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37.黄色の国、カナリヤ国

今回の討伐は、予定よりとても早く終わったらしい。

確かに最近の戦士達はとても頑張っていた。

戦士達は魔物が憎いのか、いつもにも増してザクザク魔物を切っていた。



「最近の赤戦士さんは殺意が漏れてたし、魔物も怖かっただろうね。青戦士さんは楽しそうに魔物を片付けていってたし、魔物も青戦士さんが悪魔に見えただろうね……。緑戦士さんもケロとスー使いが荒くなってたし、桃戦士さんも頑張りすぎて疲れが出たのか、青戦士さんの怪我は治せなくなってたね」


この地での討伐最終日、メイズがハルにジュースを差し出しながら、明日にはこの地を立つことになりそうだと教えてくれたので、ハルは最近感じていた感想を述べた。


「まあ戦士達みんな、思う事があったんだろう」

「そうかも。みんなはキャンプよりも街の方が好きなんだろうね」

噛み合わない会話を流しながら、メイズはここ最近の皆の様子を思い返していた。




ナキドリの一件で、ハルはシアンを友人認定したようで、シアンを見て警戒する様子が無くなった。

だけど他の戦士に対しての態度が、同じように変化したわけではない。はっきりと区別されている訳ではないのだが、やっぱり越えられない一線を感じるのだ。


『クロイハルは本当に用心深い人間だ』


メイズはハルをそう見ている。

おそらく皆も同じように考えていて、もどかしい苛立ちを魔物に向けていたのだろう。

皆が平等に一線を引かれるならば、『それがハルという人間だ』と思えるが、ドンチャ王子やシアンを見る限り、キッカケがあれば線引きを消す事が分かると、やはり何となく面白くないものを感じてしまう。


メイズは静かにため息をつくと、気分を変えるようにハルに明るく声をかけた。

「明日は僕の国のカナリヤ国に向かう事になる。日程に余裕が出来たし、しばらくゆっくりする事になりそうだ。カナリヤ国は食の国だから、美味しい物がたくさんあるぞ」

「それは楽しみだね!」

ハルは楽しそうな笑顔を見せた。






翌日の朝早くログハウスをたたんで、戦隊一向はカナリヤ国に向かった。

カナリヤ国はマラカイト国の隣の国で、時間が合えばマラカイト国のセージさんも顔を見せてくれるらしい。


『オルトロちゃんとまた会える!』

そう思うと、ハルはカナリア国へ向かう事が嬉しくて、移動の旅を張り切った。


張り切ってもケルベロスの上から皆んなに『頑張って』と声援を送るだけで、お菓子を食べたり眠くなったら眠ったりで、自由ないつもの旅だった。




「ふう、みんな長旅お疲れさま。今日はまだ早いけどゆっくり休もうか」

お昼遅くにカナリヤ国に入ると、ハルが場を仕切り出す。

「お前は寝ていただけだろが」

そうフレイムは吐き捨てたが、ハルは寛大な心で流してあげる事にする。

疲れは人を苛立たせるものだ。

『この地でゆっくり休めば、この短気な赤い野郎も落ち着くだろう』と考えてやった。



この国での宿泊地は、メイズの家になるそうだ。

「お土産買って行こう!」

ハルの提案にメイズが笑う。

「お土産は要らないが、まだ時間も早いし街に寄っていこうか」

そう応えて、街で買い物する事になった。



「わあ、黄戦士さんの親戚がいっぱいだ…」

カナリヤ国は黄色の国だった。

街の人々は、黄色系統の髪の人が多く、どこか黄色を効かせた衣装を着ている。

そして街の女性達の、戦士達への黄色い声援が半端ない。



「キャー!!メイズ様よ!お帰りなさい!!」

「まあ!フォレスト様だわ!素敵!!」

「フレイム様、こっちを向いてください!」

「シアン様!その冷たい目が素敵です!!」

「マゼンタ様!今夜は遊びましょうね!」



――ヤバい。これはデジャヴか。

ハルは素早く戦士達から距離を取る。


『私はこんな国宝級美貌のイケメン達とは全く無関係です!』

そんな顔をして、視線を合わせようともしないハルに、戦士達は『またか』とため息をつく。


ひとまずメイズの馴染みのお店で、早い夕食を取ろうと街の買い物予定を変更した。

皆から少し離れて歩くハルが逃走しないように、フォレストがケルベロスに指示を出す。

ハルがちゃんと付いてきているか、注意深く観察しながら一向はお店に向かっていった。



到着したお店は、可愛いたんぽぽ色の建物だった。

「すごい!可愛いお店だね!これだけ可愛いと、外から見てるだけで幸せになれそうだね。このお店の外に住みたいな」


戦隊達を迎えに店の外で待っていた店主は、はしゃぐハルをなごやかに迎えてくれた。

「討伐の旅、お疲れさまです。あなたが黒戦士様ですね。メイズがお世話になってます」


ハルが店主の方を見ると、可愛いたんぽぽ色をした髪の女性がハルに微笑んでいた。

店主は女性で、可愛い系の美人さんだった。国宝級美貌の戦士達と並んでも遜色ないくらいの美貌だ。

「あ、黄戦士さんのお姉様ですか?こちらこそ黄戦士さんにはお世話になっています」

ハルは深々と店主に礼をして挨拶をした。


黄戦士は女遊びが酷いイケメン野郎だが、ご家族様には丁寧な挨拶をするべきだ。自分は社交性のある常識人だと自負している。



「まあ、メイズの姉だなんて。ふふふ、そんなに若く見えるかしら。ありがとうございます、クロイハル様。私はメイズの母のピサンリと申します」

「え!お母さんなんですか!こんなに可愛いのに?名前も可愛いじゃん!めっちゃ若い!……あ。いえいえ。ピサンリ様、とてもお若くて綺麗な方ですね」


――ヤバい。ずっと気遣うべき人がいなかったから、敬語が出て来なかった。

『このままでは常識知らずな人になってしまう』と、ハルは気を引き締める。

国宝級美貌の戦士達にはどう思われても構わないが、一般人は丁寧に接するべきだ。


「まあ、ふふふ。敬語なんて使わないで下さいな。ピサンリで結構ですよ。私もクロイハル様とお呼びしても宜しいですか?」

気を引き締めたばかりのハルだったが、ピサンリの言葉にホッとする。

許してくれるなら、すでに使う事がなくなった敬語は遠慮したい。

「様は要らないよ、ピサンリさん。私も敬語を止めるから、ピサンリさんも普通に話してくれると嬉しいな。駄目かな?」


「いいえ。では私も普通に話すわね、クロイハルちゃん。メイズの腕には及ばないけど、たくさん美味しいご飯を用意してるのよ。さあさあ、早くお店に入ってちょうだい」

「黄戦士さんの料理は美味しいからね。ピサンリさんのご飯も楽しみ!黄色いお店も素敵だね、ピサンリさんカラーが最高だよ!」

「まあ、ふふふ」




あっという間に仲良くなった様子のハルとピサンリを見て、戦士達は微妙な気持ちになる。

これだけ長い時間を共にしながらも、あんなに打ち解けた様子を、今まで自分達に向けた事があっただろうか。


自分達戦士とは明らかに違う態度を見せるハルの背中に、戦士達は冷たい視線を向けた。


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