美鈴の怒り
――日常を笑いへ、笑いを音へ。
その変換装置としての二人は、もはや「芸術」という語の枠を軽く踏み越えている。
最初の勲章は、母校・博多南小学校に刻まれた銘板だ。
「M-1最年少優勝」——受賞から14年、いまだに破られていない記録。
昇降口脇のトロフィーケースには小さな金色のマイクと、当時のプリントアウトされたネタ台本のコピー。
キャプションにはこうある。
「笑いと音で、世界はもう少し優しくなる。——M&Y」
毎年、博多南小では記念式典が開かれる。
体育館のステージに並ぶのは鼓笛隊、合唱クラブ、そして“お笑い実行委員”。
5年生の司会が宣言する。「本日のテーマは“間で笑う、息で合わせる”」
子どもたちは、ふざけるのではなく設計して笑わせる。
拍手の波が起きるたび、先生の合図でリコーダーが和音を添え、笑いと音が同じ線上に並ぶ。
校長先生は毎年、同じ言葉で締める。
「記録は数字やけど、方法は文化たい。M&Yは“笑いをつくる方法”をここに残してくれた」
卒業生の二人がふらりと訪ねる日もある。
記念碑の前で、優子が小声で言う。「ここから全部始まったんよね」
光子がうなずく。「うん。あの日の拍手、まだテンポで覚えとる」
記録はいつか破られるかもしれない。
でも、笑いと音を同じ呼吸で扱うやり方は、もうこの町の子どもたちに受け継がれている。
次の最年少チャンピオンが生まれるその日まで——いや、その日以降も、二人はきっと同じ台詞で背中を押す。
「笑って、前進。」
――ゴールデンウィーク。
博多の空気は、もう初夏の匂いを帯びている。
光子と優子が帰省すると、博多南の小倉家は
「待ってました」と言わんばかりに**《生・爆笑通信》**が開幕した。
玄関を開けた瞬間――
甥っ子・姪っ子軍団が一斉に飛び出してくる。
春介・春海、
黒崎陽斗・心菜、
そして久留米組の翔太と美羽。
人数は絞られているはずなのに、
騒がしさは相変わらずフルボリュームだ。
⸻
春介
「おかえりー!
今から“鼻からプリン選手権”はじめまーす!」
春海
「うちの優勝候補はパパやけんね!
去年、笑いすぎてプリンが喉に逆流したけん!」
――大人組、開始五秒で床に崩れ落ちる。
陽斗(黒崎家)
「ぼくの学校で“爆笑筋トレクラブ”作ったけん!
腹筋鍛えとるけん、笑っても耐えられるよ!」
心菜
「あたし、“笑い我慢グランプリ”で二位やけんね!」
光子
「それ、我慢せんでええやつやろ」
⸻
美羽(久留米組)
「ねえねえ、今日は新ネタあるとよ!
“お母さんが炊飯器におにぎり詰めた事件”!」
翔太
「それ、実話やけんね。
朝、フタ開けたらもう完成しとった」
優子
「久留米、強いな……」
⸻
気づけばカメラが回り、
リビングはすっかり即席スタジオと化していた。
司会に立ったのは、春介と陽斗。
「第14回!
