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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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33.山入 = 崖登り


「うわ〜すごい崖だね。確かにこの崖は、明るくならないと登れないよね」

ハルは緑色の崖を見上げながら呟いた。


真夜中にモスグレイ山の麓に到着した後、そのまま一行は馬車の中で朝まで過ごした。

確かにこんな崖地では、緊急事態であったとしても、ルビー救助は朝まで待つしかなかっただろう。


――朝までぐっすり眠ったハルは、目覚めた時にその話を聞いただけだったが。




いよいよ出発という時になって、ハルはオルトロスの目を見て注意をする。


「いい?オルトロちゃん、久しぶりの帰省だからって、はしゃいで勝手にどっかに行っちゃったらダメだからね。

今日どんな友達と会っても連れて帰る事はできないんだよ。これはセージさんとの約束だからね。もし約束を破った時は、当分おやつは抜きになるから気をつけてね」


ハルは朝から散々セージに注意された事を、オルトロスにもしっかり注意しておく。




『分かってくれたようだな』とそんなハルを見ながら、セージはハルに声をかけた。


「ハル、これだけの崖地だ。オルトロスに乗っても、しっかり掴まらないと落ちてしまうだろう。

僕が抱えてもいいが……いざという時にはオルトロスを使役出来た方がいいからな。セルリアン、君がハルを運んでくれないか?」

「分かった。引き受けよう」


この崖地はハルには危険すぎると判断したセージが、セルリアンにハルを任せる事にした。

セージとオルトロスは、万一ハルと双子に危険があった時に救えるよう、後方に付いてくれるらしい。


道なき崖地を進む順は、「カーマイン、ターキー、セルリアンとハル、ミルキー、双子、セージとオルトロス」で決まった。

ハルを護る手厚い順番決めのようだ。



「今はまだ階段のような崖だが、次第に崖も荒くなってくる。ハルが無理せず行けるところまで進んで、その先はセルリアンを頼ってほしい」


セージに崖を登るコツを教わったハルは力強く頷く。


「私だってやる時はやるってところを見せるよ!昨夜は馬車でよく眠れたし、今ならどこまででも登れそうな気がするんだ!」

「ハル様、さすがです!」

「格好いいです!」


双子に褒められて、ハルは「よし!」と気合いを入れた。

ひと足先にカーマインとターキーが登っている。ハルは彼らを真似して付いていくだけでいい。


「じゃあ行くよ!」と元気に声をかけて、第一歩を踏み出す。




――踏み出すつもりだった。

だけど第一歩目の足をかけなければいけない所が高すぎる。ハルの胸の所までの高さがあるのだ。


岩に手をかけてジャンプをするが、身体が持ち上がらない。ググッと手に力を込めて身体を持ち上げようともするが、それでもやっぱり無理だった。


「オルトロちゃん!オルトロちゃん、後ろから押して!早く!落ちちゃう!」

「ハル様頑張って!」

「もう少しですよ!」




双子がハルを応援するが、手を伸ばして岩に張り付いたままのハルは全く一歩目を踏み出せないようだった。


下手に手を出しては危ないと、オルトロスを止めていたセージはセルリアンに声をかける。


「……悪いが抱えてやってくれないか?ハルは掴まる力も弱いから落とさないように気をつけてほしい」

「……見れば分かる」


世界的に有名な英雄の一員である黒戦士は、ひょいと軽く跳べばいいだけの崖も登れない者だった。








「うわ〜すごいね、リアンさん。人を抱えたまま崖を登れる人なんて見た事ないよ。すごいね!懸垂300回くらい出来ちゃうんじゃない?」

「普通に出来るだろ?」


『何当たり前の事言ってんだ?』というように言葉を返されて、ハルは信じられない者を見るような目でセルリアンを見てやる。


まるで軽いものを持つようにハルを抱えて、危なげなく崖地を進めるような奴は、身体能力レベルの認識が非常識レベルのようだ。

ここはハッキリと分からせてやった方がいいだろう。



縦抱きに持ち上げられているハルは、セルリアンの肩に手をかけてぐっと姿勢を伸ばし、後ろに続くミルキーを肩越しに覗き込んで声をかけた。


「ミルキーさん、聞いた?この子懸垂300回も出来るって言ってるよ」

「私もそのくらいなら……」

「え!300回だよ!」

「え、ええ……」


遠慮がちに答えるミルキーに嘘は見られない。

信じられない者を見る目でミルキーを見ると、ミルキーに続く双子がハルを慰めた。


「ハル様、300回は私も難しいですよ」

「私もですよ」


双子の言葉にハルは勇気づけられる。


「そうだよね!懸垂なんて3回出来ればすごい方だよね!私だって1回も出来ないのに。懸垂できる子なんてそう滅多にいないよね。ね、パールちゃん、ピュアちゃん」


それはさすがに誰でも出来るとは言えない双子は、話題を変える。


「ハル様、安全な場所に着いたら休憩しましょうね」

「だいぶん高くまで登ってきましたからね」

「そうだね。すごく景色が良いよね。さすがオルトロちゃんの生まれた山だよ」


機嫌良く答えたハルに、双子はホッとして微笑んだ。





確かにだいぶん高い所まで登ってきた。

セルリアンの肩越しに下を見下ろすと、クラクラしそうに高い所にいる。

もしここでセルリアンの気を悪くさせて投げられたら、ハルは終わりだろう。

マラカイト国の街で投げられていた男が、どんな地雷を踏んだのか確かめておかなくてはいけない。



「ねえ、リアンさん」

「なんだ」

「街で男の人を投げてたでしょう?何があったの?」

「ああ、あいつらか。鬱陶しく絡んできたから投げてやっただけだ」

「そっか」


どうやらセルリアンに鬱陶しく絡む者が、投げられる対象になるようだ。

ハルはそんな事をしたりしない。



ホッと安心して、セルリアンの肩越しに目が合ったミルキーに世間話を始めた。


「ミルキーさん、もしこんな高い所から投げられたら、バラバラになっちゃうだろうね。あちこちに飛び散った私は、全部は拾いきれないかもしれないね」


「ヒッ………!ハル様、そんな恐ろしい事を言わないでください……」


「大丈夫だよ。鬱陶しい事を言わなかったら安全だから。……あ。パールちゃんとピュアちゃんが手を振ってくれてる。みんな!もう少し頑張ろうね!」



抱えられながら崖を登って行くことに慣れてきたハルは、後ろに続く者達を応援しながら、ミルキーに鬱陶しい話題を振っていた。







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