の夕方、縁側のグラスに赤紫蘇の赤。

•氷の中に小さな五線譜が反射で浮かぶイラスト。

•タイトルは手書き風:「ふるさとの味 -Shiso & Summer-」



小春「…これ、匂いが聴こえる曲になったね。」

美香「音で“ただいま”が言えるなんて、最高やん。」

優子「じゃ、デモ録るばい。みんな、準備よか?」

光子「よし、ワン、ツー!」





「二十一歳の前夜、レジ締めのあとで」


ミライマートのバックヤード。蛍光灯の白い明かりの下、篠崎店長とスタッフが輪になって立っていた。

手のひらサイズの小袋——麻ひもで結んだ可愛らしいラッピング。中にはクッキーとキャンディ、そして小さなカード。


篠崎「みっちゃん、ゆうちゃん。七夕の前の土曜やろ?二十一歳の誕生日、おめでとうね。こころばかりやけど、うちらから。」

光子「わぁ……店長、みんな、ありがとう。めっちゃ嬉しか〜。」

優子「袋まで可愛か!ほら見てみ、キラキラの星のシール付いとる。七夕仕様やん!」

先輩スタッフ・美咲「応援シフト入ってくれて助かったよ。明日からまた忙しくなるけん、今日はゆっくりお祝いしてね。」

篠崎「タイムカード押したら、もう“お客さん”やけん。レジ前でつい並ばんでよかよ、特別に裏口から“星空退勤”で。」


二人は笑って、カチッとタイムカードを押す。

光子「……ピッ。二十一歳、前夜分の労働終〜了。」

優子「……ピッ。二十一歳、入場待機〜。よっしゃ、退勤!」


袋を胸に抱えて店を出ると、梅雨明け前の風がほの甘い。アスファルトに残る雨の匂い、遠くで電車が走る音。

寮へ向かう道すがら、二人は小袋のカードを開いた。


「いつも“笑い”と“やさしさ”をありがとう。あなたたちの『おかえりなさい』が、ここを好きにさせる。」

ーー ミライマート一同


優子「……反則やろ、これ。泣くばい。」

光子「うん、ちょっと泣く。けど、笑う。店、うちらのホームやね。」


寮の門の前。スマホが震える。

“博多グルチャ(家族)”からのビデオ通話。


美鈴「みっちゃん、ゆうちゃん、前夜祭よ〜。はい、フライング乾杯〜(赤紫蘇ジュースを掲げる)」

優馬「二十一の扉、どんっ!って開けよ。健康第一、爆笑第二!」

美香「ケーキは明日冷蔵で着くけん。ハートは二個。春介と春海からのリクエスト〜。」

春介&春海(画面の端から)「おねえちゃん、二十一さいおめでと〜!ハイパー誘惑ウィンク、どーん!」

二人「う、効くぅ〜!腹筋に来る〜!」


通話を切ると、小雨がほんの少し降ってきた。

優子「七夕の“予告雨”やね。」

光子「願い事、決めとう?」

優子「うん。“来てくれた人ぜーんいんが、笑顔で帰れるライブを積み重ねる”。それと——」

光子「“音楽もギャグも、もっと深う、やさしう”。」

優子「おそろいやん。」

光子「双子やけん。」


寮のラウンジに入ると、卓上に小さな夜空。

小雪とソフィーアと早苗が、手作りの折り紙ガーランドを飾って待っていた。


小雪「帰還確認〜。おかえり!」

ソフィーア「Surprise for you!(サプライズよ!)」

早苗「“二十一の短冊コーナー”設置済みです!」


短冊を手に、光子はさらさらと書く。

『ふるさとの味、世界に運ぶ。音で、笑いで。ーー光子』

優子も書く。

『みんなの“ただいま”を増やす。ここで、どこででも。ーー優子』


優子「……なぁ、開けよっか?店長の小袋。」

光子「開封、よか許可。」