家族合同お笑いフェス in 博多南、開幕でーす!」
⸻
【実況】
・トップバッター:美羽
「お母さんが炊飯器におにぎり詰めた事件」
・続いて翔太
「なぜ久留米の朝はいつも慌ただしいのか」
・中盤:陽斗&心菜
「爆笑筋トレ実演会(腹筋しながら耐え笑い)」
・トリ:春介&春海
「学校で先生に真顔で怒られた話・完全再現コント」
観客=大人全員。
笑いすぎて立ち上がれず、床で転げ回る。
⸻
優子
「ちょっと待って……
この家、次世代育ちすぎやない?」
光子
「うちら、何も仕込んどらんはずやのにね」
春介
「でもさ、おばちゃんたち見とったら分かるやろ?」
春海
「笑いも音も、
家族で自然に回っとるっちゃね!」
⸻
拍手の中、
光子はピアノへ、優子はバイオリンを構える。
始まったのは、
即興ギャグクラシック
『交響的鼻噴射・博多帰省版(未就学児なし編)』。
演奏の合間、子どもたちが声をそろえる。
「笑って前進〜!!」
家中に、
拍手と笑い声が反響する。
⸻
美鈴(母)
「あんたたち、帰ってくるたびに
家がステージになるっちゃねぇ……」
優馬(父)
「ステージやなくて、
発電所やろ。笑いで動いとる」
⸻
こうして、小倉家のゴールデンウィークは今年も大盛況。
SNSにはすぐにタグが並ぶ。
#博多南お笑いフェス
#生爆笑通信2025
#笑って前進家族版
翌日、地元テレビ局が取材に訪れ、
放送タイトルはこう締められた。
「M&Y帰省特集〜笑いでつながる家族〜」
ナレーションの最後の一言は、いつものあれだ。
「笑いは、世代を超える音楽です。」
爆笑発電所、今日も順調にフル稼働!
博多南の朝。
小倉家のリビングは、もはや「家庭」ではなかった。
そこにあるのは――
笑いを生み、循環させ、増幅させるエネルギープラントである。
⸻
光子
「おはようございまーす! 発電状況、確認入りまーす!」
優子
「笑いメーター、朝イチから120%超えやね」
テーブルの上には、
《爆笑出力量グラフ(単位:腹筋)》と書かれた手作りボード。
すでに赤ペンで「限界注意」の印がついている。
春介
「ただいま“鼻噴射タービン”起動!」
春海
「“くしゃみジェネレーター”異常なし!」
陽斗(黒崎家)
「“ボケ圧縮装置”、フル稼働いけます!」
心菜
「“笑い燃料”補給完了でーす!」
全員
「爆笑発電、スタート!!」
⸻
ボケ、ツッコミ、奇声、くしゃみ。
制御不能の音圧がリビングを満たし、
壁に貼られた“電力使用量メーター”の針が一気に跳ね上がる。
※注意書き
「笑いが一定値を超えると、ブレーカーが落ちます」
優馬(父)
「あー! またブレーカー落ちた!
笑いすぎで家電止まる家、聞いたことないぞ!」
美鈴(母)
「そりゃそうよ。
この家、太陽光より**笑光**で動いとるもん」
その一言で、再び全員が崩れ落ちる。
⸻
午後の部は
「爆笑再生エネルギー会議」。
子どもたちは模造紙を広げ、真剣な顔で発表を始めた。
美羽(久留米組)
「“鼻から笑い水力発電”を実験したいと思います」
陽斗
「“ギャグ音波タービン”で、学校のベルを鳴らせるか検証します」
心菜
「“くしゃみ風力”で風船ふくらませたら、どれくらい飛ぶか!」
優子
「環境にやさしい方向に行ってる気はするけど、
ツッコミが追いつかん……」
⸻
夕方。
リビングはステージに姿を変える。
本日の演目は
『M&Yと仲間たちの爆笑コンサート
〜電圧限界突破スペシャル〜』
開演前注意事項。
「爆笑しすぎた方は、安全ブランケットをご利用ください」
演奏が始まると、
観客席から自然発生的に鼻噴射音がリズムを刻み始める。
光子(MC)
「笑いはエネルギー。音は伝導体。
