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53.二つの討伐隊

ハルは、前方を歩く英雄達と少女戦士達を眺めながら、皆の最後尾でオルトロスに乗って移動していた。

側には護衛の双子がピッタリと付いていてくれている。


後方から同じく皆を眺めていたパールがハルに話しかけた。

「成立したカップルは一対一ではないのですね」

「そうだね。『黄戦士さんと黄色女子』『桃戦士さんと桃色女子と赤色女子と青色女子』『緑戦士さんと緑色女子』みたいだね。桃戦士さんが圧倒的人気を見せてるね」


ピュアも話しかける。

「フレイム様はお一人で歩かれてますね」

「あの子は悪魔だからね」


そんなどうでもいい話でもしていないと、三人は落ち着かなった。

これからの話がどんな内容かはまだ分からないが、少女戦士達からは並々ならぬ決意と緊張が伝わった。


野郎共は彼女達が放つ強いオーラに気づいていないようだが、女子同士だけが察知する事が出来る空気というものは、確かに存在するのだ。




セージの示す場所へ移動する前、ハルは美少女戦士達の簡単な紹介を受けていた。

予想していた通りに、少女戦士達は全員が超絶美人揃いで、皆がスラリと背が高くスタイルもいい。

自分に自信がある者特有のオーラも纏っていて、放たれるその強いオーラに、ハルでさえも力が抜き取られていくような思いがした。



『この世界の超絶美人、恐るべし』

ミルキーの「気をつけて」という言葉が意味する物を、ハルは切に感じていた。

聖力がないハルでさえそうなのだ。

双子達になるべく少女達に近づけないよう、皆とは少し離れて歩いている。






最後尾の、双子とオルトロスに乗ったハルが到着すると、早速フレイムがハルに話しかけた。


「この地で俺達が二手に別れて討伐をしている事を、セージさんから聞いたようだな。それでこれからだが、」

「勿論私達も、これからも討伐に参加させていただきます!」

「ドンチャヴィンチェスラオ王子の命ですから!」

「ええ、勿論私もマゼンタ様に付いて、治癒魔法で皆様をこれからもお守りします!」



――赤い男が悪魔のような顔になっている。


赤女子と青女子と桃女子が、赤い男の言葉を遮って話し出した。

『なんて力強く主張してくる者達なのだ』

これは自分みたいな平凡な者が、迂闊に口を挟んでいい場ではないだろう。ウッカリ失言でもしようものなら、魂を抜き取られる勢いで力を取られてしまう。


ハルはキュッと口を引き結んで、事の成り行きを見守る事にした。




「…テメェら、いい加減にしろよ」


フレイムが地獄を這うような低い声を出すと、マゼンタが少女達を庇った。

「アガットもマリンも頑張って討伐してるじゃない。小型の魔獣は二人が綺麗に片付けてくれているし、助かってるのよ。それにオペラの治癒魔法にも助けられているわ。私はこれからも彼女達の参加を認めるわよ」


