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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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10.本から得るもの


「あ。メイズさん、フォレストさんの豆は少なくしてあげてね」


夕食のシチューをよそっていたメイズに、盛り付けられた料理を運ぶ手伝いをしていたハルが声をかけた。


「豆?」

「フォレストさんは豆があんまり食べられないんだよ」

「そうなのか?」

「うん。豆を食べる時、泣いちゃう時もあるみたい」


自分の名前が聞こえて、テーブルの席についていたフォレストがハルを見る。


「それ僕も覚えてない頃の話ですよ。いったい誰からそんな話を聞いたんですか?」

「本で読んだんだよ」

「本で……?」

「うん。この前行った本屋さんで、付録付きの『貴公子フォレストとその一族』って本を買ったの。私、今ならセージさんの事だって何でも答えられるよ」


ハルは少し自慢げだ。




今日は「あまり休んでばかりいると体が鈍る」と、街から少し離れた地で鍛錬するフレイムとシアンに、ハルも付いて行った。


討伐ではないので、ケロとベルとスーをひとりじめ出来たハルは、三匹にボールを投げたり、走る競争をさせたりして遊んだ後は、ケルベロソファーにもたれて魔法のカバンに入れていた本を読んで過ごした。


ハルが今日読んだ本は、『貴公子フォレストとその一族』だ。


『英雄戦士大百科』より薄い本だから、という理由で先に読み始めたのだが、なかなか興味深い本だった。読み始めると止まらず、ハルはフォレストの本を最後まで読破した。


ケルベロスやオルトロスの格好いい挿絵がいくつか入っている、とても良い本だった。

フォレストと出会ったばかりのやんちゃなケルベロスの挿絵も、オルトロスと喧嘩を始めそうな雰囲気の睨み合う迫力ある二匹の挿絵も、ハルにとって『if』の世界観があってまた良い。

全てをポスターにしてほしいくらいの、神がかった素晴らしい挿絵付きの本だったのだ。



「貴公子?……いやそれより、僕の本を選んでくれたのですね」

「うん。すごく良い本だったよ。他のフォレストさんの本も今度買いに行こうかな」

――他のケルベロスとオルトロスも見てみたい。


ハルの言葉にフォレストは微笑んで、ハルに言葉をかけた。


「本なんて買わなくても、僕に聞いてください。なんでもお答えしますよ」

「え〜〜〜。直接聞いたら、ケルベロちゃんとオルトロちゃんの挿絵が見れないじゃん」

「………」


『そんなの楽しみがないじゃん』と語る顔のハルを見て、フォレストは選ばれたのはケルベロスとオルトロスだった事を知る。


「はい。これがフォレストさんのお皿だよ。みんなより豆を減らしてくれてるね。豆は体に良いから、よそわれた分はしっかり食べな」


はい、とハルが差し出したお皿をフォレストは大人しく受け取った。



「そんな幼少期のエピソードまで入っていたのですね……」

ため息交じりのフォレストに、ハルが尋ねる。


「フォレストさんは自分の本を読んだことがないの?フォレストさんの本だけでも、色んな本が売ってたよ」

「自分の事を好き勝手に書いてあるような本もありますからね。基本的に見る事はないです」


ハルはその言葉に、料理を運ぶ手を止める。


「そうなの?本当の事だけ書かれてるものじゃないの?」

「中には偽りだらけの物もありますよ。ですから本の内容そのままを鵜呑みにしないで、気になる事は聞いてくださいね」



ハルは今日読んだばかりのフォレストの本の内容を思い出す。


「フォレストさんが学生時代、国の剣術大会で優勝連覇したのは本当?」

「ええ、それは本当ですよ」


「そっか。フォレストさんが「剣で優勝」っていうのが意外に思ったけど、本当だったんだ……。学年主席で卒業した事は?」

「それも本当ですよ」


世界の英雄である今と比べれば、学生時代の事など些細な栄誉ではあるが、それでもハルに知ってもらうには嬉しい情報だった。

フォレストはにこやかに先を促す。


「他には何か書いてありましたか?」

「あ。『マラカイト国の初恋泥棒』っていう通り名を持ってるのって本当?」

「………え?」


戸惑うフォレストに、ハルは言葉を重ねる。


「本にね、『物腰が柔らかく誰にでも親切な彼は、今なお多くの女性を魅了し続けている』って書いてあったよ。『婚約者の心を奪われた男達の言葉』っていうコーナーもあったし」

「それは………」


言葉につまるフォレストに、さらにハルは追い討ちをかける。


「最初の彼女のミントちゃんと、五番目の彼女のリーフちゃんもインタビューに答えてたよ。『彼はとても素敵な人でした。彼とは今でもいいお友達です』って。アイビーちゃんは『今でも彼を忘れられない』って話してるけど……。オリーブちゃんとオパールちゃんは妹みたいな存在なんだよね」


「五番目のリーフって誰ですか……それにオパールは親戚の子ですよ」


嘘と真実が混じり過ぎて、フォレストはどこを否定したらいいのかが分からない。

だからといって彼女暦なんかをハルに説明したくもない。


フォレストは窮地に立たされて黙り込んだ。





黙るしかないフォレストを眺めながら、戦士達は口を引き結んだ。


「俺の本も読んでみろよ」とか、「私の本も今度お渡ししましょう」とか、「僕の料理が載ってる本もあるぞ」とか。


他の戦士達はフォレストの本を買ったハルに、自分の本も勧めようと思っていた言葉を呑み込んでいた。

――ひとり、最初からプライベートな過去をハルに読まれたくない女好きはいたが。


余計な情報は墓穴を掘るだけだ。どこに地雷が含まれているか分からない。


『明日近辺の本屋を回って、自分の本を買い占めて処分しておかなくては』と、戦士達は考えていた。





『黒戦士ハルが滞在する地の本屋は、戦士本の売り上げが驚異的に伸びる』


それは定説となって、後にハルは『本屋の女神』という通り名を持つことになる。


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