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三姉妹爆笑交響曲 — 大学生篇から陽翔&結音誕生まで  作者: リンダ


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本の執筆活動

雪見指定席、夢行き片道


札幌駅の改札前。スタッフと小雪、ソフィーアと何度もハイタッチして、最後は両腕で大きくバツ印——じゃなくて“もう転ばないぞ”ポーズで解散。

光子と優子はキャリーをコロコロ転がし、スーパー北斗のホームへ。


「じゃ、行こっか」

「うん——帰りも“車窓フルコース”で」


ドアが閉まる音。シートヒーターのぬくもり。

二人のまぶたは、秒で落ちた。カウントダウンする間もなく、同時にコテン。


——Zzz。



「…あれ? もう白い絵本みたい」

最初に目を覚ました優子が窓を指さす。森、湾、屋根に積もる雪。

光子もあくびを一つ。「お腹すいた。駅弁、どっちいく? “いかめし”か“石狩鮨”か」

「二択じゃなくて二個食べる、でしょ」

「正解!」


小樽のガラスみたいに光る海を横目に、二人は弁当を半分こ。味噌汁代わりのホットココアで乾杯すると、またふわっと眠気がくる。


——Zzz(二回目)。



新函館北斗。乗り換えアナウンスで同時にハッと起きる。

「やば、終点!」

「はやぶさ、間に合う?」

エスカレーターで一段飛ばし。勢い余って在来線の矢印に吸い込まれそうになるのを、光子が首根っこで回収。

「そっちは“寄り道ルート”。こっち“首都直行”」

「危なっ。帰京が道南漫遊になるとこだった」


無事にH5系へ。指定席に座ると、今度はスマホの通知が一斉に鳴る。

《ドームツアー最高!》《湿布売り切れ報告、多数!》

「ほんとに特設コーナーできたんだ…」

「“笑震9.0”のせいで明日も筋肉痛って。うれしい苦情」


光子がメモ帳を取り出す。「雪のリズム、今のうちメモっとく」

車輪の「タン・タン・タタン」に合わせて、鉛筆が踊る。

優子も小声でハモる。「帰り道ソング、できちゃうね」

「タイトル“ホクホク北帰行”どう?」

「おでんみたいで好き」


——気づけばまた、スヤァ。



「まもなく大宮—」

「…あ、埼玉!」

関東平野のビル群が遠くにのびる。雪景色はいつの間にか、夕陽を反射するガラスの街へ。

東京。ドアが開いた瞬間、暖気が入れ替わり、人の流れが一気に速くなる。

「戻ってきたね」

「うん、“ただいま”の速度」


そのまま在来線で学生寮へ。部屋のドアを開けた瞬間、二人同時に靴を脱ぎ捨て、ソファにダイブ。

「荷ほどき…は、明日」

「洗濯…も、明日」

「シャワーは…今」

「賛成」


湯気で旅の疲れがほどける。ドライヤーの風を浴びながら、光子がポケットから何かを見つける。

「え、なにそれ」

「湿布。北海道の楽屋でもらったやつ。お守りがわりに貼っとく?」

「じゃ、腹筋に一枚ずつ。“笑い筋”ケア」


ベッドに倒れ込む前、家族グループに一言。

《無事到着。雪も笑いも満タン。おやすみ》

送信音が消えるより早く、二人はまたもコテン。


窓の外では、遠くの線路を走る電車の灯りが点と線になって流れていく。

“次の旅まで、少しの充電。”

東京の夜は、静かに二人を包み込んだ。




夏の編成会議と「軌跡/奇跡」執筆開始


寮のラウンジ。巨大な日本地図をテーブルに広げ、付箋とマジックを両手に持った光子と優子が、作戦会議を始めた。


「まずは広島。お好み焼きの鉄板でテンポ上がる」

「次、四国。鳴門の渦でツインドラムが巻き込まれる」

「京都は“静かな寺×爆笑MC”のギャップで攻める」

「北陸は海鮮で音がプリプリ」「語彙どうした」

「北関東は“からっ風でも笑いは止まらない”キャンペーン」

「道北は——宗谷で風に煽られてもコーラスはブレない選手権」

「夏でも寒いから、MCで『さみちいでちゅ』は封印」

「いや、そこは解禁でしょ。会場あっためるやつ」


付箋が地図じゅうに咲いた。

横で小雪がメモを取る。「移動は基本、鉄路?」「うん。景色ごと曲に取り込むから」


ホワイトボードに“夏プログラム案”が並ぶ。

•Overture:TOKYO(ツアー用アレンジ)