「お前はまた―」

「ここで言い争ってもしょうがないだろう?今は森が荒れてるんだ。少しでも手が多い方がいい。もう少し討伐が落ち着くまでは、このまま彼女達にも参加してもらおう」

フレイムの言葉を遮り、メイズが少女を庇う。


そこにフォレストがハルに言葉をかけた。

「クロイハルはどう思いますか?王子の命とはいえ、クロイハルが望まないなら、彼女達の討伐参加は考え直しましょう」



――緑の奴が面倒くさい案件を投げてきた。

他人事のように見ていただけのハルが、フォレストの言葉に緊張を走らせた。


美人戦士達の鋭い目がハルに向く。

女子しか気づく事が出来ないビームに、これは『YES』以外の選択肢がないとハルは気づく。


だけど少女達の討伐参加に良い予感はしないし、恐怖に負けて賛成して、『最終決断を下した者』として、後に問題が出た時に責任を擦り付けられるのも困る。


『ここは「皆の意見を尊重する」スタイルでいこう』

ハルは火の粉がかからない道を選んだ。


「皆んながいいなら、私は何でもいいよ」

ハルがそう話すと少女達の目はやわらぎ、ハルの危機は去った。



フレイムがはああと深いため息をついて、諦めたように話の続きを始めた。

「じゃあこれからの討伐の記録は―」

「私も討伐記録に協力させてください!私も皆さんのお役に立ちたいのです。……黒戦士様、どうか私にも古代遺跡の使い方を教えてくださいませ」



ライムの思いがけないお願いに、ハルはうーんと考えた。


ライムの怪我は治ったが、使役する魔獣を失くした為に戦士として討伐参加する事が出来なくなり、サフランと共に今は家事を手伝っているらしい。

だけどタブレットの討伐記録は、撮影ボタンを押すだけなので、緑女子に手伝ってもらう事はない。



『今回は緑女子にタブレットを渡してしまおうかな』

そんな風にハルは思った。

自分が筆記でメモを取り、後で写メを撮っても良いかもしれない。

カリカリとメモを取る姿は仕事をしてる感が演出されて、双子にも格好のいい自分を見せる事が出来る。


「いいよ。このタブレットを使いな―」

「いけません!クロイハル様、それは神からの授かり物の古代遺跡です!誰もが手にして良い物ではありません!」


ミルキーが珍しく大きな声を出してハルを止めた。

大きな声を出してハァッハァッと息切れするミルキーを見ると、自分が軽率な行動を取る所だったと気づいた。


だけどミルキーの言葉に、緑女子はハルに向ける目を鋭いものに変えた。

『これは誰かに責任を押し付けなくては』

美人の睨みに恐怖したハルは、ドンチャ王子にその役目を頼む事にした。


「じゃあドンちゃんに連絡して聞いてみるよ。ドンちゃん――あ、ドンちゃんは王子様の事で、王子様の許可を貰ったら貸してあげれると思う」


そう緑女子に声をかけて、タブレットの電源ボタンを押したが、タブレットは何も反応しなかった。

どこを触っても、真っ暗な画面が変わる事はない。



「あれ?おかしいな?…ミルキーさん、タブレットが開かないんだ」

「……それが神の意思だからです。邪な物に繋がる事を、神は良しとしないのでしょう。もしライム様が討伐記録をされたいと仰られるなら、筆記でお願いしたらどうでしょうか?その内容を古代遺跡に取り入れるかは、神がまた判断してくれるかと思います。……ライム様や他の少女戦士様達に邪な思いが入っていなければ、その時は神もお認めになるでしょう」


ミルキーの提案に、ハルは深く頷く。

ミルキーがしてくれた説明を、ハルが話すと角がたつが、神に近いミルキーが話すならば真実として受け止めてくれるだろう。

ハルはホッと安心して、みんなに笑顔を向けた。


「じゃあ、少女戦士さんチームの討伐記録は緑少女さんにお任せしようかな。タブレットは貸せないみたいだけど、後で記録は入れてみるから。大丈夫!もし後でタブレットに記録が入らなくても、緑少女戦士さんの記録は必ずドンちゃんに送るから。みんなの記録はちゃんと守られるはずだよ。じゃあ戦士さんたち皆んな、お互いに討伐頑張ろうね!」


ハルの晴れ晴れとした笑顔にシアンは笑顔を返し――フレイム達はハルが自分達の隊に、関わる事も記録をするつもりも無いことを悟り真顔になった。


『神は少女達を邪な存在と判断しているのか……?そんな存在と共にする事に危険は無いのだろか』

シアン以外の英雄戦士達の脳裏に、恐ろしい可能性が過った。



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― 新着の感想 ―
自分のケルベロちゃんが殺られそうになったのに女庇うとか緑ないわー、超絶ないわーーー。
[一言] 諸悪の根元の黄戦士と色ボケの桃戦士もあかんが、女子間の空気も読めないくせに自分達の尻拭いを押し付けようとする緑戦士が一番ギルティ。 何をしようが安定的に赤戦士へ当たりが強いのが良い( -∀-…
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