リボンを解くと、星型のクッキーがころんと出た。

一口かじって、二人は見合わせ、同時に笑う。


優子「……甘っ。やさしか。」

光子「二十一歳、始まる味やね。」


時計は23:57。

ラウンジの電気を少し落として、グラスに赤紫蘇ソーダを注ぐ。氷が澄んだ音を立てた。


小雪「カウントダウン、いくよ。」

全員「3、2、1——」


0:00。


全員「誕生日おめでとう!!」


拍手、笑い声、氷の音。

二人は小さく会釈して、肩を並べて言った。


光子「二十一年目も、うちら——」

優子「全力で“おかえり”作るけん。よろしくね!」





「七夕、屋上で星にピント合わせ」


雨上がりの夜、寮の屋上。まだ濡れた手すりが、街灯を歪ませて光ってる。

都会の空は明るいけど、雲が掃かれて、黒いキャンバスに豆粒みたいな星々が滲んでいた。


優子「見えるね……織姫と彦星。今日はいけるやろ。」

光子「年一のデート、雨天順延なし。天の川、開通〜。」

小雪「勝手に交通情報流すな。」

ソフィーア「でもロマンチック。願い事、もう一回しとこ?」


紙コップに赤紫蘇ソーダ。屋上の端に腰かけて、呼吸みたいに静かな時間。

遠くで救急車、もっと遠くで電車。近くで、みんなの笑い声。


優子「うちらもさ、年一どころやなく毎日デートやね。音楽と、笑いと。」

光子「せやね。今日は星が“リハOK”出しとる感じ。」

早苗「じゃ、軽く——星見セッションやります?」

小雪「賛成。音量は“近所に優しい”で。」

ソフィーア「One, two…」


優子がアコギをぽろん。

光子がハミングで和音を探す。

星の間を縫うみたいに、メロディがほどけていく。


♪ 逢えた夜だけ 増える話題はなし

♪ 離れた日々の 笑いぶんまで

♪ 橋をかけよう 声で、音で

♪ 空が近いと 心が近い


演奏が終わると、風が少し強くなって、屋上の笹飾りがかさこそ鳴った。

短冊がひらりひらり、願い事が夜の川を流れていく。


優子「織姫さん、彦星さん。うちらの分まで、しっかりイチャついとってね。」

光子「言い方ぁ!」

(みんな笑う)


ふっと静かになって、星にピントが合う。

その瞬間、二人で同じことを口にした。


光子「“来てくれた人、全員笑顔で帰れる夜”を、増やします。」

優子「“離れた誰かの隣に届く音”を、ちゃんと作ります。」


小雪「了解。サポート班、全力で。」

ソフィーア「願い、承りました。」


見上げれば、天の川。

年に一度の逢瀬に、都会の明かりも少し黙ってくれたみたいだった。


優子「帰ろっか。明日、仕上げたいフレーズあるし。」

光子「うん。今日は星が先生やったね。」

小雪「課題:“天の川進行”を譜面に起こすこと。」

ソフィーア「あと、“織姫と彦星のツッコミ間”の研究も。」


屋上のドアが閉まる直前、もう一度だけ、振り向いて空を見た。

二つの星が、にじんで重なって、また離れる。

——ちゃんと届いてる。そう思えるくらい、はっきりと。


今夜は、良い七夕。

一年に一度のデートも、毎日に積み重なる音も、

ぜんぶ、笑顔に着地できますように。





「キエフの甘い風、寮のキッチンから」


バイトを終えて寮に戻ると、廊下の先から甘い香り。

キッチンの扉を開けると、ソフィーアが三角巾姿で片手に泡立て器、もう片手でオーブンのタイマーを止めた。


ソフィーア「ようこそ、バースデー・ラボへ!

