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三姉妹爆笑交響曲 — 大学生篇から陽翔&結音誕生まで  作者: リンダ


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107/143

性犯罪加害者への取り調べ始まる

――福岡県警・取調室。

蛍光灯の白い光が、灰色の机の上を冷たく照らしていた。

その前に、うつむいたままの男。

四十五歳、無職。くたびれたシャツの襟元から、酒と煙草の匂いが漂う。


対面には、刑事が二人。

一人は低く鋭い声で、静かに尋問を続けていた。


刑事(中年・落ち着いた口調)「……あなた、児童買春の罪がどれだけ重いか、分かってる?」


男は唇を噛み、目を伏せたまま黙っている。


刑事(若手・厳しい口調)「あなたの供述はね、身勝手極まりないんですよ。

“寂しかった”“相手が誘ってきたように見えた”……そんなの、理由になると思ってるの?」


男「……俺は、そんなつもりじゃ……」


刑事(年配)「“そんなつもりじゃなかった”で済む話じゃない。

あなたは、十五歳の少女と知ってて、会って、

性的な関係を迫った。その上、拒まれたからって暴力を振るった。」


机を叩くような声。

男の肩がびくりと震えた。


刑事(年配)「未成年者に対する性犯罪は、れっきとした“加害”です。

あなたがやったことは“恋愛”でも“遊び”でもない。

一方的な支配と暴力や。」


男「……金がなくて……。風俗にも行けんし……。」


刑事(若手)「それが理由?金がないから、未成年をターゲットにした?

あなたのやってることは、相手の人生を壊すことなんだよ。

その子がどんな思いで泣いたか、想像したことあるか?」


男は両手で顔を覆い、言葉を失った。


刑事(年配)「いいか、

あなたが“やったこと”の責任は、

“寂しさ”や“貧しさ”じゃ埋められん。

自分の欲を正当化して、他人の心と体を傷つけた。

それが、あなたの罪や。」


部屋の空気が重く沈む。

テーブルの上に置かれた録音機の赤いランプが、静かに点滅していた。


その夜。

この男の供述調書には、「被害者を脅して性行為を迫った」と明確に記録された。

そして警察は、児童買春・児童ポルノ禁止法違反および暴行容疑で、送検を決定する。


――「恋人がほしかった」と語った少女の涙の裏には、

誰かの欲望と暴力があった。


だがその涙を見つけ、守った者たちがいた。

光子と優子、美鈴、そして家族。

彼らが照らした“光”が、再び祥子の心に春を呼び戻していくのだった。






――取調室の空気が、さらに冷たく張りつめた。

刑事が無言のまま、分厚い封筒を二つ、机の上に静かに置いた。

パサリ、と紙の音が響く。


刑事(低い声で)「……これ、なんの書類かわかるか?」


男はうつむいたまま、無言。

額の汗が一筋、机に落ちた。


刑事(静かに、しかし鋭く)「自分の目で見て。自分の口で言いなさい。」


刑事が一枚目を広げた。そこには、病院の封印。

白い紙に記された黒文字が、容赦なく現実を突きつける。


刑事(淡々と)「まずは――顔面打撲。右頬部腫脹、左口角裂傷。

“全治一週間の外傷”とある。……あなたが殴った証拠や。」


男の喉がごくりと鳴る。

刑事は続けて、もう一枚を前に滑らせた。


刑事「そして、もう一つ。精神科の診断書。

“強い恐怖反応と不眠。PTSDの傾向あり。”

