神曲発表。
曲名「東京」
学生寮の一室。窓の外は夕暮れ、環七の車の音が細い糸みたいに続いとる。
光子はノートPC、優子はスティックで机をコツコツ。「今日は東京を曲にするけんね」と光子。
「変わるものと変わらんもの、両方入れる。よか?」
「よかよか。まずは街の心拍やね」
二人はポケットからICレコーダーを出す。録っとった音がずらり。
•改札のピッ
•山手線の発車メロディ
•交差点の靴音と信号の電子音
•コンビニのいらっしゃいませ
•雨のしとしと、深夜のラーメン屋の湯気
「これ、リズムの種に使えるばい」と優子が机を叩く。
ドッ・ツッ・カッ・カッ──踏切のパターンをキックとスネアに置き換える。
光子はベースで低いレール音をなぞる。「線路=ルート。帰ってくる場所やね」
セクション設計
•Intro:環八の走行音からフェードイン。改札ピッをハイハットに刻んで、ベースは地下鉄の風みたいにうねる低音。
•Verse A(朝):朝のマンション前、新聞受けの金属音。メロはまっすぐ、言葉は小さく前へ。
•Verse B(昼):雑踏の群れ。コードは寄り道しつつ、必ず主和音に帰る。
•Chorus(夕方):空がオレンジに変わるとこで一気に開く。キーワードは**「ただいま/おかえり」**。
•Bridge(夜):道に迷う感じで転調。小さな神社の鈴と風鈴が鳴る。
•Outro(終電後):人の声が消えて、遠くの救急車と冷蔵庫の唸り。最後は小さな足音が部屋へ帰る。
「東京ってさ、ダイナミックに変わるっちゃけど、“ただいま”は変わらんやん?」
「わかる。どんなにビルが増えても、コンビニのおでんの湯気は、人をほっとさせるやろ」
二人は笑って、**眉ピッ45%**で合図。
光子がメロを書き、優子が言葉の位置を整える。
「息は底に、言葉は前に。語尾は1mm先」
「うん。前・引く・前で景色が進む」
歌詞メモ(サビのさわり/短く)
交差点 光が変わるたび
名前のない日々が 少し進む
「ただいま」と言える この街で
変わらないものを ポケットに
「派手やないけど強いね」と優子。
「東京は爆音もあるけど、**小さい“ただいま”**が一番効くけん」
ドラムを録る。優子は人混みの波みたいに前のめり気味で刻み、
光子は山手のカーブみたいにベースを粘らせる。
途中でラーメンの話になって笑いが挟まる。「昼は塩、夜は味噌」「それ今は入れんでよか!」
笑っても、手は止まらん。街の心拍はもうループで鳴っとる。
夜。窓の外に最終の自転車のブレーキ音。
二人は小さくハイタッチ。「デモ、形になったね」
「うん。変わる東京と、変わらん“おかえり”、両方入った」
保存名は「Tokyo_v01」。
光子がつぶやく。「次は街の合唱も入れたいね。ひよりたちでハミング重ねてさ」
優子が頷く。「笑って息そろえて、声を前へ。それがうちらの東京」
最後に二人、部屋の灯りを落とす。
遠くで山手線がゴウン。
曲は静かに、でも確かに、動きはじめた。
「東京」試聴会——合唱、乗り換え案内します
学生寮ラウンジ。
スピーカーの前にみんなが円になって座る。光子が再生ボタンを押すと、環七の走行音→改札ピッ→ベースの低いうねり。部屋の空気が一段ひんやりして、“東京”が流れ込んできた。
小春「イントロ、街の心拍って感じ」
梢「サビ、**『ただいま/おかえり』**のとこ、鳥肌」
ソフィーア「夜の風鈴、好き」
光子が笑ってメモを取る。
光子「ありがと。変わるもの/変わらんもの、両方入れとる」
優子「で——合唱も乗せたいっちゃん。コーラスリーダーは…」
一拍置いて、優子が眉ピッ45%。
優子「ひより、お願いできる?」
ひより「えっ、私が!? まだ高2やけど…」
光子「関係なか。声が前に出る人に任せたいと」
先生「現場で一番変わった声やもんね。適任」
ひより、耳まで赤くなって立ち上がる。
ひより「……やります! よろしくお願いします」
⸻
ざっくり段取り(難しい単語ゼロで)
優子「今日は**“あーだこーだ言いながら決める回”**。
合言葉は、息は底に/言葉は前に/語尾は1mm先。これだけ」
光子「コーラスは三つ用意しとる」