今日も“笑気回路”、しっかりつないでいくけん!」
優子(MC)
「停電しても笑いは消えん。
それが爆笑発電所やね」
⸻
最後は全員で合唱。
「笑って前進
エネルギー満タン
涙のかわりに
笑顔を照らせ」
⸻
夜のニュース。
《博多南・小倉家
笑いによる自家発電で地域を明るく》
「この家庭から出る笑い声で、
隣家の電灯が明るく見えるとの声もあります」
SNSでは即座に話題となった。
#爆笑発電所稼働中
#笑光エネルギー
#家庭内インフラは腹筋制御
⸻
光子
「笑いがエネルギーになるなら、世界は停電せんね」
優子
「やけん今日も、“笑って前進”発電や!」
こうして今日も、
博多南の空に明るく灯る。
M&Y印・爆笑発電所。
――博多の午後、ひとひらの勇気――
ゴールデンウィークの午後、博多南の空は穏やかだった。
光子と優子が帰省してきた小倉家は、朝から笑いが絶えない。子どもたちは庭で追いかけっこ、父の優馬はカメラを構え、母の美鈴は「ちょっと買い物に行ってくるね」と笑いながらエコバッグを手に出かけた。
いつもなら何気ない午後。けれど、その日は少し違っていた。
⸻
■ 公園のベンチにて
スーパーの帰り道、美鈴はいつものように博多南中央公園の横を通った。
ふと目に入ったのは、ベンチに腰を下ろしてうつむく少女の姿。
制服姿のその子は、両手で顔を覆い、肩を小刻みに震わせている。泣いている――そう気づいた瞬間、美鈴の足は自然と止まった。
「……どうしたの? 具合でも悪いの?」
美鈴の声は、幼稚園の子どもたちに話しかける時のように、やわらかかった。
少女は顔を上げた。涙で濡れた頬。
しばらく言葉が出なかったが、やがて途切れ途切れに話し始めた。
「……SNSで知り合った男の人に……
性的なことを迫られて、嫌って言ったら殴られて……
“次はお前の家まで押しかけてやる”って、脅されました……」
美鈴の胸に、冷たいものが走った。
バッグをベンチに置き、そっと少女の肩に手を置いた。
「怖かったね。よく逃げたね。あんたは何も悪くないよ。
悪いのは、嘘をついて心を踏みにじったその男の方たい。」
少女は小さく首を振った。
「……私が、軽い気持ちでアプリなんか使ったから……」
美鈴はゆっくりと首を横に振った。
「違う。恋人が欲しいって気持ちは、誰でも持っとることよ。
悪いのは、それを利用した人。
ねぇ、私の名前は小倉美鈴。博多南幼稚園で園長をしてるの。」
そう言って、美鈴は胸ポケットから名刺を取り出して差し出した。
少女はおそるおそる受け取る。
「あなたのお名前は?」
「……肥後 祥子です。」
「祥子ちゃんね。」美鈴はうなずいた。
「うちの主人は、“みらいのたね”っていうNPOで保護師をしてるの。
今、家におるけん。お茶でも飲んで、少し休んでいかんね?」
祥子は目を伏せたまま、小さく頷いた。
その瞬間だった。
⸻
■ 男の出現
遠くから荒い足音が近づく。
美鈴が顔を上げた時には、すでに一人の男が公園の入り口からまっすぐこちらへ向かってきていた。
灰色のパーカー、伸びた無精ひげ、腹の出た中年体型。
男の顔には、怒りと下卑た笑みが入り混じっていた。
「おい、お前、なんで逃げんだよ。
お前も、そういうことがしたくて来たんじゃねぇのかよ。」
祥子の顔から血の気が引く。美鈴は立ち上がり、男の前に立ちはだかった。
その瞳は、子どもを守る母のそれだった。
「……あんた、この子に何したの?」
男は鼻で笑う。
「はぁ? あんたには関係ねぇだろ。」
美鈴の声が低く、鋭くなった。
「関係ない? あんた、体目的でこの子を呼んで、性的関係を迫って、
断られたら殴る? 女の子の体はおもちゃじゃない。
