01.新しいログハウスと、桃色の国
また新たに始まった討伐の旅は、以前以上に快適なものになっていた。
滞在場所となる討伐用ログハウスが新調されたのだ。
以前のログハウスは、祓いきれない穢れがあるとの事で処分されたらしい。
新しく用意されたものは、以前よりも建物が大きくなって、獣舎も建物の中にある。
黒戦士ハルの、夜中の獣舎への脱走防止策としての建物内への設置のようだった。
設置理由が「脱走防止」だなんて、まるでハルが何度も脱走したかのような物言いだったが、ケルベロスがいる獣舎が同じ建物なのは喜ばしい事だ。
ハルは大人の対応を見せて、フレイムからの失礼な説明を聞き流してあげる事にした。
建物の造りは、一階は獣舎と二部屋、そして広々としたリビングルーム併設のダイニングキッチン。
二階は五部屋だ。
一階の奥が獣舎で、その隣をハルの部屋として設計してくれている。
「獣舎で寝ないように」と配慮されて、ハルの部屋はケルベロスも余裕で入ることが出来るくらいに広い。
以前より格段に快適仕様になっていた。
一階のハルの隣の部屋が空いているために、国宝級美貌の戦士達の部屋割り時は、かなり揉めた。
どう見ても二階がメンズ戦士達の部屋だと思うが、ケルベロスの使役者であるフォレストが、ハルの隣の部屋の入居を当然のように名乗り出ると、他の戦士達が異論を唱えたのだ。
揉めている戦士達を他人事のように眺めていたハルに、フレイムが「埒が明かないから」と決定権を渡してきた。
「ハル、隣部屋に入る者は誰がいい?お前が選べ」
赤いヤツに面倒な案件を投げつけられて、正直隣の住人なんて誰でも良かったハルは、「隣の部屋は女の子がいいな」と、無難な言葉を返しておいた。
隣の部屋を使うのは、パールとピュアが遊びに来てくれた時くらいになるだろう。
――これ以上ないくらいに無難な答えだった。
こうして国宝級美貌の戦士達五人は、全員二階部屋となった。
それは新しい討伐旅が始まった初日の話である。
ハルが白い国に滞在している間に、戦士達は相当の実力を付けたのか、以前より順調にサクサクと討伐が進んだ。
あっという間に最初の拠点の討伐を終え、戦士達は次の討伐までの期間を、最寄りのマゼンタの故郷――アザレ国で過ごす事にした。
討伐のない期間は、ミルキーと双子のパールとピュアが、ハルの護衛につく事になっている。
タブレットでアッシュにアザレ国に向かう事を話したが、あまりに早く討伐を終えたせいか、ミルキーの都合がしばらくつかない事を伝えられた。
どうやら今いる場所から動く事が難しいらしい。
「そっかぁ。パールちゃんとピュアちゃんにすぐに会えないのは残念だけど、アザレ国で待ってるね。
ミルキーさんには、『急がなくても大丈夫』って伝えてね。このログハウスはすごく大きいし、戦士さん達みんなが遊びに行っても、私はケルベロちゃんと部屋で遊んでられるから」
リビングで、タブレットのアプリを通じてアッシュと話すハルを見ていたシアンが、言葉を挟んだ。
「ハルには私が護衛につくから大丈夫ですよ。ミルキーさんにもそう伝えてください」
フレイムも言葉を挟む。
「俺もつくから、白戦士の護衛は予定通りの日程でいいぞ」
二人の戦士の申し出に、ハルはブツブツと小さな声で不満を呟いてやった。
「え……。この二人が護衛になれるわけないじゃん。この子達、自分の国宝級の美貌を自覚してないわけ?嫉妬の嵐を向けられるのは私なのに」
「あぁ?なんか言ったか?」
呟くハルに、赤いヤツが威嚇してくる。
『鏡を見なよ』と言ってやりたいが、ハルは大人になって、ふうとため息をついてやるだけにしておいた。
「まぁケルベロちゃんもいるし、アッシュさんの魔法のステッキ剣もあるから大丈夫だよ」
「ハル様にとってその剣は、光るだけの剣となりますから、気をつけてくださいね」
「そうだね」
へへへと笑ってハルはタブレットを閉じた。
そんな経緯があってアザレ国に入った訳だが。
桃色の国のアザレ国は、なんだかとてもピンクな国だった。
「キャア!マゼンタ様よ!お帰りなさ〜い!」
「見て!フレイム様だわ!素敵です〜!」
「フォレスト様よ!こっちを向いてくださ〜い!」
「メイズ様〜!付き合ってくださ〜い!」
「キャッ!シアン様に睨まれたわ!素敵!」
女の子達が熱い。桃色の髪をした女の子達が、頬をピンクに染めて声援を送ってくるのだ。
おまけに両手の親指と人差し指でハートを作って見せてくる。
「なんか女の子達が、可愛いポーズしてるよね」
逃走防止に、『街の中ではケルベロス禁止令』を再び出されて、ベルに乗ったハルがマゼンタに話しかけた。
「うふふ。女の子は可愛いわよね。ハル、後でみんなを紹介するわね」
「それはいいかな」
――即行で断りを入れる。
マゼンタとの会話は取り留めのないものだったが、二人が話す姿を見た女の子達の歓声が一際高くなった。
「キャ―!イヤ―!!マゼンタ様〜!」
「イヤ―!!そんな女と話さないで〜!!」
「キャ――!!」「イヤ――!!」という大絶叫に、ハルがビクッと身体を震わせる。
『ピンクの国はきっと恋の国だ!』
今まで以上の危険を感じて、ハルはケルベロスに指示を出す。
「ベル!行こう!ケロ、スー、合体だよ!走りながら行くよ!」
ハルの指示に従って、ケロとベルとスーは一匹の大きなケルベロスとなって、ハルを乗せて逃走した。
「オイ!テメェ!待ちやがれ!!」
「ハル!止まりなさい!」
「ケルベロス!止まれ!」
すでにはるか後ろの方で戦士達の声が聞こえたが、ハルは聞こえないフリをして、さらにケルベロスに指示を重ねた。
「ケルベロちゃん、絶対止まっちゃダメだからね!危険だから私と一緒に行こう!」
『本当に国宝級美貌の戦士達なんかと並ぶと、ロクな事がない!』
ハルは騒ぎが落ち着くまで、どこかで隠れている事を決めた。
しばらく走り続けてると、街を抜ける事が出来た。
建物が見えなくなり、ここはもう森の近くの人気もない場所だ。
ふうとハルは息をつく。
「ケルベロちゃん、ありがとう。ここまで来れば安心かな。疲れたよね?ちょっと休憩しよう?」
ハルはケルベロスの背からおりると、魔法のカバンからジュースとお菓子を出して振る舞った。
ハル自身もケルベロソファーにもたれながら、ポリポリとお菓子を食べていると、茂みの方からガサゴソと音が聞こえ、動く影が見えた。
『何かいる!』
ハルがハッと息を呑んで身体を固まらせると、ケルベロスがグルルと喉を鳴らして、茂みの方を威嚇する。
「キャッ!……何?……魔獣?」
陰から聞こえる言葉に、女の子だったかとハルは安堵する。
どうやらこちらの方が相手を怖がらせてしまったようだ。
「あの、脅かしてごめんなさい。この子は魔獣だけど、ケルベロスちゃんと言って、すごく賢くて大人しい子なの。だから出てきても大丈夫だよ」
ハルは茂みに向かって、なるべく優しく声をかけた。
「本当……?」
瞳を潤わせて出てきたのは、とても逞しい身体つきの大柄な女の子だった。