1.朝の街パッド:『ん〜』でうすく広げる(駅前の空気役)
2.夕方の“ただいま/おかえり”掛け合い:左右にわけて呼び合う
3.夜のハミング:星の粒みたいに短く点を置く
ひより「朝=広く/夕=手前に/夜=点で、ですね。わかった」
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ウォームアップ(笑い入り)
ひより「まず4吸って6吐く×3。肩は動かさないで、肋の横ふわっ」
(みんな、すう〜はぁ〜)
ひより「笑いかける顔で**“ん〜”いきます。せーの」
(部屋が一瞬でやわらかい空気**に)
優子「次、改札ピッ練習。舌先で小さくクリックね」
梢「ピッ!」
全員「でかっ!」(爆笑)
光子「出力オーバー、再改札お願いしまーす」
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配置と一発合わせ
•ひより隊(前列):『ただいま』
•小春隊(右):『おかえり』
•梢・真奈隊(後列):朝の“ん〜”
•ソフィーア(高めの星):夜の点ハミング
ひより「朝→夕→夜で色を変えるよ。
朝は広く、夕は手前へ、夜は点で1mm先」
優子「Bサビ頭からいくよ。眉ピッ45%=入る合図」
(——♪)
朝の“ん〜”がふわっと床を敷き、ひよりの『ただいま』が手前にすっと立つ。
『おかえり』が右から返事をして、夜の点が天井に散る。
一回し、静かに終わる。
先生「これや」
小春「都会が近くなった」
梢「息がそろうと景色が見えるんやね」
⸻
微調整(1mm先だけ)
光子「朝の“ん〜”、語尾で止めん。前に流して消える」
優子「『ただいま』の“だ”、重くせんで小さく前へ。
『おかえり』の最後の“り”は1mm先」
(もう一回)
今度は玄関が開く音が見える。
ひよりの顔がパッと明るくなる。
ひより「帰ってきた感じがしました」
⸻
録って聴いて、笑ってもう一回
スマホで短く録音→再生。
スピーカーから小さな駅前が出てくる。
優子「よし。腹筋も声帯もいい汗」
光子「合唱は街。みんなで同じ地図を持てば、迷子にならんけん」
ひより「よかった一言:“ただいま”は音程やなくて“向き”。前に置いたら届いた」
全員「それそれ!」
最後に**眉ピッ45%**でスクショ。
デモ名は「Tokyo_v02_cho」。
“変わる東京”に、うちらのただいまが重なった。
アルバム『TOKYO/ただいま』—7月リリース(全10曲)
1.東京(シティ・アンセム / ポストロック×エレクトロ)
環七の走行音→改札SE→跳ねるベース。サビは「ただいま/おかえり」の掛け合いコーラス。都会の脈拍をまっすぐ。
2.さみちいでちゅラプソディ(ミッド・ポップ / ピアノ×ストリングス)
可笑しさの裏に“会いたさ”を置くバラード。語尾は1mm先でスッと消えるタイプの泣きメロ。
3.眉ピッ45%(ダンス・ロック / 4つ打ち×ギターリフ)
“合図=眉ピッ”でブレイクが入るキメ曲。サビで一斉クラップ、ライブ鉄板。
4.延長コードは心の長さ(ラブコメ・ポップ / 80sシンセ)
“礼節で解決するな”のセルフ突っ込み入り。明るく跳ねる、肩の力が抜ける恋の歌。
5.星屑の地図(コーラス・バラード / 淡いエレピ×合唱)
ひより率いるコーラス参加曲。朝=広く、夕=手前、夜=点で置く三層コーラスが空間を描く。
6.環状線ブレイクダウン(ハード・ロック / 速BPM×ツーバス)
渋滞も人生も突破するギター×ドラムの疾走曲。ユニゾンリフで一気に駆け抜ける。
7.おでんの湯気は変わらない(ローファイ・ミドル / ウォームベース)
街が変わっても“ほっとする場所”はあるという日常賛歌。鼻歌サイズの優しいメロ。
8.Romance Car, Sapphire Heart(ネオシティ・ポップ / クリーンギター×コーラス)
列車ラブコメ目線の軽やかなシティポップ。走行感のあるハイハットで風を切る。
9.サンライズ小章 2040(クラシカル・シンフォニック / 管弦×打楽器)
吹奏楽ルーツをオーケストラで再構築。瀬戸の夜明け〜帰還までを多楽章風に凝縮。
