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06.快適な討伐地

「わあ!すごいすごい!ケルベロちゃん、分身できるんだ!」

ハルは一頭のケルベロスが、三頭に分身する姿に大興奮する。



使役者のフォレストが、三つの頭を持つケルベロスを三頭に分身させて見せてくれたのだ。

身体は一頭分のはずだが、分身すると三頭それぞれに平等な身体を持ち、見事な三つ子のワンちゃんになった。

顔はワンちゃんと呼ぶには禍々しさはあるように思うが、ハル好みの感触は変わらない。

一頭分でも人をダメにしちゃうソファーぶりは健在だった。

ソファーがどこにも何も問題はないか、ハルは三頭を優しく撫で回した。



緑戦士のフォレストがそんなハルを見て微笑む。

通常このような魔獣の姿は、特に女性に恐れられるものであるにも関わらず、ハルは気に入っているようだった。討伐仲間としては、その精神力は好ましい。


ハルは三頭が分身した部分を撫ぜて、違和感がない事を確かめてから、ケルベロスに話しかける。

「見事な分身の術だよ、ケルベロちゃん。ちゃんと分離した部分も毛があるし、お肉が見えてなくて安心だね。この凄技は必ず記録に残すから安心してね」


ハルはフォレストに向き直り尋ねた。

「ねえ緑戦士さん。三頭に別れた後の皆んなは、それぞれ何ていう名前を付けてるの?」

「名前?三頭に分身したからといって、それぞれに名前は無いですよ。元々一頭だし、名前は全てケルベロスです」

「え!……信じられない。三頭まとめて一括りにするなんて、ケルベロちゃん可哀想」


『なんて酷い飼い主なんだ』という目でフォレストを見て、ハルはまた三頭の方に向く。

「ケルベロちゃん、私が名前を付けてあげる。そうだね…ケル、ベロ、スー。……なんか違う。ケロ、ベル、スー。これか」


「ケロ」「ベル」「スー」

「皆んなの名前だよ」

ハルが三頭それぞれに呼びかける。


フォレストは諦めたように名前に関しては何も言わず、そんなハルに声をかけた。

「では討伐の間はベルの側に必ずいて下さいね。コイツをクロイハルに付けておきますから」

「うん、分かった。ベルと一緒にいるよ」

ハルはギュウっとベルに抱きついた。1/3のケルベロス縮小サイズになったが、前の家のソファーより十分に大きいし、触り心地も最高だった。 





今日は初の討伐日だ。

昨夜のハルのあまりの非力さを見て、黄戦士の護衛だけでは足りないと、ケルベロスの分身をハルに付ける事になった。三頭で三方向から攻撃出来るに越した事はないが、あくまでもケルベロスは討伐の補佐だ。二頭に減ったところで大きな問題はない。

とはいえ討伐経験のある皆だが、チームを組んでの討伐は初めてになる。

僅かではあるが、討伐地のそこには緊張した空気が漂っていた。



少し離れた場所からハルの浮かれた声が、風に乗って聞こえてくる。

「わあ!ベル、最高だよ!ベルは最高級のソファーだねえ。他の追随を許さないレベルだよ。ねえ黄騎士さん、次はお菓子を持って来ようよ。『最上級のソファーに座って、お菓子を食べながら討伐を見る』なんて最高の贅沢じゃない?あ、黄騎士さんも座ってみる?」

「…………」




『黒戦士のふざけた言葉で、皆の緊張が解けた。これなら皆がいつものペースで討伐出来るだろう』

そんな事を赤戦士のフレイムは考えるが、それでもハルに腹は立つ。

その怒りを、目の前に迫ってきた魔獣たちに向ける事にした。






「なんだか赤戦士のあの子、荒れてるね。あんな無惨にやっつけちゃったら、魔獣よりもあの子の方が魔物みたいじゃない?」

1/3のケルベロスにだらしなくもたれ、勝手な感想を話すハルを見て、黄戦士メイズはそっとため息をついた。


メイズは今まで一流の料理人として、色々な討伐隊に加わってきた。彼自身が討伐に入る事はないが、同じチームとして近くで戦いを見守ってきていた。

赤戦士フレイムとも何度も隊を組んだ事がある。彼の戦い方も、メイズはよく見てきたので知っている。今日は相当苛ついているようだ。

おそらく原因はこのハルの態度にあるのだろうと見当がつく。


メイズから見たハルは、信じられないくらいの自由人だった。

司令官でもあるドンチャ王子を敬うどころか友人のような態度を取っていたし、それぞれの国の英雄として讃えられている自分達に、怯む様子も見られない。

悪魔の使いとも言われる誇り高いケルベロスの分身達に、使役者のフォレストの許可なくふざけた名前をつける。

更にソファー代わりにして寛いでいる。

異世界から来た者として今は様子を見ているが、そのうちフレイムとシアンあたりをキレさせるだろう。

メイズはまた深くため息をついた。



メイズのため息にハルが気づく。

「黄戦士さん、疲れたの?場所を交代するから、ベルのソファーに座りなよ。私は十分休んだから」

メイズを気遣わしげに見ながら立ち上がるハルを見て、『悪いヤツでは無いようだ』と少し認識を変えた。


「いや。ケルベロスは誇り高い魔獣だからな。私みたいな者が座っては怒りに触れてしまう。クロイハルもほどほどにした方がいいだろう」

メイズの言葉に、ハルは素直に頷いた。


「確かにそうだね。ケルベロちゃんは地獄の番犬だし、その誇りはきっと天より高いはず。凄くカッコいいよね……あっ!ベルも勿論カッコいいよ。1/3ケルベロちゃんも最高だよ!」

ハルをじっと見つめるケルベロスの分身に何を思ったのか、ハルが必死に言い訳を始めた。


「ほら見て!ケロもスーも、あそこで頑張ってお仕事してるよ。一緒に応援しよう」

1/3ケルベロスを撫でながら、ハルが声を上げる。


「ケロ!スー!頑張れー!!二人とも最高だよ!カッコいいよ!二人の勇姿はしっかりと記録するからねー!」



賑やかにケルベロスのみを褒め称えるハルに、討伐組の四人は微妙な気持ちで魔獣を片付けていった。




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― 新着の感想 ―
ドンちゃん王子、記録の質の問題を全く心配してませんでしたね…
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