今日はウクライナ式でお祝いしたくて、キイウスキー・トルト(Київський торт)作ったよ。ヘーゼルナッツ入りメレンゲ+バタークリームのやつ。」

優子「うわ、香りだけで幸せやん……」

光子「名前だけで高級感出とる〜」


テーブルには、丸いケーキのほかに小さな四角いメードゥーニク(медівник=ハチミツケーキ)も。

ガラスピッチャーには干し果物を煮出したウーズヴァル(узвар=果実のコンポート)。氷越しに琥珀色が揺れている。


ソフィーア「まずは発音レッスン。“お誕生日おめでとう”は——

З днем народження!(ズ ドネム ナロージェンニャ!)」

二人「ズ、ドネム……ナロ……じぇ、ん……にゃ! З днем народження!」

ソフィーア「Perfect! じゃ、ロウソク点けるね。」


灯りが少し落とされ、ケーキに21本分の細い光。

ソフィーアが小さく歌い出す——ウクライナの祝歌**「Многая літа(ムノハヤ・リータ)」**。

寮メンバーが手拍子で重ねると、キッチンが一瞬でステージみたいになった。


優子(目を細めて)「……願いごと、言ってもよか?」

光子「せーので吹くよ。——せーのっ」


ふっ、と炎が消える。甘い香りと、静かな余韻。


ソフィーア「切り分けるね。上はナッツとメレンゲがサクッ、中はクリームでふわっ。

ハチミツケーキはスパイス少し効かせてるから、交互にどうぞ。」

光子「ほら、優子。**“甘い→しょっぱい→甘い”**無限ループの鐘が鳴っとる。」

優子「今日は“甘い→甘い→幸せ”でよかろうもん。」


ひと口。

ヘーゼルナッツの香ばしさ、バタークリームのコク、メレンゲの軽さがほどけて、思わず頬がゆるむ。


優子「……うまっ。これ、胃の中から祝ってくれるタイプや。」

光子「音にしたら“長調9度上ハーモニー”の幸福感やね。」

ソフィーア「作戦成功。じゃ、乾杯はお酒じゃなくてウーズヴァルで。

За ваше здоров’я!(ザ・ヴァーシェ・ズドローヴィヤ!/あなたたちの健康に!)」

全員「За здоров’я!(ザ・ズドローヴィヤ!)」


小雪「ソフィーア、レシピ教えて!」

ソフィーア「もちろん。ポイントはナッツを軽くローストしてから粗めに砕くこと、メレンゲは砂糖を3回に分けて入れること、クリームはバターとシロップを同温に——喧嘩させないこと。」

優子「なるほど、“材料の人間関係”を良好に、ね。」

光子「音楽と同じく“仲良しアンサンブル”。」


皿が空になるころ、ソフィーアが小さな紙包みを差し出した。

中には赤い糸をあしらったブレスレットが二つ。


ソフィーア「ウクライナでは“守り紐”を贈ることがあるの。

音と笑い、どっちの旅にも、無事と成功を。」

優子「ありがと〜。絶対ライブでもつける。」

光子「作曲の徹夜明けにも効くやつや。」


その夜。

ケーキの甘さがまだ口の奥に残るまま、二人はノートを開いた。

ページの端に、ウクライナ語で覚えた祝福のことばを書く——


“Миру і сміху.”(ミル・イ・スミーフ/平和と笑いを)


新しいメロディが、そっと始まる音がした。





曲名案:「Миру і Сміху ― 平和と笑い」


コンセプト

•ソフィーアへの感謝と友情、そして彼女のふるさとへの祈りを一曲に。

•音像は「やさしい光 → 再生の鼓動 → みんなで歩く行進」。

•ウクライナの空気感を尊重して、素朴な旋律・素早い装飾音・対旋律を多用。

•キーワード:守る/結ぶ赤い糸/揺れる小麦畑/笑い声が風鈴になる。


サウンド設計ざっくり

•Key:Dメジャー(温かい光)。ブリッジでBマイナーに一時転調。

•Tempo:76→92 BPM(後半で歩く速さへ加速)。

•拍子:4/4。間奏で一瞬3/4(踊るようなゆらぎ)。

•楽器:ピアノ、アコギ、ストリングス(ピチカート多め)、クラリネット、フルート、軽めのパーカッション(カホン+タム)、グロッケン。イントロにバンドゥーラ風アルペジオ(ギターで代用)。

•コーラス:女性三声(ユニゾン→3度→開いた6度)。

•SE:なし(生音中心であたたかく)。


構成

1.Intro(8小節)

 ギターの分散和音+クラリネットの短い装飾音。

2.Verse A(16小節)

 ピアノ主体、言葉を大切に。

3.Verse B(16小節)

 ストリングスの対旋律が入る。

4.Pre-Chorus(8小節)

 Bマイナーに寄り、心の陰影を一瞬だけ描く。

5.Chorus(16小節)

 Dメジャーで開放。ウクライナ語のフレーズをサビ頭に。

6.Bridge(3/4)(8小節)

 手拍子・足取りを感じるワルツ。

7.Final Chorus(20小節)

