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39.黄色い国での黒戦士

カナリヤ国二日目の今日は、ピサンリとお出かけだ。


『女子同士のお出かけは、相手に失礼がないように精一杯オシャレする』というのがハルの中の礼儀だ。

マラカイト国でセージに買ってもらった服の中から散々悩んで、ハルは柔らかなオフホワイトのワンピースを選んだ。


白のワンピースは、少しの油断も許されない服だ。

『こういう張り切るべき時にこそ相応しい服だろう』

そう決断して、少し緊張しながら新しい服に袖を通した。今朝は朝食からもう油断は許されない。



「まあ!クロイハルちゃん、見違えたわ!」

「昨日のラフな格好も可愛かったが、今日の装いはよく似合ってるよ」

メイズの両親に褒められて、ハルは照れながらお礼を言った。


『クロイハルちゃんは着飾ると変わるわね。本当に可愛らしいわ。あの子が気に入るのも分かるわね』

ふうんとピサンリは感心して、親不孝な息子が店から帰る前にお出かけしてしまう事にした。


昨夜は当分帰れそうにないと連絡は入っていたが、結局そのまま戦士達が帰って来る事はなかった。押し寄せた客が帰ろうとしなかったのだろう。


日もだいぶん高くなったし、そろそろ帰ってくる頃かしらとピサンリは考えて、『親を顧みなかった罰を受けなさい』とばかりにハルに話しかけた。

「さあ、街のお店がもうすぐ開店する時間よ。そろそろ行きましょう」

「うん!楽しみだね」


ハルに楽しそうに笑顔を見せる妻を、ブライトは愛おしそうに見つめて見送った。




街には馬車で向かう事にして、ベルも置いて行くことにする。『ケルベロスの街の連れ出し禁止』がまたフォレストから発令されていたからだ。

まず最初に、ピサンリ御用達のブティックに寄る。


「そのオフホワイトのワンピースもよく似合ってるけど、せっかくカナリヤ国の街を歩くんだもの。カナリヤ国のカラーを着てみましょう?」

そう言って、一緒に服を悩んでくれた。


黄色の服はハルが着こなすには難しい色で、今まで選んだ事は無かったが、お店の人のアドバイスと試着で素敵な服を見つける事ができた。


色々悩んだ末に決めたのは、ピサンリとお店のスタッフさん達が一番似合ってると褒めてくれた、レモンシャーベット色のワンピースだ。

スッキリと爽やかな黄色が、ハル自身も認めたくなるくらい似合っている。

ワンピースに合うメイクに変えてもらって、少し伸びた髪もサイドで編み込んでホワイトシルバーの髪飾りで留めてもらった。

ピサンリもお揃いの色のストールを買って首に巻き、まるで姉妹のような格好に、ハルの気分も上がっていく。

嬉しそうに着飾った2人に目を細めるお店の人に見送られて、ブティック店をあとにした。



ハルはピサンリとの時間を心から楽しんでいた。

元の世界であまり友達付き合いを深めてはこなかったが、たまに頑張ってオシャレして友達とお出かけする日は好きだった。

ずっと毎日頑張り続けるのは面倒で出来ないけど、普段とは違うそんなオシャレ日は、ハルにとっては特別な日だった。


国宝級美貌のイケメン達の前でオシャレしたところで、レベルの違いを思い知らされるだけで、自ら打ちのめされに行くようなものだ。

それは愚の骨頂というものであり、自分はそんな危険は冒したりしない。


あの戦士達のために着飾る事つもりがないから、自分のためにオシャレが出来ている今が、本当に楽しいと思えたのだ。



嬉しそうに付いてくるハルが可愛くて、ピサンリも張り切って街を案内する。家に立ち寄りもしない息子より、よっぽど可愛がり甲斐がある。

その楽しそうな2人の姿は、街の中で大きな噂になった。


少し前に隣の国のマラカイト国で噂になった事もあり、黒戦士のハルはカナリヤ国でも注目されていた。

ハルが自国の黄色の服を纏っていた事もあって、このカナリヤ国でもハルは好意的に受け留められた。

ピサンリも英雄の母として有名なので、2人で出歩く姿はとても目立つ。


2人が歩く先々で噂となり、その噂は昼からピサンリの店を開けていた戦士達の耳にも入ってきた。





「今日も店の手伝いをさせるつもりかよ」

フレイム愚痴に、フォレストが諭す。

「しょうがないでしょう?昨日店が繁盛しすぎて、今日の分の下ごしらえひとつ出来てなかったんですから。メイズの屋敷に世話になる以上、落ち着くまでは手伝いましょう」


「クロイハルはカナリヤ国の服を着てるみたいね。本当にあの子、どこ行っても注目されるわね。私も見てみたいわ」

マゼンタがため息を着いた時、お店の扉がひらいた。


また客が来たかとウンザリした気持ちで戦士達が扉に視線を送ると、ピサンリとハルが立っていた。

「貴方達、ご苦労様。ずいぶんお店が繁盛してるじゃない。今日は私達も客よ。しっかりもてなしてね」

いい笑顔を見せながらピサンリが話し、2人が店に入って来ると、店の客達がどよめいた。


「あ!来たぞ!黒戦士だ!」

「おお!この店を張っていて正解だったな!」

「黒戦士ちゃん!こっち座りなよ!」

「ちっさ!あんな小柄だったのか」


ハルは身体の大きな黄色い国の人々の視線が、自分に強く向けられた事に恐怖した。

店の客達の、自分を指す大きな声に身体が固まる。

皆が同時に話すので、何を言ってるのか上手く聞き取れない。


『ヤバい。この国の人に目を付けられた!』


きっと国民的美貌の仲間として相応しくないと、皆で自分を責め立てるつもりだろう。

『私の事を小さいと言った奴がいた。私が小さいんじゃなくて、お前達が大きいだけなのに!私は161センチもある、高身長女子だぞ、この節穴野郎め。あんな背の高い国民的美貌の戦士達が周りにいるせいで、とんだ小人扱いだよ!』

震えるほどの怒りで、ハルは床を睨みつけることしか出来ない。

顔をあげるのは怖かった。顔をあげて皆が自分を睨んでいたら、きっと夢に見てしまう。



『ここにいては危険だ。逃げよう』

サッと店に背を向けて、店の外に大人しく座っていたケルベロスに指示を出す。


「ケルベロちゃん、急ごう!」

ケルベロスに背を低めてもらい、ハルは背中にしがみつく。

「ピサンリさーん!ごめんね、先に帰るよ!!」

ピサンリに大きな声で挨拶をして、ハルは屋敷に向かってケルベロスを走らせた。




『カナリヤ国の色もとても似合うな』とも、『すごく素敵ですよ』とも、『店はメイズに任せちゃって、一緒に街を歩きましょう』とも話しかける事も出来ないままに去っていくハルを見て、戦士達は呆然とする。


そんな英雄達を見ながらピサンリが呟く。

「あーあ、せっかく仕事を手伝ってくれている皆んなにクロイハルちゃんを見せてあげようと思ったのに…逃げちゃったわね」



ハルは背中の上からケルベロスに話しかける。

「ケルベロちゃん、街は危険だよ。明日から街に出るのは止めておこう。本当に国宝級美貌のイケメン野郎を仲間に持つと苦労させられるよね」



ケルベロスの背中に乗り、何かを語りながら魔獣を使役するハルの姿は、更に街の噂を加速させていった。



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