ストックホルムの青い空の下
――ストックホルムの青い空の下。
日本代表の応援団の中には、小倉家ファミリーの姿もあった。
観客席には、光子・優子を中心に、
美鈴、優馬、春介、春海、そして親戚たちまで勢ぞろい。
全員が「日の丸Tシャツ」に身を包み、応援旗を振る。
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翼の試合会場
センターコートでは、翼がラケットを握り、
試合開始のコールに静かに頷く。
美鈴:「いよいよやね……」
優馬:「お、ラリー始まった! いけぇ翼!」
春介:「うわっ! はやっ!」
春海:「ボール見えんっちゃけどー!」
サーブの音が響くたび、
家族みんなの声がひとつになる。
会場の大型スクリーンにも、日本応援団の笑顔が映し出され、
美鈴たちは思わず手を振る。
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拓実の試合会場
すぐ隣のアリーナでは、拓実がミックスダブルスに出場中。
相方の日向沙羅と、息の合ったコンビネーション。
沙羅:「ナイスカット、拓実くん!」
拓実:「沙羅さん、決めて!」
シャープなドライブが決まり、会場がどよめく。
観客席の優子は立ち上がって拍手を送り、
美鈴も胸の前で手を合わせる。
美鈴:「すごい……あの反射神経、神業やね」
優馬:「あいつ、昔から集中力だけはずば抜けとったけんな」
春介:「がんばれ拓実おじちゃんー!」
春海:「ゆうこおばちゃんも応援してるよー!!」
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会場全体が日本ムードに
他の競技でも日本人選手が次々と勝ち上がり、
現地に来ている日本人観客たちが自然と肩を組む。
フェンシングも、バレーも、バドミントンも――
勝利の瞬間には「ニッポン! ニッポン!」の大合唱。
光子と優子は、その熱気を肌で感じながら笑顔で話す。
光子:「ああ、やっぱりスポーツっていいね。」
優子:「うん。人の心を動かす力、すごいよね。」
美鈴:「努力の積み重ねが、こうして世界の舞台で実を結ぶ。
ほんとに尊いことよ。」
家族の胸に灯った誇らしさは、
その夜、白夜の街をさらに明るく照らしていた。
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翼も拓実も、まだ頂点を目指す途中。
だけど――
この瞬間、小倉家の応援団の絆は、すでに金メダル級だった。
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白夜の応援と、遠くの友へ
開会式の翌晩。ストックホルム日本文化会館の小ホール。
M&Y(光子・優子)は「もしも交響曲・ノクターン」を披露する前に、客席に向かって短く頭を下げた。
光子「この曲を、ウクライナで学ぶ大切な友人――ソフィーアに捧げます」
優子「彼女は音大の学生。いま現地で、音と日常を取り戻すために頑張っとるけん」
舞台袖のモニターには、遠隔で繋いだソフィーアの小さなウィンドウ。
彼女はヘッドホン越しに微笑み、青と黄のリボンをそっと胸に結ぶ。
演奏が始まる。
柔らかな和声が白夜の薄明に溶け、会場後方では寄付ブースに小さな列が生まれる。
「ウクライナ復興音楽基金(M&Yサポート)」のボードには、光子と優子の直筆メッセージ。
“笑いは拍、希望は余韻。音の続きは、あなたの明日へ。”
曲が終わると、スクリーンのソフィーアが小さく手を振った。
回線越しに届く声は震えていたが、はっきりと力強い。
ソフィーア(画面越し)「ありがとう。あなたたちの音で、わたしたちはまた一歩、歩けます」
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競技会場サイド:家族席のもう一本
同時刻、会場で翼の試合を見守る家族席。
穂乃果は兄の名を描いた横断幕を握りしめ、水湊は拓実のサーブ前ルーティンに合わせて指で小さくカウント。
