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三姉妹爆笑交響曲 — 大学生篇から陽翔&結音誕生まで  作者: リンダ


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ひよりの問題

涙のあとに、笑いひと匙


ビデオ通話。

画面にひよりの顔。少し泣き腫らした目が、それでもまっすぐこっちを見とる。


ひより「本当に……ありがとうございます。ちょっと、心が軽くなりました」


優子「よかった。ね、この前の合唱の話、覚えとる?」

光子「うちらね、ひよりちゃんの異変に気づいたの、表情もやけど声やったと。

たぶん本番のとき、不安や怖さを抱えたまんま歌っとったろ? それが声に乗って、周りには“重たい”って聞こえたんやないかな」


ひより(こくん)「……うん。怖かった。歌う前から、胸がぎゅってしてた」


光子「それは才能がないってことやなくて、心が守りモードに入っとったって合図やね。

うちら、声と言葉を仕事にしとうけん、音の温度で“なんかある”ってわかる」

優子「だからさ、泣く→水飲む→4吸って6吐く→一言だけ前向き。これで声の荷物がちょっと降りる。

できることはうちらも手伝うけん、希望は持っとこ」


ひより(涙こぼしながら笑う)「……ありがとうございます。がんばる」


光子「じゃあ、泣いた後の恒例いこか」

優子「ギャグで仕上げ!」



爆笑ミニコント①「もしも合唱コンクールの審査員が自動改札やったら」


(カメラに寄って二人で小道具なし)


光子(改札)「ピッ——残高不足。不安が多めです」

優子(歌い手)「チャージお願いします!」

光子「ありがとう先出し1枚と、深呼吸3回で**+500円分チャージされます」

優子(胸に手)「ありがとう……すーーはーー(×3)」

光子「ピッ! 通過どうぞ。温度よし、優しさの乗り換えは右側通行で〜」

優子「はい、右側通行! 飴1個で反省もしときます!」

(ふたりで眉ピッ**)


ひより「ぷっ……(肩震える)」



爆笑ミニコント②「コンビニ防衛隊・合言葉作戦」


優子(司令官)「暗号は**『ホットのM、ゆっくりで』。繰り返せ」

光子(新人)「ホットのM、ゆっくりで!」

優子「よし、バックヤードへ安全移動**! なお、アイスのL、急ぎではソッコー却下!」

光子「了解! ついでにコーヒーの香りで平常心チャージします!」

優子「任務完了! 最後は**“またあした”で撤収!」

(ふたりでまたあした/眉ピッ45%**)


ひより「あはははは……! やばい、笑えた……!」



光子「笑えたなら合格。声って笑いで軽くなるけんね」

優子「最後に合図確認——青=平気/オレンジ=迎え/赤=至急電話。今は?」

ひより(スマホに青送信)「平気。ありがとう先出し」

(胸に手→うん→親指ちょん)


光子「よし、今夜は**“よかった一言”だけ書いて、早めに寝ること」

優子「文言の宿題は『私は〜』で始める三点セット**ね。

“私は今は行けません/私は自分で考えたい/私は怖いからここにいます”」


ひより「書く。……またあした」

光子・優子「またあした(眉ピッ45%)」


画面がふっと暗くなる。

涙の塩気がまだ少し残るけど、部屋の空気は一段軽くなっていた。

—泣いて、整えて、笑って。その順番、ちゃんと身につきよる。







線を守る夜


居間。

ひよりは真正面から母を見た。


ひより「自分の将来は自分で決める。信じるか信じないかも私が決める。この前、みんなと約束した“線”やけん」


母の眉が跳ね、次の瞬間、平手打ちが頬に落ちた。

視界がにじむ。けれど、ひよりは一歩だけ下がって息を整えた(4吸って6吐く×3)。


ひより「……お母さんのことは嫌いになりたくない。でも、今のお母さんは好きじゃない」


震える指でスマホを開く。父とのスレッドに赤(至急電話)を送る。

靴をはき、玄関を出る。向かうのは避難ポイントにマークしたコンビニ。


自動ドア。カウンターへ小走り。


ひより「ホットのM、ゆっくりで」

(合言葉)


