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Promise of Flame

作者: Futahiro Tada

 僕は火人という特殊な人種。火人というのは外見は普通の人間なのだけど体内に核反応並みの高エネルギーを宿している特殊な人種のことだ。

 でも僕ら火人はその身を隠してこの世界で生きなければならない。その理由は火人の持つ核反応並みのエネルギーを人工的に利用してこの世界の電力に変えるという闇の掟があるからだ。原子力発電所はその扱いが難しい。しかし火人を使うとそのようなリスクとは無縁にエネルギーを生み出せる。だから人類は火人の持つエネルギーに目をつけて利用しようと考えた。ただこれには大きな問題がある。火人をエネルギー源として使うというのは火人の生命力を奪うことで人権上の問題があると定義されたのだ。

 但しこれは火人が抱える負のジレンマが影響し崩壊する。火人は定期的にエネルギーを放出しないと生きていけない。その時発生するエネルギーは二億電子ボルトであり石油で得られるエネルギーの300万倍。それだけの高エネルギーが現実世界に放出されれば多大な問題が発生する。だから僕ら火人という存在は人類にその存在が見つかるまで地球の地底で暮らしていたのだ。

 しかし人類が火人のエネルギーの放出先を提供しその代わり地球全体で必要になるエネルギーを生み出してもらうという条約が締結された。しかしこれは半ば不平等条約みたいなもので僕ら火人はエネルギーを生み出す奴隷として使われるようになる。

 どうして火人たちは反逆の狼煙をあげないのかというとその理由も簡単。火人はエネルギーを放出する時以外人間に比べて力が弱い。つまり能力が低い。したがって反逆しようにも人類の持つ兵器に対抗するべき手段がない。つまり黙って従うしかなかった。さらに火人という人種自体極端に数が少ないという理由もある。この世界には80億人以上の人間が存在しているけど火人は世界中で1万人程度しかない。つまり数の面でも圧倒的に不利。

 火人がエネルギーの奴隷として使われるようになり僕らはその存在を隠すようになる。でも17歳の夏。僕はある女の子に火人であるということがバレてしまう。ここから僕はある役目を担うことになる。


 火人の見た目は普通の人間と同じなので黙っていれば誰も火人だとは判らない。しかし一度見つかってしまえばエネルギーとして利用される奴隷になる。生き残っている火人たちはその存在を隠し人間世界に溶け込んでいる。しかし火人のジレンマであるエネルギーの放出衝動はどうすればいいのかというとそれは訓練によってある程度コントロールできるようになった。つまり一気にエネルギーを放出するのではなく小出しに放出させ衝動を抑えることに成功したのだ。小規模なエネルギー衝動というのは大きくても焚き火程度の火力であるため放出衝動が起きた時は風呂場に水を溜めその水に向かってエネルギーを放出するだけで衝動を抑えられるようになった。

 けど僕は学校で突如放出衝動に襲われ苦肉の策でゴミ置き場のゴミを燃やしてしまった。誰にも見られなければ特に問題にはならなかったのだけど僕はその姿をある女の子に目撃されてしまう。その女の子は知立美沙十六歳。僕と同じ高校に通う生徒。


「君、火人だったの?」

 僕はその声を聞きどうしていいのか判らなかった。基本的に火人を見つけたものはエネルギー協会という団体に通報することが義務付けられていて、その瞬間火人としての人生は終わる。残りの人生はエネルギーを限界まで搾り取られて死ぬだけ。

「黙っていてくれないか?」

「法律違反になるけど」

「それでも僕はエネルギーを生み出す奴隷として死にたくない」

「なら条件がある」

「条件?」

「この世界を救って…」

 一瞬言っている意味が判らなかった。

「信じられない話かもしれないけどあたしは預言者なの」

「預言者?」

「そう。三日後地球の軌道上に巨大隕石が飛んでくる。これはすでに研究者が計算して判っていることなんだけど防ぎようがないの。だから一部の関係者を除いて非公開の情報になっている。結論だけ話すけど地球は三日後隕石の衝突により消滅する。それを救えるのは火人のエネルギーだけ。あなたは正体がバレてしまったから死ぬしかない。どうせ死ぬのなら地球を救うという道を選んでみない?」

「証拠はあるの?」

「信じないというのならエネルギー協会に通報してあなたを終わらせてあげる。いい?あなたに拒否権はない。あなたはエネルギー協会で死ぬまで原子力エネルギーを生み出す奴隷として扱われるかここで地球を救う戦士として立ち上がるかどちらしかない」

 しかしこの地球に隕石が衝突するなんてありえる話なんだろうか?