光子のスマホには、ソフィーアからのテキストが届く。
Sofia「サーブ、音で分かる。いいテンポ。」
光子「でしょ? 終わったらまた3人で通話ね」
優子「“白夜子守ギャグ”もセットで送るけん」
スクリーンの下で、青と黄の小さなリボンが家族席の胸元に揺れた。
日本の応援と並んで、その色はさりげなく、しかし確かに光る。
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夜のビデオ通話
試合後、ホテルのラウンジ。
M&Y、翼、拓実、そして画面の向こうのソフィーア。
翼「次のラリーも“音”で刻むよ」
拓実「こっちは“三球目の拍”で行く」
ソフィーア「あなたたちの“拍”が、こっちの“日常”を戻してくれる」
優子「じゃ、恒例の《5分だけ笑う作戦》いくばい」
光子「タイトルは『もしも白夜が寝落ちできんやったら』」
画面の向こうで、ソフィーアが声を立てて笑う。
笑い終わったあと、みんなで同じ合図。
「笑って、前進。」
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――準々決勝、センターコート。
相手は“あの”全豪決勝のライバル。会場の音が一段深くなった。
立ち上がり
序盤から強打vsカウンターの応酬。相手はストレートに弾丸を通し、翼はライジングで角度を付ける。
第1セットはわずかなブレーク差で6-4。だが第2セット、相手がリターン位置を下げて強打を解放、3-6で振り出しへ。
フルセットへ
最終セット。翼は後方待機の相手に対し、配球を大胆に切り替える。
・深いムーンボール→ドロップの緩急
・ボディサーブで面を潰し、次球でフォア逆クロス
・ネット際で“見せドロップ”の素振り→実際はショートクロスのフェイント
相手は前後に振られ続け、呼吸が荒くなる。ベースライン後方に釘付けにした瞬間、翼は前に誘い出すドロップ。食いついた相手の足が止まる刹那、
――右隅ライン上へ、低い弾道の決定打。観客席からどよめき。
ラスト2ゲームの畳みかけ
相手の太腿に乳酸がたまるのが分かる。ステップが半拍遅い。
翼はファーストの確率を上げ(2連続で70%台)、ラリーは4球以内で切りに行くプランへ。
ブレークに成功して5-3。サービング・フォー・ザ・マッチ――
ファースト:ワイドへスライス→リターン浅い→フォア逆クロス。
15-0、30-0、40-15。
最後は相手のリターン位置を読み、ボディへ突き刺す。
グリップが詰まり、フレームショット――ゲームセット。
6-4 / 3-6 / 6-3。
翼、準決勝へ。メダル圏の扉が開いた。
コートサイド
コテコテ大阪のコーチが、観客席の光子へ親指を立てる。
「光子さん、いまの翼は無敵や。目ぇが“勝つ目”になっとる。」
光子は胸に手を当て、小さく会釈。「ありがとうございます。最後まで、翼が一番集中できる空気を守ります。」
ベンチでタオルを外した翼が、スタンドの光子に口だけで「ありがとう」。
光子は同じく口だけで「楽しんで。」
トンネル裏
握手を終えた翼に、記者がマイクを向ける。
「全豪の再戦、フルセットをものにできた要因は?」
翼は少し笑って、短く。
「前後の“拍”ですね。音で言うなら、間を制した。」
トンネルの先、次は拓実の番。
「行ってこい」「任せた」——手のひらを軽く打ち合わせるだけ。言葉はいらない。
白夜の光はまだ薄く明るい。
準決勝、そして表彰台へ。
合図はいつも通り——
笑って、前進。
――卓球アリーナ、準々決勝。
相手はヨーロッパ屈指のカットマン、ドイツ代表。
会場の空気が一段低く沈み、金属音が張り詰める。
シングルス準々決勝
第1ゲーム:様子見のラリー。拓実はツッツキの“深さ”を変え、バック前に止める短いボール→チキータで先手。中盤以降は横上サーブで相手のツッツキを浮かせ、回り込みドライブで押し切る。11-7。
第2ゲーム:相手が切れ味MAXのカットで粘りに粘る。拓実は回転量を落としたスピンとフラット気味の速球を織り交ぜるが、要所を拾われ9-11で落とす。ベンチに戻るとコーチが一言。「前後だけやない、左右の“拍”も刻め。」