店長がすぐにうなずき、バックヤードへ通す。椅子、ぬるめの水。

電話が鳴る。「父です。今、向かいます」——5分。


父到着。頬を見て顔色が変わる。


父(浩司)「今は安全が最優先。必要なら**警察(110)**にも連絡する」 


店長は事情を簡潔にメモしながら、相談窓口のカードを差し出した。

•児童相談所全国共通ダイヤル 189(いちはやく):児童虐待の相談・通告。 

•24時間子どもSOSダイヤル 0120-0-78310:子ども・保護者の悩みを24時間受付。 

•DV相談ナビ #8008:暴力や強い脅し等が絡む場合の相談先案内。 


その場で父が189に電話し、今夜の出来事を事実だけ伝える。次いで、明日の学校(担任・スクールカウンセラー)訪問の段取りも確認。

店長は「ここはいつでも駆け込んでいい場所です」と一言添えた。


帰宅はせず、この夜は父の実家へ。

寝る前、ひよりは出来事メモに一行。


日付/母からの平手打ち/怖かった、でも**“線”は言えた**。


紙を折って**“またあした瓶”**へ。コトン。

頬はまだ熱い。でも呼吸は、もう乱れていない。



今すぐの守り方(物語の外側の実用メモ)

•危険が迫る・暴力があった→ 110(警察)。命の安全が最優先。 

•虐待・強い強要の相談→ 189(児童相談所全国共通ダイヤル)。匿名可、通報も相談もOK。 

•夜間や誰にも言いづらい時→ 24時間子どもSOSダイヤル 0120-0-78310。 

•暴力・脅し・支配が絡む家庭内問題→ DV相談ナビ #8008(最寄り支援センターへ案内)。 


ポイント:

•「私は〜」で始める境界線の言い方(例:私は今は行けません)。

•**合図(青/オレンジ/赤)**を家族・信頼できる人と運用。

•避難ポイント(交番・学校・図書館・信頼できる店)を地図に★印。

•記録は日付/出来事/言われた言葉/自分の気持ちを一行で。


——ひよりは「線」を言葉で引いた。

あとは大人の番。安全のレールに、ひと駅ずつ灯りを増やしていく。





回想篇:玲子が傾いた道


数年前。

日下部玲子は小さな会社の総務にいた。人が辞め、仕事だけが増え、ミスは全部「あなたの確認不足」。昼休みは電話番、帰宅は終電。夜は眠れず、朝は味がしない。ある日、給湯室でコップを落とした音に自分がびくっと跳ねたのを見て、ふっと涙が出た。


