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33.赤戦士がハルに思うこと

フレイムは、ハルと出逢った日を思い返す。


クロイハルという女は、出会った時から破天荒な奴だった。


あの日は、『世界を救うための魔物討伐のリーダーとして神から選ばれた』との通達を受け、フレイムは王城に向かった。

年々増加の一途を辿る魔物に対して、『何らかの神の神託が下るのではないか』と数年前から街では噂になっていた時で、『もし討伐隊が組まれるならば俺も選ばれるだろう』と予想していた為、通達も驚くことなく受け取っていた。

自分ほどの剣豪はいないと今も自負している。


待機部屋として用意された部屋では、見知った面子が揃っていて、一緒に討伐を組んだ事がある者もいたし、顔見知り程度の者もいた。

皆自分と同じく英雄と呼ばれる者達ばかりで、これも予想通りの顔ぶれだった。

自分も含めてクセのある者達が多いし、討伐地では荒れるだろうなと予想された。



他にあと一人、参加する者がいるらしい。異世界から神に呼ばれる者だということだ。

そいつは討伐する者ではなく、後世に自分達の討伐記録を残す担当に就くようで、この世界の者では扱えない、古代遺跡を操れる者だとも説明された。


神に呼ばれる者など計り知れない者だが、『討伐の邪魔にならない者ならばどんな者でも構わない』とその時は軽く考えていた。




確かにどんな者でも構わないと思っていた。

しかしコイツは無いだろう。

この待機部屋にノックも無く平然と入ってきて、こっちを遠慮なく観察してくる。 

その不躾な視線に腹が立ち睨んでやると、不満そうな顔をしながらも隅の椅子に座り、手に持ったジュースを飲みながら何かを手にして寛ぎ出した。


この世界の王子であるドンチャヴィンチェスラオ王子が入室されても、少し顔を上げて確認した後は、また手元を見て王子の話を聞く様子も見せない。

終いには、やたら主張するジュースと食べ物を飲み食いし出した。


クロイハルという人間は、全くあり得ない常識外れな奴だった。



黒戦士だという自覚さえなくこの世界に来て、地獄の番犬と恐れられるケルベロスの背中で初日から爆睡する女。

この世界の王子に敬意のカケラも見せず、世界の英雄と讃えられてきた自分達を蔑ろにし過ぎる女だ。


討伐地では好き放題の自由さを見せ、恋愛禁止だというのに平然とした顔でマゼンタを誘う。

――誘っていると思っていたが、それはマゼンタを女だと勘違いしていたようだが。

マゼンタは確かに女のように美しい顔をしているが、どこから見ても男だろう。

何日も一緒にいながら勘違いし続けるクロイハルの節穴さにも驚かされた。


ナキドリの鳴き声に恐れて、二度も夜中に外に飛び出して、もっと恐れるべきはずの獣舎で爆睡する、非常識さを平然と成し遂げる奴でもある。



自分の知る常識を超え過ぎていて、面倒になりいちいち怒る事も出来なかった。


それは他の戦士達も同じだったようで、破天荒なハルに気を取られて、通常討伐中の戦隊の中では漂いがちな、殺伐とした空気が流れる暇も無かった。

繰り返される魔獣殺戮でケルベロスが魔獣に返る現象も起きなかったし、討伐地での女切れでマゼンタがやる気を無くして仕事の手を抜く事も無かった。

メイズの仕事ぶりは相変わらず安定しているが、食事の度のハルの絶賛と、余計なオヤツ作りに気分が紛れるのか楽しそうに見えた。

青戦士のシアンはおそらく最初からクロイハルを気に入っている。


――それは自分も理解できる。


戦いというものは、実力は言うまでもないが、運も勝敗に大きく左右する。

神に選ばれて、古代遺跡までも難なく操るクロイハルは、戦士にとっては縁起の良い、側に置いておきたい者だ。実力がある者ほどそういう存在に惹かれるものだろう。



だけどクロイハルは英雄である自分達を明らかに避けている。

ベタベタとくっついてきたり、自分を見て騒ぎ立てる女は鬱陶しいが、クロイハルにはそんな要素は全く見られない。要素が見られないどころか、必要以上に距離を取ろうとするし、自分が声をかける度に不満顔を見せられる。

自分の言葉遣いが悪い事は自覚しているが、不満がある度ケルベロスに『あの赤い奴が―』とヒソヒソと悪口を言うのはどうかと思う。


自分が鬱陶しく思う女達に向ける態度以上の、あり得ない態度をクロイハルは自分に向けてくるのだ。


シアンも、シアンなりにクロイハルと近づこうとしているのかやたらと話しかけているが、どうしても小言になってしまって鬱陶しがられている。

アイツも『あの青い奴が―』とケルベロスに囁かれている。


今まで人は向こうから寄ってくるものだったし、自分が動くものでは無かった。

こちらから話しかけなければ、こちらを見ようともしないクロイハルにどう接したら良いのかよく分からないのだ。



マラカイト国では距離が近くなったように感じたが、白騎士の事もあって、また距離が開いてしまった。


だいたいあの時クロイハルが危険に陥ったのも、ケルベロスの使役者のフォレストと、メイズの油断が招いた落ち度だ。

メイズがクロイハルを怒鳴る資格など無い。


クロイハルは意識していないようだが、メイズを見るといまだに緊張した様子を見せる。ついでに黄戦士とひとくくりにされて、自分達戦士と距離を取られてしまった。

クロイハルが手首につけている、贈ったブレスレットが外されていない事は救いだが。


だけどそんな時にクロイハルはドンチャヴィンチェスラオ王子だけには、色々な話をしたみたいだし、苛々が募っていく。

シアンは、そんな自分よりも静かな苛つきを見せていて、奴からは怒りの魔力が抑えきれずに漏れている。


マゼンタはクロイハルの反応に気をよくしたのか、クロイハルに興味を見せ出した。明らかに鬱陶しがられてはいるようだが。




ドンチャヴィンチェスラオ王子は恋愛禁止派ではないようだが、まだ討伐が続く中、余計な恋愛トラブルなどは避けておきたい。

ここできっちり皆には釘をさしておくべくだろう。


クロイハルを除いた討伐会議中、フレイムは集まった皆に伝える。

「王子が何と言おうとも、討伐中の戦隊内の恋愛は禁止だ。これは絶対だ。覚えておけよ」



戦士達は『しょうがないだろうな』というように頷いた。




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