……これが、あなたが作った“傷”や。」


男の目が泳ぐ。

しかし刑事は、さらに一枚――新しい書類を机に置いた。


それは、重い一言で始まっていた。


刑事(鋭く)「刑事告訴状。」


男が顔を上げる。刑事の目が、真っ直ぐに彼を貫いた。


刑事「被害者本人、肥後祥子。

そしてその保護者、肥後康弘さん、肥後千恵さん。

二名連名で出されている。

“暴行・脅迫・児童買春未遂による刑事告訴”――これが、あなたの現実や。」


机の上の紙が、ゆっくりと男の視界に滲んでいく。

震える指が文字をなぞる。


『我が娘が恐怖の中で受けた行為は、決して許されるものではありません。

社会的制裁を求め、厳正なる処罰を望みます。』


刑事が椅子の背にもたれ、静かに言葉を落とした。


刑事(低く)「あんたが“ちょっとした過ち”やと思っとることが、

人の人生を壊すことなんよ。

この紙は――その証明や。」


男は何も言えず、ただ震える手で顔を覆った。

部屋には、録音機の小さな赤いランプが、またひとつ、無言で点滅していた。





――福岡県警・取調室。

深夜を回った蛍光灯の下で、まだ取り調べは続いていた。

机の上には分厚い調書、勤務記録、近隣からの聞き取りメモ。


刑事(年配)「……会社ではどうだった?同僚との関係は?」


男「……別に、普通ですよ。みんな俺を避けてただけで。」


刑事(若手)「避けられてたんじゃなくて、あなたが勝手に壁を作ってたんだろ。

職場でも、近所でもトラブルが多いって報告が来てる。

“女にしつこく声をかけていた”“帰り道をつけていた”――覚えは?」


男は顔をしかめて黙り込む。


刑事(年配)「黙っても無駄や。過去の防犯カメラの映像も、もう確認済みや。」


書類を一枚めくる音。

“性犯罪は再犯率が高い”――その文字が、白い紙に黒く浮かび上がっている。


取り調べ室の空気が、さらに重く沈んだ。


刑事(若手)「言っとくが、あんたみたいな“自分は悪くない”ってやつが一番危ないんだよ。」


沈黙のあと、男はうつむいたまま、ぽつりと呟いた。


男「……あの女が、いなければ……俺は捕まることはなかったんだ。」


その瞬間――


バシィィッッ!!


乾いた音が、取調室に響いた。

男の頬が赤く染まる。

立ち上がったのは、捜査二課所属の女性刑事。

短く切った髪が揺れ、瞳には怒りと涙が宿っていた。


女性刑事(低く震える声で)「……あんた、いい加減にしなさいよ。」


男が目を見開く。


女性刑事(強く)「責任を人のせいにして、

あんたが殴ったのは誰?脅したのは誰?

