40.美少女戦隊現れる
屋敷に先に帰ってしまったハルは、ピサンリが帰ってくるのを待って改めてちゃんと謝った。
ピサンリは笑って許してくれて、『夕食には戦士達も皆帰って来るから、歓迎会も兼ねたちょっとしたパーティーでも開きましょう。お洋服はそのままでね』と、落ち込んだハルを慰めてくれた。
ハルは名誉挽回とばかりに、使用人達に混じってパーティーの準備に張り切ることにする。
『ちょっとしたパーティー』とピサンリは言っが、準備は力が入ったもので、かなり手の込んだ料理が用意され、たくさんの花を部屋に飾り、テーブルクロスも華やかな物に変えられて、用意をしながらハルもパーティーを楽しみにしていた。
そうしてようやく準備を整えて、ハル達はテーブルの席について戦士達を待ったが、戦士達はいつまでたっても帰って来なかった。
「あの子達、今日は早く帰って来るように言ったのに…」
ピサンリのこめかみに青筋が立っている。
「ピサンリさん、戦士さん達は危険な討伐から解放されて、弾けちゃってるのかも。森には女の子がいないから…」
ピサンリの背中を撫でながらハルが慰める。
「……そう、きっとそうね。なんて女にだらしのない子達なのかしら」
ピサンリは呟く。
ハルとの時間を持てなかった戦士達を気遣って、せっかくハルの着飾った姿を見せてあげようと計画したパーティーだった。
『もうあの子達の味方なんてしてあげないから』
そうピサンタは拗ねて、結局使用人達も入れてのパーティーを始めて楽しんだ。
結局そのまま戦士達は帰って来なかった。
そして夜が明けて、朝食を食べ終えた頃にやっとメイズが帰ってきたが、メイズの他に戦士達の姿はなく、彼は一人の女の子を連れていた。
その女の子は、同じカナリヤ国の子のようで、明るい黄色の髪をした、スタイル抜群のかなりの美人さんだった。
「クロイハル、紹介するよ。この子の名前はサフランだ。女性五人で戦隊を組んでいる子で、僕達の討伐を見学させてほしいと、昨夜お店に来て頼まれたんだ。今まで彼女達の話を聞いていて、こんな時間になってしまったんだよ」
そうメイズが話すと、サフランがハルの前に出て挨拶をした。
「黒戦士様ですね。サフランと申します。メイズ様が仰ったように、英雄戦隊様に付いて学ぶ機会を、私達に与えてほしいのです。他の英雄戦士様の許可は、昨夜いただきました。ご一緒させてもらえませんか?」
「あ、クロイハルです。みんなの許可を取ってるなら、私が反対する事はないよ。休暇を終えて次の討伐に出るのかな?」
ハルはサフランに挨拶して、メイズにも問いかけた。
「いや、国から命じられている討伐とは別だ。彼女達の討伐任務に付いて行こうと思うんだ。今から出るから、クロイハルも用意をしてほしい」
メイズの言葉にハルが首をかしげる。
「え、それなら私が付いていってもしょうがないんじゃない?討伐記録は要らないでしょう?」
「確かに記録は必要ないが、ケルベロスも連れて行くから、一緒に行かないとハルが一人になってしまうだろう?」
メイズの言葉に、ハルはうーんと悩んだ。
昨夜帰って来なかったのは、この女の子と一緒だったかららしい。そういえばこの子達は五人で戦隊を組んでると言っていた。
そこまで考えて、ハルはピンときた。
『国民的美貌の戦隊五人 × 美少女戦隊五人』
――これって合コンじゃん!!
