05.王道的イケメンの赤戦士と青戦士
夕食の席で、衝撃的な事実を知る。
「え!!司令官のドンちゃんって王子様だったの?」
驚きのあまりハルの声が大きくなる。
「知らなかったの?」
「ええ?聞いてないよ。確かにドンちゃん、貴族風だったけど『ドンちゃん』呼びを勧めてくれるなんて、王子様にしてはフレンドリー過ぎない?」
「……勧めてるようには見えなかったが」
宿屋の一階は食堂になっていて、今は皆んなで夕食を取っているところだ。
ハルは好き嫌いなく何でも食べる派なので、見たことのないこの国の料理も、戸惑う事なく受け入れた。自炊して自分が生み出してきた、数々の謎の料理より断トツ美味しい。
桃戦士マゼンタと黄戦士メイズの間に座って、ハルはもぐもぐと口を動かす。
メイズは、五人の中でもひときわ身体が大きい。戦闘に向いていそうな見た目だが、彼は料理人だ。今も、宿屋で出された料理を興味深く見ている。
そんな黄戦士の、自分の言葉を否定するような言葉に、ハルは反論した。
「そんな風に言ったら、まるで私が王子様への礼儀も弁えられないような常識知らずみたいじゃん。ドンちゃんはどう呼んでも良いよ、って言ってたでしょう?
……ああでも、ドンちゃんが一生懸命説明している時にお煎餅食べてたのは良くなかったかも。まさか私にも話してるとは思わなかったし、しょうがない事だけどね」
「……」
へへへと笑うハルを見て、メイズは言葉を返す事もなく食事を始めた。
話の途中でメイズは黙ってしまったが、彼もお腹が空いているのだろうと気にせずハルも食事を続ける事にした。料理は温かいうちに食べた方がいい。
夕食を終えて部屋で休んでいると、コンコンと部屋がノックされた。
「はーい」
ハルが返事をして扉を開けると、赤戦士のフレイムと青戦士のシアンが立っていた。ハルはまだシアンと言葉を交わした事がない。
ハルはじっと二人を見つめる。
二人の男は背が高い。あまり近くに立たれると、ハルが見上げなくてはいけないくらいだ。そしてそんなハル視点の、禁忌とされる下から見上げる角度で見ているにも関わらず、彼らの顔は整っている。
赤戦士フレイムは凛々しく爽やかな、正統派王子様の様な顔立ちだ。王道的イケメンと言ってもいいだろう。――口は悪いが。
対して青戦士のシアンは、涼しげな顔立ちのクール系イケメンだ。少し冷たい印象を持つが、こちらもまた赤戦士とは違ったタイプの王道的イケメンと言っていいだろう。話した事がないので、どんな人かは分からないが、こういう人は意外と優しいかもしれない。
そんな事を考えながらぼんやり二人の顔を見つめていると、シアンが口を開いた。
「クロイハル、ノックをした者が誰か分からないうちに開けるとは愚か者ですね。こんな夜に訪れる者がいればまず怪しむべきでしょう。クロイハルはまず常識を学びなさい」
バタン。
ハルは何も言わず扉を閉めてやった。
――コイツもか。コイツも口の悪い奴だったか。ちょっと国宝級美貌のイケメンだからって調子に乗りやがって。夜の訪問者が怪しいなら、お前達だって怪しい奴らだ。決してこの扉は開けてやるまい。
カチャ。
鍵までかけてやった。
ハルは勝利の笑みを浮かべる。
『ザマアミロ』
ゴンゴンゴン。
ノックと共に低い声が響く。この声は赤い奴だろう。
「テメェ、いきなり扉を閉めんな。話がある、とっとと開けろ」
「夜の訪問者なんて怪しくて開けられるわけがないでしょう?常識的に考えなよ」
「テメェ…ふざけんな!」
ハルは扉の前に立ったまま動かずに二人の様子を窺っていた。しばらくすると二人の気配が消えたので、ハッと鼻で笑う。
『私を男と間違えてるくせに言う事が細かいんだから。あんな奴ら戦隊レンジャーじゃなくて小姑にでもなったらいいのよ。国宝級美貌の戦隊ヒーローのくせに』
そんな事を思いながらタブレットを開いていると、ノックと共に桃戦士マゼンタの声が聞こえた。
コンコン
「クロイハル、開けてちょうだい」
「はーい」
ハルが返事をして扉を開けると、そこにはマゼンタと、先ほど消えたはずのフレイムとシアンが共に立っていた。
「クロイハル、本当に学ばない人ですね…」
そうため息をつきながら。
しょうがないので三人を部屋に招き入れてあげる。
きっとここでゴネても、奴らは何度でもやって来てしまうだろう。何の用事か知らないが、こういう奴らは早めに軽く相手をしてやった方が、諦めも早いだろう。
二脚しかない椅子に、フレイムとシアンが先に座ってしまったので、マゼンタには共にベッドに座るように勧める。
するとまたハルはシアンに小言を言われる。
「クロイハル、ベッドに客人を座らせるものではないですよ。こういう常識は学びなさい」
その言葉に思わずハルは、椅子に座るシアンの手を強く引いて椅子から落としてやろうとするが、シアンは全く動かず、勢いのついたハルが転がっただけだった。
悔しくて涙が滲む。床に手をついたまま床を睨みつける事しか出来ない。
『なんなのよコイツ。鍛えすぎじゃない?国宝級美貌のイケメンのくせに!』
「………」
涙を滲ませて悔しがるハルを三人は静かに眺めていた。
翌日から始まる討伐の現場で、どれだけハルが自分の身を守る事が出来るのか、今までの経験を確認しようとしての訪問だった。途中で加わったマゼンタも、二人の訪問理由を聞いている。
「誰か守護に付けないとヤバそうですね」
「聞き取りをするまでも無かったな」
そんな会話で本日のイケメン二人の訪問目的は無事こなされた。