二十歳を迎えて
二十歳記者会見・質疑応答完全採録(2042年7月7日)
会場:福岡市内/配信同時中継
登壇:光子(20)、優子(20)/ファイブピーチ★
モデレーター:MC
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冒頭あいさつ
光子:「本日、私たち二十歳になりました。ここから“大人の責任”を背負いながら、笑いと音楽で人の心の隣に寄り添える存在を目指します。」
優子:「お笑いはもっと極めます。音楽はもっと深く。平和と反戦の思いは、これからも行動で示していきます。どうぞよろしくお願いします。」
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Q&A
Q1(在京キー局・社会部): 二十歳、最初の決意を一言で。
光子:「“笑いは橋”。違う立場の人同士をつなぐ橋を、舞台でも日常でもかけ続けます。」
優子:「“寄り添う音”。嬉しい日も辛い夜も、そっと隣で鳴っている音になりたいです。」
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Q2(文化部): お笑いを「もっと極める」とのこと。具体的な鍛錬は?
優子:「基礎の再徹底です。ことば選び、間、身体運び。週に一度は“無笑養成”って名の稽古で、あえて笑いを封印して台本を素で立てます。素が立てば、ギャグは活きるけん。」
光子:「全国の劇場に“修行ツアー”します。客席の空気温度が違うとツッコミの角度も変わる。そこでの“ズレ”を、技術で拾えるように。」
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Q3(音楽誌): 音楽面の指針は?
光子:「声楽とバンドの両輪を回します。クラシックでは詩の“母語性”を掘る。ポップスでは日常語の“肌ざわり”を磨く。どっちも“言葉の音楽”です。」
優子:「リズムは心拍、ハーモニーは呼吸。戦地や被災地で出会った鼓動を、編曲に反映させます。テンポは人の歩幅に合わせて。」
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Q4(国際報道): 平和・反戦の発信は、エンタメとどう共存させますか。
優子:「説教はしません。事実と物語で伝えます。現地で聴いた“固有の声”を、私情を入れず紹介する。私情は“行動”に込めます。」
光子:「“笑い”は相手の尊厳を削らない形だけ。加害と被害があるテーマでは、笑いは“緩衝材”にも“凶器”にもなる。だから設計は徹底的に慎重に。」
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Q5(通信社): 政治的と受け止められる発信への批判には?
光子:「“何のために発したか”を言語化して、資料と一次情報を添えて示します。間違えたら即訂正。沈黙が正解の場面では、黙る勇気も持ちます。」
優子:「論点を“人権・人道”に置きます。誰かを罵って終わりにならんよう、支援先・寄付窓口・学べる教材をセットで。」
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Q6(地方紙): 二十歳になって“変えること/変えないこと”。
優子:「変えること…契約やお金の意思決定に自分で判をつく。説明責任を“自分の言葉”で。変えないこと…楽屋の掃除は当番制(笑)。」
光子:「変えること…睡眠を甘く見ない。変えないこと…毎朝ニュースとスポーツチェック、そして“ありがとう”を一日三回は言う。」
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Q7(週刊誌): 私生活のけじめは?恋愛は?
光子:「公私の境界線は自分たちで引きます。大切な人を“守る線”。そこは越えさせません。」
優子:「相手の同意がない共有はしない。笑いのネタにしていいのは“自分の失敗”だけ、が鉄則です。」
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Q8(演劇誌): 今後の表現領域――舞台・映像の野望は?
優子:「舞台は毎公演が“生”。客席の呼吸が脚本を作り替える瞬間が好き。ミュージカルで主役、必ず獲りに行きます。」
光子:「映像は“時間の編集”で心を運べる。ドキュメンタリー第二弾は国際共同制作に。現地クルーと対等に作る体制を目指します。」
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Q9(教育紙): 若い世代へ、学びの勧めを。
光子:「“知らない”は罪じゃない。“知ろうとしない”が壁になる。まず“ひとつ調べる”から始めようや。」
優子:「“正しさ”は更新される。だから“今の正しさ”をメンテする癖を。図書館と一次資料は味方ばい。」
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Q10(国際NGO): 次の具体アクションは?
優子:「“笑顔キャラバン”第二章。上映×対話×音楽を、複数言語で巡回します。」
光子:「地雷リスク教育のワークショップ楽曲を制作。歌って覚える“安全行動”を子ども向けに。」
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Q11(スポーツ紙): スポーツ解説でも話題。今後は?
