07.快適な討伐帰り
「みんな、お疲れさまー!ケロ、スー、凄くカッコ良かったよ!ベルと一緒に応援してたのに気付いてくれた?」
討伐が完了した様子を見て、ハルが皆に駆け寄る。
その行き先は1/3ケルベロス一直線だ。
そんなハルを冷めた目で見ていた青戦士のシアンが、ハルに声をかけた。
「クロイハル、ケルベロスはあくまでも討伐の補佐です。ちゃんと他の戦士の動きは記録してますか?後世の資料として残る物ですよ。自覚を持ちなさい」
昨夜に続いてハルに説教してくるシアンに、ハルが口を尖らせる。
「皆の動きは全て記録してるよ。当たり前でしょ?このタブレットがあれば、指一つでカメラ機能で撮影出来るんだから。ほら見て、みんな映ってるでしょう?」
ハルがシアンにタブレットの録画記録映像を見せると、シアンが黙り込んだ。
「……何も見えませんが」
「マジか〜。他の人はどう?」
皆に次々と画面を見せるが、誰も見えないのか全員首をひねっている。
「ちゃんと撮ってるのに…これじゃ私が仕事をしてても証明出来ないじゃん」
つまらない気持ちになったが、証明出来ないものはしょうがないと割り切る事にする。
私がタブレットを使えるように、使える誰かがそのうち現れるだろう。
自分は、与えられた仕事はキッチリこなしたい派なのだ。更に自分は、日本人らしい協調性の塊だと思っている。だから今までどんなバイト先でも可愛がってもらってきた。
ハルはそう自負している。
「まあいいや。私は真面目なタイプだから、証明出来なくても周りが認めてくれるから」
「……」
討伐組の戦士達が、ハルの言葉に黙り込んで冷たい目で見てきたので、ハルは冷たい目で見返してやった。
コイツら何よ。ちょっと討伐出来るからって調子に乗りやがって。目に見える成果だけが実績じゃないのに。
国宝級美貌のイケメンだからって何なのよ。
――もうこんな奴らを相手にする必要はない。
「行こう、ケロ、ベル、スー。合体の時間だよ。みんなで帰ろう」
プイと横を向いて、使役者のフォレストを差し置いて勝手にケルベロスに指示を出す。
ケルベロスは戸惑ったように使役者のフォレストを見るが、フォレストは諦めたように頷いておいた。
三頭が一頭に戻る。
一頭の姿に戻る様子を見届けてから、ハルはケルベロスがどこにも違和感が無いか、接合した部分も撫でてしっかりと確認した。
そしてケルベロスの背を少し低めてもらって、背中によじ登る。それから座り心地を確かめるように何度か身体を動かしてから、落ち着く姿勢を見つけた。
だらしなくソファーにもたれながら、ハルが皆に声をかける。
「さあ、そろそろ帰るよ」
『お前が仕切るな』
戦士達はそう言いたいが黙っていた。
初日の討伐は皆の勝手がまだ掴めず、いつもより疲れている。
『指ひとつ動かしただけで、ただソファーに座っていただけのクロイハルとは違う』
そう言ってやりたいが、言って下手に機嫌を損なわせて、ゴネられるのも今は面倒だ。
そんな思いで、皆何も言わず歩き出した。
「ケロ、ベル、スー、だよ、ケロベルスーだよ、ケルベロスー♪」
ハルのよく分からない言葉を話し出す。
「それは何か意味のある詠唱ですか…?」
使役者フォレストが、ケルベロスという言葉が気になりハルに尋ねる。
「これ?カエルの歌に合わせると、ケルベロちゃんに丁度いいでしょう?ケロケロケロケロって歌ったら、不公平だからね、ちゃんとみんなの名前を入れてみたんだ。この歌も結構奥深くって、地域によって色んな歌い方があるみたいだし、それならここではケルベロ歌詞認定でいいかな、って思って」
「……」
『意味のない言葉だったか』
カエルの話が何を意味しているのかサッパリ分からないが、それを尋ねる元気もなく、黙ってフォレストは歩き続ける事にした。
そのうちハルはケルベロスの上で眠り出した。
ハルに言葉をかける者は誰もいなかった。
宿に戻り、皆がそれぞれの部屋で少し休んだ後、再び食堂に集まり夕食を取る事になった。
ガヤガヤと賑やかな食堂で、また今日も桃戦士マゼンタと黄戦士メイズに挟まれてハルは食事を取っていた。
出された食事に文句も言わず、もぐもぐと口を動かすハルに、料理担当のメイズが問う。
「クロイハル。明日から野営に入って、僕が食事を用意する事になるが、アレルギーがあって食べられない物とかはないか?」
「好き嫌いもアレルギーもないけど、食べられない物はたまにあるかな」
「……?それは嫌いだから食べられないんじゃないのか?」
「違うよ。食べたらお腹を壊しちゃうんだ。酷い時だと三日くらい寝込む事があるくらい。いつも後から『あれは食べられない物だった』って気づくんだよね」
その時の事を思い出したのか、ハルが嫌そうな表情になる。
『それはこの世界にもある物だろうか』
そんなハルを見て、メイズは確認を取らねばと更に質問を重ねる。
誰か一人でも討伐中に体調を壊されたら、他の者にも影響が出てしまう。
「それはどんな特徴のある食べ物だろう?」
「特徴というか、私の手料理でたまに凄いのが爆誕してね……。不思議なんだけど」
「……」
黙ったメイズに、明るい声でハルが言葉をかける。
「黄戦士さん、ご飯の用意は手伝うね。六人分の準備なんて大変でしょう?私一人分でもすごく時間かかったし、料理の事は少しは分かってるつもりだよ。討伐撮影は、タブレットで固定すればいいだけだし、私も動けるから」
「クロイハルは撮影記録に集中しなさい。自分の仕事は何なのか、しっかり自覚するように」
少し離れた席から、青戦士のシアンが声をかけてきた。
『イケメンのくせに、本当に細かいヤツ』
ムッとした顔で、シアンに言い放つ。
「青戦士さんには絶対料理を作ってあげないから」
「それは助かります」
即答されて、ハルはイライラとした気持ちで、目の前の蒸したジャガイモにフォークを突き刺した。