その週末、駅前の掲示板に紙切れが揺れていた。


「無料 心の相談会/お茶だけでも」


半信半疑で行った喫茶店。

迎えたのは柔らかい笑顔の女性——のちに教団の幹部だと知る人。


幹部「よく来られましたね。玲子さん、がんばってきたね。あなたは選ばれてる人だよ」

玲子「……選ばれてる、ですか?」

幹部「優しい人ほど疲れるの。原因は“見えない重荷”。浄めれば軽くなる」


そこでほめ言葉と共感が、立て続けに降ってきた。

「すてきな手」「家族を想う心が深い」「あなたの責任じゃない」。

心にやっと座れる椅子が差し出されたみたいで、玲子は息をついた。


日曜朝のお茶会に誘われ、行った。

最初はお守り2,000円。次にお札、次に祈祷、次に**“学びの会”**。

言葉はいつも同じだった。


「お気持ちでいいんです」

「救いの扉はもう目の前」

「反対する人は悪い気に囚われてる」


職場の人間関係はさらに崩れ、退職。

昼間の孤独と夜の不安に、会の**“仲間”はよく効いた。

「分かってくれる人がいる」。

いつしか仲間は監視に変わり、学びは従順**に変わる。

高額な印鑑も、“一生の守り”と言われれば不思議と断りにくかった。


ある夜、教祖の特別指導と称する呼び出しが来た。

「選ばれし者だけの儀」。

誰にも言ってはいけない、これで家族も救われる——甘く、強い言葉。

玲子の中の承認の渇きと不安に、ぴたりとはまった。


家では浩司が言った。「俺は俺の生き方がある。ひよりの自由は守る」

幹部は言った。「反対は試練。家族のために耐えましょう」


——愛も孤独も、救いも恐れも、そこでは同じ言葉で塗り替えられた。

やがて玲子にとって「やめる」は「全てを失う」と同義になり、

誰かに異議を唱えられるたび、胸の中で恐怖と怒りが結び目になって固くなる。


今夜の平手打ちは、その結び目が引っ張られた音だった。

——間違っているとわかっていても、結び目ほどけず。

だからこそ、ひよりの線は、まっすぐ引かれなければならない。



ひよりへ(短いメモ)

•お母さんは壊れた職場で心が削れ、孤独な時間を**“優しい言葉”**で埋められた。

•ほめ言葉ラブボム→小さな参加→少しずつの献金→“選ばれし者”の称号、という階段で引き込まれた。

•恐怖(地獄・不幸)と救いをセットで提示され、反対者=悪のラベルで家族から切り離す流れに乗せられた。

•「やめる=今までの自分を否定」になって、認めたくない気持ち(積み上げの損切りの怖さ)が強く働いている。


大事なこと

•ひよりが悪いわけじゃない。線を引く権利は変わらない。

•お母さんもまた誰かにすがるほど苦しかった人。

•だからこそ、安全と自由を先に守り、議論は**“信仰の是非”ではなく“家庭の手順”へ。

(言い方:「好きだけど、これはできない」/「私は今は行けません」**)


泣いたあと、深呼吸。

そして**“またあした瓶”に一言を落とす。

——結び目は一気には解けんけんね。けど、ひよりの線は、今夜もまっすぐ**やった。




ミライマートの灯り


自動ドアが開いて、夜風が一緒に入ってきた。

ひよりは小刻みに震え、隣で父・浩司がそっと肩を支えている。

レジから出てきた光子と優子は、まず歩幅を合わせて、声の高さを落とした。


光子「ひよりちゃん、ここは大丈夫。座ろっか。お水、ぬるめにするね」

(紙コップを渡しながら)

優子「吸って4、吐いて6。いっしょにやろ。……すー、はー……」


ひよりの呼吸が少しずつ整っていく。

その様子を確かめてから、浩司が深く頭を下げた。


浩司「あなた方が……娘を救ってくれた方ですね。今夜は本当に、ありがとうございます」

光子「よく来てくれた。合言葉も、ちゃんと使えたね」

優子「ここは駆け込みOKの場所やけん。まずは安全第一で」


そこへ、バックヤードの扉から店長・篠崎が顔を出す。

篠崎「こんばんは。こちらへどうぞ。人目を避けて、休める椅子を用意しました。

お水と、温かいお茶どちらがいいですか?」


ひより「……お茶、お願いします」

篠崎「かしこまりました」


温かさが指に戻るまで、誰も急がせない。

空気が落ち着いたところで、優子がゆっくり尋ねた。


優子「今日はどうする? このあと」

浩司「私の実家に泊まります。今夜は家に戻りません」

光子「了解。安全の地図どおりやね。連絡は、さっきのままで。

青=平気、オレンジ=迎え、赤=至急電話。合図は引き続き運用で」


ひよりはコクンとうなずき、紙コップを胸に寄せた。

頬には涙の跡。けれど目は、さっきよりまっすぐだ。


ひより「……ありがとうございます。ほんとに、来てよかった。

怖かったけど、**“私は今は行けません”**って言えました」


光子「言えたの、すごいよ。線はまっすぐ引けとった」

優子「最後に一言だけ、“よかった”を瓶に入れてから行こっか」

(レシートを三つ折りにして、小さな**“またあした瓶”**を即席で作る)