光子:「“観る教科書”を作ります。野球・サッカー・ラケット競技の“見るポイント”を、初心者向けに短尺で。」
優子:「勝敗より“リスペクトの所作”を切り出して伝えたい。握手、抱擁、称え合い――あれは平和の練習やけん。」
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Q12(記者・最後の質問): 20年後、40歳の自分へ一言。
優子:「“今の私”を置き去りにせんで。笑って、休んで、また笑え。」
光子:「誰かの隣に小さな椅子を置けてる?置けとるなら大丈夫。置けとらんかったら、まず自分が座って深呼吸。」
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クロージング
光子:「賞にノミネートされたことに恥じない“次の作品”を、すぐ始めます。」
優子:「笑いと音楽と、平和への歩み。二十歳の私たち、ここからが本番です。」
(起立・一礼。会場から長い拍手。舞台袖でスタッフと拳をコツン――二人の新しい“二十代”が動き出した。)
夏前の成人式—凛として、笑みは隣に
キャンパスのイチョウ並木は、若葉の匂いを濃くしていた。夏休み前に毎年行われる大学の「成人の祝い」。二十歳を迎えた学生たちが、講堂へと吸い込まれていく。
光子と優子は、約束どおり“凛とした”装いを選んだ。光子は控えめな桜色のワンピースに、パールの一粒イヤリング。髪は低めのポニーテールにまとめ、右頬のほくろが柔らかく際立つ。優子は藍のセットアップに白のブラウス。ツインテールは結び目を低く、リボンは細く。エクボが、緊張と期待の真ん中で小さく灯っていた。
講堂はほどよく冷えて、舞台上のバックドロップには学章が静かな青で浮かぶ。弦楽四重奏の前奏が流れ、ざわめきが一段落する。
開式の言葉、学長挨拶と続き、「成人のことば」の朗読が始まった。マイクの前に立ったのは留学生代表。母語の抑揚で綴られる“責任”と“自由”という二語が、講堂の空気をゆっくり撓ませる。
来賓の祝辞が終わると、今年の記念スピーチに名前が呼ばれた。「声楽科二年、光子・優子」。二人は息を合わせて立ち上がり、壇上へ。
スポットライトが当たると、光子はマイクに近づき、ゆっくりと息を吸った。
「わたしたちは、笑いと音楽で生きてきました。笑いは、相手の心に無理やり踏み込む道具ではなく、そっと橋をかける手段。音楽は、結論を押しつける代わりに、同じ景色を一緒に見に行こう、と誘う灯りだと思っています」
少しだけ間を置いて、優子が続ける。
「大人になるって、たぶん“正しさ”を増やすことじゃなくて、“聴く耳”を増やすこと。これからは、舞台でも日常でも、誰かの隣に置く小さな椅子を忘れません」
拍手が、遠くから近くへ波のように寄ってきた。二人は会釈し、ゆっくりと壇を降りる。客席に戻る途中、同級生が目で「よかった」と伝えてくる。頬の奥がじんわり熱い。
式は粛々と進む。成人代表が宣誓を読み上げる。「他者の尊厳を守ること」「情報に責任を持つこと」「間違えたら正すこと」。どれも、これから日々に繰り返し現れる小さな難所だ。
閉式の合図のあと、講堂の外に人の川が流れ出す。明るい午後の光に目が慣れると、スマホのシャッター音があちこちで弾けた。石畳の上、光子が口を開く。
「ねぇ、真面目モードのまま行く?」
「行こ。今日は“凛”で通す。…でも写真は盛る。」
「そこは譲らんのね。」
中庭のフォトスポットで並ぶと、ゼミ仲間が駆け寄ってきた。