10.ポケットの“ただいま”(エンディング・バラード / アコギ×ピアノ)
最終曲。小さな“帰る場所”をそっと肯定する歌。フェードアウトで心拍だけ残る。
— 作詞・作曲・編曲:小倉光子 & 小倉優子
— 参加:ベース(光子)/ドラム(優子)/ピアノ&Key(美香・小春)/ギター(奏太)/合唱
ジャンルも温度も“東京みた
準備週間——ドームと原稿と、いつもの「ただいま」
朝。寮の廊下に、付箋の雨が貼ってある。
「ドーム案」「自伝ここ泣ける」「バイトのシフト要確認」
光子「よし、今日のメニュー。午前は講義、昼に自伝の打ち合わせ、夕方はミライマート、夜はドーム会議ね」
優子「はいはい隊長。まずは腹ごしらえやろ?脳みそは米で動く」
光子「名言やね。刻印しとこ」
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昼:自伝・第ゼロ稿会議(学生ラウンジ)
ノートPCを開き、双子は生まれた日から今までを線でつなぐ。
付箋には「白金荘」「台所の椅子」「全国金賞」「音大上京」「ロス」「ジュネーブ」「さみちいでちゅ」。
優子「タイトル候補『ただいまの地図』でいく?」
光子「うん。家は動詞、のサブタイトルつけたい」
優子「で、駅ホーム“さみちいでちゅ”事件は何章?」
光子「……巻末付録“父の黒歴史”」
優子「採用。読者特典にしよ」
書き進めるうち、事故の章に入る。
光子「ここは笑いで包まず、事実と手順で書く」
優子「うん。『拍手はしない、深呼吸をひとつ』——階段で数える、を見出しに」
二人とも、ちょっとだけ目が潤む。それでも指は止めん。希望の言葉が画面に並ぶ。
⸻
夕方:バイト(ミライマート)
篠崎店長(標準語)「おっ、ドーム準備の二人。今日も元気だね。レジ前の募金箱、また増えてたよ」
光子「ありがとうございます。みんなの気持ち、ちゃんと曲に乗せます」
優子「新作グッズの相談も今度お願いします。**“おかえりタオル”**とか」
篠崎「絶対売れる。発注かけるね」
休憩室。コーヒー片手に、また原稿を少し直す。
優子「生まれた日のページ、泣き声がハモったって書き回した」
光子「よか。じゃあ次は落研時代も入れよ。“ズラし→回収”はうちらの骨やけん」
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夜:ドームツアー作戦会議(寮ラウンジ)
ホワイトボードにでっかく「ただいま/おかえり TOUR」の文字。
小春「オープニングは**“ただいま”のコールで暗転が開く案、どう?」
奏太「ミッドで手拍子ブリッジ**、アンコール前に“家のBGMコーナー”(湯・鍵の音サンプリング)」
光子「専門用語は置いといて、お客さんが息を合わせやすい合図を先に決めよ」
優子「合図は“眉ピッ”。ステージ上も客席も同じタイミングで呼吸する。MCは『家の回収』話で繋ぐ」
スマホが震える。
——《母:原稿の“椅子の章”読みながら、お茶こぼした。しみるねぇ》
——《父:駅ホームの件、掲載許可。さみちいでちゅは商標申請中(嘘)》
二人、声を出して笑う。
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深夜:原稿ラスト1ページ
光子「生まれてから今まで、よう書いてきたね」
優子「まだ途中やけど、道筋は見えた」
光子「明日の朝は練習、昼は講義、夜はまた原稿」
優子「合間にギャグ。それがうちらの酸素やん?」
そこへビデオ通話がピコン。画面いっぱいに春介・春海。
春介「おねえしゃん、どーむって、でっかいおうち?」
優子「そうそう。全国のお客さんの“ただいま”が帰ってくる家やね」
春海「じゃあ、わたしおかえりっていう!」
光子「最高の一言。採用!」
通話を切ると、二人は同時に伸びをした。
光子「明日も、進めよ」
優子「うん。“家は動詞”、進行形で」
机の隅に、今日の付箋が一枚増える。
『ただいま』は、何度でも言える。
ドームの光と、原稿の文字が、同じ色で静かに灯っていた。