「僕が地球を救えば通報しないんだね?」

「えぇ。それは約束するわ」

「判った。その話乗るよ」

「ありがとう。じゃあ今日の放課後あたしについて来て」

 この奇妙な話が真実かどうか判らないけど正体がバレてしまった以上、僕に拒否権はない。生きるためには地球を救うしかない。


 放課後―

 僕は彼女と学校から少し離れた多摩川の河川敷まで向かう。巨大隕石は日本に直撃するらしくその衝撃は世界中に広がっていくのだという。ここで食い止めないと地球は終わりらしい。だからこそ情報管制が敷かれているけど彼女は預言者だから情報を知っているのだそうだ。

「隕石は何らかの方法で壊せないの?」

と、僕。

 美沙は答える。

「難しいわね。というか無理だと思う」

「日本政府は防衛しないの?例えば核兵器とか使って」

「核兵器を使って隕石を壊す場合、壊した後が問題になる。巨大隕石を壊すだけの核爆弾を使えば放射能の影響で日本は死の国と化する。それにどこに隕石が落ちるかというのはギリギリまで計算が難しいから落下してくる巨大隕石にピントを合わるのはとても大変」

「でも君は預言者だから巨大隕石が落下する位置が判ると」

「そう。隕石はここ多摩川の河川敷に直撃するわ。今からその場所を指示する。あなたは三日後その場所に立ち隕石を破壊すればいいの」

「僕が巨大な隕石を食い止めるなんて絵空事のように思えるよ」

「あなたは罪深い」

「罪深い?」

「そう。十年前、ある少女の家族が謎の焼死体として発見された。その焼死体は火人が放った炎のエネルギーであると後の捜査で判明した。そしてその炎を放った火人があなた。そしてある少女というのはあたし。あなたはあたしの家族を殺した張本人。だからあなたはあたしに殺される資格がある。でもあたしはあなたを殺さない。その代わり地球を救うコマとして使わせてもらう」

 十年前。僕の力が暴発したことがある。まだ子供だったからよく判らなかったけどそれで人が死んだというのは初耳だ。美沙の話が本当なら僕は裁かれるべき人間なんだろう。火人という十字架を背負い過去の罪を精算する必要がある。

「私が助かったのは預言の力があったから。でも家族は私を信じなかった。だから炎に焼かれ死んでしまった」

「僕を恨んでる?」

「えぇ。でも今は地球を救って。あたしは預言者としてこの地球を救う役目がある。同時にあなたにもこの地球を救わなければならない役目がある」


 三日後ー

 時刻は午後五時。隕石の衝突はすぐそこまで迫っている。世界中のほとんど人間はこの隕石の衝突の事実を知らないから世界はいつも通り穏やかな時間が流れている。

 僕と美沙は多摩川の河川敷の広場に立つ。

「ねぇ、ホントに僕の持つエネルギーを使えば隕石を壊せるの?」

 と、僕。

 すると美沙は

「落下する隕石は直径200メートル。この隕石を破壊するためには3メガトンのエネルギーがあればいい」

「それってどのくらい?」

「広島に落ちた原爆の200倍」

「そんなエネルギーたった一人の火人にはないと思うけど。ただでさえ人間に比べて力が弱いのに」

「大丈夫。私の計算では一人の火人が生涯に生み出せるエネルギーは3メガトンくらいだと言われているから。問題ないでしょ?というかあなたはやらなければならないの」

「判ったよ。どっちにしろ死ぬかもしれないんだ。なら滅びの美学じゃないけど華々しく地球を救って散った方がいい」

「…さて時間よ。空を見なさい」

 夕暮れの空は異常だった。遥か遠くに太陽の光とは別の彗星のような神々しい光が広がっている。

「エネルギーを解放しなさい」

 美沙は言う。

 僕は空を見上げ火人の力を解放する。身体中の血液が沸騰し焼け爛れていくような衝撃が広がっていく。

 火人の力は確かに強大だ。僕は全ての力を解放しようとしている。それはまさに自分の命を燃やしているようなそんな衝撃だった。僕の周りが一面炎に包まれる。僕は手を天に翳し落下してくる隕石に向かって全ての力を投げ込んだ!

「ゴゴゴゴゴ!!!」

 火人の最大エネルギーが炸裂し落下した隕石を吹き飛ばしていく。

 同時に僕は力を放出した影響でみるみると小さくなっていく。意識が遠のく。

 死…

 それが頭をよぎる。

 次の瞬間、僕の意識は完全に途切れたー


 目が覚めた時全てが終わった後だった。僕は生きている。遠くから声が聞こえる。

「あなたの死に場所はここではない。それは預言で判っていたの。本当の意味で火人が人間と手を取り合うためにはあたしたちが闘わなければならない」

 僕は答える。

「あたしたち?」

「そう。火人はあなただけじゃない。あたしも火人なの。あなたは全てのエネルギーを使い果たし一度は死にかけた。でもあたしのエネルギーを使って蘇生させた。これは契約よ。あたしと共に火人を救う闘いに協力しなさい」

 再び意識が遠のいていく。

 生き残った僕らの役目は火人いう人種を人間たちに認めさせることなんだろう。逃げ道はない。贖罪の道だけが広がっている。僕は決意を固め再び混濁する意識の薄れに身を委ねていった。

〈了〉

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