「二人のスピーチ、刺さった。『小さな椅子』、あれ名句」
「ありがとう。座り心地いいやつ用意しとくね」
笑い合いながら何枚も撮る。ふと優子のスマホが震えた。家族グループからビデオ通話だ。画面が開くと、福岡のリビング。美鈴が台所からひょい、と顔を出す。
『おめでとう。二人とも、凛どころか、艶まで出とるね』
『今日は泣かんって決めとったのに…』と美香の声。後ろからアキラの「おめでとう!」、少し離れたところで春介と春海が画用紙を掲げている。「おとな おめでとう」とカタコトの大書。
「うわ、字かわいすぎ」
『今夜はこっちで“成人ごはん”作っとくけん。心だけ食べに帰っておいで』
「テレパシーで受け取る!」
通話を切ると、胸の奥にふわりと温かいものが広がった。式典で胸に刺さった硬質の言葉の残響と、家族の柔らかい声の温度が、ひとつに溶け合っていく。
このあと、学友会主催の小さなレセプション。スパークリングのぶどうジュースが静かに泡立つ。
司会の合図で、ささやかな余興。声楽科有志の“合唱のプレゼント”が始まると、光子と優子は客席からハミングだけ参加する。音が重なる瞬間、舞台の端に置かれた一脚の木椅子が視界の端に入った。先ほどのスピーチと、同じ意匠。
(置ける場所に、置ける椅子を)
心の中で小さく繰り返す。
散会。扉の外に出ると、夕方の風が少し湿っている。遠くで蝉が鳴き始めていた。
「ねぇ」
「ん?」
「成人式ってさ、終わった瞬間から、始まる式なんかもしれんね」
「うん。毎朝、目を覚ますたび“続き”をやる式。」
ふたりは笑った。凛とした背筋のまま、しかし歩幅はいつもと同じ、肩を並べると自然に合う歩調で。
キャンパスの外へ出る手前、空を見上げる。雲が薄く千切れて、青が透けていた。
「さ、帰ったら一旦台本置いて――」
「――ニュースと譜読み、そして…アイス。」
「そこは譲らんのね。」
「うん、成人でも。」
軽口をひとつ置いて、ふたりは門をくぐった。
凛とした衣の裾が、初夏の風に小さく揺れた。
ミライマートの前で二十歳
自動ドアが開く音と同時に、涼しい風が頬を撫でた。
「おじゃまします。…わたしたち、二十歳になりました!」
光子と優子がそろって頭を下げると、店内の電気が一瞬ふわっと落ち、次の瞬間――
「おめでとーーう!!」
レジ横から、バックヤードから、惣菜コーナーから、店長の篠崎さんとスタッフ、そしてひよりたち合唱部の面々が飛び出してきた。手には色とりどりのペンで描かれた大きなボード。中央に「20th Congratulations!」、周りにびっしり寄せ書き。小さな音で「ハッピーバースデー」のハモりまで始まる。
「篠崎さん…これ、全部…」
「うちの店でいちばん声の通る二人が、大人になった記念やけんね。心ばかりやけど、受け取って。」
差し出されたのは、ミライマート特製のエコバッグ(内側に楽譜柄の布地!)と、店のロゴ入り保冷ボトル。ボトルには小さく「M&Y」の刻印。
ひよりが前に出て、照れた笑顔でボードを掲げた。
「先輩、いつもリハ帰りにアイス買いに来てくれて、ありがとうございます。二十歳も、歌って笑って、かっこよくいてください!」
「これ、合唱部みんなで書いたっちゃ。裏面に“推しポイント選手権”の結果もあるけん、後で見てね!」
「え、表だけやないと? 裏面まで…!」
優子は笑いながら、もう目尻が滲む。光子も唇をきゅっと結んで、ゆっくり深呼吸した。
「…ほんと、ありがとう。うちら、ここで何回も励まされてきた。テスト前も、リハ崩壊の日も、ここに寄ったら元気になれたっちゃん。」