•サンライズ小章(合唱付き)

•さみちいでちゅラプソディ(会場コール&レスポンス)

•北へ(新曲/道北書き下ろし)

•うにゃあじゃぱメドレー(ショートコント連結)

•アンコール:手をつなご(アカペラ→バンドイン)


「各地のご当地ネタは“即興ポケット”で差し替えよう」

「現地の子ども合唱も一曲入れたいね」

「募金はロビー常設、整骨院コラボは…」「“笑い筋ケアブース”ね。湿布提供は継続打診」


笑いながらも、進行表は秒単位で埋まっていく。

二人の顔つきが、急に“本番の目”になる。



執筆ターン、開幕


会議がひと段落すると、今度は机の上にノートPCと分厚い紙束が積まれた。

背表紙にはマジックで大書——「光子と優子の軌跡(たまに奇跡)」。


「タイトル、ダジャレに逃げた?」

「逃げじゃない。事実。“軌跡”は足跡、“奇跡”は起きがち」

「たしかに起きがち」


目次(初稿)

1.はじまりの家族——白金荘のドアが開いた日

2.幽霊とスーツと、未来のメロディ(両親の出会い)

3.幼少期:初MCは“おばしゃん事件”

4.吹奏楽の汗と笑い——県大会から全国へ(2年連続金賞・特別賞)

5.ファイブピーチ★結成の裏側

6.事故と再起——「大丈夫」を歌にするまで

7.春介&春海、笑いの震源地誕生

8.上京:寮とコンビニと授業と深夜の作曲

9.ウクライナへ——歌と祈りと地雷の話

10.ドームツアー:笑震9.0の夜

11.これからの旅程——地図はまだ白い


「章のトーンは“85%笑い、15%がっちり真面目”でいこう」

「写真は多め。舞台袖、移動車、譜面の落書き、そして家族」

「家系図も要るよね。春介・春海ラインは太字」

「“おばしゃん/おじしゃん事件年表”も巻末資料で」

「資料なのに一番売れるやつ」


書き方ルール(ふたりの取り決め)

•むずかしい音楽用語は練習と制作の章だけ。

•日常章は“ふつうの言葉”で。

•ギャグは自然発生。無理やりは禁ず(結果、自然に湧く)。

•読み手が明日だれかに話したくなる一行を、各ページに一本。


喫茶店に移動して、コーヒーを置いた瞬間、キーの音が走り出す。

光子は幼稚園時代の映像を見返しながら一気に書くタイプ。

優子はボイスメモに喋ったあと、文章に整えるタイプ。


「ここ、笑わせたいけど泣かせたいとこでもある」

「じゃ、起承転“ギャ”で落として、余韻で泣く」

「“転ギャ”新語生まれた」


夕方。第一章の草稿ができた。

母からの家族LINEに一文を貼ると、既読が一気に4つ点いた。


母:いいじゃん。呼吸が聞こえる。

父:タイトル、笑った。

美香:写真は任せて。アルバムぜんぶ掘るね。

春介:お姉ちゃん、ぼくも本に出る?

春海:わたしも! いい顔のやつにして!


「出ます。顔はセレクトします」

送信して、ふたりは同時に背伸びした。



夏へ向けて——“旅程”と“章立て”の二刀流


夜、地図の前に戻る。マグネットの“現在地”を札幌から東京へ移動。

その横で、執筆スケジュール表にもペタペタと締切付箋が増えていく。


「広島のMC、仮台本つくる?」

「ううん、現地の空気でいく。台本は“やることメモ”だけ」

「四国は“橋”のメタファでバラードだね」

「京都は静かに始めて、最後にぶっ壊す」

「北陸は海の低音、北関東は風のリズム、道北は“間”」

「全部、録れてる。電車が教えてくれた」


窓の外、線路の先に点の列が伸びる。

二人は同時に、ノートの表紙を指でコン、と叩いた。


「夏の段取り、走らせよう」

「本の一行も、毎日進めよう」

「うちらの“軌跡”が、だれかの“奇跡”をちょっとだけ押すといいね」

「うん。笑って、前へ」


ラウンジの時計が、ちょうど0時を回った。

次のページと、次の目的地が、同じ速さで近づいてくる。





執筆は進まず、笑いは止まる(※誤:実美が止まる)


