02.桃色の国での出会い
「私はダフニーっていいます。あの……あなたは黒戦士様かしら?黒髪なんて初めて見たわ。とても神秘的ね」
「あ、うん。私は黒戦士やってるハルだよ。ダフニーちゃんの髪も可愛いピンク色だね」
ふわふわのベビーピンクの髪のダフニーは、とても逞しい身体つきの大柄な女の子だけど、繊細な心を持っているようだ。
野太いハスキーボイスだけど、話し方が自信なげで、なんだか助けてあげたくなってしまう。
庇護欲そそる、とはこういう事をいうのだろうか。
「ダフニーちゃんはこんな所で何してたの?そっちは森でしょう?暗くなると、魔物とか魔獣が出るかもしれないし、危ないよ」
「この辺では魔物は出ないから大丈夫よ。夕食に魔獣を狩ってきただけなの。おウチで捌くと汚れちゃうから、森で捌いて焼いてきたところなんどけど、お腹が空いたから、だいぶん食べちゃって……あとこれだけしか残ってないの」
ハルに説明しながら、ダフニーは悲しそうに焼けた肉の塊を懐からガサゴソと出して見せた。
――確かに大柄なダフニーには、少なすぎるように感じた。
『それよりも』と、ハルはマジマジとダフニーを眺める。
ダフニーは魔物を森で狩って捌いてきたらしい。
心はピュアな少女のようだが、なかなか逞しく生きているようだ。
そんなダフニーには好感が持てる。
ハルだって、帯剣する戦士の端くれだ。
――光るだけの剣を魔法のカバンに入れている、というだけだが。
「そっかぁ……残念だね。このお菓子も食べなよ、ダフニーちゃん」
ハルは魔法のカバンからお菓子とジュースを取り出して、ダフニーと野外お茶会を始めた。
「キャッ!ハルちゃん!素敵!!」
ハルが光をキラキラと煌めかせて、ステッキ剣の浄化魔法の踊りを披露すると、ダフニーは目を輝かせて褒めてくれた。
アッシュに補充してもらった魔力はすでに切れかけているので、剣を光らせるのは「ここぞという時だけ」と決めている。
出会って間もないダフニーだったが、彼女だったら喜んでくれそうな気がして、ハルは張り切って剣の舞を披露した。
「えへへ。剣は光るだけで、使えないんだけどね」
ハルは手放しで褒められて、照れ笑いする。
「そんな事関係ないわ!ハルちゃんは素敵よ。物語の中の魔法少女みたいだったわ」
「……本当に?」
「ええ!思わず心の中で、「闇の力よ、お下がりなさい!」って唱えちゃったわ」
ウフフと笑うダフニーが可愛い。
「その決めゼリフ、すごく格好いいね」
ハルも釣られて笑い合った。
女子同士のおしゃべりに盛り上がっていたら、もう日が傾きかけている。
「ねえ、ダフニーちゃん。私のログハウスにこのまま遊びに来ない?ログハウスに料理が得意な子がいるんだ。夕食うちに食べに来なよ」
「え……いいの?突然お邪魔して、ご迷惑じゃないかしら?」
遠慮を見せるダフニーが奥ゆかしくて、好感しかない。
「大丈夫だよ!本当に美味しい料理を作ってくれるんだよ。私もダフニーちゃんともっと話したいし、ダフニーちゃんが迷惑じゃないなら、ぜひ来てほしいな」
「……ありがとう、ハルちゃん。私ももっとハルちゃんと話したいわ」
ハルの強い誘いに、恥ずかしそうにダフニーが頷いた。
ダフニーと二人でケルベロスに乗って街の方へ戻ると、フォレストがすぐにハルを見つけてくれた。
さすがケルベロスの使役者だ。
ハルがケルベロスに、「フォレストさんが呼んでも返事しちゃダメだよ」と注意していたせいで、今まで探し出せなかったようだが、近くに来るとさすがに魔力が繋がってしまうらしい。
フォレストの呼びかけで戦士達が集まったので、ハルは怒られる前に話題を逸らす事にした。
まずは友達の紹介だ。
初対面の子がいれば、すごい顔で怒っている戦士たちの怒りも、少しは落ち着くだろう。
「みんな、紹介するね。さっき友達になった子で、ダフニーちゃんって言うんだよ。
あ、ダフニーちゃん。この子達は、私の戦隊仲間なんだ。フレイムさんとシアンさん、フォレストさんとメイズさんとマゼンタさんだよ」
「ハル。テメェ、どういう―」
「あ、メイズさん。ダフニーちゃんも一緒に夕食食べる約束したんだ。メイズさんの料理はすごく美味しいからって私が誘ったんだよ」
「オイ、ハル―」
「あ、ダフニーちゃん。この子がフォレストさん。ケルベロちゃんのお父さんだよ」
フレイムの声に被せて必死に話をするハルに、メイズとフォレストとマゼンタがハルを庇ってくれた。
「フレイム、もう良いだろう?帰って夕食の支度をしよう」
「そうですね。ハルも無事見つかった事だし、どこかにログハウスを立てましょう」
「こっちの方に良い場所があるわよ」
フォレスト達がハルを庇い出してくれたのを見て――
ハルはスッと三人の後ろに移動する。
そんなハルを見て、フレイムは大きなため息をついて見せたが、それ以上何も言うことは無かった。
どうやらハルは怒られる危険を免れたらしい。
ふうとハルは息をつく。
「……どこでそんな男と知り合ったんですか?」
それまで黙っていたシアンが静かにハルに尋ねた。
「……男?シアンさん、何言ってるの?ダフニーちゃんは女の子だよ」
ハルの答えに、戦士達が口々にハルに言葉をかける。
「ハル、本気で言ってるのか?どう見ても男だろう?」
「ハル、そいつは男だ」
「女性には見えないでしょう?」
「ハル、よく見てごらんなさい」
戦士達の言葉にダフニーが俯くのを見て、ハルが声を荒げた。
「ちょっと!ダフニーちゃんに酷いこと言わないでよ!ダフニーちゃんは女の子だよ?みんな節穴すぎるよ!」
「いいの。ハルちゃん。私って背が高いから、どうしても男に見られちゃうのよ……」
ズズッと鼻をすすりながら話すダフニーの声は野太い。
「ダフニーちゃん、泣かないで。この子達、本当に酷いよね。ダフニーちゃんはこんなに可愛いのに。本当に節穴な野郎どもだよ。こんな悪口、気にする事はないからね」
「ハルちゃん……」
ハルに返すダフニーの言葉は相変わらず野太いし、「背が高いから男に見える」じゃなくて、大柄で骨太い体格は、どこから見ても男でしかない。
ハルがどこを見て「可愛い」と言うのか、戦士達には分からなかった。
だけどハルはケルベロスさえ、「見た目から可愛い」と普段から話している。
節穴すぎるハルに、戦士達の常識は通じない。
『そういえばマゼンタも女だと思い込んでいたな』と戦士達はハルの過去を思い出す。
『認めておかないと面倒だろう』
――戦士達はごねるハルの未来が見えて、ハルの主張を受け入れる事にした。
「……悪かったな。言い過ぎた。確かに俺たちの目は節穴だったようだ」
戦士達みんなを代表して、フレイムが謝っておく事にした。