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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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26.観光船から見える山


グラナート山は、ゴツゴツとした赤い岩肌が高くそびえ立つ荒々しくも美しい、威厳さえ感じられる山だった。


ハルは、愛するケルベロスの住んでいた山に目を奪われて呟く。

「ケルベロちゃんの山はカッコいい山だね……」


「本当に。神々しさをも感じます」

「ケルベロス様に相応しい山ですね」

しみじみと女子達は語る。



ゆったりと船が山沿いを過ぎていくと、赤い山肌に代わって今度は緑の山肌が現れた。

緑のゴツゴツとした岩肌が剥き出だしの山は、なだらかな形状を描く雄大さを感じさせる山だった。


「あれ?途中から色が変わってるね」

「グラナート山は、マラカイト国のモスグレイ山に続きますからね」

「え?それってオルトロちゃんの山?」

「はい。山続きなんですよ。なのでケルベロス様の生誕の地が争われているのです」


双子の説明に、『そういう事か』とハルは納得した。

もしかしたらフォレストは緑の国のモスグレイ山から、赤い国のグラナート山までケルベロスを追いかけたのかもしれないし、ケルベロスがグラナート山にたまたま出かけていたのかもしれない。


ハルはケルベロスの生誕の地よりも、ケルベロス本人を愛する派なので、どちらで生まれたかという点にあまりこだわりはない。愛する二匹がいた場所ならば、どちらも愛すべき山だった。

「ふうん」と答えて、雄大なモスグレイ山の景色を楽しんだ。



またゆったりと船は、モスグレイ山沿いから離れていく。

ほうとため息をついたハルは、改めて船の上を見渡して、船の売店を見つけた。


「あ!お店がある!パールちゃん、ピュアちゃん、見に行こう!ミルキーさんも見に行ってみる?ここで休んでおく?」


「船上の者に邪気は感じられないので、私はここで今回の報告書を書いておこうと思います。どうぞゆっくりお店をご覧になってきてください」


「分かった!私も戦士さん達に後で手紙を書こうかな。

……あ。宛先が分からないから無理かな」


「宛先は分かっていますよ。私が宛先を書いた封筒を用意しておきましょうか?そこに手紙を入れてくだされば、後で一緒に送りますよ」


ミルキーが提案してくれた言葉に、ハルは頷く。


「そうしてくれると嬉しいな。ありがとうミルキーさん。じゃあお店を見てくるね!」


ハルは元気に立ち上がって、双子と売店ショッピングを楽しむ事にした。





「わあ!グラナート山クッキーだって!いちごクッキーにいちごチョコがけしてる。モスグレイ山クッキーは、抹茶クッキーに抹茶チョコがけだって!」

「二つの山それぞれの、イラスト入りポストカードもありますよ」

「ケルベロス様のイラスト入り便箋見つけました」

「オルトロス様の便箋もありますよ」

「それは絶対買うしかないよね」


グラナート山とモスグレイ山を眺める事が出来る観光コースつきの船は、売店がとても充実していた。

ケルベロスとオルトロス由来のお土産をたっぷり買って、みんなへの手紙と一緒に送る事にした。




お嬢様の接待を任せてしまった英雄戦士達と、ハルの行動を認めてくれたドンチャ王子と、それからいつも話を聞いてくれるアッシュにも手紙を書くことにする。


ドンチャ王子への手紙はミルキーの報告書と共に、アッシュへの手紙は双子が騎士団に送る手紙と共に入れてくれるという事だ。

『今度ピサンリさんにも手紙を送らなくちゃ。メイズさんに住所を聞いとかなくちゃね』と、時折りひよこパンを真空パックで送ってくれる、ピサンリの事も思い出す。


手紙とお菓子を送る相手を思い浮かべて、ハルはこの世界に来てから、ずいぶんたくさんの大切な人が出来た事に気づく。

元の世界の友達は、いつでも会える距離にいたわりにほとんど顔を合わせる事はなかったし、たまに短いLINEを送り合う程度の付き合いだった。


「最近どう?」

「普通かな」

――そんなやり取りだった。


「また近いうちお茶しようよ」

思いついたように届く、挨拶代わりの「近いうち」という誘いにスタンプを返して、会った気分にさえなっていた。


遠く離れたこの世界の人との方が、よほど頻繁に連絡を取っていると言えるだろう。


考えてみれば。

英雄達のようにずっと一緒に過ごす人も、双子のように会うたびに盛り上がる人も、見ていて心配になって世話をつい焼いてしまうミルキーのような人も、会えないけど話したくなるアッシュやドンチャ王子のような人も、元の世界にはいない。


この世界に確実に馴染んでいっている事に、時々ハルはこうして気付かされていた。




便箋を目の前にして、少しボンヤリしてしまったようだ。

双子が心配そうにハルの顔を覗き込んでいた。


「ハル様?お疲れですか?」

「あ、少し考え事してただけ。大事な友達が出来て良かったな、って思って。

元の世界には、パールちゃんとピュアちゃんくらい仲良くしてた子はいなかったからね」


「私達もハル様と仲良くなれて嬉しいです」

「私達もハル様が一番大好きですよ」


へへへとハルが笑うと、双子も嬉しそうに笑い返してくれた。






ハルは今もお嬢様達の接待をしているだろう戦士達を思い浮かべながら手紙を書く。



『 戦士さん達へ


お嬢様のおもてなし、楽しめましたか?

私はマラカイト国行きの観光船に乗ってしまったので、パールちゃんとピュアちゃんとミルキーさんと一緒に、このままマラカイト国で休みを過ごそうと思います。

また休みが終わる前にドンちゃんに確認して集合場所に向かいますね。

みなさん、良い休みを過ごしてね。


波留 』



ハルは書き終えた手紙を折りたたもうとして、大事なことを書き忘れた事に気づく。

本当に大事なことだ。

急いで「追伸」という言葉を添えて書き足した。


『 追伸 フォレストさんへ

ケルベロちゃんをマラカイト国まで連れてきてくれませんか? オルトロちゃんと待ってます 』


最後に二匹のオルトロスの顔を書いて、「待ってるね」と吹き出しに囲って、オルトロスの言葉として伝えることにした。

これを見ればケルベロスも、オルトロスに会いたくなるに違いない。

完璧な手紙が完成した。



英雄達に手紙を書き終えてから、他のみんなにも最近の出来事を書き綴った。

ミルキーもドンチャ王子への報告書を仕上げている。

双子はエクリュ国の家族宛にも手紙を書いているようだ。

皆が静かにカリカリと手紙を書き続けているうちに、船はマラカイト国へ到着した。


二度目の緑の国への旅となる。




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― 新着の感想 ―
ハルは、手紙をバリアスカラー国語で書けたのか? 無意識に騒動起こしてしまうの、毎度読み進めるの楽しい。
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