この子は、“人間”やけん。」
男は一瞬たじろいだが、すぐに逆上し、手を上げかけた。
通りの向こうから、数人の通行人がざわめく。
その瞬間、美鈴の体が自然に前へ出た。
⸻
■ 博多女の怒り
「この感触……久しぶりやね。」
美鈴は小さくつぶやいた。
心臓の鼓動が静かに高鳴り、手のひらが熱を帯びる。
まるで空気そのものが震えるように、彼女の体の周囲が一瞬だけ青白く光った。
「——あんた。博多女を舐めなさんな。」
次の瞬間、男が再び腕を振り上げた、その腹部へ、
美鈴の拳が鋭く突き刺さった。
ドスッ——
鈍い音とともに男の体が折れ、膝から崩れ落ちた。
呻き声が響き、公園にいた人々が息をのむ。
男は腹を押さえて倒れ込み、息を荒げて這いずる。
「く、くそ……何しやがる……!」
だが、立ち上がる前に通行人が駆け寄り、男の腕を押さえた。
「誰か、警察呼んでください!」
別の女性が通報し、遠くでサイレンの音が近づいてくる。
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■ 保護と救出
美鈴は息を整え、祥子の肩を抱き寄せた。
「もう大丈夫。怖い思いしたね。でも、あなたは守られたけん。」
そこへ、一台の白い軽自動車が止まり、
車から降りてきたのは、美鈴の夫――小倉優馬だった。
地域の支援NPO「みらいのたね」で保護師を務める彼は、
通報を受けて急いで駆けつけたのだ。
優馬は祥子の頬を見て、そっと確認した。
「打撲だけっぽいね。でも念のため、病院で診てもらおう。」
「はい……」祥子は小さくうなずいた。
そのころには警察も到着し、男は抵抗もむなしく取り押さえられた。
被害届がその場で受理され、男は傷害および脅迫の容疑で現行犯逮捕。
警官たちは防犯カメラの確認と、目撃者の証言を集め始めた。
⸻
■ 家族と守る場所
その夜。
小倉家のリビングには、祥子がいた。
温かいミルクティーと美鈴特製のシチューが用意され、
光子と優子もそっと隣に座っていた。
「……怖かったやろ。でもね、祥子ちゃん、あんたは立派やった。」
美鈴の声は、いつもより少しだけ震えていた。
「逃げた。それは生きる力よ。恥じることやなか。」
祥子は小さく頷き、涙を流した。
光子がティッシュを差し出し、優子が笑顔で言う。
「次はうちらが笑わせる番やけん。笑いって、心の薬になるとよ。」
その晩、家の中に静かな音楽が流れた。
光子がピアノで弾いた曲は、後に「Light for Tears(涙に灯す光)」と題され、
SNSを通じて多くの若者たちに勇気を与える作品となる。
⸻
■ 終章:守るということ
翌朝、警察から正式に連絡が入った。
男は勾留され、事件は傷害と脅迫で送検されるという。
地域の支援団体が連携し、祥子は専門のカウンセラーと繋がることになった。
小倉家の玄関先で、祥子は深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございました。」
「お礼なんていらんよ。」美鈴は笑った。
「またいつでもおいで。ここは、“帰ってきていい場所”やけん。」
春の風が吹き抜け、庭の桜の花びらが舞い上がった。
美鈴はその風を受けながら、静かに思った。
――守るって、力で叩くことやない。
勇気を出して、誰かの前に立つこと。
それが、私たち“博多の女”の誇りやけん。
――夕方。小倉家のチャイムが鳴った。
玄関に立っていたのは、祥子の両親——肥後 勝と肥後 里恵。蒼白な顔で駆け込むなり、父の勝が声を荒げた。
勝「祥子!いったい何をやっているんだ!マッチングアプリなんて……非常識だ! 危ないに決まってるだろう!」