泣かせたのは――まだ十五の女の子よ。」


机の上のファイルが震えるほどの気迫だった。

彼女の名は小林真理子。

あの吹奏楽部の仲間、樹里の母親であり、

現職の警察官として、数多くの性犯罪被害者を支えてきた人物だった。


真理子「娘と同い年の子を、傷つけたのよ。

あの子たちはまだ夢の途中なの。

“誰かに守られてる”って信じたかっただけなの。

……それを、踏みにじったのは、あんた。」


男は何も言えなかった。

彼女の鋭い眼差しが、冷たい刃のように胸を突き刺していた。


取調室には、ただ真理子の声だけが響く。


真理子「覚悟しなさい。

これは、あなたが“他人を壊した”報いよ。」


赤く腫れた頬に、男は何も言えず、

ただ下を向いたまま、震える手で自分の罪をかみしめていた。





――取調室。

男が俯いたまま、唇の端をねじ上げる。


男「じゃあよ……俺の腹を殴った、あの女は罪にならねぇのかよ。

暴行罪じゃねぇのか。」


短い沈黙。書類を整えていた女性刑事・真理子が、顔を上げた。

目は冷え切っているが、声は揺るがない。


真理子「残念ながら、あなたのその主張は通らない。

彼女がしたのは――被害者を守るための正当防衛。

未成年に対する脅迫と暴行の最中、加害を止めるための最小限の行為。

記録も証言も揃っている。一切、罪にはならない。」


男の目が泳ぐ。真理子は続ける。


真理子「それに――“あの女性は、うちの娘の親友のお母さん”。

博多界隈じゃ有名な家族だ。今では日本中で名前が知られている。

あんたが口にしたことは、全部調書に残る。

責任転嫁の供述は、あなた自身の立場をますます不利にするだけ。」


録音機の赤いランプが、静かに点滅したまま止まらない。

男は椅子の端を握りしめ、歯ぎしりを一つ落とした。



翌日・午前8時 再開


蛍光灯が灯るより早く、捜査班は席に着いた。

机上には新たに並んだファイル。金の流れ、預貯金の額、交友関係、通信履歴。

金融機関照会の返戻、スマホの解析速報、SNSアカウントのログ。


刑事(年配)「口座、ここ一年で出入りが細かい。現金化が多いな。

“課金”“投げ銭”“裏垢課金”――ここ、説明してもらおうか。」


男「……娯楽だよ。別に犯罪じゃ……」


刑事(若手)「娯楽を理由に未成年を狙ったことは消えない。

この送金は“接触前日”。“会う約束の直前”。

お前の言う“たまたま”は、金とログが否定してる。」


ページがめくられるたび、男の顔色が褪せていく。

交友関係表には、過去に迷惑行為の通報歴がある相手の名前が並ぶ。

同僚からの聞き取りメモには、

「女性社員への執拗な私的メッセージ」「帰路の尾行疑い」――朱線が引かれていた。


刑事(若手)「“俺は悪くない”を言い続けるのは自由だ。

でも、事実は紙に残る。金の流れ、通信の跡、人の証言。

それが、あんたの現実だ。」


男は視線を落とし、か細い声で言う。


男「……弁護士を……呼んでくれ。」


真理子「当然の権利。呼ぶよ。

ただし――権利を使っても、事実は消えない。」


取調室の時計が静かに進む。

ペン先が紙面を滑り、新しい供述調書が一行ずつ積みあがっていく。

外の朝はもう高く、光は眩しい。

だがこの部屋の空気は相変わらず、冷たく、淡々としていた。


――守られるべきものは守られ、問われるべきものは問われる。

その単純で、重い原則だけが、今日も机の上に置かれている。





――午後3時過ぎ。

取調室の扉が静かに開き、スーツ姿の男性が入ってきた。

革の書類鞄を持ち、表情には冷静さと重苦しさが同居している。


刑事(年配)「弁護士の先生が来られました。では、一時退室します。」


刑事たちは退出し、扉が閉まると、部屋の空気が少し変わった。

男は深く息を吐き、ようやく顔を上げる。


弁護士「……初めまして。弁護士の**藤木雅彦ふじき・まさひこ**と申します。」

