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34.討伐後もこの世界に残るならば


「緑戦士さんは、どうやってケルベロちゃんと契約を結んだの?」

「えっ」

夕食の席でのハルからの質問に、フォレストが驚く。

ハルから話しかけられたのは久しぶりだったし、意外な質問だったからだ。


ハルが戦士達に個人的な質問をした事は、今まで一度もない。誰にも何の興味を見せる事がないハルの、自分への問いかけが意外だったのだ。

特に『魔獣とはどうやって契約を結んだのか』という質問は、自分に近づきたい者が会話の取っ掛かりに使う常套句だった。

気を良くしたフォレストがハルに笑顔で応えた。


「僕の一族は魔獣使いなんですよ。捉えた魔獣を、魔法で契約を結ばせるのです。互いの相性もありますから、契約を結び続ける事は難しいのですが、ケルベロスとは相性が良かったようですね。随分長い付き合いになりますよ」

「そうなんだ。契約の結び方は誰に教えてもらったの?」

「叔父のセージですよ。ああ見えて彼は一族の長ですからね」

「セージさん、そんなに偉い人だったんだ…。どうりで人格者だったよ。セージさん、私にも教えてくれるかな?」

「えっ!?」


フォレストがハルの言葉に驚く。

いやいやそこは、『長であるセージを超えた魔獣を使役するなんて』とか、『そんな長い期間、ケルベロスという凶暴な魔獣を従えるなんて』とかいう感嘆の言葉が続くはずだろう。何故クロイハルも使役術を学ぼうとするのか。



「クロイハル?魔獣を使役したいのですか?」

「うん。私もケルベロちゃんとかオルトロちゃんみたいな可愛い子をたくさん捕まえたい」


「………」

二人の会話を聞いていた、他の戦士達も言葉が出なかった。

フォレストに興味を見せたのか?と気になったが、そうではないらしい。ハルらしいといえばそうだが、魔獣に興味を持つのは危険だ。


シアンがすかさず注意する。

「クロイハル。ケルベロスはフォレストだから使役出来ているのですよ。本来魔獣は危険な生き物です。そのために私達が討伐しているのですから」


「うん…。そうだよね。そんな簡単に使役できるなら、みんなが捕まえて飼っちゃうよね…」

残念そうに応えるハルに、『あんな物を飼いたいと思う者などいない』とは誰も言えなかった。



「クロイハルにはいつもベルが付いているでしょう?この前は危険な目に合わせてしまいましたが、もう二度と討伐地では目を離さないように言い聞かせたので、ベルだけでも危険はないですよ」

以前の件がハルを不安にさせているのかと、フォレストは不安を取り除くようにハルに説明した。


「あ、うん。ベルはとても頼りになる、可愛い良い子だよ。討伐地じゃなくて、この討伐が終わった時の事を考えてたんだ。討伐が終わったら、ケルベロちゃんとずっと一緒にいる事ができなくなるでしょう?」

「……もし、クロイハルが望むなら、僕の側にいたらいいですよ。そうすれば、ケルベロスともずっと一緒にいれますし、オルトロスともしょっちゅう会えますよ」


ハルに返したフォレストの言葉に、フレイムが苛立ったように声をあげた。

「フォレスト、テメェはルールを守れ!」

フレイムはハルに向き直る。

「だいたいクロイハル、お前はケルベロスと一緒にいて何がしたいんだ?討伐後もソファーで寛ぎたいなら、同じようなソファーを探せばいいだけだろう?」



フレイムの言い草にハルはムッとする。


この赤い奴は、私をどれだけ怠け者だと思っているのだ。わざわざこの世界に残って、ソファーで寛ぐだけの人生なんて望むわけがないだろう。

本当にふざけた国宝級美貌のイケメン野郎だ。


「ケルベロちゃんをソファーに使うわけがないでしょう?」

『何言ってんだコイツ』というようにハルはフレイムに吐き捨てたが、いつもケルベロスをソファーに使っているハルに、説得力はない。


馬鹿にしたようにフレイムが聞く。

「何に使うってんだよ」

「この先もこの世界に残るなら、動物カフェを始めようと思ったんだよ。ケルベロちゃんとかオルトロちゃんみたいな、癒し系動物を放し飼いにして、みんなに楽しんでもらうカフェを作るんだから」

「………」


ヘッとフレイムに向かって、馬鹿にしたように返事を返してやると、フレイムが口を閉ざした。

ハルの正当な意見に言葉も出ないらしい。

『ザマアミロ。反省しろ、このイケメンめ』

そんな思いで勝ち誇ったように、ハルは口を歪めて笑ってやった。



フォレストが遠慮がちにハルに声をかけた。

「魔獣カフェはちょっと難しいかもしれませんね」

――魔獣目当てに来る客などいるわけがない。


「やっぱり魔獣を使役するのは難しいんだね。本当はキメラって魔獣を使役したかったんだけど。ライオンとヤギとがくっついた子で、口から火も吐くんだよ。ブリュレを目の前でキャラメリゼしちゃう事もできるし、カフェに向いてそうでしょう?」

「………」


残念がるハルに、誰も声をかけられない。

そいつに出会う事があれば、ここにいる皆が一緒でも、無事に帰れるかは分からない。

そんな不吉な魔獣の名前を出す事自体、間違っている。



「クロイハル、ブリュレのキャラメリゼは僕がしよう。明日のおやつはブリュレにしようか」

「本当?すごいね、黄戦士さんはブリュレも作れるんだ。後々のために私も手伝ってみようかな」

「いや、クロイハルはゆっくり休んでくれ」


ハルはアッサリと手伝いを拒否された。

カフェを開くのは良いかもしれないが、提供する食べ物を用意する事は難しそうだ。

やっぱりこの世界に残ったところで、自分の居場所はここでは見つけられないかもしれないなと、ハルは魔獣カフェのために残る事は止めることにした。


『元の世界で堅実に生きていく方がいいだろう』

ハルはそう考えて、側に座るベルの背を優しく撫でた。

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