ひより(ペンを受け取り、さらりと書く)


またあした

合言葉でここに来れた。言えた。


紙片が瓶にコトンと落ちる。

篠崎が、お茶のおかわりをそっと差し出した。


篠崎「道中、お気をつけて。何かあればいつでも」

浩司「重ねて、ありがとうございます。本当に、助かりました」


帰り際、光子と優子は小さく手を振る。

光子「またあした」

優子「眉ピッ45%」


自動ドアが閉まる直前、ひよりも小さく笑って眉ピッを返した。

ミライマートの看板は、今夜も変わらず明るい。

その灯りが、三人の背中をそっと押した。





静かな家、鳴りやまない言葉


居間の時計が、コツ、コツと壁をたたく。

日下部玲子はソファに沈み込み、さっきまで握っていた右の手のひらを見つめた。

そこに熱がある。ひよりの頬に落ちた、たった一度の音が、部屋中に反響していた。


「お母さんのことは嫌いになりたくない。

でも、今のお母さんは好きじゃない」


言葉だけが、何度も戻ってくる。

何が正しくて、何が間違いか、つかめない。

祈りの言葉を口にしてみても、いまは空気にほどけて、ひとつも胸に落ちない。


冷蔵庫のマグネットに、家族で撮った写真が貼りついている。

夏の海。ひよりは笑って、タオルをマントにしている。

玲子は目を逸らし、代わりに家計簿アプリを開いた。

数字は正直だった。ここ数ヶ月、名義の違う振込がいくつも並び、桁が重い。

「供養」、「志」、「感謝」。

ラベルは柔らかいのに、口座残高は容赦がない。

その瞬間、玄関の静けさの意味が、やっと輪郭を持った。

——ひよりはいない。浩司もいない。

テーブルの上には、さっきひよりが置いていった小さな涙の跡だけが、乾きかけていた。


玲子は両手で顔を覆った。

どうして、あの子に手を上げたの。

どうして、守りたい人を、傷つけるほうを選んだの。

答えは出ない。出ないまま、時計は一分を刻む。



そのころ、浩司は実家の食卓でノートPCを開いていた。

通帳の記帳、カード明細、電子マネーの履歴。

見慣れない受取人名が、同じ周期で、大きな額を吸っていく。

自分の知らない出金の列を前に、浩司は大きく息を吐き、紙のメモに三行だけ書いた。


① 明朝、銀行で引落の一覧確認

② **学校(担任・SC)**同席の時間調整

③ 家の手順を書面化(夜の言い争い禁止/連れ出し強制しない)