男「……助けてくれよ、先生。俺、そんな大げさなことをしたつもりはないんだ。」


藤木は無言で資料を机に並べる。

そこには、被害者の診断書、SNSのメッセージ履歴、そして防犯カメラの静止画。


藤木「あなた、未成年と知りながら接触した上に、暴力を振るってますね。

これは“誤解”や“軽い気持ち”では済まされません。」


男「……俺だって、悪気はなかった。向こうも……」


藤木は、男の言葉を手で制した。


藤木「いいですか。これからは一言一句が命取りになります。

“向こうも”なんて言葉を外で出した瞬間、

あなたの印象は一瞬で地の底まで落ちます。

今、あなたがやるべきことは――言い訳じゃない。

事実を整理し、謝罪と反省の姿勢を形にすることです。」


男は目を逸らしながら、低く呟く。

男「……あの女が出しゃばらなきゃ……」


藤木は深くため息をついた。

藤木「“あの女”――つまり、あなたを止めた小倉美鈴さんですね。

あの方は、被害者を守るために介入した。正当防衛として警察も認定しています。

あなたがその件で彼女を責める限り、裁判で不利になるだけです。」


男の手が震える。藤木は、静かに書類を閉じた。


藤木「正直に申し上げます。

あなたの行為は、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、暴行罪、脅迫罪の複合。

実刑の可能性が極めて高い。

示談が成立しても、執行猶予は難しいでしょう。」


男「……終わりってことか。」


藤木は、冷静なまなざしで彼を見つめた。

藤木「“終わり”にするか、“始まり”にするかは、あなた次第です。

過ちを犯したあと、人はどう償うのか。

そこでしか、あなたの“人間”はもう残らない。」


男は沈黙した。

取調室には時計の音だけが響いていた。

その秒針が進むたび、

男の顔からわずかに“開き直り”の色が消えていった。





弁護士の声は、静かだが容赦なかった。机の上に広げられた書類の山が、男の過去をひとつずつ語っているようだった。


「過去に被害相談が上がっている“付きまとい”“尾行”といった行為についても、被害届と証言が揃えば、今回の事件と合わせて立件されます。つまり刑事裁判になる可能性が高い。検察は総合的に判断しますから、あなた一人の言い分だけで泡のように消える話ではありませんよ」


男の顔がさらに強張る。額に汗がにじみ、手は小刻みに震えていた。


「お願いだ……見逃してくれ……」

その声には、恐怖と焦りと、薄い希望が混ざっていた。


藤木は、冷静に首を振る。


「それはできません。弁護士として可能な限りの弁護はしますが、見逃す権限は私にはありませんし、警察も検察も被害の事実がある以上は動きます。もしここで虚偽の供述や捏造を行えば、それ自体が新たな犯罪行為になります。虚偽供述や証拠改ざんが発覚すれば、さらに罪が追加され、立場はますます厳しくなりますよ」


男の瞳に、はっきりと絶望が差した。

「じゃあ、どうすれば……」と震える声。


藤木は素っ気なくも真っ直ぐに答えた。


「今やるべきは、事実を隠したり責任転嫁したりすることではない。できる限り誠実に、被害者や捜査に協力する姿勢を見せることです。具体的には、調書に対する訂正や補足、関係者への謝罪の意思表示、示談交渉の窓口になる人物の提示――そうした“形”を整えることが、唯一、あなたの刑事的な不利益を和らげる道になります。だが、それも真実に基づく対応が前提です」


男は顔を伏せたまま、小さくうなだれるしかなかった。取調室には、ふたたび重い沈黙が落ちる。扉の外では、昼の光が差し込み始めていたが、この部屋の時間はゆっくりと、そして確実に進んでいく。


藤木は最後に、一度だけ言葉を添えた。


「私がついている限り、あなたの法的権利は守ります。ただし、弁護の範囲は“事実の整理と法的救済”です。幻想的な“見逃し”はあり得ない。覚悟を決めて下さい――でなければ、結果は最悪の方向に向かいます」