里恵「どうして私たちに言わなかったの……!」
(祥子、縮こまって俯く)
居間の空気が張りつめかけた瞬間、美鈴が一歩前へ出た。幼稚園長の落ち着きと、地域の母のまなざしで、言葉を置く。
美鈴「肥後さん。どうか、今は叱らんでください。
悪いのは祥子さんやなく、男の側です。嘘で近づき、性的なことを迫り、断られたら手を上げた——全面的に向こうが悪い。これは警察が扱う“事件”です。」
勝は息を飲む。美鈴は続ける。
美鈴「『恋人が欲しい』って思いは、人として普通の感情です。年頃の女の子ならなおさら。
今の祥子さんは精神的に不安定です。どうか、そっと寄り添ってください。」
里恵の目が揺れ、勝の肩がわずかに落ちた。
しばらく沈黙——そして、勝が小さく頭を下げる。
勝「……すみません。取り乱しました。祥子……怖かったな。」
里恵「ごめんね、責めるつもりじゃなかったの。無事でいてくれて……ありがとう。」
祥子の肩がふるえ、涙が落ちる。美鈴はハンカチを渡し、声をやわらげる。
美鈴「警察とは連携済みです。被害届、医療、カウンセリング、必要なら法的な支援にも繋げます。今日はもう、叱るより抱きしめる日にしましょう。」
そこへ、襖の影から光子と優子が、そっと顔を出した。
光子「祥子ちゃん、ちょっとだけ——あそぼうか? むずかしいことは抜きで。」
優子「“5分だけ笑う作戦”やけん。嫌なら、すぐやめるけんね。」
祥子が顔を上げる——目を丸くして驚く。
(※テレビで見慣れた“あの二人”が、目の前に立っているのだから)
祥子「……M&Y……ほんもの……?」
光子「本物(の寝癖)つきです。」
優子「今日は“病院の待合室でもできるコント・超やさしめ版”やで。」
ふたりは膝をつき、超低刺激の小ネタを始める。
点滴スタンドを“スーパーモデル”に見立てて歩かせるジェスチャー、
脈拍計の「ピッ」を“心の元気メーター”と呼んで拍を合わせるリズム遊び、
最後に静かなピアノで《Light for Tears》のモチーフを数小節だけ。
最初はこわごわだった祥子の口元が、かすかに笑う。
父の勝がそれに気づき、目頭を押さえる。里恵もそっと娘の背を撫でた。
美鈴「ほら、笑えた。——今日は、それで十分たい。」
⸻
その夜の“支え方プラン”(美鈴が両親へ簡潔に伝えたこと)
•医療と記録:顔の腫れ・痛みは受診して診断書。(警察へ提出可)
•こころのケア:女性相談窓口と専門カウンセラーに接続済み。初回面談は同伴可。
•安全:家族以外へ住所や学校名を出さない。SNSは一時非公開。
•連絡役:当面の窓口は美鈴と夫・優馬(「みらいのたね」保護師)。24hで緊急対応可。
•家のルール:叱責・詰問は禁止/抱きしめる・休ませる・温かい食事を。
勝と里恵は深くうなずき、改めて頭を下げた。
勝「小倉さん……そしてM&Yさん。本当にありがとうございます。」
優子「礼はいらんよ。笑って前進——それが、うちらの宿題やけん。」
光子「今日は、泣けたら満点・笑えたら加点のテストやった。祥子ちゃん、合格。」
祥子が小さく「うん」と答える。
窓の外では、博多の夜風がやさしくカーテンを揺らした。
食卓の上には温かい麦茶と、湯気の立つお椀。
叱る声は、どこにもなかった。あるのは、守る手と息を合わせる拍だけ。
——こうして、“事件の続き”は叱責ではなく、寄り添いの物語として再び動き出した。
それは、笑いへ急がず、涙にそっと光を当てる夜だった。
――玄関先で、帰り支度をする前に。
美鈴は祥子の両肩にそっと手を置いて、目を見て言った。
美鈴「祥子ちゃん、これだけは覚えとって。
自分の体は、自分がいちばん大切にしてあげてね。