スマホが震えた。

ひよりからの青(平気)の合図。

「よく頑張った。明日、学校一緒に行こう」と返す。

すぐに、短い「うん」が返ってきた。


浩司はペンを置き、窓の外の暗さを見た。

責める言葉を胸から追い出し、手順だけを残す。

線はもう引かれた。守る番が来たのだと、静かに腹を決めた。



家には、玲子の息だけがある。

テーブルの端に、ひよりのマフラーが掛けっぱなしになっていた。

指先で布をつまむと、柔らかさが記憶を連れてくる。

あの子の頬に触れるときの、正しい温度を、私は忘れたのか。


「自分の将来は自分で決める。

信じるか信じないかは、私が決める」


そのフレーズが、今度は自分に向けられた声として聞こえた。

正しさはまだ遠い。だけど、間違いは目の前にある。

右手の熱が、ゆっくり冷めていく。

キッチンの蛇口をひねる。水音が、やっと別の音を連れてきた。

——朝の音だ。

夜は必ず終わる。

ひよりの線がまっすぐである限り、朝に近づく道は、ここにも残っている。





月曜午前、学校の会議室にて


昇降口でひよりと浩司が並んで靴を履き替える。

顔を見合わせて、親指ちょん。—合図は生きてる。


案内された会議室には、すでに人が揃っていた。

担任、学年主任、スクールカウンセラー、養護教諭、そして児童相談所(担当ケースワーカー)。

机の端には、NPOみらいのたね(優馬)がリモートで、美鈴と美香も控えに入る。


学年主任「お越しいただきありがとうございます。まずはひよりさんの安全を最優先に、当面の対応をまとめます」


児相ケースワーカー「昨夜の状況について、父娘の話は一致。身体的暴力が確認され、強い宗教的強要の疑い。継続的支配の可能性も。

この場で、当面の保護を決定します。一時的な避難先は父方実家での同意保護。学校・児相・NPOで連携を取ります」


ひよりは小さく頷いた。呼吸は4吸って6吐くのリズムを守れている。


担任「学校としては、出欠は配慮扱い。保健室登校や別室対応も選べます」

養護教諭「傷のケアはここで。校内で体調不良のときは保健室へ直行で」


スクールカウンセラー「週1回の面談枠を確保します。必要なら臨時も入れます。

家族面談は、ひよりさんの合図に合わせて無理をしない形で」


画面の向こうで、優馬が淡々と地図を示す。


優馬みらいのたね「道順の確認です。

1.学校—今日から配慮開始

2.児相—同意保護の継続判断と家庭訪問調整

3.必要時—警察との連携(事件性が確認されれば随時介入)

4.法的支援—被害対策弁護団の派遣要請を当NPOで取り次ぎます」


美鈴「言葉の型をもう一度だけ。

『私は今は行けません』『私は自分で考えたい』『私は怖いからここにいます』——“私は”で始める線が、ひよりの盾になります」


美香「きつくなったら深呼吸→あったかい飲み物→**“よかった一言”で締め→寝る**。

記録は日付/出来事/言われた言葉/自分の気持ちを一行で。未来の自分の味方になるから」


児相ケースワーカー「本日付で、家庭内の手順を書面化します。

•夜間の言い争い禁止

•連れ出しの強制行為の禁止

•学校・児相への連絡優先

母側には個別に説明し、同意を求めます。未同意や違反があれば、措置の強化も検討します」


担任「ひより、今週は半日登校からでいい。**合図(青/オレンジ/赤)**は私たちにも共有してくれて大丈夫?」

ひより「……青は大丈夫、オレンジは迎え希望、赤は至急電話。お願いします」


浩司「銀行の明細は午前中に確認、不明出金は停止手続きを進めます。母との面談は、児相立会いでお願いします」


机の中央に、今日の“議事メモ”が回ってくる。

太字で書かれた最優先の行は一つだけ。


最優先:ひよりの安全と自由の確保。対立の勝ち負けではなく“線”を守る。


最後に、主任が柔らかく言う。


学年主任「——では、今日の結論です。

児相より同意保護の決定。警察介入は必要時に即時。

NPO連携で弁護団手配へ。学校は配慮登校と面談枠を確保。

安全の地図と言葉の型を全員で共有し、本日から運用します」


全員、うなずく。

ひよりはペンを取り、配られた小さなカードに一言だけ書いた。


今日の“よかった”

線を大人たちが一緒に引いてくれた。


会議室を出る前、光子が耳元でささやく。


光子「合図忘れんでよ。青のときも、ありがとう先出しを一個」

優子「帰りに保健室で水飲んでから行こ。声はぬくいままがよかけん」


扉が閉まる。

廊下の先、窓から差してくる光が、ひよりの顔を少しだけ明るくした。

半歩でも、道になる。

今は、それで十分だった。



月曜午後――止める・残す・伝える


1)銀行にて:お金の蛇口を締める


窓口の番号札が呼ばれる。浩司とひよりは身分証と通帳を出した。


浩司「使途不明の出金が続いています。出金の停止と、この半年分の明細を書面でいただけますか。

それから、口座振替の停止、オンライン振込限度額をゼロに、キャッシュカードの一時利用停止もお願いします」


担当行員は落ち着いてうなずき、端末を叩く。

•口座振替停止手続き:該当業者の引落しを停止

•オンライン振込限度額:0円に設定

•キャッシュカード:一時停止(再開は本人来店のみ)