男は嗚咽のような声を漏らした。ドアの向こう側では、再び捜査の足音が近づいてきた。取り調べは、止まることなく続いていく──。





――取調室。

壁時計が午前から午後へ針をまたいだ。空調の微かな唸りと、ボールペンが紙を擦る音だけが続く。


刑事(年配)「最初から時系列で。——どのように被害者と知り合った?」

男「……SNSで、共通の趣味を……」

刑事(若手)「その“共通の趣味”ってのは、あなたが嘘のプロフィールで作った“釣り餌”だよな。スクショ、残ってる。年齢も職業も、全部“盛ってた”。」


資料が一枚、机に滑る。

——メッセージの送受信ログ。既読時刻、位置情報、写真のEXIF。


刑事(若手)「金銭の授受は? 直接も、間接も。『交通費』名目も含めて答えろ。」

男「……会うための——少し送っただけで……」

刑事(年配)「“少し”の定義は? 数字で言え。金額、送金日時、手段。」

男「……三千円。前日。コード決済で。」

刑事(年配)「記録と一致。——じゃあ動機は?」

男「……寂しかった……」

刑事(若手)「寂しさは免罪符じゃない。未成年と知りながらだ。」


扉が小さく開き、女性刑事が入る。

小林真理子警部——静かな足取りで席に着く。視線は鋭いまま、書類をめくり、一言。


小林警部「“どうすれば止められたか”を、今ここで言いなさい。」

男は言葉を詰まらせる。

小林警部「“寂しさ”や“衝動”は、自分で管理すべきもの。

その手段を持たないまま未成年に近づいた。それが動機の本質。」


間髪入れず、追及は続く。


刑事(若手)「当日の移動経路。駅の入出場記録、カメラ、タクシーの決済ログ——全部出てる。『偶然会った』は成立しない。」

刑事(年配)「接触直前の通話、5分42秒。会話内容は?」

男「……会う場所の確認だけで……」

刑事(若手)「その直後に、あなたから**“不適切な要求文面”。

SNS運営からの凍結通知**も残ってる。『規約違反・未成年へのリスク行為』。」


男の肩が落ちる。

だが、容赦はない。


小林警部「あなたには娘はいないと供述していたわね。——私は娘がいる。

“この年の子は、まだ世界の見え方が未完成”なの。

大人が境界線を引いて守る責任がある。

あなたは逆に、その境界を踏み越えた。」

言葉の抑揚は小さいが、刃のように冷たい。


小林警部「もう一度問う。どうすれば止められた?」

男「……会わなければ……」

小林警部「それだけ? それは“結果”。過程を変える選択肢を言って。」

男「……未成年と分かった時点で、ブロックして、連絡を絶つ……」

小林警部「他には?」

男「……嘘のプロフィールを作らない。欲求の処理を、人に向けない……」

小林警部「最初からしない。その答えに至るまでに、何人を傷つけた?」


沈黙。録音機の赤が点滅を続ける。

若手刑事が、静かに確認に入る。


刑事(若手)「確認——金銭供与(交通費名目)あり。

年齢認識あり(ログで確認)。不適切要求の送信あり。

接触の企図あり。拒否後の暴力と脅迫あり。相違ないな。」

男「……はい……」


刑事(年配)「では、ここからは供述調書の確定に入る。

虚偽が判明すれば偽証に準ずる評価、量刑判断にも影響する。

いいな。」

男は小さくうなずく。


小林警部はペンを置き、真正面から告げた。


小林警部「私は被害者の味方だ。——だが同時に、

二度と繰り返させないための“加害者の矯正”にも関心がある。

あなたがこの後、逃げずに学び、治療に向き合い、再犯防止プログラムに入るのか。

ここから先は、あなたの選択でしかない。」


男は唇を噛む。目に、観念と疲弊が混ざる。

ページが一枚、また一枚と進む。署名、押印。

重い現実が、紙の上でかたちになっていく。


――扉の外には、淡い午後の光。

だがこの部屋ではまだ、**容赦ない“事実”**だけが進んでいた。

被害者の尊厳と安全、そして社会の境界線を守るために。





――数日後。

警察本部の捜査書類一式は、分厚い封筒に収められ、静かに地検(福岡地方検察庁)へ送致された。

供述調書、診断書、通信履歴、金銭の流れ、目撃証言、現場写真。

それらは一つの線となって、男の行為を“事実”として結んでいた。


検察庁では担当検事が淡々と精査を進める。

被害者保護の観点から、氏名の秘匿、証言方法の配慮、付随する再犯防止措置の要否までテーブルに上がる。

立件方針は固まった。


容疑の骨子

・児童買春・児童ポルノ禁止法違反(未遂を含む)

・暴行

・脅迫

(関連事実として、付きまとい・尾行等の行為を情状で主張)


