04.全員参加のパジャマパーティー
ハルのタブレットはドンチャ王子の執務室の水晶玉に繋がっている。
その水晶玉から、ハルとダフニーがヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
「キャッ。マゼンタ様までが私の事を見てるわ。マゼンタ様も私を狙っているのかしら?」
「ダフニーちゃん、マゼンタさんには気をつけな。あの子は相当の女好きだよ」
「私、遊ばれちゃうの……?」
聞こえてくる会話が、やはりおかしい。
『宿泊にはやはり反対するしかないな』とドンチャ王子は考えるが、出来れば「命令」ではなく、ハル自身に納得してもらいたい。
だけど癖のありそうなダフニーは、ハルにとってケルベロスを可愛がるようなものなのかもしれない。
そうなるとハルを納得させるのは容易ではない事がうかがえた。
どうしたものかと頭を悩ませたが、ハルをゴネさせる事なく反対するのに、ちょうどいい人物がいる事に、ふと気がつく。
「ハル、ミルキーがそこに向かうのはまだ先になりそうだから、ひと足先にパールとピュアをそこに向かわせたんだ。二人から報告も入っているし、もうじきそこに着くだろう。
実際にダフニー嬢と会う事になるパールとピュアに、宿泊の判断に任せようと思う。ハル、二人の意見は私の意見だと思って必ず聞いてほしい」
ドンチャ王子は、仲のいい双子の言うことなら、ハルも素直に言葉を受け入れるだろうと、言葉を告げた。
「え、パールちゃんとピュアちゃんが今から来るの?」
そうハルが言葉を返した時、ログハウスの扉が叩かれる音がして―――ハルと双子が再会を喜ぶ声がドンチャ王子の耳にまで届いた。
『タイミングよく着いたようだ』と王子は安堵する。
「パールちゃん、ピュアちゃん、紹介するね。この子は今日友達になったダフニーちゃん。
すごく可愛くて良い子なんだ。パールちゃんとピュアちゃんも絶対好きになるはずだよ。
今日はみんなでパジャマパーティーしよう!」
「ダフニー様、とても素敵な名前ですね。仲良くしてくださいね」
「本当に可愛い方ですね」
「可愛いだなんて……キャッ!恥ずかしいわ」
ドンチャ王子のもとに水晶玉を通じて、キャッキャッと盛り上がる女子達の声が聞こえてくる。――ひとり男の声が交じっているが。
どうやら双子はダフニーに、邪な気は感じなかったようだ。双子が認めるならば、良き者だろうとドンチャ王子は、ひとまず安堵する事にした。
「ドンちゃんも、ダフニーちゃんが素敵で可愛いらしいって思ってるみたいだね」
「王子様が……?私、お妃様に選ばれちゃうの……?」
「ダフニー様はドンチャヴィンチェスラオ王子を魅了されているのですか?」
「うん。そう言ってたよ」
聞こえてきたハル達の声に、「それは双子の意見であって、私の意見ではないぞ」と急いで伝えるが、盛り上がる女子達にドンチャ王子の声は届かない。
戦士達は『誰かはこのおかしな流れを止めるだろう』と、黙って静かに皆の様子を見守っていたが、ドンチャ王子も双子もハルを止めることができなかった。
もはやダフニーの宿泊は決定事項となったようだ。
しかし双子が一緒とはいえ、男をハルの部屋の中に入れるわけにはいかない。
『ならば』と、フレイムがハルに声をかけた。
「部屋の中でのパジャマパーティーは禁止だ。やるならこのリビングにしろ。俺たちも参加する。
代わりにダフニーのパジャマはメイズが貸すから。体格が似てるから着れるだろう?」
「フレイム、勝手に決めるな」
フレイムの独断にメイズは異議を唱えたが、結局渋々ながらも了承した。
確かに大柄なダフニーの体格は、自分の服のサイズが一番近い事は明らかだ。不本意だが、こんなところでゴネていてもしょうがないと諦めた。
メイズのパジャマを受け取るやいなや、嬉々としてパジャマを着て見せたダフニーが、「メイズ様、似合うかしら?」と照れながら自分に話しかけてくる。
「メイズ様のパジャマって、大きいのね。ほら、ちょっと袖も長いし、ズボンの裾もだいぶん折らなくちゃいけないの」
何かを伝えたそうにダフニーが上目づかいでじっと見つめてくる。
それほど背の高さが変わる訳でもないのに、そんな上目づかいは不要だろう。パジャマが大きいと言っても、それほどの違和感がある訳でもないし、ズボンの裾を折るのは、単にスタイルの違いだ。
「……何が言いたいんだ?」
「もうっ!女の子にそんな事聞いちゃう?これって普通キュンキュンくるシチュエーションでしょう?」
プンとダフニーが頬を膨らますと、女子達が盛り上がった。
「わあ!ダフニーちゃん。守ってあげたい系の女子になっちゃったね!」
「本当に!ちょっとブカッとする服が女子力高めてますよ!」
「彼シャツですね!」
――ハルと双子が怖い事を言い出した。
「え〜〜もうヤダ〜〜」
頬をおさえて照れるダフニーに、メイズは熱い眼差しを送られるが、メイズはそっとダフニーから視線を外した。恐怖を感じるアプローチというものが存在する事を、思い知らされるようだった。
他の戦士達は、ダフニーの関心がメイズに向けられた事に安堵しながら、「私もパジャマに着替えてくるね!」と張り切って自室に戻るハルを見送った。
結局、パジャマパーティは開かれなかった。
ハルがお風呂に入って、双子と一緒にパジャマでリビングに戻ると、ダフニーはソファーで眠っていた。
ゴォォゴォォとイビキをかきながら気持ちよさそうに眠っている。
「ダフニーちゃん、寝ちゃったんだ。朝早くから狩りに出てたって言ってたし、疲れちゃったんだね」
「ハルが部屋に行ってからすぐだったぞ」
「狩りで生計を立てているなら、生活のリズムを崩さない方がいいでしょう。このままここで寝かせておきましょう」
「ハルももう寝ろ。今日は双子と一緒の部屋にいろよ。鍵はシッカリかけて、絶対に部屋から出るなよ」
戦士達が口々にハルに言葉をかけてくる。
「そうだね。ダフニーちゃんを起こすより、ここでゆっくり寝てもらった方がいいよね。
みんなも部屋に鍵をかけておきなよ。絶対に部屋から出ちゃダメだからね。ダフニーちゃんに選んでもらえるように、紳士でいなよ」
「紳士でいなよ」というところで、マゼンタをじっと見つめるハルに、マゼンタが不満げな声になる。
「ちょっとハル、私を何だと思ってるの?私はダフニーは遠慮するわ。私は可愛い女の子が好きなのよ」
「ダフニーちゃん可愛いじゃん」
「よく分からないわ……」
ハルはマゼンタを戸惑わせて、双子は気持ちよさそうに眠るダフニーに毛布をかけて、その夜はそのまま解散となった。