 半音上ハモり+上物のグロッケンで星明かりのきらめき。

8.Outroフェルマータ

 “赤い糸”を示すユニゾンのドローンで静かに。



歌詞(試作案)


Verse A


曇り空に 君の手を重ねた

ほどけない糸を そっと確かめる

遠い国の 窓辺から届く

小さな祈りが 今日を照らした


Verse B


泣けない夜 笑えない朝でも

君の声色こわいろは 風に似ている

揺れる小麦 頬を撫でたなら

胸の鈴が かすかに鳴った


Pre-Chorus


忘れないよ 割れたガラスの月を

ポケットの中で 欠片は光る


Chorus


Миру і сміху!(ミル・イ・スミーフ)

平和と笑いを

君がいるなら 空は歌になる

З нами надія!(ズ・ナーミ・ナディーヤ)

希望は私たちと共に

手を放さずに 同じリズムで

未来を編もう 赤い糸で


※ウクライナ語訳注

•*Миру і сміху!*=「平和と笑いを!」

•*З нами надія!*=「希望は私たちと共に!」


Bridge(3/4)


足音で描く 三つ編みの道

転んだ跡も 歌にしていこう


Final Chorus


Миру і сміху! 君の名を呼べば

こぼれた涙も 星に変わるよ

З нами надія! 夜明けを待たず

今を灯そう 君と並んで

未来を編もう 赤い糸で


Outro(囁き)


「大丈夫、ここにいる」

指切りみたいに ハミングで結ぶ



コード・メモ(作曲のたたき)

•Verse:| D | Bm | G | A | D/F# | Em | G | A |

•Pre:| Bm | A/C# | D | G | Em | A |

•Chorus:| D | A | Bm | G | D/F# | Em | G | A |

•Bridge(3/4):| G | A | D | Bm | G | A Dフェルマータ |


ステージ演出のイメージ

•背景映像:風に揺れる麦畑、手仕事の刺繍模様(ウクライナ刺繍・ヴィシヴァンカを抽象化)。

•照明:サビで“麦色アンバー+空色(薄青)”、ブリッジは月光の白。

•終わりに観客と「Миру і сміху!」のコール&レスポンス。




世田谷からの客人、七夕の余韻


土曜日。梅雨明け前の、少し湿った風が寮の中庭を抜けていく。

今週の火曜日、ソフィーアの祖母方の親戚が東京・世田谷から訪ねてきた――ソフィーアの“日本のルーツ”のひとつ。七夕に生まれた光子と優子の誕生日を祝うためだ。ふたりは今日はシフトがズレたおかげでバイト休み。ようやく腰を据えておもてなしができる。


寮のラウンジには、白いテーブルクロスと紙コップ、簡易スピーカー。

ドアが開くと、明るい声が転がり込んできた。


「おじゃまします~。ソフィーアの祖母の従姉にあたる和子です。こちらは夫の誠、息子の蓮です」


和子さんは世田谷線の駅名が並ぶトートバッグを提げ、手には箱が二つ。

ひとつは「成城のフィナンシェ」、もうひとつは「玉電まんじゅう」。

ローカルな誇りが可愛い。


「ようこそいらっしゃいました。わたしたち、光子と優子です!」

「きょうは、七夕延長戦ってことで!」

ふたりが頭を下げると、和子さんが目を細める。


「テレビもラジオも見てるわよ。生のふたり、ほんとにオーラがあるのねえ」


ソフィーアが台所から顔を出す。

「ちょっと待って、медовик(はちみつケーキ)とузвар(ドライフルーツの飲み物)、できたよ!」

テーブルに置かれた皿は、蜂蜜の層が夕陽みたいに輝いている。


「世田谷 vs. キエフ(ソフィーア特製)の甘味ダービーや!」

優子がすかさず実況を入れると、蓮くんが吹き出した。


1. ルーツの地図をひらく


和子さんは、古びた写真を封筒から取り出す。

白黒のショット、若い頃の祖母、二子玉川の土手、渋谷行きの玉電。


「ソフィーアのおばあちゃん、戦後に世田谷に一時身を寄せてね。うちは“遠い親戚”なんだけれど、家が近くてよく面倒をみてもらったの。だから、あなたたちの“Миру і Сміху(平和と笑い)”を聴いたとき、胸がね、じんとしたのよ」