さすが英雄とまで言われている戦士達だ。
朝まで合コンとは……いや待て。その前の日も帰って来ていない。まさか!一晩どころか、初日から今までの丸二日近く合コンをしてたのでは。
そんな十人の淫らな関係に足を踏み入れるなど、それこそ馬に蹴られてしまう。
討伐といえど、そんなの絶対不参加だ。
そんなお邪魔虫にはなりたくない。
断固拒否させてもらおう。
「私はお屋敷にいるから大丈夫だよ。みんなで頑張ってきてね」
「えっ…。しばらく帰らないかもしれないぞ。それに途中で遊べるような場所もあるから、一緒に来たら楽しめると思うが」
「大丈夫だよ。気にしないで」
ヤバい奴らだ。
討伐と言いながら、しっかり楽しめる場所も押さえている。羽目を外し過ぎたろう。
本当に国宝級美貌のイケメン達は女にだらしがない。
しかしそんな思いを顔に出しては、この美人戦士さんに失礼だろう。
『さあ、私の事など気にせず、遊び倒してくるがいいさ』
ハルは笑顔でメイズに言葉をかけた。
「行ってらっしゃい。いい休暇になるといいね」
一人屋敷に残ると話すハルを、メイズは眺めた。
『ケルベロスも付いていないのに大丈夫だろうか』
ハルの言葉を了承する事が躊躇われた。
昨夜遅くにこの女性戦隊達が店を訪れ、勉強のために自分達の討伐を見学させてほしいと懇願された。
そういう誘いは断るようしているが、少女達が美人揃いだったためにマゼンタが彼女達の肩を持ち出したのだ。
そこから粘られて、結局は彼女達の願いを受け入れた。
だけど討伐の旅と言っても、所詮女性が受け持つ討伐地だ。
危険があるわけでもないし、途中に景色の綺麗な場所や、買い物を楽しめるような街もある。
『クロイハルもちょっとした旅行を楽しめるだろうから』というフォレストの言葉で、最後の最後まで渋っていたフレイムとシアンを説き伏せて決まった話だった。
「僕は料理人だから、僕も行く必要はない。僕もクロイハルと留守番をしよう」
メイズの言葉に、サフランが焦ったようにメイズの腕に縋りついた。
「そんな!メイズ様も一緒に来てください!メイズ様のお料理の手際も、見て学びたいのです!」
そしてメイズに気づかれないように、ソッとハルの方を振り返り、ハルを強く睨みつけた。
その睨みは、女子しか気づく事の出来ないビームを放つヤツだ。
『怖っ!!』
ハルはビクッと身体を揺らす。
超絶美人の睨みは恐ろしい。彼女のハルを牽制する視線は、戦士達が国宝級美貌を持つせいだ。
本当に迷惑な戦士達だ。二日も合コンしておいて今更不参加とか言えば、そりゃ美女も怒るだろう。
「黄戦士さん、彼女が困ってるよ。早く行ってあげなよ」
そう言って、メイズの背中を玄関までぐいぐい押してやった。
メイズとサフランとケルベロスが出て行って、どんどん遠ざかっていく姿を一人眺めているハルに、ピサンリが声をかけた。
「クロイハルちゃん、お留守番で本当に良かったの?クロイハルちゃんの知らない所で、戦士達みんなが、あの女の子達と仲良くなっちゃうかもしれないわよ」
「……いいよ。戦士さん達は私と違うもの。だいぶん一緒にいるけど、みんなの事はよく分からないんだ」
そう話すと、ハルは小さくため息をついた。
「クロイハルちゃん…」
『何か慰めの言葉を』と、ピサンリが口を開いた時、ハルが言葉を続ける。
「本当に分からないよね。二日通して合コンするなんてあり得ないよ。討伐地でいくら女不足の地にいると言っても、そのまま集団デート旅行なんて、本当に女にだらしのない子達だよ」
「そうよね。本当に困った子達だわ」
ピサンリは笑顔でハルの言葉に同意した。
『昨夜のパーティーに帰ってこなかった理由がくだらな過ぎるわ。あのサフランとかいう子、クロイハルちゃんの事、あんなに睨んでたじゃない。どうしてメイズはあの子の本性に気づかないのかしら。親不孝のバチが当たったと思って、クロイハルちゃんから軽蔑されておきなさい』
そんな風に思いながら、ハルに声をかける。
「クロイハルちゃん、お昼は私が腕を振るうわね」
「それは楽しみだね!」
仲良く笑い合いながら、二人は部屋へ戻って行った。