あなたの体は、誰かの欲を満たすための“おもちゃ”じゃなかよ。」
うなずく祥子の目に、迷いの影が少しずつ薄れていく。
そこへ光子と優子がスマホを掲げ、明るく割り込む。
光子「じゃ、連絡先交換しよっか」
優子「“困ったときのM&Y”グルチャ作ったけん、入っとって!」
新規グループ:『笑って前進サポート』
メンバー:祥子/ご両親/美鈴・優馬/光子・優子
⸻
翌日
病院受診。打撲の診断。
診断書を持って警察へ同行し、被害届を提出。
捜査の結果、相手の男は市内在住・45歳・独身。
供述はこうだった——
「風俗に行く金がなく、SNSで嘘のプロフィールを信じ込ませ、欲を満たそうとした」。
記録はきちんと残り、手続きは粛々と進む。
(美鈴と優馬が横につき、必要な支援窓口や弁護士とも接点を確保。)
⸻
その夜:グルチャが鳴る
光子「じゃ、恒例の“5分だけ笑う作戦”いくよ!」
優子「本日の“もしも”シリーズ最新作——
『もしも、赤い朝顔と青い朝顔がケンカしたら』」
もしもコント:朝顔バトル
(赤い朝顔=光子、青い朝顔=優子)
赤「アンタ、朝イチの光、取りすぎやろ!」
青「そっちこそ露を独占しとるやん!」
赤「色で勝負つけよや。情熱の赤、見るだけで元気出るっちゃん!」
青「いやいや、沈静の青。見るだけで心拍が落ち着くっちゃん!」
赤「じゃ最終決戦、“ツル相撲”!」
青「受けて立つ! ぐいっ(※ツルが絡まるジェスチャー)」
同時に「……あ、これ絡まると支え合うしかなくなるね」
赤・青「じゃあ、半分ずつ光わけっこ。笑って前進!」
(家族グルチャ:爆笑スタンプの洪水/「それ最高」「朝顔で泣き笑いした」)
祥子「(笑い泣きの顔スタンプ)
……私も、半分ずつでいいから“光”ほしいです」
優子「大丈夫。分ける光なら、無限にある」
光子「明日も5分、笑おっか」
⸻
夜が深まり、通知が静かになる頃。
グルチャの最後に、美鈴が短く送る。
「叱るより抱きしめる。奪うより分け合う。
私たちは、そうやって前へ進むけん。」
その言葉に、
“赤い朝顔”と“青い朝顔”みたいに、
違う色が絡まり合って、ひとつの支えになるイメージが、
ふっと祥子の胸に灯った。
そしてまた明日。5分だけでも、笑うために。
グルチャの画面には、爆笑スタンプが乱舞した。
里恵も「こんなに笑ったの久しぶり」と送信し、
父の勝は「M&Yさん、すごい子たちだな」と呟いた。
そして——
祥子が、ゆっくりと打ち込んだ。
祥子「私も……半分ずつでいいから、光を分けてほしいです」
すぐに、光子と優子のメッセージが重なる。
光子「いいね! 分ける光なら、無限大やけん」
優子「明日も“5分笑う作戦”決行!」
画面の向こうに、温かい笑い声が響いたような気がした。
⸻
■ そして春の夜に
寝る前、美鈴はグルチャを見つめながら、
そっと新しい連絡先を“家族フォルダ”に追加した。
肥後祥子——笑って前進サポートメンバー
小倉家のグルチャにも、祥子が正式に招待される。
光子が「次はリアル“朝顔ライブ”やな!」と宣言し、
優子が「ツル伸ばし特訓しとくね〜!」と返信。
画面には、家族みんなのアイコンが並び、
ひとつの輪が、柔らかな光を放っていた。
その夜、祥子は久しぶりに、
心から笑ったまま眠りについた。
——“守られる安心”と、“笑いでつながる家族”に包まれて。
――夜。
グルチャ《笑って前進サポート》が静まりかけた、そのとき。
突然、通知音が立て続けに鳴った。
春介が「爆笑通信チャンネル」を開始しました。
参加メンバー:春海、穂乃果、水湊、光子、優子、美香、アキラ、美鈴、優馬
⸻
爆笑通信・第1回
「GWスペシャル! キッズの逆襲」
春介(8歳)
「こんばんはー!
