青い景色 【月夜譚No.361】
一面の青だった。まるで空をそのまま地表に移したかのような光景に、彼女は棒立ちになった。ただただそれを見ているしかできなくて、暫くは動くことさえ難しかった。
青の正体は、花だ。この辺り一帯に群生し、今の時期に一斉に花弁を開くことによって、この景色を生み出しているのだろう。
風が吹くと、順番に花弁を揺らして漣を作る。地面が揺らめくような錯覚に、バランスを崩しそうになる。
どのくらいそうしていただろうか。気がつくと青かった空は淡い赤を纏って、日が暮れようとしているのを教えていた。
彼女はようやく我に返り、息を吐いた。そんなことはないはずなのに、ここに立っている間ずっと呼吸が止まっていたような気がする。
口元に笑みを浮かべた彼女は、花々から少し離れた場所にスペースを見つけ、そこにテントを張った。これで朝目覚めた時、一番に青の景色を見ることができる。
長い旅は、出会いと別れの連続だ。それを淋しいと感じることも多いが、こうした素晴らしい出会いが心に蓄積されていくのは気分が良い。
次は何処へ行こうか。そう考えながら眠って見た夢は、青が印象的な素敵なものだった。