寮の自室、深夜。

机の上にはノートPCが二台、マグカップ二つ、付箋は小山。

タイマーがピピッと鳴った。


「よし、25分集中ね」

「うん。まず“はじまりの家族”から——」


三分後。


「ねぇ、あの“おばしゃん事件”の動画、参考に一回だけ見る?」

「一回だけ。一回だけやけん」


再生、三十秒で爆笑。

ふたり同時に椅子からずり落ちる。


「ダメだ、笑いで呼吸が乱れてタイピングがブレる」

「書けるわけないやん、19年半のネタ、濃すぎ」


付箋に“後日ネタ化”と書いて貼る。付箋の小山が富士山に昇格した。



「じゃあ本題。“私たちの原点は——”」

「硬い。教科書か」

「“うちらの出発点は、だいたい笑い声”」

「それそれ。酸素より笑い」


キーボードが軽快に鳴りはじめたが、画面右下に意味深な文字。


──実美が止まる。


「……誰? 実美って」

「“筆が止まる”の誤変換やん!」

「章タイトル決まったね。“笑いは止まる(※誤:実美が止まる)”」

「誤字を力に変えるスタイル」



記憶の棚をひとつずつ開く。

“鼻から牛乳噴射事件”は、行間にティッシュの絵文字を添える案が採用。

“詐欺電話撃退”は、会話のテンポだけで笑わせる構成に決定。

“雷停電ナイト”は、真っ暗な欄外に小さく「おへそ防衛戦」と書く。

“ウクライナ訪問”は、笑いを一歩下げて、祈りと言葉を主役に置く。

“ドームツアー9.0”は、湿布の銀色をページ端に印刷する(デザインチームに投げる)。


書いては思い出し、思い出しては笑い、笑ってはペン…じゃなかった、筆(※キーボード)が止まる。



グルチャがピコン。

美香から“幼少期アルバム.zip”。開けば、幼稚園の舞台で小さな二人が満面の笑み。

続けて春介・春海から音声メッセージ。


春介「しっぴつおうえんラップいきまーす!」

春海「ねぇねぇ、まず書け〜♪ で、笑え〜♪」

二人「ハイパー誘惑ウィンク!」(※全力)


「……作業中にそれは強すぎる」

「笑いの暴風域に突入」


集中が散るたび、罰として“笑ったら腕立て5回”。

結果、笑い筋も上腕三頭筋も鍛えられる地獄の執筆合宿が始まった。



途中、小雪が差し入れに来る。「糖分補給!」

テーブルに置かれたのは、どら焼き×6、羊羹×2、アイス最中×3。

「章タイトル“奇跡”が“寄席”に見えてきた」

「それはそれで本質かもしれん」


窓の外から、最終電車のモーター音。

光子がぽつりと呟く。「19年半、よくもまあ、こんなに笑って泣いて走ったね」

優子が続ける。「その全部を書かんとね。誰かの明日の笑顔の燃料になるように」



午前二時。

一章分の草稿ができた。ページの端には、手書きの小さなメモ。


「むずかしい言葉は、練習の章だけ。

日常は“ふつうの言葉”で、読んだら誰かに話したくなる一行を。」


送信ボタンを押して、母と父の家族LINEに抜粋を共有。

数秒で既読が並ぶ。


母:笑いながら泣いた。続き、待つ。

父:誤字のセンスが一番好き。

美香:写真もっと掘る。

春介:表紙、ぼくでもいいよ?

春海:わたしも! いい顔のやつで!