「二十歳になっても、寄り道はここ。…これからも、うちらの“商店街の実家”、よろしくお願いします。」
篠崎さんが、ぐっと親指を立てた。
「任せなさい。困ったらレジに集合。嬉しいときもレジに集合。ミライマートは、いつでも君らの“中継点”や。」
合唱部の誰かが小声で合図を出すと、店内BGMがふっと下がり、ひよりたちがさっと並ぶ。
♪「おめでとう、今日の君へ」――即興の二部合唱が、青果の緑と蛍光灯の白にやわらかく溶けた。
光子と優子は、エコバッグを胸に抱えて見上げる。涙はもう隠さない。
「…がんばるけん。」
「ここに、ただいまって言える大人になるけんね。」
拍手、笑い声、レジの「ピッ」という音。
ミライマートのいつもの音たちが、二人の新しい一歩を、いつもの調子で祝ってくれた。
コント「ツーバネーター襲来 〜電線上の仁義なき愛の監視〜」
(舞台:夕方の電線。中央に“ツバメ夫婦の巣”。端に“スズメ夫婦の巣”。下手に街角ベンチ=観察席。光子&優子が双眼鏡を構える。)
光子「今日も電線実況いくばい。ツバメ夫婦、仲直りしたっちゃろか。」
優子「ほら見てみ、旦那さん(ツバオ)また帰宅時間ギリギリやん。奥さま(ツバミ)の眉間シワ、時速80やで。」
(ベベベ…という機械音。銀に光るメカつばめがスモークとともに上空ワープイン)
SE:デンッ…デデンッ…(※それっぽいけど別物の音)
ツーバネーター(低音合成音)「対象:ツバメ夫婦。ミッション:夫婦円満、飛行姿勢改善、パン屑過多注意。」
ツバオ「え、誰ね?」
ツバミ「え、保健師さん?」
光子「違う違う!未来から来た“家庭円満見守りドローン”やろ!」
優子「名付けてツーバネーター。強制カウンセリング搭載型。」
ツーバネーター「質問。最近の喧嘩理由—『帰宅遅延』『パン屑偏食』『巣材の置き場問題』…該当?」
ツバミ「全部や!」
ツバオ「全部や…(小声)」
(ピコンと赤外線スキャン)
ツーバネーター「旦那個体:腹囲+2mm/羽ばたき回転数低下。原因:パン屑メタボ、略して“パンタロウ症候群”。処方:高タンパク・虫活。」
スズメ夫「聞いとるか、俺んちもや!」
スズメ妻「あんた毎朝フレンチトースト食いよるやろ!」
優子「出た、健康指導。ほら“パン屑→高脂血症”のネタやん!」
光子「ほらツーバネーター先生、説明したって。」
ツーバネーター「図解。(羽からホログラム)パン屑=高炭水化物。毎日摂取→“高血糖→高空腹→高ツッコミ”を誘発。」
ツバオ「最後ツッコミ関係ある?」
ツーバネーター「家庭円満にツッコミは必須。」
(警告音)
ツーバネーター「次。帰宅遅延の根本。あなた、電線渋滞で“寄り道SNS(空ツイ)”しとる。」
ツバオ「バレとう…」
ツバミ「#今夜の虫活 とかタグ付けしよる場合か!」
光子「ここで夫婦調停ワークいくよ! “スリーつば”メソッド!」
優子「①すぐ言う、②すなおに謝る、③すぐ飛ぶ(行動する)!」
ツバオ「①ごめん、②ほんと反省、③今から虫活行ってくる!」
ツバミ「③は一緒に行くと!」
ツーバネーター「良好。だが最後に最大の課題。『巣材の置き場』。」
(舞台袖から巨大藁束ドン!)
スズコ「うちの倉庫勝手に使うなやー!」
スズオ「巣材は“共有棚”って張り紙したやん!」
ツーバネーター「解決策:巣材サブスク“TSUBA BOX”導入。毎週ポストに配達。」
優子「未来、便利すぎ。」
光子「でも月額いくら?」
ツーバネーター「初月0円、翌月から“虫2匹相当”。」
(突然、上空を暴走ドライバー的カラスがブーン!)