第3ゲーム:指示どおりワイド→ミドル→逆ワイドの三拍子。バック対バックの展開から、突然のミドル攻めで体勢を崩し、前に浅く落とすストップ→相手が詰めたところをフォアクロス一閃。11-6。
第4ゲーム:カットの長短にループとドライブを重ね、ラリーの総回転数で上書きする作戦。終盤、YGサーブ(逆回転系)で完全に面を外し、連続ポイント。最後はバックハンドのチキータ→中陣カウンタードライブで締め、11-8。
ゲームカウント 3-1。
拓実、準決勝進出。
(本大会の設定:シングルスに3位決定戦は無し → メダル確定。)
優子は観客席で拳を小さく握り、目尻をぬぐう。
拓実はラケット越しに視線を送って、口だけで「ありがとう」。
優子も「任せた」と短く返す。
勝利後インタビュー(抜粋)
拓実「相手の守備は世界トップレベル。回転の質とコースの三拍子(前後・左右・ミドル)で崩しました。
ここからは一球の“間”をもっと研ぎ澄ませます。」
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団体戦・準々決勝(対 香港)
オーダー:
1.拓実(S1)
2.松浦(S2)
3.ダブルス:村瀬/松浦
4.拓実(S3)
S1:拓実 3-1 で先取。
香港の速攻に対し、レシーブの短長と3球目の質で主導権。
S2:松浦は競り合いの末に落とすも、
ダブルスで流れを引き戻し、
S3:拓実が再びきっちり締めて3-1で日本勝利。
コーチ「ここまで予定どおり。次は台湾、台上の勝負が増える。“一球目の芸術”でいこう。」
ベンチ裏、拓実は深呼吸をひとつ。
「サーブ一本で、世界は変わる。」
優子は頷く。「笑って、前進。」
白夜の光はまだ淡く明るい。
次は――準決勝、そして決勝の景色だ。
――準決勝、センターコート。
相手は世界ランキング2位のスロベニア。代名詞は弾丸強打――時速200kmに迫るフォアのライナー。スタンドに低いどよめきが走る。
立ち上がり
最初の数ゲーム、相手は“圧”で押し切るつもりの配球。翼はスピード勝負に乗らない。
・深いブロックで“面”を作り、リターンエース狙いの球をまず拾う
・サーブ前には必ず相手の立ち位置を確認
・フォルトだけはしない安全第一の1st確率→要所のみトップスピードを解放
・ワイド見せ→センター、速球見せ→スロースライス…緩急とコースで“間”を奪う
相手の弾丸は速い。だが、翼は“速い球が速く返る角度”を作らない。
一拍遅らせたカウンター、沈むスライス、浅いボールで前へ誘い出し、逆を突く。
「速さは武器。でも、速さだけが答えじゃない。」
中盤:苛立ちの兆し
ラリーが伸びても、翼は無理に打ち勝ちにいかない。投げさせて、打たせない。
相手は自分の“速い世界”に連れ込みたいのに、翼はテンポを半拍ずらす。
ベンチのコーチが親指を立てる。「ええ間や、乗らんでええ。」
スロベニアの主砲に小さな乱れ。
ネット直撃、コーナーを狙いすぎのフレーム、叫び声。
“速さの矢”が、少しずつ的を外し始めた。
終盤:自滅の影
サービスゲーム、翼はワイドの速球で視線を外し、続くポイントは同じトスからの緩いキック。
相手の体が前に出た瞬間、翼は逆クロスのショートアングル。
ベースラインの後ろへ下がる相手に、ドロップで前へ、戻る背中にロブで後ろへ。
前後の振りで脚が止まり、最後は焦りのバックアウト――勝負あり。
(スコアはストレート。第1セットはタイブレーク、最終セットはワンブレーク差で締める、内容勝ち)
スタジアムが沸騰する。
銀メダル以上、確定。
翼はラケットを胸に、静かに空を仰いだ。
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勝利インタビュー
「全豪決勝の相手を破って決勝進出。今の気持ちは?」
翼「嬉しいです。でも“仕事の途中”って感じです。今日は“速さに乗らないこと”を徹底しました。」