「表紙はプロにお願いするけど、帯コメントは君らで」

「“この本、ちょっとおもろい”ってやつね」


二人はハイタッチ。

タイマーを次の25分にセットして、もう一度、呼吸を整えた。


「続き、行こっか」

「うん。“実美”に負けてられんし」


——執筆は時間がかかる。

でも、笑いは燃料だ。止めない限り、ページは前へ進む。





¥とqの夜


カタカタ…カタ…コトン。

タイマーが切れた音もしないまま、二人はキーボードにほおを乗せて沈没していた。


ぱち、と小さく目を開けた光子が最初に見たのは、ノートPCの白い海。

そこにびっしりと並ぶのは——


「……円安?」


画面いっぱい、縦横無尽の¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥。

一方、隣では優子がまぶたをこすり、液晶を二度見。


「え、なにこれ。小さい9の大群?」

「それ“q”やろ…。」

「q q q q q q q q q……999ページあるんやない?」

「打鍵ツアーの長尺すぎ。」


とりあえず深呼吸。

光子がCtrl+Zを連打する。

「前世まで戻りそうな勢いで取り消し中」

「待って待って、保存は? 自動保存は?」

「生きとった! 5分前の下書きが残っとる。ギリセーフ!」


二人とも椅子にもたれて天井を仰ぐ。

睡魔、犯行時刻—未明。凶器—キーボード。残された二つの手がかり—¥とq。


「犯人は眠気、動機は炭水化物不足やね」

「被害総額、¥999,999,999。」

「通貨記号やめんね?」

「すまん、脳が円マークに支配されとる。」


少し落ち着いたところで、優子が指を立てた。

「でもさ、これ曲にできるよ。」

「え、どういうこと?」

「タイトル『Yen & Q』。スクショをジャケット背景にして、1分のインタールード。¥の雨とqのささやき。」

「……天才か。」

「ほら、打鍵ミスがアートに昇格。」

「誤字もメロディーも、拾えば宝。」


勢いで作戦会議が始まる。

・¥は“シャラシャラ”って感じの打音サンプルにする

・qは“クッ”ていう小さな息にする

・最後は二人の笑い声でフェードアウト


「いや音の話は後で。まずは被害状況、証拠保全。」

「スクショ撮った。ファイル名『証拠_円Q_寝落ち事件』。」

「やめて、それ未来永劫イジられるやつ。」


案の定、グルチャに投下すると即座に反応が来た。

母:『笑いながら泣いた(いろんな意味で)』

父:『プロも寝る。安心した』

美香:『タイトル案『えんえんも大事』』

春介:『おかねの歌?』

春海:『きゅっの歌?』


「可愛いけど追い打ちがすごい。」

「よし、戒めのために机の前に貼っとこ。『寝落ち注意』。」

「貼り紙の文言が弱い。もっと強くいく。」

二人でマジックを握る。


【寝落ち対策】

①カフェインは計画的に

②タイマー鳴ったら立つ

③キーボードに顔を置かない

④¥とqが見えたら即休憩

⑤笑ったら腕立て5回(継続)


「④が具体的で好き。」

「⑤が地味に効く。」


ひと段落して、優子がそっと画面を撫でた。

「でもさ、こうやって笑いながら進めるの、うちらっぽいよね。」

「うん。止まっても、ネタになる。ネタにしたら、また動ける。」


温め直した白湯をすすって、二人は背筋を伸ばす。

再びタイマーを25分にセット。

光子が宣言する。


「再開。章タイトルは『¥とqの夜を越えて』。」

「ラスト一行は決めた。『誤入力は、未来の脚注。笑いとともに残す』。」

「いいじゃん。じゃ、いくよ。」

「うん。」


カタカタ。今度は意識ははっきり。

もしまた眠気が来ても大丈夫だ。

この夜の¥とqは、もう“失敗”じゃなくて“材料”になったから。


外は青みがかった朝。

画面の向こうで、物語はまた少し前へ進んだ。





土曜の正しい爆睡


「もう寝る。人として寝る。」

そう宣言してベッドにダイブ——3秒で無音。


――――


カーテンの隙間から、やけに斜めな光。

スマホを見た優子が固まる。「13:42。」

光子もむくり。「午前、絶滅してた。」


二人で天井を見上げて、同時に笑う。

「まあ土曜だし、正解。」

「正解。」


キッチンでコーヒーがポコポコ鳴る。

脳みそが帰還する音がする。


通知は山盛り。

母:『ちゃんと寝た?(既読スルー可)』

父:『¥とqの続編、待ってます』

美香:『スクショ、待ち受けにした(やめて)』

小雪:『寝落ち界のパイオニア』

ソフィーア:『きょうは休む日。命令』


「愛されてるな、うちら。」

「寝落ち芸で?」


ブランチは近所の喫茶店。

オムライスにケチャップで“Yen & Q”って書かれて出てきた。

「店まで知ってるの?」

「SNS、侮れん。」


帰りにドラッグストアで目薬を買う。

「これで“q目”対策は完璧。」

「“円”のかすみ目も対策しとこ。」


部屋に戻って洗濯機を回しながら、PCの前に付箋をぺたり。

“¥とqを見たら即休憩”