光子「来た、速度標識ネタ合流!」
優子「ここは“空の制限速度・時速30羽”ゾーンたい!」
ツーバネーター(サイレン点灯)「スピード違反検知。カラス個体、減点“ギャグ3”。」
カラス「ギャグ減点て何や!」
ツーバネーター「今ここでダジャレ提出。」
カラス(汗)「え、えー…“スカイだけにスカイツリー”…」
全員「弱っ!!」
ツーバネーター「講習受講決定。講師:お笑い担当・光子&優子。」
光子「よし、講習開始!“制限速度守らんやつ、即・巣喪失!”」
優子「“黄信号は注意、赤信号はチューチュー(虫活)中止!”」
スズメ夫婦&ツバメ夫婦「うまい!」
カラス「腹筋もってかれた…」
(ほのぼのムード。ツバオがそっとツバミの翼を握る)
ツバオ「帰宅時間、今日から早める。巣材はサブスク。パン屑は控える。…一緒に虫活、行こ。」
ツバミ「素直でよろしい。…ただし寄り道“空ツイ”はロック解除やめて!」
ツバオ「わかった…二段階認証にする。」
ツーバネーター「ミッション達成率92%。残タスク:記念写真。」
(ツーバネーター、胸部から自撮り棒を伸ばす)
ツーバネーター「掛け声は“また来るバイ”。」
全員「せーの、“また来るバイーー!”」
(フラッシュ。ハート型に写る電線と巣)
ツーバネーター「解析結果:愛、安定飛行。では……」
(クルッと旋回しながら)
ツーバネーター「“また来るバイ”。」
(退場SE:デン…デデン…※やっぱり別物)
優子「機械なのに情緒あるやん。」
光子「あれやね、未来の家庭科は、飛び方と愛の守り方、両方教える時代や。」
(最後、スズメ夫婦が観客に向かって)
スズコ「みなさんもパン屑は“たまに”にしよーね!」
スズオ「高脂血症・高血圧・高血糖・高ツッコミはほどほどに!」
全員「ありがとうございましたーー!!」
(暗転・拍手)
◆拓実 ― 大学生卓球界の新星
福岡体育大学卓球部。
汗が光る体育館で、柳川拓実は力強いスマッシュを放った。
観客席で響く拍手。練習試合で社会人選抜を破った瞬間だった。
練習後、監督が声をかける。
「柳川、正式に通達きたぞ。日本卓球協会から――国内強化指定選手(大学男子)。おめでとう!」
拓実は一瞬息を飲んで、タオルで顔を覆う。
「……ほんとですか。ありがとうございます。」
その夜、優子にビデオ通話をつなぐ。
「なあ優子。やっと、少しは結果出せたよ。」
『見た!ニュースで流れとったばい!すごいやん拓実!うち、涙出たもん!』
「泣くなって。試合前におまえの“勝負パワー弁当”思い出してたんやけど、あれ効いたわ。」
『ふふっ。やろ?愛情と唐揚げパワーの融合やけんね!』
二人の笑い声が夜の寮に響く。
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◆翼 ― 全日本大学テニス連盟、強化選手に
一方、都内のテニスコート。
青柳翼はスピンショットを決め、相手を圧倒した。
彼の前には、学生ランキング上位の名だたる選手たち。
その中で、彼は堂々と勝ち上がっていった。
「青柳翼――全日本大学テニス連盟、**強化指定選手(男子シングルス・ダブルス)**に選出。」
アナウンスが流れた瞬間、観客席の光子が立ち上がる。
「やったぁーー!!!」
周囲がびっくりするほどの声量。
優子が隣で苦笑しながら、「あんた、観客席でいちばん目立っとるやん!」とツッコミ。
試合後、翼が笑いながら駆け寄る。
「まさか見に来とるとは思わんかったわ。」
「うち、見届けたかったとよ!“愛のスマッシュ”決まっとったけん!」
「……何その必殺技名。恥ずかしいて表彰式出られんやん。」
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◆双子からのメッセージ
夜、光子と優子が大学寮の部屋で撮った動画が、二人に届く。
「拓実くん、翼くん、強化指定おめでとうございます!」
「うちらも音楽の全国公演に挑戦中やけん、次は“合同コラボ企画”でもやらん?」
「音楽とスポーツのハーモニー!爆笑も交えてな!」
動画の最後、二人は恒例の“ハイパー誘惑ウィンク&極上投げキッス”を連射。
拓実も翼も画面越しに苦笑しながら、
「……この姉ちゃんズ、最強やな」と同時につぶやいた。
輝点ふたつ、世界へ — 拓実はワールドカップへ/翼はデビス杯へ
1) 拓実 ― 卓球ワールドカップ、代表切符の前哨戦
