21歳
楽曲企画「ふるさとの味 -Shiso & Summer-」
(寮ラウンジ。赤紫蘇ジュースの余韻が残る夜)
優子「なぁみっちゃん、今の香りそのまま曲に閉じ込めたくない?」
光子「わかる〜。うちらの“ふるさと”が口いっぱいに広がる感じ、音で再現したいっちゃん。」
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コンセプト
“ひと口で帰れる場所”。
赤紫蘇ジュースの甘酸っぱさ、実家の台所の湯気、夕立あとの土の匂い、縁側の風鈴、家族の笑い声。
味覚・嗅覚・記憶が一体化する瞬間を、和音色×ポップスで。
編成(FIVE PEACH★アコースティック・バージョン)
•光子:エレキベース(フレットレス/暖かいミドル)、コーラス
•優子:ドラム&パーカッション(ウッドブロック/シェイカー/和太鼓ワンポイント)、コーラス
•小春:ピアノ&キーボード(フェルトピアノ+ストリングス・パッド/グロッケン)
•美香:ピアノ・オブリガート&トロンボーン(ブレスのように歌う)
•奏太:アコギ(フィンガーピッキング)、エレキ(クリーン・カッティング)
楽曲構成
1.Intro(0:00–0:18)
グラスの氷の音をサンプリング→グロッケンで“氷のきらめき”モチーフ(5音)
フェルトピアノの分散和音(C△7add9 → D7sus4 → G△7)
2.Verse A(0:18–0:48)
アコギのアルペジオ+フレットレスのスライドで“湯気”を描写。
Drはブラシでそっと。歌詞は台所の情景。
3.Pre-Chorus(0:48–1:06)
コード一段上へ(Em7 → D/F# → G△7 → A7sus4)。
「ただいま」の言い出しかけを、伸ばすコーラスで期待を溜める。
4.Chorus(1:06–1:36)
キラッとストリングス+パッド。パーカッションに和太鼓を一打だけ。
メロは上昇線で“ふくらむ香り”。
(G△7 → Bm7 → C△7 → D7 / Em7 → D/F# → G△7)
5.Bridge(2:05–2:35)
トロンボーン・ソロ。赤紫蘇の“ほのかな渋み”を長音で。
ベースはハーモニクス、Drはウィンドチャイム。
6.Last Chorus(2:35–3:10)
合唱的コーラスを重ね、テンポを2%だけ押し上げ“帰巣本能”を演出。
最後は氷のSEでフェードアウト。
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歌詞(抜粋)
Verse A
台所の湯気が 窓に絵を描く
しそ色の風が 胸の奥まで帰ってくる
「ただいま」言う前に 笑い声が先に落ちてくる
Chorus
ふるさとの味は 甘くて少しすっぱい
泣いた日さえ そっと包むよ
氷が鳴いたら 夏がほどけていく
グラス越しの空 君と分け合った
Bridge
遠回りしても 鼻先でわかる
この香りの方角が 私の地図
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サウンドの“味付け”メモ
•“甘み”=メジャー7thとadd9で透明感
•“酸味”=一瞬の#11、sus4で引っかかりを
•“香りの立ち上がり”=グロッケン&ピアノの高域を弱めのアタックで
•“のどごし”=フレットレスのスライド・グリッサンド
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博多弁MC(ライブ用)
