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異世界に巻き込まれた私、5人の最強戦士たちに囲まれました ~記録係なのに距離が近すぎない?! (旧題:『呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達』)  作者: 白井夢子
第一章 

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58. 夢


気がつくとハルは、ジュースを片手にエレベーター前に立っていた。

「あ、四階だっけ」

エレベーターがちょうど目の前で開いたので、中に入って四階ボタンを押す。


バイト初日の今日は慣れない事も多くて、目の前のお客様を捌くことに必死だった。今から一時間の休憩は、四階の社員食堂で取るつもりだ。

ポケットに入れた携帯を取り出して電源を入れると、圏外表示が出ていた。

『エレベーターの中って繋がりにくいよね』

そんな事を考えながら、誰もいないエレベーターの中でジュースを一口ゴクリと飲む。


『やっぱりマンゴー強めのトロピカルドリンクは最高だ』

このジュースはハルが一番好きな味だ。いつでもジュースを飲む時は、このジュースを思い出して比べてしまう。


『食堂に着いたら、サービスで貰った回転焼きを食べよう』

そんな事を考えて、ハルがご機嫌でエレベーターを降りると、社員食堂の扉が見えた。

ハルが扉を開こうと取っ手に手を置いた時――声をかけられた。


「そっちへ行ってはいけませんよ」


「……え、でも」

これから休憩だし、と言葉を続けようとした時、ハルは思い出す。



そうだ。このまま帰ってはいけない。

まだケルベロちゃんに会っていないし、アッシュさんに魔法のステッキ剣も腕輪も返していない。

それに誰かが「行ってはいけない」と止めている――







そこでハルは意識を戻した。

『……夢?……ここはどこだろう』


「お目覚めになられましたか?」

――この可愛い声は双子ちゃんの声だ。


ハルはまだ目が開かないままに声をかける。

「おはよう、パールちゃん、ピュアちゃん。もう朝なの?朝ごはんに呼びに来てくれたの?」



「ここは王城だよ。……君はもう五日も眠ってたんだ。……ああ、名前が言えないともどかしいな。……目を開けてもらえないだろうか」


ぎこちない話し方をするこの声は、ドンチャ王子だろう。

――ああそうか。私にはもう名前はない。


「王城?私、五日間も寝てたの?それは寝過ぎじゃない?睡眠時間の自己最高記録だよ」

聞こえる言葉がおかしくて、ハルは目を開いて身体を起こす。

双子が心配そうにハルの背中に手を添えてくれた。


起き上がったハルにドンチャ王子が、ハルの様子を気遣いながら声をかけた。

「黒戦士、そう呼んでもいいだろうか」

「うん。分かりやすくていいよね」

「黒戦士、まずは食事にしようか。落ち着いたら話がしたい」


食事。

その言葉を聞いた途端、ハルのお腹がぐうと鳴る。

五日間も寝ていたという事は、五日間も食事をしていなかったという事か。

「人は五日間も食べなくても、意外と元気でいられるんだね。新しい発見だよ」


ハルの言葉にドンチャ王子が苦笑する。

「ここに運ばれるまではマゼンタ様が黒戦士に回復魔法をかけ続けていたし、ここではミルキー達白戦士が聖力を注ぎ続けていたからな。身体に異常は無いと思うが……どうだろう?」


