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32.仲間内恋愛禁止は絶対ではない


討伐を無事終えてログハウスに戻ってくると、ハル宛にたくさんの贈り物がドンチャ王子から届いた。

ひとつひとつの箱を開ける度にハルが歓声をあげる。


「わあ!約束してたジュースだ!これ凄く美味しいらしいよ、早速みんなで飲んでみようよ」

「あ!綺麗なお菓子!飾っておきたいくらい綺麗だねえ」

「あ、これドンちゃんが話してた花だ!虹色ってすご過ぎない?たくさんの色が入って綺麗だね」



「……それ王家秘蔵の薔薇じゃねえのか?」

「まあ、初めて見たわ!」

「王家の関係者にしか贈られないって噂ですよね」

「クロイハル、王子と何の話をしたらそんな花を受け取るのですか?」

「何か個人的な話をしたのか?」

騎士達が虹色の花を見て騒ぎ出した。


「え?個人的な話?何かしたかな?うーん…」

ハルは前に話してた事を思い返してみる。

「あ。討伐後に帰らないなら、お妃様にしてくれるって話かな…?」


「「ええ!?」」

「え?」

驚く騎士達の声に驚いて、ハルと騎士達はお互いに驚愕の表情で見つめ合った。


「クロイハル、その話を受けたのですか?」

「お断りしたよ。当たり前じゃん」


平然とした様子で応えるハルを、戦士達は信じられない者を見るような目を向けてきた。

その異質な者を見るような目にハルはムッとする。



何?何でそんな目で見てくるわけ?

『お前にプロポーズするような者など、これから先二度と現れないだろうに。そんなチャンスを逃したのか?』とか言いたいわけ?

確かにお前達のような美貌の、ハイスペックな野郎共なら、プロポーズされ放題だろう。それは認める。

だけど皆から揃って見下されるのは腹が立つ。

『相変わらずなイケメン共だ』

ハルも信じられない者を見る目で返してやった。



何を考えているのか分からない目で見てくるハルに、マゼンタが尋ねた。

「どうしてお断りしたのよ?」

「名前が長いからだよ」

不機嫌な顔でハルは言い捨ててやった。

ドンチャ王子は悪くないが、イケメン戦士達に腹が立っていたのだ。


「………」

戦士達は黙り込んでしまったので、ハルの気が晴れる。



機嫌が直り、勝ち誇った目を向けてくるハルに、メイズが声をかけた。

「さあ、お茶にしようか。クロイハル、そのジュースを開けてみるか?」

「そうしよう!楽しみだね」

機嫌良くハルはジュースを手に取った。





「わあ、このジュース本当に美味しい!マンゴー味が強めのトロピカルドリンクじゃん。よし、この感動マックスの時に、ドンちゃんにお礼を伝えよう」

ハルがタブレットを出して、ドンちゃんアプリを開く。

「スピーカーにしとくね。みんなも話せるよ」


「もしもーし、ドンちゃんいますか?」

「おお、クロイハルか。贈り物は届いたかな」

「うん。たくさんありがとう。ドンちゃん、このジュース本当に美味しいね!この味、すごく好き。確かにこれを飲んだら、タピオカの事は思い出さなくなっちゃいそうだよ」

「そうか。それは良かった」



ハルと王子の気安い会話に、戦士達は衝撃を受けた。

二人の会話の様子は、どう見ても自分達より打ち解けた様子だった。

タピオカが何かは分からないが、元の世界の物なのだろう。


フレイムが気になっていた事をドンチャ王子に尋ねた。

「ドンチャヴィンチェスラオ王子、あの薔薇はどういう事でしょうか。討伐中に恋愛ごとを持ち込まれるのは、王子であっても困ります」


「そのお声はフレイム様ですね。『討伐中の仲間内恋愛禁止』とはよく聞きますが、討伐の妨げにならないならば良いのではないかと私は思っております。

とはいえ贈った花は親愛の証で、先日クロイハルと話した時に話題に出たもので、深い意味はありませんよ。

クロイハルは、私の求婚も、戦士様のどなた様かとの結婚も断られましたしね」


「「ええ!?」」

「えっ?」

戦士達が揃って大声で驚くので、ハルもその声に驚く。


驚愕の表情を向けてくる戦士達に、ハルはムッとした。

『何よコイツら。自分達が私を押し付けられそうになったからって、そんなに驚かなくてもいいじゃない。私だってお前達みたいな国宝級美貌のイケメンなんてごめんだよ!』



何故か自分達を睨んでくるハルに、メイズが問う。

「どうして僕達との結婚を断ったんだ?」


『何?自分達との結婚は、全国民が喜んで食いついて当然だって言いたいわけ?お前達みたいな国宝級美貌の隣に並んで、比較されて惨めな思いをする人生を私は選んだりしない。絶対に!』

そんな思いでハルは戦士達に言葉を吐き捨てる。


「国宝級美貌のイケメンだからだよ」

「………」


黙ってしまった戦士達に勝利を確信して、ハルはフッと片側の口角をあげてやった。



「ドンちゃん、あの花綺麗だね。虹色の花なんて初めて見たよ」

「虹?そんな色があるのか?」

「この国に虹はかからないのかな。虹っていうのは7色で――」



平然とした顔で、ドンチャ王子との会話を再会したハルを、黙って戦士達は眺めていた。

クロイハルという者は、王子や自分達への恋愛事には一切心を動かされない者だと、戦士達に強く認識された瞬間だった。






ドンチャ王子との話を終えて、また戦士達同士のお茶の時間を再開した。


ふうと大きくため息をついたマゼンタが、ハルに揶揄うように声をかけた。

「もう。クロイハルったら、勝手に私との結婚を断るなんて酷いわ。あんなに抱きしめ合った仲なのに」

「ええ?私がいつ桃戦士と――」


そこまで話してハルはハッと思い出す。

そうだ。あの夜は、ミルキーさんが大変過ぎたし、私も泣きすぎてよく分からなくなっていた。

次の日も色々な事が重なってすっかり忘れていたが、確かにあの日は桃戦士に抱きしめられた。


寝ているところを起こしたので、桃戦士はパジャマ姿で、シルクのような滑らかな生地は、桃戦士の肌の温かさをそのまま伝えていた。

細身に見えても広く逞しい胸の中で、抱きしめられると不安な気持ちが収まっていった。


すっかり忘れていたあの日の事を思い出して、ハルの顔に一気に血がのぼる。

桃戦士の顔も見れなくて俯くしかなかった。耳も熱いし、汗までかいてくる。



「………」

どうせいつものように素っ気なく流されるだろうと思ってかけた言葉だったが、あまりにも可愛いハルの反応に桃戦士は紅茶に伸ばした手を止めた。


確かに自分は女好きで、来るもの拒まずで寄ってくる女の子達の相手をする。そんな女の子達は遊び慣れている子達ばかりで、真っ赤になって固まるハルのような反応は珍しい。

思わずハルに声をかけた。

「クロイハル、もう一度抱きしめてもいいかしら?」


『駄目に決まってるだろう、この野郎!』

ハルはそう思うが言葉が出ない。首まで赤くなってしまい、床を睨みつけるしかなかった。




ハルの思ってもみなかった反応に、他の戦士達も意外な気持ちでハルを眺めていた。

どうやら恋愛事に心を一切動かされない奴ではないらしい。


真っ赤になったまま絨毯を睨みつけたまま動かないハルを、どこか浮き立つような気分で戦士達は眺めていた。





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