優子「この曲はね、うちらの“ただいま”ば音に閉じ込めたと。聴き終わったら、みんなのふるさとが、ちょっとだけ近う感じたら嬉しかね。」
光子「途中キラッて鳴る音、氷やけん。赤紫蘇ジュースで乾杯しよる気持ちで、耳ころがして聴いてね〜!」
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ジャケット案
•霧がかった夏の夕方、縁側のグラスに赤紫蘇の赤。
•氷の中に小さな五線譜が反射で浮かぶイラスト。
•タイトルは手書き風:「ふるさとの味 -Shiso & Summer-」
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小春「…これ、匂いが聴こえる曲になったね。」
美香「音で“ただいま”が言えるなんて、最高やん。」
優子「じゃ、デモ録るばい。みんな、準備よか?」
光子「よし、ワン、ツー!」
「二十一歳の前夜、レジ締めのあとで」
ミライマートのバックヤード。蛍光灯の白い明かりの下、篠崎店長とスタッフが輪になって立っていた。
手のひらサイズの小袋——麻ひもで結んだ可愛らしいラッピング。中にはクッキーとキャンディ、そして小さなカード。
篠崎「みっちゃん、ゆうちゃん。七夕の前の土曜やろ?二十一歳の誕生日、おめでとうね。こころばかりやけど、うちらから。」
光子「わぁ……店長、みんな、ありがとう。めっちゃ嬉しか〜。」
優子「袋まで可愛か!ほら見てみ、キラキラの星のシール付いとる。七夕仕様やん!」
先輩スタッフ・美咲「応援シフト入ってくれて助かったよ。明日からまた忙しくなるけん、今日はゆっくりお祝いしてね。」
篠崎「タイムカード押したら、もう“お客さん”やけん。レジ前でつい並ばんでよかよ、特別に裏口から“星空退勤”で。」
二人は笑って、カチッとタイムカードを押す。
光子「……ピッ。二十一歳、前夜分の労働終〜了。」
優子「……ピッ。二十一歳、入場待機〜。よっしゃ、退勤!」
袋を胸に抱えて店を出ると、梅雨明け前の風がほの甘い。アスファルトに残る雨の匂い、遠くで電車が走る音。
寮へ向かう道すがら、二人は小袋のカードを開いた。
「いつも“笑い”と“やさしさ”をありがとう。あなたたちの『おかえりなさい』が、ここを好きにさせる。」
ーー ミライマート一同
優子「……反則やろ、これ。泣くばい。」
光子「うん、ちょっと泣く。けど、笑う。店、うちらのホームやね。」
寮の門の前。スマホが震える。
“博多グルチャ(家族)”からのビデオ通話。
美鈴「みっちゃん、ゆうちゃん、前夜祭よ〜。はい、フライング乾杯〜(赤紫蘇ジュースを掲げる)」
優馬「二十一の扉、どんっ!って開けよ。健康第一、爆笑第二!」
美香「ケーキは明日冷蔵で着くけん。ハートは二個。春介と春海からのリクエスト〜。」
春介&春海(画面の端から)「おねえちゃん、二十一さいおめでと〜!ハイパー誘惑ウィンク、どーん!」
二人「う、効くぅ〜!腹筋に来る〜!」
通話を切ると、小雨がほんの少し降ってきた。
優子「七夕の“予告雨”やね。」
光子「願い事、決めとう?」
優子「うん。“来てくれた人ぜーんいんが、笑顔で帰れるライブを積み重ねる”。それと——」
光子「“音楽もギャグも、もっと深う、やさしう”。」
優子「おそろいやん。」
光子「双子やけん。」
寮のラウンジに入ると、卓上に小さな夜空。
小雪とソフィーアと早苗が、手作りの折り紙ガーランドを飾って待っていた。
小雪「帰還確認〜。おかえり!」
ソフィーア「Surprise for you!(サプライズよ!)」
早苗「“二十一の短冊コーナー”設置済みです!」