「絶好調だよ!パールちゃん、ピュアちゃん、ミルキーさん、ありがとう」


双子の後ろに控えていたミルキーにも、ハルはお礼を伝える。最後にログハウスで会った時より元気そうに見えるミルキーの様子に、ハルは安心した。


「食事を運ばせよう」と立ち上がった王子に、ハルは

食事の前にお風呂に入りたいと伝える。たとえ浄化魔法をかけてもらっていたとしても、五日間もお風呂に入らないままでは落ち着かない。

ハルのお願いにドンチャ王子は快く頷き、ミルキーと共に部屋を出て行くと、双子がお風呂の用意を整えてくれた。





随分長く眠ったし、ゆっくりお風呂に浸かって、ハルはとてもスッキリした気分だった。

目覚めた時から人がいて、みんなに気を取られて忘れていたが……


お湯に浸かりながら腕輪を見て、ハルは先ほど見ていた夢をふと思い出す。


元の世界から来る時と状況が同じだったけど、ハルの辿った現実とは少し違う夢だった。

夢の中では、ジュースはトロピカルドリンクだったし、お煎餅は回転焼きになっていた。

それにあの時自分を止めたあの声は――


「あまり長くお湯に浸かってますと、のぼせますよ」

双子の扉越しの声かけに、ハルは意識を目の前に戻す。

「はーい、もう上がるね」

返事をしてお風呂から上がる頃には、思い出した事は霧散していた。





久しぶりの食事だからと優しい味の食事を取りながら、双子からハルの眠っていた五日間の事を聞いた。


あの森で眠ってしまったハルを連れて、明け方に英雄達がシアンのログハウスに戻ったようだ。

結局見つからなかったサフランとライムの事を伝えに、シアン以外の四人の英雄達が少女達の元へ向かうと、二人は既にログハウスに戻って眠っていた。

ログハウスに残っていた三人の少女戦士には、英雄達が森へ入った二人の捜索に入る事も伝えていたのに、その二人が森から無事戻った事を、セージ達に知らせる事もしなかったようだ。

英雄達の無言の怒りにさすがにヤバいと思ったのか、挨拶もそこそこに少女達は全員出て行ったらしい。



そこまで話を聞いて、ハルは『それはそうだろう』と納得する。

『無言の怒りを放つ赤い男は、さぞかし悪魔のような形相だっただろう。少女達が逃げ出すのも当然だ』

ハルは頷く。



出て行く少女を見送り、また英雄達はシアンのログハウスに戻りハルの目覚めを待ったが、いつまでもピクリとも動かない様子を見て不安を感じたようだった。

ドンチャ王子への報告も兼ねて日が落ちる前に森を出て、皆で城へ向かったらしい。


この城に着くまではマゼンタがずっとハルに回復魔法をかけてくれていたようだが、やはりハルは身じろぎもせず眠り続けていて、城に着いてからは浄化された空間にハルを置いていてくれたようだ。


この部屋に入るのは、司令官でもあるドンチャ王子と聖魔法を使える白戦士に限られ、英雄達は別部屋でハルの目覚めをずっと待っていていくれているらしい。



「そっか。パールちゃんとピュアちゃんは、ずっと側にいてくれてたんだね、ありがとう。たくさん浄化魔法をかけてくれたせいかな?肌も髪もピカピカで、お出かけしたくなるくらいだよ」

ハルが笑うと、双子も嬉しそうに笑い返してくれた。



「黒戦士様がお目覚めになられて本当に良かったです」


『黒戦士』

パールのハルを呼ぶ呼び名に、ハルは違和感を感じた。



「黒戦士」と双子に実際呼ばれると、何だか他人行儀のような感じがして寂しくなる。

双子には、今までみたいに名前で呼んでほしい。だけど私にはもう名前が――


そこまで考えてハルはハッとした。

「……波留。あ、言えた」

以前の呼び方は心の中で思う事も出来ないが、名前だけなら口にする事が出来た。

確か……誰かもそんな事を言っていた。


「波留だよ。私の本当の名前は波留って言うんだ。黒井は姓で、名前が波留。だから波留って呼んでほしいな」

「……ハル。ハル様。……言えました!」

「ハル様、お名前を呼べてとても嬉しいです」

双子が涙ぐむ。


「私も、パールちゃんとピュアちゃんが名前で呼んでくれて嬉しいな」

ハルはそう言って双子に笑いかけて――顔が強張った。



「思い出した……」


これからも名前を使う事ができると言ったのは、神だ。神は『今すぐ元の世界に戻してあげる』とも言っていた。

さっきまで見ていた夢は、本当に夢だったのだろうか。


夢の中のジュースと回転焼きがこの世界のものなら、食堂の扉の先はどこに繋がっていたのだろうか。


携帯が圏外だったのは、エレベーターの中だったからか、それともこの世界が圏外範囲だからか。


あの夢の中で辿った流れは――この世界から元の世界へ戻るための流れだったのか。


『私は帰る機会を逃してしまったの……?』

ハルは顔色を失くして茫然と立ちすくんだ。




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