体育棟の薄明かり。多球でのフットワーク練が終わる頃、監督が白い封筒を差し出した。
「正式決定だ。ワールドカップ・シングルス出場。ここで世界ランクを一段押し上げろ。オリンピックの最短ルートだ。」
拓実はタオル越しに深呼吸。「はい。——勝ちます。」
メニューは一段ギアアップ。
•朝:多球(台上・両ハンド切替・ストップ→フリック→カウンター)、サーブ50種×各20球。
•昼:ゲーム形式(2本先取×15本/デュース徹底)、“失点の原因メモ”をその場で書き出し→即修正。
•夜:体幹+スプリント、可動域ドリル、メンタル可視化ノート。
夜の寮で、優子から着信。
「たっくん、明日のテーマは?」
「“最初の3球”で主導権。サーブはYGと逆横下を軸に、3球目バックミートの見せ球作る。」
「よかね〜。うちは“必勝おにぎり”に“必笑メッセージ”入れとくけん!」
「必笑は要らん、いや…ちょっと要るかも。」
二人は笑い合い、スマホ越しの沈黙に“覚悟”だけが残った。
開幕戦。
相手はヨーロッパの両ハンドドライブ巧者。序盤は引き合いを避け、台上→先手3球目で流れを掴む。
第1ゲーム、11-7。第2は相手のロングサーブに揺さぶられ、9-11。ベンチで監督が短く言う。
「“構える前に決めるな”。レシーブの選択を全パターン書き戻せ。」
拓実は水を一口、目線を下げてから上げる——スプリット・ステップが研ぎ澄まされ、第3・4を連取。
最終スコア、4-1。
会見で聞かれる。「パワーより判断が速かった。要因は?」
「彼女(優子)の一言で、“3球目までの設計”を毎日言語化してました。笑いも、設計です。」
記者席がどっと沸く。爆笑発電所は今日も発電中。
2) 翼 ― デビスカップ、日本のために
都内のナイターコート。ナショナルコーチがボールバスケットを置いた。
「デビスカップメンバー入り、おめでとう。全豪の前哨戦としても最適だ。キーポイントはリターン。チームに空気を引き寄せろ。」
調整プラン:
•サーブ:コース宣言→実行(外ワイド→ボディ→Tの順で読ませない)。
•リターン:左足スタンス浅め→“コンパクトに合わせる”→深いクロスと足元ショートの2択を瞬時に。
•ラリー:高弾道トップスピン+低軌道フラットの高さのミックス。
•メンタル:タイブレ想定で呼吸法4-2-6、ポイント間の“視線ルーティン”固定。
前夜、光子からLINE。
「つばさ、緊張は“未来の自分への前払い”。使い切ってこい。」
翼はスタンドの空席を見つめる。「了解。利息つけて回収してくる。」
ラバー(予選ラウンド)1試合目。
相手はビッグサーバー。第1セットからタイブレ突入。6-5、相手のセカンド。
翼は半歩前で構え、ライジング気味のブロックで角度を作り、7-5。
ベンチでキャプテンが笑う。「その半歩、でかいぞ。」
最終スコア、7-6(5), 6-3。日本ベンチはハイタッチの輪。
ヒーローインタビューで問われる。「勝因は?」
「**“最初の半歩”**です。読みじゃなくて、決め方を先に整えることを、友人(光子)に叩き込まれました。」
3) “音とスポーツ”の交差点
同夜、二人のスマホに同時着信。差出人は「M&Y」。
画面には、光子と優子が超短尺の応援ジングルを歌う動画。
「(光子)♪サーブ前は肩脱力〜/(優子)レシーブ前は目線ロック〜/(二人)“いまの一球”愛しなさい〜♪」
拓実と翼は吹き出し、そして少し泣いた。
勝ちに行く緊張と、誰かに支えられている安心が、同時に腹の底に灯る。
4) 次の一歩
•拓実:ワールドカップ ベスト8以上で代表選考ラインへ前進。準々決勝の想定相手は、中国の“台上職人”。レシーブの球質カモフラージュ(同テイクバック→回転差)をさらに仕上げる。
•翼:デビス杯で単複起用プラン。ダブルスはサーブ&ボレー投入、前衛のポーチ確率をデータで管理。終了後、全豪オープン前哨の国内サーキットでATPポイントを積む。
5) 家族・仲間から
優子「拓実、明日の朝、“必勝おにぎり”追加しとくけん。具は勝つオ(カツオ)!」
拓実「駄洒落で糖質吸収率上がる理論ある?」
光子「翼、タイブレになったら“客席の私の眉”を見ろ。右眉が上がったらフォアの逆クロス!」
翼「どんな合図やねん。それ、反則スレスレやろ。」
笑い合って通話を切る。
静かな部屋に、心地いい緊張が戻る。
勝つために、笑う。笑うために、積み上げる。
二人は世界へ、もう一歩踏み出した。