短冊を手に、光子はさらさらと書く。
『ふるさとの味、世界に運ぶ。音で、笑いで。ーー光子』
優子も書く。
『みんなの“ただいま”を増やす。ここで、どこででも。ーー優子』
優子「……なぁ、開けよっか?店長の小袋。」
光子「開封、よか許可。」
リボンを解くと、星型のクッキーがころんと出た。
一口かじって、二人は見合わせ、同時に笑う。
優子「……甘っ。やさしか。」
光子「二十一歳、始まる味やね。」
時計は23:57。
ラウンジの電気を少し落として、グラスに赤紫蘇ソーダを注ぐ。氷が澄んだ音を立てた。
小雪「カウントダウン、いくよ。」
全員「3、2、1——」
0:00。
全員「誕生日おめでとう!!」
拍手、笑い声、氷の音。
二人は小さく会釈して、肩を並べて言った。
光子「二十一年目も、うちら——」
優子「全力で“おかえり”作るけん。よろしくね!」
「七夕、屋上で星にピント合わせ」
雨上がりの夜、寮の屋上。まだ濡れた手すりが、街灯を歪ませて光ってる。
都会の空は明るいけど、雲が掃かれて、黒いキャンバスに豆粒みたいな星々が滲んでいた。
優子「見えるね……織姫と彦星。今日はいけるやろ。」
光子「年一のデート、雨天順延なし。天の川、開通〜。」
小雪「勝手に交通情報流すな。」
ソフィーア「でもロマンチック。願い事、もう一回しとこ?」
紙コップに赤紫蘇ソーダ。屋上の端に腰かけて、呼吸みたいに静かな時間。
遠くで救急車、もっと遠くで電車。近くで、みんなの笑い声。
優子「うちらもさ、年一どころやなく毎日デートやね。音楽と、笑いと。」
光子「せやね。今日は星が“リハOK”出しとる感じ。」
早苗「じゃ、軽く——星見セッションやります?」
小雪「賛成。音量は“近所に優しい”で。」
ソフィーア「One, two…」
優子がアコギをぽろん。
光子がハミングで和音を探す。
星の間を縫うみたいに、メロディがほどけていく。
♪ 逢えた夜だけ 増える話題
♪ 離れた日々の 笑い分まで
♪ 橋をかけよう 声で、音で
♪ 空が近いと 心が近い
演奏が終わると、風が少し強くなって、屋上の笹飾りがかさこそ鳴った。
短冊がひらりひらり、願い事が夜の川を流れていく。
優子「織姫さん、彦星さん。うちらの分まで、しっかりイチャついとってね。」
光子「言い方ぁ!」
(みんな笑う)
ふっと静かになって、星にピントが合う。
その瞬間、二人で同じことを口にした。
光子「“来てくれた人、全員笑顔で帰れる夜”を、増やします。」
優子「“離れた誰かの隣に届く音”を、ちゃんと作ります。」
小雪「了解。サポート班、全力で。」
ソフィーア「願い、承りました。」
見上げれば、天の川。
年に一度の逢瀬に、都会の明かりも少し黙ってくれたみたいだった。
優子「帰ろっか。明日、仕上げたいフレーズあるし。」
光子「うん。今日は星が先生やったね。」
小雪「課題:“天の川進行”を譜面に起こすこと。」
ソフィーア「あと、“織姫と彦星のツッコミ間”の研究も。」
屋上のドアが閉まる直前、もう一度だけ、振り向いて空を見た。
二つの星が、にじんで重なって、また離れる。
——ちゃんと届いてる。そう思えるくらい、はっきりと。
今夜は、良い七夕。
一年に一度のデートも、毎日に積み重なる音も、
ぜんぶ、笑顔に着地できますように。
「キエフの甘い風、寮のキッチンから」
バイトを終えて寮に戻ると、廊下の先から甘い香り。
キッチンの扉を開けると、ソフィーアが三角巾姿で片手に泡立て器、もう片手でオーブンのタイマーを止めた。
ソフィーア「ようこそ、バースデー・ラボへ!