そしてその日、検察は福岡地方裁判所へ起訴。

事件は正式に刑事公判へ移る。


起訴後


男は勾留を継続。逃亡・罪証隠滅のおそれが検討され、保釈は認められないまま。

裁判所からは期日指定の通知。

公判前整理手続では、証拠の同意範囲と争点の絞り込み、被害者参加制度の運用、**証人保護(遮へい・ビデオリンク)**が協議される。


ニュースのテロップは簡潔だった。

「未成年者に対する性加害事件、福岡地裁に起訴」

個人名は伏せられ、被害者のプライバシーは厳格に守られる。

コメントを求められた地検関係者は一言だけ――

「厳正に対処する。」


それぞれの場所で


博多の小倉家。

美鈴は短く息を吐き、静かにうなずく。「ここからは、ぶれずに進むだけ」

優馬は手帳に面接・通院・期日を整理し、支援動線を再確認する。


東京へ戻った光子と優子のスマホに、グルチャの通知が灯る。


美鈴「起訴、正式に。祥子ちゃんは本日もカウンセリングへ。夕方はうちで夕飯。」

光子「了解。曲書きながら祈っとる。」

優子「“5分笑う作戦”の配信用ネタ、今日も投下するけん。」


祥子は短く返す。


祥子「ありがとう。……走る、止まらずに。」


外では、春の風がやわらかい。

けれど、法廷の時間は厳密で、冷たい。

守られるべき境界線と、償うべき責任。

それが、次に照らされる場所だった。





会場の後片付けが静かに進む中、体育館の一角だけ、空気が澱んでいた。

福岡交響楽団の楽器ケースが床に並び、奏者たちは互いに礼を交わし、片付けの手を動かす。クラシックの残響と、客席で弾んだ拍手の余韻がまだ壁に残っている――そのはずだった。


だが、片隅で、祥子は数人のクラスメイトに囲まれていた。

彼女の目は怯え、肩は小刻みに震えている。囁き声が、やがて笑い声になる。

「ほら、あの件さあ…」「ネットで見たんだけどさ…」

言葉は醜くねじれて、性的な内容にまで達していた。事実とは異なる、でっち上げの噂をほしいままに並べ立てる。


美香はフルートのケースを閉じかけたまま、その様子を見つけた。

彼女の背中に、何かがひゅっと落ちた。音が消えたように、世界は一瞬、彼女と祥子だけになった。


「ちょっと待て。何をしてるの、あんたたち。」


美香の声は低く、しかし確実に体育館の空気を割った。クラスメイトたちは一瞬、にやけ面を曇らせる。

「何って、別に」と、ひとりが曖昧に答えて後退ろうとする。


それで済むと思ったのだろうか。美香の目は冷たく光り、言葉が次々と刃のように飛んだ。

幼少期から鍛えられた舞台度胸と、光子・優子から受け継いだ「言葉の筋肉」が、今ここで炸裂した。


「あなたたちがやったことは、“セカンドレイプ”っていうんだよ。

 人を二度痛めつける行為。でっち上げであろうと噂を拡げて嘲笑する行為は、被害者をさらに傷つける、卑劣で卑怯な犯罪に近い行為なの。

 あなたたち、その若さで一生消えない痕を人に残していいの? 取り返しはつかないよ。」


言葉は冷静だが容赦がない。体育館中に静寂が増していく。

それを聞いた一人、二人が顔を赤らめ、視線を下げる。ふざけた顔で来た者ほど、言葉の重さに押しつぶされる。


そのとき、顧問の教師や学校職員が駆けつけた。事情を聞く間もなく、教師たちは状況を把握し、迅速に被害者の保護に動く。音大仲間やオーケストラのスタッフも近寄り、演奏会主催側としての対応を申し出る。体育館の端では、指揮者が小さく紳士のように頭を下げ、楽団員が被害生徒の安全を最優先に確保した。


校長室では、すぐに保護者会議が召集された。校長は重々しい声で宣言する。

「事実関係を厳正に調査し、学校として必要な処分と指導を行う。被害者の心身のケアを最優先にする。加害の疑いがある生徒については、一時的な登校停止と保護者面談、専門カウンセリングの受診を求めます。さらに、必要ならば第三者委員会を立ち上げ、公正な審査を行います」


事態は学校の想像以上に深刻だった。クラス全員の聞き取り、SNSのログの保存、録音や映像の提出要請――調査は迅速に、徹底的に進められた。被害届や刑事手続きの対象になるかどうか、法的な助言も含めて学校は弁護士と連携を始める。親たちの顔には怒りと困惑が交差し、被害者父母は震える手で礼を言うしかなかった。


