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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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08.神がかりのイラスト


「戦士服のハル様……素敵です!」

「とても強そうですよ!」


パールとピュアが、『黒戦士ハル〈特別付録付き〉』の付録のハルのイラストを見ながら褒めてくれた。

黒戦士服を着たイラストのハルは、まるで写真のようだが、少しキリリとした顔をしている。

――確かに本物よりも強そうだ。


「本当だ。私に似た、私より強そうな子だね。ケルベロちゃんとオルトロちゃんのイラストも、本物よりちょっと強そうだよ。良かったね、格好よく描いてくれてるよ」


ハルは、壁に貼ったポスターをケルベロスに見せながら、「良い子だね」と優しく撫でた。


「ハル様の黒戦士服イラストは、手帳サイズなので手帳に入れて持ち歩きますね」

「私もお守りにします」


普段だったら全力で阻止したいところだが、『ちょっと格好よく描かれてる私なら』と、双子の言葉にハルは素直に頷いた。


そしてハルはいよいよ『英雄戦士大百科〜ドキドキくじイラスト付き』の本の、付録に付いていた薄い箱を手に取る。


「じゃあ、最後にくじイラストを一緒に開けてみよう!

えーとこの箱を開けて……あ!大当たりだって!『色をまとう英雄戦士』ってタイトルだよ」


箱を開けると、まず「大当たり」の説明書が目に入った。大きく書かれた「大当たり」の文字の下に、作品名が書いてある。

浮き浮きとした気分で大きなポスターを広げてみると、英雄戦士達のセリフ付きの等身大イラストが表れた。





フレイムがベッドに寝転びながら、「こっちに来いよ」と誘ってくる。

その下には、マゼンタがソファーに横たわりながら、「あなたも遊んであげるわ」と色目を送ってくる。

さらにその下には、野原に肘をついて寝転んだフォレストが、「君を捕まえたい」と言ってくる。


どうやら『色をまとう英雄戦士』というのは、『お色気戦士』だったようだ。

左側は三人の横割りカット、右側は二人の縦割りカットの構成で攻めてくる。


縦割りカットのメイズが、シャツのボタン全開で「出来たよ」と料理を差し出してきて、その横ではシアンが、シャワー後に水を滴らせて「君には冷静でいられない」と訴えてくる。



しばらく呆然とポスターを眺めていたハルだったが、「これはハル様の部屋には相応しくないですよ」と双子に声をかけられて、ハルも頷いた。

確かにこんなポスターが部屋に貼ってあったら落ち着かない。


「でもせっかくの大当たりだし、他の場所に貼っておこうかな」と、双子に協力してもらって、大きなポスターはリビングの壁に貼り付けてみた。





「……これは何ですか?」

リビングを通りかかったシアンに声をかけられて、読んでいた本からハルは顔をあげた。


どうやら貼られたポスターが気になったらしい。

シアンの後ろでは、メイズまでもポスターを眺めている。



「これ?買った本に付いてた、くじ付録なんだ。大当たりだったんだよ!」


くじ運の良さを自慢したハルは、改めてポスターを見ながら二人に声をかけた。


「シアンさん、お風呂から上がったらちゃんと身体は拭きなよ。まだボタボタじゃん。

メイズさんもちゃんとシャツのボタンは閉めておきな。二人とも風邪引くよ」


「………」

「ハル、僕はこんな格好で料理はしない」


黙ったシアンが剣を抜いて、シュッと自分の部分を切り取ると、メイズも近くに置いてあったカッターで、スッと自分の部分を切って持って行ってしまった。


その後ハルがリビングを離れて戻った時には、残りの三人のポスターも消えていた。





「大当たりだったのにな……」

夕食の席でポツリとハルが呟くと、フレイムに睨まれた。


「テメェ、変なポスター貼ってんじゃねえよ」

「あれを当たりだと喜ぶ人がいるなら、さすがに気持ち悪いですね」

「全てのポスターの販売自体を止めるべきね」


横割りの三人の言葉が手厳しい。


「悪くないポスターもあるよ。ケルベロちゃんとオルトロちゃんポスターは、ケルベロちゃんだって喜んでくれたんだから」

「そうですね。私もハル様のイラストは良いと思います。『黒戦士くじイラスト付き』の本では、『お帰りなさい』シリーズのハル様でしたし」


「お帰りなさい」とセリフをつけたハルが、回転焼きを差し出しながら微笑んでいるイラストを、パールがみんなに見せている。


「回転焼きはやっぱりおかしくない?」

「これはエクリュ国バージョンですからね。これは国に戻った時に、私の部屋に貼っておくつもりです。これを貼っておけば、仕事の後に癒されそうです」


「私のマラカイト国バージョンの、緑のマカロンを持った『行ってらっしゃい』シリーズも良かったですよ。私もこのイラストで、仕事の前に元気をもらいますね。


ピュアもイラストを出して見せた。

黒戦士服バージョンと一緒に手帳に入れてくれたらしい。


マカロンを持ちながら「行ってらっしゃい」と言う状況がよく分からないが、自分のそんなイラストを欲しがる者などいないだろう。

双子だけが、世の中で唯一『ハルのポスターを喜んでくれる人』になるという確信がハルにはあった。



ピュアが見せてくれた、マカロンを持つハルのイラストの手首には、ブレスレットが光っている。

それはフレイムとシアンからのプレゼントだったものだ。

――ずいぶん前に消えてしまった物であるが。


「極細のブレスレットまで描いているなんて、すごく細かく観察されてるよね。じゃあアザレ国バージョンのイラストが出る時は、このネックレスが描かれてるのかな?」


ハルが首にかけているネックレスを手で上げて見せると、パールとピュアが頷く。


「そうかもしれないですね。今日食べたいちごパフェを持っているかもしれませんね」

「本を持っているかもしれないですよ」

「自分の本を持っているところだったら、ちょっと恥ずかしいかも」




楽しそうに盛り上がるハルと双子達を、シアンは意外な気持ちで見ていた。


ハルが買った『白い国の黒戦士』をシアンも読んだが、その本はたくさんのエクリュ国のハルの日常のイラストで埋められていた。

ハルは、普段自分達に見せる事はないようなオシャレをしていて、その隣にはアッシュがいた。もちろん双子も描かれているが、圧倒的にアッシュの方が多いように見えた。


この苛々する気持ちをどこにぶつけてやろうかと思っていたが、ハルは今も身につけているアッシュの腕輪よりも、自分の贈ったネックレスを口に出した。



スーッと禍々しいほどの怒りの魔力を消していくシアンを見ながら、他の戦士達は『面倒くさい八つ当たりに巻き込まれずに済んだな』と思いながらも、ひとり勝手にハルにネックレスを贈ったシアンに苛々とさせられていた。





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― 新着の感想 ―
大当たりのポスターリビングに貼られてみんな謎に辱しめられてるの面白い! ハルはしれーっとボケてて皆を翻弄して振り回してるの楽しいけどされる側だとつらいかも いや、思い通りにいかない所も面白れー女枠では…
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