今日はウクライナ式でお祝いしたくて、キイウスキー・トルト(Київський торт)作ったよ。ヘーゼルナッツ入りメレンゲ+バタークリームのやつ。」
優子「うわ、香りだけで幸せやん……」
光子「名前だけで高級感出とる〜」
テーブルには、丸いケーキのほかに小さな四角いメードゥーニク(медівник=ハチミツケーキ)も。
ガラスピッチャーには干し果物を煮出したウーズヴァル(узвар=果実のコンポート)。氷越しに琥珀色が揺れている。
ソフィーア「まずは発音レッスン。“お誕生日おめでとう”は——
З днем народження!(ズ ドネム ナロージェンニャ!)」
二人「ズ、ドネム……ナロ……じぇ、ん……にゃ! З днем народження!」
ソフィーア「Perfect! じゃ、ロウソク点けるね。」
灯りが少し落とされ、ケーキに21本分の細い光。
ソフィーアが小さく歌い出す——ウクライナの祝歌**「Многая літа(ムノハヤ・リータ)」**。
寮メンバーが手拍子で重ねると、キッチンが一瞬でステージみたいになった。
優子(目を細めて)「……願いごと、言ってもよか?」
光子「せーので吹くよ。——せーのっ」
ふっ、と炎が消える。甘い香りと、静かな余韻。
ソフィーア「切り分けるね。上はナッツとメレンゲがサクッ、中はクリームでふわっ。
ハチミツケーキはスパイス少し効かせてるから、交互にどうぞ。」
光子「ほら、優子。**“甘い→しょっぱい→甘い”**無限ループの鐘が鳴っとる。」
優子「今日は“甘い→甘い→幸せ”でよかろうもん。」
ひと口。
ヘーゼルナッツの香ばしさ、バタークリームのコク、メレンゲの軽さがほどけて、思わず頬がゆるむ。
優子「……うまっ。これ、胃の中から祝ってくれるタイプや。」
光子「音にしたら“長調9度上ハーモニー”の幸福感やね。」
ソフィーア「作戦成功。じゃ、乾杯はお酒じゃなくてウーズヴァルで。
За ваше здоров’я!(ザ・ヴァーシェ・ズドローヴィヤ!/あなたたちの健康に!)」
全員「За здоров’я!(ザ・ズドローヴィヤ!)」
小雪「ソフィーア、レシピ教えて!」
ソフィーア「もちろん。ポイントはナッツを軽くローストしてから粗めに砕くこと、メレンゲは砂糖を3回に分けて入れること、クリームはバターとシロップを同温に——喧嘩させないこと。」
優子「なるほど、“材料の人間関係”を良好に、ね。」
光子「音楽と同じく“仲良しアンサンブル”。」
皿が空になるころ、ソフィーアが小さな紙包みを差し出した。
中には赤い糸をあしらったブレスレットが二つ。
ソフィーア「ウクライナでは“守り紐”を贈ることがあるの。
音と笑い、どっちの旅にも、無事と成功を。」
優子「ありがと〜。絶対ライブでもつける。」
光子「作曲の徹夜明けにも効くやつや。」
その夜。
ケーキの甘さがまだ口の奥に残るまま、二人はノートを開いた。
ページの端に、ウクライナ語で覚えた祝福のことばを書く——
“Миру і сміху.”(ミル・イ・スミーフ/平和と笑いを)
新しいメロディが、そっと始まる音がした。
曲名案:「Миру і Сміху ― 平和と笑い」
コンセプト
•ソフィーアへの感謝と友情、そして彼女のふるさとへの祈りを一曲に。
•音像は「やさしい光 → 再生の鼓動 → みんなで歩く行進」。
•ウクライナの空気感を尊重して、素朴な旋律・素早い装飾音・対旋律を多用。
•キーワード:守る/結ぶ赤い糸/揺れる小麦畑/笑い声が風鈴になる。
サウンド設計
•Key:Dメジャー(温かい光)。ブリッジでBマイナーに一時転調。
•Tempo:76→92 BPM(後半で歩く速さへ加速)。
•拍子:4/4。間奏で一瞬3/4(踊るようなゆらぎ)。
•楽器:ピアノ、アコギ、ストリングス(ピチカート多め)、クラリネット、フルート、軽めのパーカッション(カホン+タム)、グロッケン。イントロにバンドゥーラ風アルペジオ(ギターで代用)。
•コーラス:女性三声(ユニゾン→3度→開いた6度)。
•SE:なし(生音中心であたたかく)。
構成
1.Intro(8小節)
ギターの分散和音+クラリネットの短い装飾音。
2.Verse A(16小節)