こちら“こども支部”爆笑通信、はじまるよー!」
春海(8歳)
「あたし、ナビゲーターの春海でーす!
今日は先輩ゲストも来てまーす!」
穂乃果(14歳)
「こんばんは。
春介の……恋人代表で参加してます」
一瞬の沈黙。
光子
「代表って何」
優子
「しかも堂々としとる」
春介
「えへへ……」
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第1ネタ:穂乃果の『カエル通訳講座・上級編』
穂乃果
「えー、カエルが夜に“ゲコゲコ”言ってる時の意味は……
『そろそろ静かにしないと怒られる』です」
春介
「それ、昨日の僕やん」
水湊(11歳)
「じゃあ“ゲコゲコゲコ!”は?」
穂乃果
「『まだ笑い足りない』」
春海
「それ、うちらやん!」
春介
(床で転げ回る)
⸻
第2ネタ:春介の『チャリあるある』
春介
「お母さんのチャリ借りたら、
ハンドルが花粉で“くしゃみ爆弾”になっとった件!」
春海
「“はくしょん!”でベルに指当たって
“チリン!”って鳴って、通行人びっくり〜!」
光子
「お前、鼻からベル鳴らす才能、どこで磨いた」
美香
「……それ、私の電動アシスト車ね」
穂乃果
「春介、
ちゃんと拭いて返しなさい」
春介
「はい……」
一同
「完全に彼女やん」
⸻
第3ネタ:水湊の『飲み物爆笑シリーズ』
水湊
「ぼく、ストローでジュース飲んでたら、
春海が『マグマの音!』って言って笑うけん、
吹き出したら本当に“ボコボコッ!”ってなった」
春海
「だって、ほんとに地鳴りみたいだったもん!」
優子
「それ、音響コントにできるばい」
光子
「タイトル
『ボコボコ交響曲 第1番・炭酸少年』」
水湊
「……それ、採用で」
春海
「水湊、顔赤いよ?」
⸻
第4ネタ:春海プレゼンツ
『家の人モノマネショー』
春海
「まずは、お母さん・美香!」
(ピアノを弾く真似)
「ここ、テンポゆるめて〜……
あー、そこじゃないっ!」
美香
「そんな言い方してるかな!?」
アキラ
「してる。
あと三回は言ってる」
春介
「つぎは、お父さん!」
(急に真顔)
「これが人生初トランペット。
音が出ない。沈黙が音楽だ」
穂乃果
「……深い」
光子
「解釈すな」
⸻
第5ネタ:全員参加
『リレーギャグ合戦』
穂乃果
「鼻からプリン噴射事件」
水湊
「鼻からビール編、年齢制限で禁止」
春介
「鼻から牛乳、リアルでやった!」
春海
「鼻から笑い、出た〜!」
優子
「“鼻からシリーズ”、
この家の文化遺産やね」
光子
「正式名称
“人類笑撃遺産”」
⸻
グルチャ大騒ぎ
美鈴
「もう、笑いすぎて腹筋痛い!」
優馬
「年齢差あっても、
全部同じ空気で回っとるのがすごいな」
美香
「穂乃果、完全にまとめ役やね」
アキラ
「水湊も、
春海のペースに自然に入っとる」
穂乃果
「守る係ですから」
水湊
「……一緒に笑う係です」
春海
「ふたりとも、ありがと!」
春介
「チーム名、
『ミライの爆笑たね』で決まりやね!」
⸻
その夜。
グルチャの最後に、春海が送った。
「笑ってるとね、
怖いこととか悲しいこと、
ちょっとだけ小さくなる気がする」
水湊
「それ、いい言葉」
穂乃果
「春介、覚えておきなさい」
優子
「ほんと、それが笑いの魔法やね」
光子
「今日も“爆笑発電所”、フル稼働中」
博多の夜風が、静かに吹き抜ける。
笑いの中に、
それぞれの小さな恋と、確かな未来が灯っていた。




