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04. 仲間内恋愛禁止、それは常識


ハルが目覚めると、今日泊まる予定の宿屋らしき建物の前だった。

男達の軽く言い合うような声で目が覚めたのだ。


ケルベロスの背中は本当に快適でそれはもう爆睡しまくりで、ハルはスッキリした気分で目を覚ました。




「だからあと一部屋なんとかしてくれ」

「勿論こちらとしてもご用意させていただきたいのですが、以前からのご予約も入っておりまして…」

「何とかならないですか」


そんなやり取りをしている男達を見ながら、ハルは隣に立っていた桃戦士に声をかけた。

「もしかして泊まれる部屋が一部屋足りないの?」

「そうなのよ。図体のデカい男達だから、相部屋も暑苦しいしね。何とか融通を効かせてもらえないか交渉中なのよ」

桃戦士の言葉になるほどと納得する。


目の前の建物はやっぱり宿屋だった。

小ぢんまりしたその宿の個室は、おそらく狭いだろう。そして目の前で揉めている男達は屈強すぎる。

男達の中で一番細身の緑戦士ですら、自分にとっては威圧感ある大きさだ。確かにこんなのが二人相部屋だったら息苦しいだろう。


『だったら女同士で相部屋になればいいんじゃない?』

ハルはそう考えた。

桃戦士も背は高いが、私は皆に比べれば小柄だし。

一応161センチはあるけど、皆と並べは子供のようなものだろう。

確かに一人部屋の方が快適だけど、超絶美人の桃戦士なら断然許せる。


「あの、桃戦士さん。良かったら私と相部屋にしない?私、寝相は悪くないし、そんなにベッドの場所は使わないよ」


ハルの言葉に、桃戦士が目を見開く。

――嫌だっただろうか。

「あ、勿論迷惑なら止めておこう。みんなでジャンケンでもして―」

「私は構わないわよ」

私の言葉を遮って、桃戦士が笑顔を向けてくれた。


話は決まったので、揉めてる戦士達にハルは声をかける。

「私と桃戦士さんが同室にするから、五部屋で大丈夫だよ」


私の言葉に、戦士達が驚愕の表情になる。

赤戦士のフレイムが言う。

「お前何言ってんだ。討伐中の仲間内の恋愛は禁止だ。常識だろ」

「はあ?」


お前こそ何を言っている。女同士の同室で即恋愛と見るお前の常識の方がおかしいだろう。

勿論、恋愛対象が同性という人も多いだろうし、それはそれでいいと思っている。周りがとやかく言うものでもない。だが、私達は違う。

「桃戦士は恋愛対象外だし」

「え?酷いわ」

「え…?」


桃戦士の恋愛対象者は女性らしい。

それなら話は違ってくる。

「やっぱり同室は止めよう。私は外でいいよ。ケルベロちゃんがいれば大丈夫。毛布だけ借りようかな」


ハルは以前の自室でソファーでよく寝落ちしていた。

そのまま朝を迎える事はザラだったし、ソファーでもベッドでも同じくらいよく眠れる。ケルベロちゃんは温かいし外でも大丈夫だろう、そうハルは判断した。



緑戦士がはああと深くため息をつく。

「使い魔とはいえ、ケルベロスは魔獣ですよ?それに外で一人で寝させるなんて出来るわけないでしょう?クロイハルは危険があっても自分では身を守る事も出来ないのですから」


「危険?外で一人で寝てると危険があるの?」

なにそれ怖い。この世界ではこんな街中でも魔獣とかが徘徊してるというのか。


そんな私の様子を呆れたように見ていた緑戦士は、黄戦士に声をかけた。

「メイズ、僕と同室でもいいですか?」

「しょうがないだろうな」


黄戦士が了承したのを見て、ハルは念のために声をかける。赤戦士の常識論だが。

「討伐中の仲間内の恋愛は禁止だよ。気をつけて」

「……」

二人は何も応えてくれなかった。大丈夫だろうか。


「残念ね。私はクロイハルと同室でも良かったのに」

桃戦士はそう言ったが、桃戦士が同性愛を選ぶなら同室は避けたい。

「そうだね。でも赤戦士の常識論に合わせとこう?」



そんな私達の会話に、赤戦士フレイムが吐き捨てるように言った。

「クロイハルの世界の常識がどんなもんかは知らねえが、ここでは異性同士の同室は仲間ウチでもやらねえんだよ」

「!!」


――この赤戦士ヤロウ。コイツは私を男だと思っているのか。

いや、皆がツッコまないという事は、皆がそう思っているのか。



私の髪型はショートだ。確かに後ろは刈り上げる勢いで短いが、トップ長めのどちらかと言えば女性らしい髪型だ。私はオシャレ女子だぞ。

確かにこの世界に来たときは、ユニセックスな制服を着ていたが、だからと言って性別を間違えるなんてとんだヘッポコ野郎達だ。


この世界の常識は、髪の短い女などいるはずがない、というところなんだろう。

決して痩せ形の貧相なスタイルの自分には女要素が無いから、という訳では無いはず。――そうに決まっている。



だけどハルはその場で、自分は女だと否定する事を止めておく事にした。

ここでカミングアウトしたところで、そのリアクションで傷つく事が予想されたからだ。

皆んなの驚愕の表情を見たり、『嘘だろ?』とか否定されればきっと、もう二度とコイツらの顔など見たくなくなる。そうなれば共に討伐に行くなんて無理だ。

ここは自分の心を守るために、そして記録係の仕事を放棄しないために、ハルは口を閉ざすことにした。



そして気づく。

桃戦士は女性が恋愛対象者じゃなかった。桃戦士が自分を男として警戒する事はあっても、自分が桃戦士を警戒する必要は無かったようだ。

桃戦士には同性愛者の疑いをかけてしまった。

――全て皆んなの目が節穴のせいだけど。


今日の記録内容は決まった。

『戦士達みんなの目は節穴だった』

討伐記録はそんな言葉から始めればいい。ザマアミロ。

ハルは冷めた目で戦士達を見返してやる。



不満そうな顔を隠せないハルに、赤戦士のフレイムはチッと舌打ちをした。







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