光子が小さく頷く。「あの曲、ソフィーアと一緒に書いたんです。ここ(胸)から、まっすぐ」


「せっかくだし、デモ流そっか」

優子がタブレットをスピーカーにつなぐ。

ピアノのイントロ、柔らかい弦の対旋律。ラウンジの空気が少し、明るくなる。


誠さんがぽつり。「音がね、土手の風みたいだ。向こう岸に手が届きそうな」


「向こう岸、行く前に足元ちゃんと見てくださいね~」

優子の定番・安全第一ツッコミが入って、一同に笑いが走る。


2. 世田谷トークと小さなギャグ合戦


「世田谷線って、のどかで良いですよね」

「朝はのどか、夕方は満員。人間ドラマ乗せて走るのよ」

和子さんの言葉に、光子がすかさず被せる。


「じゃあ今日の臨時便は“笑い満員・腹筋直行”ってことで」

「終点は“整骨院前”?」

「乗り越したら“サロンパス台”」

連携のよい小ボケ・ツッコミに、ソフィーアが肩を震わせて笑う。


蓮くんが興味津々で尋ねる。「音大って、どんな感じ? 勉強とステージ、両立きつくない?」


「きついよ。でも、楽しいが勝つ。人間観察して、楽譜に写し取って、舞台で爆笑に変換」

「それ、理科の“エネルギー変換”じゃん」

「うん、うちら“爆笑発電所”やから」

また笑いが弾けた。


3. 台所から、記憶の香り


台所ではソフィーアが**борщ(ボルシチ)**の鍋を温めている。

和子さんがのぞき込み、「この香り、懐かしい。祖母の家でもね……」と、声を小さく震わせた。


光子がそっとレンゲを差し出す。「どうぞ。“記憶の味”確認してください」


一口含んだ和子さんの目に、薄い光が差す。

「……帰ってきたみたい。ありがとう」


優子が湯呑みにузварを注いで配る。

「これはドライフルーツのコンポート。蜂蜜ケーキと相性◎。糖分は心のガソリン!」


誠さんが感心してうなずく。「ことわりのある甘さ、だね」


4. 贈り物の交換


和子さんが、小さな包みを光子と優子へ。

「世田谷の職人さんにお願いして、赤い糸模様の根付けを。七夕生まれのふたりに」


「わぁ……“結ぶ”のモチーフだ」

光子が指でなぞる。糸の軌跡がハートの片割れを描いている。

優子も笑って、「じゃ、もう片方はうちらが用意してます」と、寮の机から封筒を取り出した。


「Миру і Сміхуの楽譜カード。ソフィーアと三人で書いたサイン入りです。裏に、世田谷線の車内チャイム風アレンジのQRコード付き!」


「チャイム風アレンジ?」

「“発車いたします。腹筋ご注意ください”ってテロップ付きで」

ここで二度目の大爆笑。


5. ささやかな祝杯と約束


紙コップにスパークリングのノンアルを注ぐ。

「乾杯の言葉、どうする?」

ソフィーアが微笑む。


「До миру і сміху!(平和と笑いに)」

「「かんぱーい!」」


炭酸の弾ける音が、ラウンジの天井に透き通って消える。


和子さんが言う。「世田谷にも、いつか“平和と笑い”のミニコンサート、しに来てくれる?」


光子が即答する。「もちろん!」

優子も親指を立てる。「世田谷線コラボで“発電所車両”走らせましょう」


誠さんが笑いながら、「そのときは終点“整骨院前”で降りる準備しておくよ」


6. 七夕の余韻


別れ際、和子さんがソフィーアの肩を抱いた。

「遠くても、近い。血だけじゃない“えにし”もあるね」


ソフィーアが頷く。「うん。家族は、結ぶ動詞だよ」


窓の外、にわか雨のあとに薄い虹が立っていた。

光子がスマホを構える。「ほら、七夕の延長戦。今日も“笑い勝ち”」


優子が根付けを光にかざし、にっと笑う。

「世田谷発・平和行き。次の停車駅は――“音でつながる場所”。みんな、乗り遅れんなよ~」


ラウンジに残った甘い香りと、小さな笑い声。

七夕の余韻は、ゆっくりと胸の奥で鳴り続けていた。


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