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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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21.サイン会


サイン会の流れは、

『①参加希望者は会場入り口の浄化ゲートをくぐる。

 ②会場前の販売所でイベント限定本を購入する。

 ③推し戦士のレーンに並んで本にサインをもらう。』

というものだった。



双子がハルに更に詳しく説明してくれる。


「①の浄化ゲートの時点で、かなりの人数が絞られるはずです」

「②の限定本は、神絵師による英雄戦士の揃ったポストカードつきらしいですよ。私も買うつもりです」

「③では、サインと一緒に握手を求めてもいいそうですが、ハル様の手は、私達が必ずお守りしますね」


「私と握手したい人なんているのかな?それより限定本って、さっきもらったこの本だよね。

……うわあ。このポストカード、みんなと一緒に並んで描かれたら、私だけすごく小さい人みたいじゃん。もっと背が高く描いて欲しかったな……」


悲しくなって呟くと、双子が「ハル様はとても強そうに描かれてますし、大きく見えますよ」と慰めてくれた。

久しぶりに会った双子は、相変わらずハルに優しかった。






サイン会が開かれるホールに移動すると、広いホールには英雄達が立つ場所ごとにテーブルが置かれていた。

ハルのテーブルはホールの一番奧だ。

フレイムが、『参加者を怖がったハルの逃走防止のために』と、最奥をハルの場所に指定したらしい。


「逃走なんてするわけないじゃん」

最奥という場所に不満はないが、逃走疑惑をかけられて、ハルはむうっと不満を見せつけてやった。




いよいよホールの扉が開かれる。


参加者達のざわめきが扉越しに聞こえてきて、ハルは少し怖くなってきて、双子とケルベロスの側にピッタリと寄り添った。


会場スタッフの手によって扉が開かれた。

どどっと人が押し寄せてくるかと思ったが、意外にも参加者達は落ち着いた様子で会場入りしてきた。


「みんな静かな人たちで良かったね」


「ドンチャヴィンチェスラオ王子が、ここでの態度に強く注意を呼びかけていましたからね」

「ハル様を驚かせる者は即退場なんですよ」


ハルがホッとして双子に話しかけると、理由を教えてくれた。

どうやらドンチャ王子の配慮があったようだ。


「私はそこまでチキン野郎じゃないよ」と、ハルは双子に強気な姿勢を見せてみた。






英雄ファン達が、予想通りハル以外のレーンに次々と並んでいく。

ハルは誰一人いないレーンを気にする事なく、しばらく行儀よく会場を眺めていたが、そのうち立ってる事に疲れてきた。

何もしないで立っているだけというのは、足が疲れるのだ。


「ケルベロちゃん、休憩しよう」とケルベロスに声をかけて、ケルベロソファーで寛ぎながら皆の様子を眺める事にする。テーブルの上に用意された冷たいジュースを飲むと、ひと仕事終えた気分になった。

『今日はよく頑張った』と、自分自身を労わってあげる。


「ふう。仕事の後の冷たいジュースは格別だね。このジュース、ドンちゃんが用意してくれたのかな?やっぱりマンゴー濃いめのトロピカルドリンクは最高だよね」

「確かに美味しいですよね」


双子は一緒に座って休む事を遠慮したが、ハルの側に立って楽しそうにハルのジュース休憩に付き合ってくれた。


「女の子にダントツ人気は、マゼンタさんとフォレストさんだね。女子率100%じゃん。

メイズさんは女の子も多いけど、大柄な男の子も多いね。あの子達も料理人なのかな?」

「おそらくそうでしょう。討伐に参加する料理人は、調理器具や食材を持ち運びするような力仕事がありますからね」


ハルと双子は、それぞれの英雄のレーンに並んでいるファンを見ながらおしゃべりする。


「見てあそこ。フレイムさんとシアンさんの所。意外だね、半分くらいが男の子じゃない?男子にも人気なんだね」

「剣を握る者にとって、目標となる方ですからね」


「でもあれ握手っていうより、手を払ってるよね。バシバシ音が鳴ってるじゃん。あれ絶対痛いやつだよ。女子の握手も男子と同じなんて酷くない?本当に女の子にも厳しい子達だよね」

「だけど女性の方も皆さん嬉しそうですし、大丈夫じゃないでしょうか」


バシッ、バシッと手を振り払ってるようにしか見えない握手だが、確かに女子達もウットリとした顔で、赤くなった手をもう片方の手で大事に包み込んでいる。


英雄達は誰もハルの事を見ていないが、ハルは握手のお手本を見せてあげることにした。


ハルは「握手会の握手はこうだよ」とパールの手を両手で包んで、良い握手というものを披露した。

「いつもありがとう」という言葉も添えてみる。

ピュアも「私もお願いします」と手を差し出したので、ピュアの手も両手で包んで三人の握手会が開かれた。


じっとハルを見つめるケルベロスの肉球もきゅっと優しく掴んで、「いつも可愛くてありがとう」と声をかける。





「そういえばミルキー騎士団の騎士様たちも、フレイムさんとシアンさんに憧れてるのかな?」

「エクリュ国は聖力が剣の力とされますから。ミルキー様が皆の憧れとなってますよ」

「ミルキーさん、良かったね」

「え……はい……」



急に話を振られたミルキーが、戸惑ったように返事を返して、遠慮がちにハルに声をかけた。


「あの……テーブルの後ろでケルベロス様に座るより、少しケルベロス様とお離れになって、立ってみてはいかがでしょうか……」


「え?あ、そうだよね。立ってると疲れるよね。ミルキーさんもこっち座りなよ。ここ、ケルベロちゃんのケロのとこ」

「あ、いえ……席を譲ってほしいわけではなくて……」

「遠慮しないで、ここでジュース飲みな。お腹が空いてるならクッキー持ってきたよ」

「あの……いえ……」




異世界から神に呼ばれ、前の神託討伐で活躍を見せ、さらに神と対話をしたハルにも当然、熱狂的なファンが付いている。

邪な心を持つ多くの者は強力な浄化ゲートを前に弾かれてしまったが、それを越えて来た者も、ハルの側に寄り添うケルベロスに怯えて、近づく事も出来なかった。

ファンは皆、ハルのレーンの入り口から前に進めないでいる。


ハルが立っていれば、それでも姿だけは見えていたが、英雄サイズのテーブルの後ろで座ってしまうと、ハルの姿は完全に隠れてしまう。


遠目でもいいからなんとかハルを見たいと、距離を取りながらもこちらを窺う様子の参加者が不憫で、ミルキーはハルに声をかけたが、上手く伝わらなかった。


双子は、遠巻きに見てくるだけのハルのファンの事など気にならないようだ。自分達だけの握手会が出来て、満足そうにしている。



ミルキーは、切ない目で『せめて黒戦士に立ってもらえるようにしてください』と懇願するような念を送ってくる参加者達の声なき声に、キリキリキリキリと胃が締め付けられるように痛み始めていた。




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