一方、取り囲んでいた生徒たちの中には、本当に悪気を理解していなかった者もいた。笑い話のつもりで始めたが、被害の深さを目の当たりにして凍りついた者。だが、嘲笑を先導した数名は、逃げも隠れもできない現実を突きつけられる。校則に基づく懲戒、反省文の提出、一定期間の停学処分、復学前のカウンセリング義務――学校の処置は厳格だ。そして何より重要なのは、彼らに「被害が人をどう壊すか」を学ばせることだった。

校長は重ねて言った。

「我々は加害行為を決して軽視しない。だが、更生の道も開く。責任を取らせ、再発を防ぐために教育的処分と心理的支援を組み合わせる」


美香は、後で祥子の手を取り、ゆっくりと頭を撫でた。言葉は小さく、しかし確かにあたたかい。

「よく耐えた。もう、その子たちの声に耳を貸さんでいい。私らがいる。家に来て明日も一緒にご飯食べよう」


楽団の団長が控えめに近寄ると、被害者支援の一環として、楽団側は今後の公演で学校と連携し、若者向けの尊厳教育プログラムを提供する意向を示した。M&Yの一曲がここにあること――ギャグクラシックで笑いを作る二人の存在が、笑いを武器にする暴力と正反対の場所にいることが、被害生徒の心を少しだけ和らげた。光子と優子はすぐにグルチャで状況を共有し、東京からできる支援を約束した。


夜が更ける頃、学校は公式の声明を出した。

・事実関係の厳正な調査を行うこと。

・被害者の安全確保と継続的な心理的支援を最優先にすること。

・加害の疑いがある生徒に対しては、校則に基づき適切な処分を行うこと。

・すべての生徒に対して、ハラスメント・セカンドレイプの防止教育を徹底すること。


次の日から、被害者には学校カウンセラーと外部の専門家の両面サポートがついた。加害の疑いのある生徒たちは保護者同伴での面談と心理教育を受けることになり、学校は一定期間、クラス全体でのワークショップを実施して「尊厳と責任」について学ばせるプログラムを組んだ。


被害をでっち上げた噂が一夜にして消えることはない。だが、対応は迅速で、学校と家族と地域が一丸となって被害者を守る姿勢を示した。被害者のそばには仲間が残り、楽団も校も地域も支援の手を差し伸べる。美香の怒りは、ただの激情に終わらず、制度と行動を動かす力となっていった。


体育館の外に出ると、夜風がやわらかく頬を撫でた。祥子はまだ震えていたが、背筋は少しだけ伸びていた。彼女の横には、確かな盾がいくつも並んでいる。

――守るということは、声を出すことでもあり、行動することでもある。今日、その事実が、誰にも分からせるかたちで示されたのだった。





――演奏会直後の夜。

美香はその場で見聞きした内容(日時・場所・発言の要旨・関与生徒の人数や特徴・周囲の目撃者)を、忘れないうちに時系列メモに起こし、写真のEXIFとともに緊急共有した。

グルチャ《笑って前進★ファミリー》には、肥後 勝・里恵(祥子の両親)/優馬・美鈴/光子・優子が即時参加。小倉家の居間で臨時ケースカンファレンスが始まる。



緊急共有(美香の口頭+メモ抜粋)

•日時・場所:博多高校 体育館横(出張演奏会片付け中)

•状況:祥子が5〜6名の同級生に取り囲まれ、性的な内容を含む虚偽・嘲笑的発言を受ける

•美香の介入:当該生徒に対し“セカンドレイプ”の指摘・中止要請。職員呼出し→保護

•初動:顧問・管理職に口頭報告/周辺目撃者2名(楽団員・生徒)確認

•残存リスク:SNS上の二次拡散、登下校時の再接触、クラス内孤立



今後の対応策(合意事項・誰が何をいつ)


