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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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25.思わず出国


「あ、あそこ。船の形したカフェがあるよ。あそこで少し休もう?」




クリムゾン国一の大富豪のお嬢様達の邪念は、とても強いものだったようだ。

ログハウスを出てしばらく歩いても、ミルキーはいつもより弱々しく見えたし、双子も顔色が悪く、三人共どこか足元がおぼつかない。

「大丈夫ですよ」と話す白戦士達が、どう見ても大丈夫そうには見えなかった。


目が霞むのか、みんながしきりに瞬きをしているのを見て、ハルは怖くなった。

「街に出てお医者さんに診てもらおう?」とかける声が震えてしまう。



「パール、ピュア。ここは無理せず、近くのお店に入って休みましょう……」

「そうですね。何か飲みましょうか」

「少し休めば元に戻りますよ」


『このままではハル様にますます心配をかけてしまう』と、白戦士達は体調を戻すことを優先する事にした。


その言葉に、ハルは急いで周りを見渡してお店を探す。

そして見つけたのが、川べりに浮かぶ船の形のカフェだった。





「何名様ですか?」

「四人です。温かい紅茶を四つお願いします」

「ではあちらのお席にどうぞ」


カフェに入ると人数を確認されて、テラス席に案内される。

適当に入ったお店にしては椅子も豪華で、ゆったりと落ち着いて座れる席だった。

ハルは白戦士達が目をつぶって椅子に腰掛けている様子を、注意深くじっと眺める。


そのうち温かい紅茶も運ばれてきて、しばらく座っているうちにみんなの顔色も戻り、双子がふうと息をつくと改めてハルに謝った。


「ハル様、もう大丈夫です」

「本当にすみません」


「あまりにも強い邪気に当てられてしまいました。私もまだまだですね。本当に申し訳ありません……」

ミルキーも頭を下げる。


「謝ることじゃないよ。みんなひどい病気じゃなくて良かった……」


ホッと安心した途端に、ポロリと涙が落ちてしまう。

恥ずかしくて俯くと、白戦士達がハルを褒めてくれた。


「だけどさっきのハル様、とても格好が良かったです」

「あんな怖そうなお嬢様に注意が出来るなんて、さすがハル様は英雄様ですね。とても強そうでしたよ」

「確かにハル様の勇気は素晴らしかったですね……」



「パールちゃんもピュアちゃんもミルキーさんも、大事な友達だからね」

白戦士達に口々に褒められて、ハルはグスッと鼻をすすってへへへと笑った。





「これからどうしますか?」とミルキーに尋ねられて、ハルは少し悩んだ。

今あのログハウスに戻りたくはなかった。


「あそこには戻りたくないな……。でも昨日ドンちゃんに「今日はお願いします」って言われてたから、事情だけ伝えとこっか」

「そうしていただけると助かります……」


オークション落札者ご招待日は今日だ。チャリティーイベントの全てが終わったわけではない。

ドンチャ王子からもお願いされたイベントである以上、ハルがログハウスを出た事は王子に報告するべきだろう。




ハルは魔法のカバンからタブレットを取り出して、ドンちゃんアプリを開く。

「もしもーし。ドンちゃん、そこにいますか?」


ハルの呼びかけにパッとドンちゃんの顔が映る。

「ハル、どうした?落札者の接待に何か問題があったのか?」


ドンチャ王子の問いかけに、ミルキーが代わって事情を伝えてくれた。




「そうか。それは大変だったな」

「ごめんね、ドンちゃん。おもてなししないで家を出ちゃったよ」

「いや、その場で白戦士を庇えるのはハルだけだっただろう。確かに落札者はチャリティーの貢献者だが、人格に問題ある者を無理にもてなす必要はない。良い判断だった。

接待は英雄様達に任せて、ハルはこのまま白戦士達と休暇に入ったらいい。

白戦士達もご苦労だった。」


ドンチャ王子はそう答えてくれた。


「良かった。あんな子達にはもうみんなを近づけたくなかったんだ。ありがとうドンちゃん」

「お気遣いありがとうございます……」

「ドンチャヴィンチェスラオ様、ありがとうございます」


ドンチャ王子の判断に安心して、ふうと息をついてハルは顔をあげた。


顔をあげて違和感に気づく。


周りの景色がさっきと変わった気がした。

変わったどころか、景色が静かに移動している。


「あれ?なんかこのカフェ移動してない?」

「え?」「えっ?」

「ああっ!」


ハルの言葉にみんなも周りを見回して異変に気づく。


「ハル様、海に出てますね……」

「これ、船だったんだね」


船の形のカフェだと思って入ったカフェは、カフェ併設の船だった。

ハルはあまりにも焦っていた上に、涙でボヤける景色に、周りが見えていなかった。

白戦士達も、強い邪気と強い香水で目がかすんでいたので、周りがよく見えていなかったと話している。


「船だね……。もう陸が遠いね……」

「そうですね……」


あまりにも驚き過ぎて、ぼんやりと静かに動く景色をただただ眺める事しか出来なかった。






「ミルキー、どこへ向かってる船なんだ?確認してくれないか?」

呆然とする中、ドンチャ王子に声をかけられたミルキーが動いた。


船の乗組員に確認して、この船はこのまま隣の国のマラカイトに向かう船だと分かった。

マラカイト国。

――フォレストの出身国だ。


ハル達が乗った船は、クリムゾン国の沿岸沿いをぐるっと回って、グラナート山を眺める事が出来る観光コースつきの観光船だった。




「グラナート山って、ケルベロちゃんが住んでた所だよね。遠くからでも見れるの嬉しいな」

「私もグラナート山は見たこともないので楽しみです」

「もうすぐ見えてくるそうですよ」


楽しそうに双子と話すハルに、ドンチャ王子が言葉をかけた。


「マラカイト国に向かってるんだな。セージ戦士に連絡しておくから、ハルは港でそのまま待機してくれないか?」

「わざわざお迎えなんていいよ。私の方がセージさんの家に向かうよ」

「いや、セージ戦士を待ってほしい」

「そう?じゃあお願いしようかな。あ!オルトロちゃんも一緒に来てね、って伝えてね!」

「分かった。必ず伝えるから、そのまま動かないように」


ドンチャ王子に念押しされてハルは頷き、アプリを閉じた。





「オルトロちゃん、元気かな?あ。オルトロちゃん用の美神ブラシ渡さなきゃ」

思いがけずオルトロスと再会出来ることになって、ハルは浮き浮きと嬉しくなってくる。



「あ。ハル様、あそこを見てください」

「あ!あれ、グラナート山じゃない?」

「見えてきましたね」


ハルと双子は見えてきた大きな山を指差しながら、キャッキャッとはしゃぎ始めた。




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