ピアノ主体、言葉を大切に。
3.Verse B(16小節)
ストリングスの対旋律が入る。
4.Pre-Chorus(8小節)
Bマイナーに寄り、心の陰影を一瞬だけ描く。
5.Chorus(16小節)
Dメジャーで開放。ウクライナ語のフレーズをサビ頭に。
6.Bridge(3/4)(8小節)
手拍子・足取りを感じるワルツ。
7.Final Chorus(20小節)
半音上ハモり+上物のグロッケンで星明かりのきらめき。
8.Outro
“赤い糸”を示すユニゾンのドローンで静かに。
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歌詞(試作案)
Verse A
曇り空に 君の手を重ねた
ほどけない糸を そっと確かめる
遠い国の 窓辺から届く
小さな祈りが 今日を照らした
Verse B
泣けない夜 笑えない朝でも
君の声色は 風に似ている
揺れる小麦 頬を撫でたなら
胸の鈴が かすかに鳴った
Pre-Chorus
忘れないよ 割れたガラスの月を
ポケットの中で 欠片は光る
Chorus
Миру і сміху!(ミル・イ・スミーフ)
平和と笑いを
君がいるなら 空は歌になる
З нами надія!(ズ・ナーミ・ナディーヤ)
希望は私たちと共に
手を放さずに 同じリズムで
未来を編もう 赤い糸で
※ウクライナ語訳注
•*Миру і сміху!*=「平和と笑いを!」
•*З нами надія!*=「希望は私たちと共に!」
Bridge(3/4)
足音で描く 三つ編みの道
転んだ跡も 歌にしていこう
Final Chorus
Миру і сміху! 君の名を呼べば
こぼれた涙も 星に変わるよ
З нами надія! 夜明けを待たず
今を灯そう 君と並んで
未来を編もう 赤い糸で
Outro(囁き)
「大丈夫、ここにいる」
指切りみたいに ハミングで結ぶ
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コード・メモ(作曲のたたき)
•Verse:| D | Bm | G | A | D/F# | Em | G | A |
•Pre:| Bm | A/C# | D | G | Em | A |
•Chorus:| D | A | Bm | G | D/F# | Em | G | A |
•Bridge(3/4):| G | A | D | Bm | G | A D |
ステージ演出のイメージ
•背景映像:風に揺れる麦畑、手仕事の刺繍模様(ウクライナ刺繍・ヴィシヴァンカを抽象化)。
•照明:サビで“麦色+空色(薄青)”、ブリッジは月光の白。
•終わりに観客と「Миру і сміху!」のコール&レスポンス。
世田谷からの客人、七夕の余韻
土曜日。梅雨明け前の、少し湿った風が寮の中庭を抜けていく。
今週の火曜日、ソフィーアの祖母方の親戚が東京・世田谷から訪ねてきた――ソフィーアの“日本のルーツ”のひとつ。七夕に生まれた光子と優子の誕生日を祝うためだ。ふたりは今日はシフトがズレたおかげでバイト休み。ようやく腰を据えておもてなしができる。
寮のラウンジには、白いテーブルクロスと紙コップ、簡易スピーカー。
ドアが開くと、明るい声が転がり込んできた。
「おじゃまします~。ソフィーアの祖母の従姉にあたる和子です。こちらは夫の誠、息子の蓮です」
和子さんは世田谷線の駅名が並ぶトートバッグを提げ、手には箱が二つ。
ひとつは「成城のフィナンシェ」、もうひとつは「玉電まんじゅう」。
ローカルな誇りが可愛い。
「ようこそいらっしゃいました。わたしたち、光子と優子です!」
「きょうは、七夕延長戦ってことで!」
ふたりが頭を下げると、和子さんが目を細める。
「テレビもラジオも見てるわよ。生のふたり、ほんとにオーラがあるのねえ」
ソフィーアが台所から顔を出す。
「ちょっと待って、медовик(はちみつケーキ)とузвар(ドライフルーツの飲み物)、できたよ!」
テーブルに置かれた皿は、蜂蜜の層が夕陽みたいに輝いている。
「世田谷 vs. キエフ(ソフィーア特製)の甘味ダービーや!」
