16.神託討伐に必要なレベル
ガチャガチャと鍵を開ける音がした後、バンとログハウスの扉が開く。
戦士達が元気に帰ってきたようだ。
「みんなお帰りなさい。遅かったね。ご飯の準備出来てるよ。先にお風呂にする?」
テーブルのセッティングをしていたハルが玄関に駆け寄って、討伐帰りの戦士達に新婚さんのような言葉をかけて迎えた。
「……ああ」
帰ってすぐに、シアンに討伐をサボった事を怒鳴ってやろうと思っていたフレイムは、ついウッカリときめいて大人しく返事を返してしまう。
「じゃあお風呂から上がったらすぐにご飯に――あ!ルビーちゃん、カーマインさん、血だらけじゃん!」
話している途中、ハルは幼馴染二人の服が血まみれになっている事に気がつく。
ひどく疲れて見えるけど、痛がったり苦しんだりしている様子はない。すでにマゼンタの治癒を受けているようだが、血が付いている服を見ていると痛々しかった。
「ルビーちゃん、二階に上がってすぐ右手の部屋がフレイムさんの部屋だから。お風呂の後は、部屋にある適当な服を着てね。
カーマインさんはフォレストさんの服サイズになるかな?フォレストさんの部屋はフレイムさんの隣の部屋だから、先にお風呂を使わせてもらったらいいよ。その間にフォレストさんが服を用意してくれるから」
勝手に場を仕切り出したハルに、フォレストは言いたい事はあったが、今は余計な揉め事をするには疲れ過ぎていた。
フレイムも、ルビーに自分の部屋を使わせたくはなかったが、あまりにも血まみれなルビーをハルの部屋や双子が使う部屋に通すことがためらわれた。
大人しくハルの指示に従って、二階に足を運ぶことにする。
「おい、ルビー。勝手に服を使うのはいいが、とっととシャワー浴びて部屋を出て行けよ。それまで廊下にいるから」
「ケルベロちゃん、お帰り!!今日はいっぱい遊べた?先にお風呂にしよう!」
歩き出しながら、フレイムは「部屋に二人きりではない」アピールを忘れなかったが、ケルベロスに夢中なハルには聞こえていないようだった。
「みんな今日は大変だったね。すごく強い魔獣がたくさん出たの?後で討伐リストをメモするから教えてね。写メ撮っておかないと」
お風呂の後も、どこか疲れた様子を見せる戦士達にハルは声をかける。
「……今日の討伐の話は後だ。メシが不味くなる」
「そっか。なんか凄惨な報告があるんだね。それは確かに後にした方がいいよね。せっかくの美味しい料理が台無しになっちゃうし。
シアンさん、今日のご飯もすごく美味しいよ!」
ハルの言葉に、にこやかにシアンが応える。
「ありがとうございます。口に合うようで良かったです。今日の夕食はハルも手伝ってくれましたしね」
「野菜を洗って、横で味見してただけだけどね」
「調味料も取ってくれたりしてたでしょう?」
『楽しそうじゃねぇか』と、フレイムは苛々していた。
今、今日のシアンの勝手な行動を話し出したら、料理を投げつけてやりたくなるに違いない。
午後の討伐は最悪だった。
いくら以前の討伐で、幼馴染達がフレイムと同じ隊を組んでいたといっても、今は相手にする魔獣のレベルが通常のものとは違う。
神託の討伐では、カーマインとルビーの腕は素人レベルだ。何度も大怪我を負う二人に、マゼンタはほぼ付きっきりだったし、メイズも討伐組に入ったが、シアンの代わりになるほどの剣の腕があるわけではない。
ケルベロスはハルがいないからか、そこまで従順ではないようで、フォレストも苦戦していた。
どうやらあの森で逃走した時の影響が残っているようだった。
さすがにフレイム一人では、五人分のフォローをしながら討伐を進める事は出来なくて、今日の討伐は、大した成果を見せないままに時間だけがかかっていた。
「カーマインさん、ルビーちゃん、討伐はどうだった?」
「……嫌味か?今日は久しぶりの大物で調子が出なかったんだよ!」
ハルの問いかけに、苛々した様子でカーマインが強がる。
「そっか。そうだよね、初日だもんね。徐々に慣らしていけば大丈夫だよ。明日はきっと今日より上手くいくよ」
「え……いや、今回限りの約束だし」
ハルの言葉にカーマインは動揺を見せる。
さすがに今日は自分の実力不足を痛感させられていた。なんとかこうして無事生還できたのは、運もあったし、マゼンタの治癒のおかげだった。
明日討伐に出る事になったら、次は命の保証がない。
「そんな約束なんて気にしなくていいよ。せっかくフレイムさんに会いに来たんだし、今回の討伐の進行も早いくらいだから、ゆっくり遊んでいったらいいよ」
「いや、泊まる場所もないし、迷惑かけたくないからな」
「迷惑なんて誰も思ってないから安心して!ログハウスの部屋も広いし、空き部屋もあるから、ここに泊まったらいいよ。
討伐記録は、後でメモを撮っておけばいいから気にしないで」
「いや、それは……」
どうにか断りたいカーマインを、ハルはぐいぐい推していく。
「ルビーちゃんも、私の隣の部屋を使ったらいいよ。ゆっくりしていってね。明日は怪我しないように気をつけてね」
「いや、黒戦士の隣の部屋を使うなんて畏れ多くて……」
「そんな事ないよ。気にしないで使ってよ」
「いや、着替えも要るし……」
「フレイムさんの服、たくさんあるから大丈夫!」
「いや……」
どうにか断りたいルビーも、ハルはぐいぐい推していった。
ルビーも、今日の討伐で英雄達との力の差を、カーマイン以上に痛感させられていた。
今日生還出来たのは、マゼンタが特にルビーを気にかけてくれて、致命的な傷を受けてもすぐに応急処置をしてくれていたからだ。
あんな化け物みたいな魔獣の相手は、二度とごめんだとルビーは思っていた。
なんとしてでも黒戦士の押しに流される訳にはいかなかった。
ルビーと押し問答をしているハルに、シアンが話しかける。
「ハル、一人で留守番は危ないから、私も残りましょう」
「本当?じゃあ明日もオセロをしよう!」
「いいですね。またお茶も淹れますよ」
楽しそうなハルとシアンの会話に、ケルベロスが明日もハル不在で討伐に連れて行かれると感じたのか、グルルルと唸り出して戦士達を威嚇しだす。
「あ、ケルベロちゃん、ブラッシングは夕食の片付けが終わってからだよ。今はご飯の時間だから、ケルベロちゃんもしっかり食べな。
ケルベロちゃんも今日はたくさん頑張ったね、今日のブラッシングは、スペシャルブラッシングコースだよ」
ハルの声かけに、ケルベロスは大人しくご飯を食べ出した。