「相手のボールは時速200キロに迫る場面も。どう対処を?」
翼「球技は、速さが全てじゃないって野球からも学んでます。どんな速球でも、打たれる時は打たれる。
だから、こっちは間と配球で勝つ。リターンはまず確実に拾う、サーブは位置取りを見て速いのと緩いのを織り交ぜる。“速さのレール”に乗らないのが狙いでした。」
「精神面は?」
翼「家族と仲間が支えてくれてます。スタンドの光子が“楽しんで”って口で言うんです。あれ、効きますね。
それと卓球の拓実が“間を刻め”って。競技は違っても、一本の集中は同じ。背中押されました。」
「決勝へ。金メダルが懸かります」
翼(少し笑って)「笑って、前進。 それだけです。今日みたいに“間”を制して、最後まで自分のテニスをやる。楽しみにしていてください。」
(客席から大きな拍手。コーチはコートサイドでひと言だけ、口パク――「無敵や」。
翼は小さく頷き、トンネルの向こう、決勝の光へ歩き出した。)
――大会は“日本旋風”。白夜の空に、連日の君が代が響く。
各競技:メダルラッシュのダイジェスト
•陸上・中長距離:日本人ランナーが粘りの走りでメダル獲得。最後の直線、差し切りで会場総立ち。
•サッカー:男女そろってベスト4。PK戦の守護神がヒーローに。
•レスリング女子:全階級金。技の切れ味が別次元。
•フェンシング:個人・団体でメダル量産。
•バレー:男女ともベスト4へ。長いラリーを拾い切る“日本らしさ”が光る。
•体操:男子は団体・個人総合・種目別全てメダル。女子も団体銅、個人総合銅、種目別で複数表彰台。
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拓実:ミックス決勝進出&シングルス決勝へ
ミックスダブルス(拓実/日向沙羅)は、準決勝で怒涛のコンビネーション。前詰めの沙羅、後方の拓実が“拍”で噛み合い、決勝進出。
シングルス準決勝の相手はシンガポールの強豪。
序盤からもつれにもつれ、フルセットへ。
•相手は強打を警戒して徐々に後ろへ。
•拓実はそれを見逃さず、前後左右の三拍子(ストップ→ループ→ワイド、時折ミドル攻め)で体勢を崩す。
•最終ゲーム8-8から、YGサーブ→3球目チキータで2連取。
•マッチポイントは浅いストップで前に釣り、フォアの一閃。
ゲームカウント 4-3。拓実、シングルス決勝進出。
客席で優子が両手を口元に当て、涙をこらえながら親指を立てる。
拓実はラケットを胸に当て、口だけで「ありがとう」。
団体戦は準決勝まで危なげなし。
そして、ついに――決勝の相手は中国。
「世界の壁」と真正面からぶつかる舞台が整った。
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試合後の短いコメント(抜粋)
拓実(シングルス準決勝後)
「相手が下がる“半歩”を見逃さないこと。前後左右、そしてミドル。
今日は“配球の間”で勝てました。決勝も、笑って、前進でいきます。」
沙羅(ミックス決勝進出)
「拓実くんの後ろ盾があるから、前に思い切って出られる。決勝は二人で主導権握ります!」
コーチ(団体決勝へ)
「中国は台上が速い。一球目の芸術や。サーブ・レシーブの“拍”を奪いにいく。」
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家族席のハイライト
•穂乃果:翼のタオルをぎゅっと握りしめ「兄ちゃん、決勝で会おう!」
•水湊:拓実のルーティンに合わせて指でカウント。「8、9、10……決めた!」
•光子:翼に“楽しんで”の口パク。
•優子:拓実に“任せた”の合図。
白夜の会場で、家族の手話のような合図が、選手の背中を確かに押していた。
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さぁ――
翼はテニス決勝へ。
拓実はシングルス決勝、ミックス決勝、そして団体決勝へ。
日本の夏が、北欧の空で最高潮に達する。
合図は、いつも同じ。
「笑って、前進。」