1) 事実保全(今夜〜明朝)【担当:美香・優馬】

•美香の一次メモ→詳細記録化(発言の趣旨は引用符で、価値判断は分離)

•写真・連絡履歴・演奏会タイムテーブル→一括保存(日付・場所・関係者タグ付け)

•優馬がみらいのたねから、証拠保全テンプレ(スクショ手順/EXIF保持/バックアップ)を配布


2) 祥子の安全計画(Safety Plan)【担当:美鈴・優馬・両親】

•動線変更:当面は送迎、単独移動回避。昇降口→職員室経由でHR教室へ。

•連絡網:緊急時「3ワード」合図をグルチャ固定。

•学校内避難点:保健室/カウンセラー室/図書室の緊急席を確保。

•体調:睡眠・食事ログ/頓用の不安時対処カードを配布(呼吸法・5-4-3-2-1法)


3) 学校への正式要請(明朝)【担当:両親+美香同席】

•校長・生徒指導・スクールカウンセラーへ書面提出:

1.本件の事実確認と関与生徒への指導・再発防止

2.祥子への保護配置(別室登校・席配置配慮・授業間移動の同伴)

3.SNSモニタリングと削除・指導の運用

4.学年全体のハラスメント/セカンドレイプ防止教育の早期実施

•併せて、第三者委員会検討を求める文言を添付(学校の自浄性担保)


4) 法的オプション(同日午後〜)【担当:優馬調整→弁護士紹介】

•侮辱・名誉毀損・業務妨害に発展しうる投稿が判明した場合、発信者情報開示の検討

•未成年間の事案につき、まずは学校内処分/保護者同席謝罪→改善なき場合は民事的手段を段階的に

•被害者参加制度の視野化(並行事件との整合を担当検事に照会)


5) 心理的支援(即日継続)【担当:みらいのたね+学校SC】

•週1〜2回のカウンセリング継続/テスト期間は短時間面談へ調整

•保護者サポート面談(“問い詰めより傾聴”のスキル共有、トリガー言動の回避リスト)

•同伴者制度:登校初動と下校のみ同伴ボランティア手配(地域連携)


6) 情報発信・火消し(当面非公開/必要最小限)【担当:全員】

•SNSは鍵・閲覧範囲限定、第三者への反論は学校窓口一本化

•噂への直接反応はしない/ファクト→窓口提示の固定文のみ


7) リカバリーと日常回復【担当:光子・優子】

•「5分だけ笑う作戦」の夜配信を継続(視聴は非同期OK/無理強いしない)

•週末に**“朝顔バトル2”+短い子守歌**ライブ配信(睡眠導入)

•宿題BGM版《Light for Tears – study mix》を制作・共有



その場の会話(抜粋)


勝(父)「学校でまた何かあったら……」

美鈴「動線と連絡合図、今夜決めた通り。先生方への書面は私が整えるけん。」

里恵(母)「ありがとうございます……」

優馬「“記録は冷静に・感情は安全な場所で”。それでいい。」

光子(東京から)「配信、毎晩置いとく。無理に見らんでよか。居場所の合図やけん。」

優子「噂は“空気の火”。消し方は手順で勝てる。」


美香「明朝いっしょに学校行きます。見たこと、全部事実で話す。」



タスク割り当て(今夜)

•書面ドラフト(学校宛):美鈴/優馬

•証拠保全パック作成:美香

•安全合図カード・動線マップ:優馬

•5分配信用ネタ準備:光子・優子

•祥子の体調チェック:里恵



会議が終わるころ、部屋の空気は落ち着きを取り戻していた。

「怖さに勝つのは“勢い”じゃなく“段取り”」——全員が同じ地図を持ったからだ。


最後に、美鈴が短くまとめる。


「叱るより守る。感情より記録。独りにせん。

明日、動くよ。」


グルチャには、光子の一言が落ちる。


「合図は“笑って前進”。合図があれば、どこからでも駆けつける。」







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