「今日だけは作業しない?」

「しない。昼寝二部制で。」


ソファに沈んだ瞬間、春介からビデオ通話。

画面いっぱいのドアップで「おねえちゃん、きょうはねるひ?」

「寝る日。プロとして。」

「じゃあ“ねおちのうた”うたうね」

横から春海のツッコミ。「それ子守歌やろ!」


通話を切ると、二人は伸びをして、毛布を引っ張り合う。

「土曜の午後って、世界でいちばんやさしいね。」

「うん。明日からまた走るための、でっかい深呼吸。」


再び静かになった部屋で、洗濯機だけが規則正しく回っていた。





夜の再起動、¥とqの封印


21:00ちょうど。

二人はダイニングテーブルにノートPCを並べ、ミニ会議から始めた。


「本日の目標:二章ぶんの初稿。寝落ち禁止。」

「禁止ワードは“¥”と“q”。見かけたら即休憩。」


付箋が三枚、キーボードに貼られる。

《姿勢》《水分》《保存》。

アラーム名は物騒だ。「起きろ起きろ」「¥押すな」「q触るな」。


温いハーブティー、背中にクッション、タイマーは25分。

「ポモドーロ、回すよ。」

「回せ。」


21:05 — タイピング、点火


光子は「事故と再出発」の章にカーソルを置く。

一文目が決まると、次が自然にほどけるみたいに続いた。

当時の匂い、音、ひとの表情——必要十分だけを置いて、余計な飾りは削る。


優子は「笑いの作法」の章。

突っ込みの“角度”“間”“声量”を、生活のエピソードで落とし込む。

(脚注にそっと一行:「※ただし生活圏ではやりすぎ注意」)


二人とも、ときどき声に出して読み合わせる。

「ここ、三行いらない」「ここは逆に一行足したい」。

削るたび、文が軽くなる。

残った言葉だけが立っていた。


21:32 — 休憩5分(封印強化)


タイマーが鳴ると、即セーブ&バックアップ。

クラウド、外付け、メール下書きの三重保存。

ついでに“¥”と“q”のキーにマスキングテープで小さな絵を描いた。

¥には赤いバツ、qには眠気を煽る目玉の落書き。

「これで寝ぼけ指でも避ける」

「物理的抑止力、大事」


21:37 — 再開エンジンあったまってきた


光子は「全国とウクライナ」の章に入る。

歓声と、静けさ。

ドームの残響と、病院ロビーの息づかい。

笑いでほどける瞬間、胸が詰まる瞬間——両方をそのまま置く。


優子は「家族」の章。

父のボケから生まれた“さみちいでちゅ”の一行を、

一段落の後にひっそり置いた。

重いページの空気が、ふっとやわらぐ。


二人のキーボードが、交互に速くなる。

「この言い切り、気持ちいいね」

「うん、ここは『〜かもしれない』要らない」


22:20 — 小さな邪魔、やさしい邪魔


スマホが震える。春介からメッセージ:

『ねーね、英語のqってどう打つの?(写真:キーボード)』

優子が即レス。『押さんでいい(真顔)』

光子がフォロー。『右上のその子だよ。宿題がんばれ』

『うい!( ー`дー´)キリッ』スタンプが飛んできて、二人同時に笑う。


22:45 — 一章、落ちた


光子が指を止める。「ここで、章を閉じたい」

最後の一文は短く、しかしやわらかい。

——『笑いは、真剣に生きようとする誰かの酸素になる。』


読み上げると、優子が親指を立てた。

「それ、表紙の裏の言葉にしよう」

「決まり。」


23:10 — 再セーブ、そしてもう一歩


ストレッチをして、眼のピントを戻す。

二章目の見出しに、カーソルが点滅する。

「タイトル仮で“道のり”ってしてたけど、変えよう」

「“道のり”は写真集だね。本文は“歩幅”がいい」

打ち替えた瞬間、ページ全体の空気が変わった。


書きながら、思い出すたびに要点メモをサイドに積む。

・落研で学んだ“間”

・仙台の舞台袖の手

・ソフィーアの小さな深呼吸

・マイクの持ち方で観客の表情が変わる話

「どれも、嘘のない重さ。」


23:45 — 本日の区切り


最後の段落に句点を打つ。

自動保存の音が小さく鳴る。

画面右上、雲アイコンにチェック。

外付けにもコピーして、メモの写真をパシャリ。

「よし、今日はここまで。」

「『やめる勇気』も実力だもんね。」


PCを閉じる前に、互いのファイル名を声に出して確認する。

「_book_ch03_hofuku_v7.md」

「_book_ch02_waraha_v9.md」

「良い名付け。破滅しない。」


カップに残ったハーブティーを飲み干し、窓を少しだけ開ける。

夜風が、キーの隙間を撫でた。

明日また書ける、という確信だけが、ふわりと机の上に残る。


「おつかれ、自分。」

「おつかれ、相方。」


二人は同時にスタンディングで背伸びをして、

机の上の付箋《保存》に、そっとチェックを入れた。

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