優子がすかさず実況を入れると、蓮くんが吹き出した。
1. ルーツの地図をひらく
和子さんは、古びた写真を封筒から取り出す。
白黒のショット、若い頃の祖母、二子玉川の土手、渋谷行きの玉電。
「ソフィーアのおばあちゃん、戦後に世田谷に一時身を寄せてね。うちは“遠い親戚”なんだけれど、家が近くてよく面倒をみてもらったの。だから、あなたたちの“Миру і Сміху(平和と笑い)”を聴いたとき、胸がね、じんとしたのよ」
光子が小さく頷く。「あの曲、ソフィーアと一緒に書いたんです。ここ(胸)から、まっすぐ」
「せっかくだし、デモ流そっか」
優子がタブレットをスピーカーにつなぐ。
ピアノのイントロ、柔らかい弦の対旋律。ラウンジの空気が少し、明るくなる。
誠さんがぽつり。「音がね、土手の風みたいだ。向こう岸に手が届きそうな」
「向こう岸、行く前に足元ちゃんと見てくださいね~」
優子の定番・安全第一ツッコミが入って、一同に笑いが走る。
2. 世田谷トークと小さなギャグ合戦
「世田谷線って、のどかで良いですよね」
「朝はのどか、夕方は満員。人間ドラマ乗せて走るのよ」
和子さんの言葉に、光子がすかさず被せる。
「じゃあ今日の臨時便は“笑い満員・腹筋直行”ってことで」
「終点は“整骨院前”?」
「乗り越したら“サロンパス台”」
連携のよい小ボケ・ツッコミに、ソフィーアが肩を震わせて笑う。
蓮くんが興味津々で尋ねる。「音大って、どんな感じ? 勉強とステージ、両立きつくない?」
「きついよ。でも、楽しいが勝つ。人間観察して、楽譜に写し取って、舞台で爆笑に変換」
「それ、理科の“エネルギー変換”じゃん」
「うん、うちら“爆笑発電所”やから」
また笑いが弾けた。
3. 台所から、記憶の香り
台所ではソフィーアが**борщ(ボルシチ)**の鍋を温めている。
和子さんがのぞき込み、「この香り、懐かしい。祖母の家でもね……」と、声を小さく震わせた。
光子がそっとレンゲを差し出す。「どうぞ。“記憶の味”確認してください」
一口含んだ和子さんの目に、薄い光が差す。
「……帰ってきたみたい。ありがとう」
優子が湯呑みにузварを注いで配る。
「これはドライフルーツのコンポート。蜂蜜ケーキと相性◎。糖分は心のガソリン!」
誠さんが感心してうなずく。「理のある甘さ、だね」
4. 贈り物の交換
和子さんが、小さな包みを光子と優子へ。
「世田谷の職人さんにお願いして、赤い糸模様の根付けを。七夕生まれのふたりに」
「わぁ……“結ぶ”のモチーフだ」
光子が指でなぞる。糸の軌跡がハートの片割れを描いている。
優子も笑って、「じゃ、もう片方はうちらが用意してます」と、寮の机から封筒を取り出した。
「Миру і Сміхуの楽譜カード。ソフィーアと三人で書いたサイン入りです。裏に、世田谷線の車内チャイム風アレンジのQRコード付き!」
「チャイム風アレンジ?」
「“発車いたします。腹筋ご注意ください”ってテロップ付きで」
ここで二度目の大爆笑。
5. ささやかな祝杯と約束
紙コップにスパークリングのノンアルを注ぐ。
「乾杯の言葉、どうする?」
ソフィーアが微笑む。
「До миру і сміху!(平和と笑いに)」
「「かんぱーい!」」
炭酸の弾ける音が、ラウンジの天井に透き通って消える。
和子さんが言う。「世田谷にも、いつか“平和と笑い”のミニコンサート、しに来てくれる?」
光子が即答する。「もちろん!」
優子も親指を立てる。「世田谷線コラボで“発電所車両”走らせましょう」
誠さんが笑いながら、「そのときは終点“整骨院前”で降りる準備しておくよ」
6. 七夕の余韻
別れ際、和子さんがソフィーアの肩を抱いた。
「遠くても、近い。血だけじゃない“縁”もあるね」
ソフィーアが頷く。「うん。家族は、結ぶ動詞だよ」
窓の外、にわか雨のあとに薄い虹が立っていた。
光子がスマホを構える。「ほら、七夕の延長戦。今日も“笑い勝ち”」
優子が根付けを光にかざし、にっと笑う。
「世田谷発・平和行き。次の停車駅は――“音でつながる場所”。みんな、乗り遅れんなよ~」
ラウンジに残った甘い香りと、小さな笑い声。
七夕の余韻は、ゆっくりと胸の奥で鳴り続けていた。




