49.久しぶりの再会
目的の討伐地にハル達の乗った馬車が到着すると、英雄達とオルトロスを連れたセージが、ハルを出迎えてくれた。
馬車を降りたハルが、みんなを見て駆け寄る。
「オルトロちゃん!オルトロちゃん、元気だった?相変わらずオルトロちゃんは可愛いね。たくさんオヤツを持ってきたから、楽しみにしててね。オルトロちゃんは今日も良い子だね〜」
ハルはギュウウっとオルトロスに抱きついて、背中を優しく撫でた後、ハルの側に付いている双子に振り返って笑いかけた。
「この子がオルトロスのオルトロちゃんだよ。可愛い良い子でしょう?」
今度はオルトロスに話しかける。
「この双子ちゃんは私の護衛をしてくれているパールちゃんとピュアちゃんだよ。すごく良い子達だからオルトロちゃんも仲良くしてね」
ハルの紹介を受けて、双子はオルトロスの前に出た。
「オルトロス様には大変お世話になったとクロイハル様から聞いております。護衛のパールとピュアです。よろしくお願いします」
オルトロスに挨拶をする双子の様子を見て、セージが、意外そうな顔をする。
「護衛の君たちはオルトロスを怖がらないんだな」
「ええ、ここまで来る馬車の中で、ケルベロス様とオルトロス様のお話をたくさん聞かせていただきましたから。クロイハル様ととても仲が良いそうですね。
確かに迫力のあるお姿をされていますが、クロイハル様が話されてた通り、とても賢そうな子です。
私達がカナリヤ国にお迎えに上がる前は、使役者のセージ様と皆んなで一緒によくお出かけしたとも伺いました。セージ様、初めまして。護衛のパールとピュアと申します」
双子はセージに挨拶をして、英雄達の方へ顔を向けた。
「英雄戦士様、以前よりお噂は伺っております。この地が落ち着くまでは私達もご一緒させていただく事になっております。どうぞよろしくお願い致します」
戦士達にも挨拶をする双子に、メイズが言葉を返した。
「こちらこそよろしく。僕は料理人だが、今回は僕も討伐に回る事があるから、クロイハルに付いていてくれて助かるよ。馬車では色々な話をしたみたいだな。僕達の事ではどんな話を聞いたんだ?」
「え……」
双子が戸惑った様子を見せた。
「………」
そんな双子を見て、戦士達は察する。
『自分達の話は何もしてなかったんだな……』
双子が聞いたという『噂』は、街の噂だったかと理解した。
戦士達は、もうずいぶん長い間ハルを一人にしてしまい、どれだけ不安な思いをさせているかとずっと気に病んでいた。
連絡が出来なかったのは、ドンチャ王子から『事が落ち着くまではクロイハルには知らせるな』との厳命が下っていたからだ。
ケルベロスが森に逃げたと聞けばきっと、クロイハルは必ず森に探しに行ってしまうだろうと予測されての判断だった。
確かに王子の言葉には納得出来たし、少女達の起こした不祥事とはいっても元々は自分達が少女の申し出を了承した事から始まった事もあって、『手紙だけでも送らせてほしい』とは言えなかったのだ。
早くハルと合流出来るようにと、ケルベロスをやっとの思いで捕獲したが、今度は森が荒れ出して帰れなくなった。
この地に危険がある事は分かっていたが、それでもこれ以上ハルを一人にする訳にはいかないと、『必ず良い成果を後世に残すから』と王子にハルの戦闘記録依頼を交渉して、やっとハルをこの地へ呼ぶ事が出来たのだ。
ハルがこの地へ来ることは戦士達が望んだ事であったし、ハルも自分達に会える事を喜んでくれると思っていた。
しかし馬車を降りた時からオルトロスしか見ていないハルに、長く離れている間に心の距離も遠く離れてしまった事を悟った。
重い沈黙が広がる中、ハルが双子に言葉をかける。
「じゃあ次はケルベロちゃんに合わなくちゃね!獣舎に行こう!」
他の戦士達と同じく言葉を失っていたフォレストだったが、ハルの言葉に我に帰り慌ててハルを止めた。
「ドンチャ王子から説明があったと思いますが、ケルベロスはまだ、僕との契約が不安定な状態なんです。
今は、さっきまでの朝の討伐で興奮状態にあって、ケルベロスに近づくのは危険です。明日の朝にはまた落ち着くはずなので、ケルベロスに会うのは明日にしましょう」
「……そうなんだ。ケルベロちゃん、まだ治ってないんだね」
ハルの声が暗くなる。
使役者のフォレストがそう話すなら、今は会わない方がいいだろう。
そう分かっているが、ケルベロスはオルトロスと共に一番に会いたかった子なのだ。近くにいるのに会えないのは寂しすぎた。
「クロイハル様……」
俯いて動かないハルを心配して、双子とミルキーがオロオロし出す。
皆の様子を黙って眺めていたセージが、『これ以上は見てられないな』と、空気を変える為に明るい声をかける。
「クロイハルも白戦士達も長旅で疲れただろう。英雄達も昼からの討伐は休んで、今日だけはゆっくり過ごさないか?とりあえず皆でお茶でも飲もう」
「…ああ。そうしようか。今日は昼の討伐は止めだ」
フレイムの言葉に、他の戦士達も頷く。
メイズも笑顔を作ってハルに話しかける。
「久しぶりにクロイハルにオヤツを作れるな。腕を振るうよ」
「それは楽しみだね」
ハルはやっと双子に笑顔を向けた。
「パールちゃん、ピュアちゃん、黄戦士さんのオヤツはすごく美味しいんだよ。一緒に食べよう」
「メイズ様の料理の腕はとてもお噂になっていますからね。楽しみです」
ハルに笑顔が戻った事にホッとして、双子もハルに笑顔を返した。
メイズは、双子が話す『噂』がハルの口から聞いた話ではない事を寂しく思う。だけど味の記憶は、食べたその時の思い出も蘇らせる。
『クロイハルが特に好んだ物を用意しなくては』
何から作っていこうかと考えながら、メイズも皆と一緒に歩き出した。