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42.緑の国から白い国へ

セージの屋敷での生活は快適だった。

ケルベロスはいないけど、オルトロスがいる。

もっちり感触のオルトロスの事もハルは大好きだ。


朝目覚めるとすぐに獣舎に向かってオルトロスに会いに行き、セージの仕事が一段落つくと一緒に街をブラブラして、帰ってからは夜寝る前までオルトロスと過ごす。

そんな毎日を送っていた。


もうマラカイト国へ来てから何日も経つが、相変わらず国宝級美貌の戦士達からは連絡はなかった。

だけど今は討伐中でも無いし、五人の美少女戦士達との合同デート中だ。

詮索する方が野暮というものだろう。



そもそも彼等と自分は、立ってる場所が違う。

彼等は国宝級美貌を持つ実力ある英雄戦士達で、同じ戦士と呼ばれる身でも自分は、自身の身を守る事も出来ないほどの平凡極まりない存在だ。


それでも青戦士に自分の事を色々話した夜から、彼とは少し距離が近くなったような気もしたが、それは自分の勘違いだったようだ。

連絡の手紙ひとつ届かないのは、その証拠だろう。


『所詮私は彼等と他人でしかないのだから』

ハルはそう自分に言い聞かせた。

だからハルは戦士達の事は一切聞かなかったし、腕に光るブレスレットを見ても思い出さないようにしていた。





マラカイト国でハルは平和な毎日を送っていたが、ある日ドンチャ王子からセージ宛に手紙が届いた事で、また生活が変わろうとしていた。


セージがハルをお茶に誘い、話を切り出した。

「ドンチャ王子から手紙が届いて、僕も英雄達の所へ向かう事になったんだ。オルトロスも連れていかなくちゃいけないから、クロイハルは白戦士の国のエクリュ国で待っていてほしい。用事が終わったら迎えに行くよ」


セージが静かに話す言葉に、ハルの心臓がドクリと跳ねる。

「何かあったの?戦士さん達は遊んでいるんじゃないの?手紙には何て書いてあったの?」


ドンチャ王子の手紙で、セージまでも戦士達のいる場所へ向かわなきゃいけないなんておかしい。

何かがあったに違いない。

ハルは不安に襲われた。


「大丈夫だよ。少しトラブルがあったみたいだ。英雄の戦士達だけど、みんなまだ若いからね。年長者の僕の助けが必要になったみたいなんだよ。…すぐに解決するよ。だからエクリュ国でゆっくりしておいで。穏やかで良い国だよ」



セージの言葉に、ハルはセージの顔をじっと見つめた。


自分が本当の事を聞きたいと思っている事は、勘のいいセージは気づいているはずだ。

だけど何も話してくれそうにない。

きっと自分が聞いても、何の役にも立たないからだろう。

自分は戦士に向いていない事は、ハル自身が痛感している事だった。

「……そっか。分かったよ。白戦士さんの国に行くよ。セージさんも気をつけてね」




大人しく引き下がるハルが、真実を話してほしそうにしている事は分かったが、あまりに悲惨な内容過ぎてセージは話す事ができなかった。


話したところで状況が変わる訳ではない。

どう決着が着くかは分からないが、今は話すべき時ではないと判断して、何も言わないままハルをエクリュ国へ送ることにした。


「僕は今から立つけれど、クロイハルのお迎えはもうすぐ来るはずだから。白戦士のミルキーは間に合わないかも知らないけど、代理の者が来るはずだよ」

「……そうなんだ。分かったよ。行ってらっしゃい、セージさん」

そう言ってハルはセージを見送った。





英雄達の元へ向かう馬車の中、セージは見送ってくれたハルの表情を思い出していた。

クロイハルは何も話さない自分に、失望しているように見えた。


あの子は自由奔放に見えるが、繊細な子だ。

皆と深く関わらないようにしているのも、将来が見えないから予防線を張っているのだろう。

最初から距離を置いておけば、裏切られたり別れたりするような事があっても平気でいられる。

ナキドリの鳴き声に怯えて何度も逃走したり、街の人々の視線にも怯える小心者のクロイハルには、この世界の人間を信じきるのが怖いのだろう。


それを分かっていたなら、本当はちゃんと真実を話すべきだったかもしれない。

本当のことを話してほしい時に、話さずにはぐらかされる事を、ハルは裏切りと取るのかもしれない。

せっかくこうしてゆっくりと信頼を深めてきたつもりだが、自分もこれで見切られるかもしれない。


そもそも英雄達が、迂闊にも全員でハルの側を離れたりするから、こんな事態を招いたのだ。


自分の甥のフォレストの事を思う。

『アイツも場合によっては、魔獣の使役者としての地位を剥奪されるかもしれない。…その前に自分のこの先の安全も保証されないだろうが』


そんな最悪の事態を予想して、セージは深いため息をついた。





セージまで去ってしまい、ハルはまた一人になった。

遠い場所で、何か大変な事が起きているのだと思う。

だけどセージは何も話してくれなかったし、ドンチャ王子も自分には手紙を送ってくれなかった。


『私が知るべき事じゃないのだろう。無理に聞き出しても、相手を困らせるだけだ。この世界は、自分にとって他人のような世界なんだし、知る必要がない事だ』

そんな風に考えて、ハルはまた自分の気持ちに蓋をした。






セージが去ってしばらくした後、二人の少女がハルを訪ねてきた。

二人は、白い国の戦士らしく真珠のような輝く白い髪と、薄いグレーの瞳を持った双子だった。にこにこと愛想が良くて可愛らしい。


「黒戦士のクロイハル様、初めまして。私達は双子の白戦士のパールとピュアと申します。エクリュ国からお迎えにあがりました。クロイハル様の護衛として付かせていただきますね」


「パールちゃんとピュアちゃんだね。綺麗な髪色に合った、良い名前だね。2人にピッタリだよ」

ハルの言葉に、パールとピュアは嬉しそうに言葉を返した。


「クロイハル様の黒髪もとても素敵です。白戦士ミルキー様からお話を聞いていて、お会いするのを楽しみにしてたのですよ。これからミルキー様の戦士団の宿舎にご案内しますね。クロイハル様はそちらで過ごしていただくそうです」


ハルは初耳の話に驚く。

「ミルキーさんの騎士団があるんだ。なんか意外」

「ミルキー様は、皆に慕われる偉大な総長なのですよ」

「総長!ミルキーさんが強そうに聞こえるね」

「彼はエクリュ国最強の戦士様ですよ。エクリュ国では神に近いものほど力が強いとされますからね」

双子の話に目を丸くするハルを見て、双子がころころと楽しそうに笑う。


双子の明るい笑い声を聞いていたら、ハルの気持ちが上に向き、エクリュ国への旅を楽しみにする事が出来た。



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