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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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03.魔性の女


「美味しい!私はお肉って丸焼きしかした事がないし、こんな素敵なお料理は初めて食べたわ。

噂には聞いていたけど、メイズ様って本当に料理がお上手なのね」


『きゃっ!言っちゃった!』というように恥ずかしそうにダフニーが、赤く染めた頬を抑える。

――日に焼けた肌なのであまり分からないが。


「丸焼きした肉とは、帰り際に齧っていたやつか?あれクマ科魔獣の肉だろう?ハルに会ったのは狩りの帰りだと言っていたが……まさか一人で食べたのか?」


メイズの言葉に、ダフニーがプンと頬を膨らませる。


「もう!メイズ様ったら、それって「よく食べるな」って言ってるの?女の子にそんな事言わないで!」



「よく食べる女の子は素敵だよ、ダフニーちゃん。『もうお腹いっぱい』って少食女子アピールする子より、断然好感度高いから」


ダフニーを慰めるハルの、あまり減っていない料理の皿を見て、メイズがハルに注意をする。


「ハルはもっとしっかり食べろ。ダフニーの面倒ばかり見て、ハルの食が進んでないぞ」

「もうお腹いっぱい……」

「早く食べないからだろう?」


次々とお皿を空にしていくダフニーが気になって、料理の皿を新しいものに取り替えていく作業を頑張っていたハルは、メイズに叱られた。






戦士達は食事をしながらダフニーに、「何をしている者なのか」とか「帯剣してないがどうやって魔獣を倒したのか」とか「どこに住んでいるのか」とか「恋愛対象の性別はどちらだ」とか、様々な質問を重ねた。


いきなりハルが連れてきたダフニーは、戦士達にとって怪しいしかない者だ。

素性を探らずにはいられない。


質問の答えは、ダフニーを男だと示すものばかりだった。


「狩りで生計をたてている」という答えからは、男だと言い切る事は出来ないが、男でなければ「その辺にある木や岩で、魔獣を殴り倒す」ような野蛮な狩りはしないだろう。

――男であっても出来るものではないが。


恋愛対象は、「放っておけない感じの人って胸キュンするわ」と答えられて、性別までは分からないが、少なくともハルには当てはまる。

少なくともハルは「放っておいて大丈夫」な者ではない。


戦士達はダフニーを、「ハルに近づけてはいけない人物」と判定した。



「みんなダフニーちゃんの事、知りたくてたまらないみたいだね。ダフニーちゃんは魔性の女の子なのかも」

「やだ……私、誰を選べばいいのかしら……?」


戸惑いを見せるダフニーに、戦士達も戸惑いを見せ、『早くダフニーを帰らせるべきだ』と判断したフレイムが立ち上がって、扉を指差した。


「もう夜も遅い。ダフニー、そろそろ帰れ」


「ダフニーちゃん、外は暗くて危ないから、ケルベロちゃんと送ってあげるよ」

ハルが元気よくダフニーに声をかける。


「ハルはここで待ってろ。見送りが必要なら俺が送ってやるから、早く立て」


「きゃっ!フレイム様と二人きりなんて……」

「フレイムさん、ダフニーちゃんを襲わないでよ」



ダフニーとハルの言葉に、フレイムの額に青筋が立つ。

やたらとダフニーに構いたがるハルに苛々するが、さらに苛々させられる会話が返ってきた。


黙るフレイムに気づかず、ハルがダフニーに提案する。


「ダフニーちゃん、今日ここに泊まったら?私の隣の部屋が空いてるし」

「「「はぁ!?」」」


戦士達が一斉に声をあげる。

「待て。勝手に決めるな」

「そうですよ。さすがに泊めるのはダメでしょう」

「ハル、このログハウスは王家が用意したものだ。勝手に部外者を泊めるのはダメだ」


「え〜〜。みんなだって前のログハウスに女の子連れ込んでたじゃん」


最後のメイズの言葉にハルが反論すると、皆は黙った。




それまで黙って聞いていたシアンが、静かにハルに声をかけた。


「ハル、確かに()()()()皆は女性と同居していましたが、同居する事によって建物に穢れが付いたでしょう?

前例がある以上、外部の者を家に泊める時はドンチャヴィンチェスラオ王子に確認を取るべきです。宿泊の是非は、王子に判断してもらいましょう」


「自分()()はクリーンな女性関係だ」とアピールするシアンに戦士達はイラッとしながらも、『ダフニーを退けてハルの反感を買う役割は、王子に負ってもらおう』と、シアンの意見には賛同した。



ハルもシアンの意見を聞いて納得できたので、早速ドンちゃんアプリを開いて王子に呼びかける。


「もしもーし、ドンちゃん。そこにいますか?」


ハルの呼びかけにドンチャ王子が応える。

「ハル、久しぶりだな。元気そうで何よりだ。何かあったのか?」


「あ、うん。聞きたい事があってね。ねえ、ドンちゃん。今日アザレ国で友達が出来たんだけど、このログハウスに泊めてあげてもいいかな?

すごく良い子でね、もっとお話ししたいんだ。ダフニーちゃんって言うんだよ」







「ダフニー?」

『男のような名前だな』とドンチャ王子は思った。


「うん。ちょっと待ってね。スピーカーモードにして、みんなで話せるようにするね。ダフニーちゃん、この画面に映ってる子がドンチャ王子だよ」


「画面?何も見えないけど……。もしもし、王子様ですか?私、ダフニーと申します。今日ハルちゃんと友達になった者です」


ハルに代わって聞こえる声が、男にしか聞こえない。

「男性なのか?」


「違うよ。ダフニーちゃんは女の子だよ。ハスキーボイスで格好いい女の子なんだ」

「やだぁ、ハルちゃんったら」


うふふふと笑うダフニーの声が野太い。

声しか聞こえないが、相手は男に間違いないだろう。


「ハル、まだ知り合ったばかりの者だろう?ダフニー嬢がそうだとは言わないが、泊めるには危険がないとは言い切れない。他の英雄達もそう判断したから、私のところに連絡させたのだろう?」



ただ性別が「男」というだけで、相手を退けるのは良くないとは思うが、よく知らない怪しげな者をハルに近づけすぎる訳にはいかない。

ドンチャ王子は、ハルに宿泊の断りを促す。



「確かに危険はあるよね。みんなダフニーちゃんを狙ってるもの。大丈夫だよ、ダフニーちゃん。私とケルベロちゃんで、ちゃんと戦士さん達から守ってあげるから!」


――聞こえてくるハルの言葉がおかしかった。


「ハルちゃん、ごめんね。まだ英雄様達とは知り合ったばかりだし、誰を選んだらいいか決められないの」

「ゆっくりみんなを知っていったらいいよ。今日みんなの色んなこと教えてあげるね」


いつの間にかダフニーの宿泊が決定されている。


聞こえるハルの声が弾んでいる。

おそらく、ダフニーという者をとても気に入ったのだろうと思われた。


『英雄達は自分が反対してハルの反感を買わないよう、私に判断を振ってきたな』


勘のいいドンチャ王子は、自分に連絡が来た経緯を察してしまう。





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