•過去6か月の取引明細:紙で発行

•口座メモ:第三者関与の懸念あり、取引時に追加確認フラグ


行員「こちらが口座振替停止の受付控え、限度額変更の控え、カード一時停止の控え、それと取引明細(6か月分)です。

不審な出金があれば、記録を保ったまま警察や関係機関へご相談ください」


浩司「助かります。保存して、関係機関に提出します」


ひよりは控えをクリアファイルに入れ、“またあした”メモに一行書く。


銀行で蛇口を締めた。紙で残せた。



2)児相での呼び出し:決定事項と権利を伝える


午後、児童相談所。会議室に集まったのは——

ケースワーカー、スクールカウンセラー(同席)、学校の学年主任、NPOみらいのたね(優馬・リモート)、美鈴・美香リモート、浩司・ひより、そして母・玲子。


冒頭、ケースワーカーがルールを確認する。

「録音はしません。途中退席OK。暴言・威圧禁止。本日決めるのは“手順と線”だけです。信仰の是非は扱いません」


ケースワーカー「まず、子どもの権利を伝えます。

ひよりさんには身体の安全、思想・良心の自由、自己決定の権利があります。

よって、宗教活動への強要や恐怖による支配は認められません。

昨夜の身体的暴力が確認されたため、同意保護を継続します」


玲子「私は家族を救いたくて——」


優馬(NPO)「信仰の是非は議題にしません。今日の主語はひよりです。

安全と自由を守るための手順だけを決めます」


ケースワーカーが決定事項を読み上げる。


本日の決定事項(書面交付)

1.同意保護の継続:当面、父方実家を避難先とする。

2.宗教活動への参加強要の禁止:ひよりが不参加を望む活動へ同伴・連行不可。

3.夜間の言い争い禁止:家庭内の沸点を避ける。必要時は児相・学校へ連絡。

4.面会の調整:母子の面会は児相立会いで短時間・昼間に限る(当面)。

5.金銭の透明化:家計からの支出は双方合意を原則とし、現金手渡しの禁止、口座明細の共有を行う。

6.記録の継続:ひよりは日付/出来事/言われた言葉/自分の気持ちを一行で記録。

7.必要時のエスカレーション:事件性が認められれば警察介入。被害対策弁護団へNPO経由で依頼可。


美鈴「言い方は**“私は”で。

『私は今は行けません』『私は自分で考えたい』『私は怖いからここにいます』

——これが線**になります」


玲子は俯いたまま、ペンを握りしめる。


ケースワーカー「今はひよりさんに合わせることはできません。

これは対立の勝ち負けではなく、子どもの権利と安全のための最低限の手順です。

文書に同意いただけますか」


しばしの沈黙。紙に署名が落ちる音が、部屋を一度だけ鳴らした。


スクールカウンセラー「学校では、配慮登校と週1面談を続けます。合図(青/オレンジ/赤)は学校側も共有しました」


美香「今夜は体を先に整える。4吸って6吐く×3→あったかい飲み物→**“よかった一言”で締めて寝る**。——大人の側も、です」


会議は40分で終わった。手順の紙と連絡表がファイルに綴じられる。


廊下に出たひよりは、青を父に送る。

浩司は親指ちょんで返し、静かに言った。


浩司「線は決まった。後は守る番だ」


ひより「……うん」


ファイルのポケットには、銀行で受け取った明細と、今しがたの決定事項。

紙の重みは、今のところ安心の重さだった。


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