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30.意外な事実

数日後の朝、ハル宛に手紙が届いた。

「ド…チャヴ…イン…?何これ、こんな続け字で書かれたら読めないよね。誰だろ?」

「……ドンチャヴィンチェスラオ王子からでしょう」

「ああ、ドンちゃん」


シアンに教えられて、手紙を開く。

中にはすぐに連絡がほしいと書かれていた。


「王子は何て?」

フレイムの問いに応える。

「すぐに連絡してって。えーと、1人で連絡するようにって。じゃあ部屋で連絡しようっと」


そう言ってハルは部屋に戻って行った。



「………」

戦士達は黙り込む。おそらく白戦士からドンチャ王子に、ハルが帰りたいと言った報告を受けての事だろう。

ハルはあれから、ボンヤリと考える様子を見せる時がある。

ドンチャ王子からハルに、どんな話があるのかは分からないが、あまり良い話にも思えなかった。





「もしもーし、ドンちゃん?手紙が届いたよ」

「おお、クロイハル様。連絡お待ちしておりました」

アプリを開くと、すぐにドンチャ王子が出てきてくれた。


「どうしたの?何かあったの?」

「白戦士から緊急の報告を受けまして…。クロイハル様が帰りたいと仰ったとか。クロイハル様の帰還についてお話ししておこうと思い、手紙を送らせてもらいました」

「え?帰れるの?」

「今すぐとはいきませんが、帰る方法はあります」

「ええ!!本当に?」



何ということだ。

内心もう帰れないと思っていたから、その決定的な言葉を聞くのが怖くて、今まで聞けなかったのだ。

まさかこんな簡単に密かに思い悩んできたことが解決するとは。


「いつ帰れるの?どうやったら良いのかな?」

「…申し訳ありません。すぐでは無いのです。この神の神託の任務を終えた時に、神が直接クロイハル様に希望を尋ねるとの啓示を受けています。きっとクロイハル様の望む未来が叶えられますよ」


「……そっか」

――具体的な事は分からなかった。話が曖昧過ぎて、帰れる確実な保証は感じられない。

ハルはまだ神の姿を見た事さえないし、ドンチャ王子の言葉はどこか遠い話にも思えた。


ハルの元気のない返事に、焦ったようにドンチャ王子が謝る。

「申し訳ありません。期待させてしまいましたでしょうか」

「ううん。帰れる可能性があるって分かっただけでも嬉しいよ。ありがとう、ドンちゃん」

ハルの言葉に偽りが無いことを感じて、ドンチャ王子は安心したようだ。続く言葉が明るかった。


「任務を終えた後も、この世界に残りませんか?私はクロイハル様を、バリアスカラー国の未来の王妃としてお迎えしたいと思っております。――私と共に先の人生を歩みませんか?」

「それはお断りするよ」

「ぇ……」


ハルに尋ねる形で話したが、まさか断られるとは思っていなかったドンチャヴィンチェスラオは、地味に衝撃を受けていた。


自分はこの世界を代表する国の王子だ。

後々の王でもあるし、英雄達の上司でもある。それこそ全世界の女性達から憧れられる存在だと自負している。

クロイハルは破天荒な性格であるが、とても慈悲深く、あの短い期間でマラカイト国民にも愛されていたと報告を受けている。神に近いとされる白騎士からの評価も高い。

神に遣わされた存在である黒騎士ならば、自分の妃としても相応しいと考えていた。


しかしあれだけの美貌の戦士達に囲まれていれば、心惹かれる者もいるだろう。

ここは戦士達に譲ろうではないかと、ドンチャ王子は寛容な決断をする。


「では、クロイハルには戦士達のいずれかとの結婚を許しましょう。クロイハルが選ぶ者と幸せになってください」

「え、戦士達もお断りするよ」

「………」



『あんな子達と付き合うなんて冗談じゃない』

ハルは強くそう思う。

あんな国宝級美貌の恋人なんていたら、一緒に並んだ時に、見た目の格差で悲しい思いをするのは自分だ。

たとえそこに目を瞑っても、あれだけ女の子達に人気があれば、付き合ったとしてもすぐに捨てられるだろう。捨てられる事がないとしても、『いつか飽きられてしまう』そんな思いに蝕まれそうだ。

そんな病み一直線の危険な奴らには関わりたくない。断固拒否させてもらいたい。



「クロイハル様は、慕われている方がいらっしゃるのですか?」

「好きな子かあ…ケルベロちゃんとオルトロちゃんかな。ナキドリは可愛いけど、鳴き声がちょっと怖いしね」

「………」


『それは魔獣と鳥です』そう言っていいものか、王子は悩む。



「あ、では。もしこの国に残られるなら、何か始めてみたいことはありませんか?応援させていただきますよ」

「やりたい事?やりたい事かぁ……あ。」

「何かございますか?」

「動物カフェを開いてみたいな。前の世界でね、色んな動物と触れ合うカフェがあったんだよ。可愛い子達を見てるだけでも癒されるから、そんなカフェを開いてみたいな」


「人を癒すカフェですか…それは素敵な場所ですね」

王子はハルに感心した。

やりたい事が人を癒す場所を作るなど、なかなか出来る発想ではない。やはり自分の妃に相応しい人ではないかと考える。


「うん。可愛い動物がいれば、それだけで癒されるからね。ケルベロちゃんとか、オルトロちゃんみたいな子がたくさんいるカフェが理想かな」

「………」


ドンチャ王子はどう応えを返すべきか思い悩んだ。

それは魔獣カフェだ。癒されるどころか、命を奪われる恐怖しかないだろう。

しかしそんな事を言えば、クロイハルは傷つくかもしれない。


「ケルベロスもオルトロスも世に一頭しかいないですからね…それはちょっと難しいかもしれませんが…そうですね、もっと可愛い何か…もっと…」


必死で何か気の利いた事を言おうとしているドンチャ王子に、ハルは何だかおかしくなった。

あははは…と笑ってから、ドンチャ王子にお礼を言う。


「ありがとう、ドンちゃん。何だか元気が出たよ。

すごいね。私、この世界に残ったら何でもなれそうだね。ドンちゃんのお妃様にもなれるし、国宝級美貌の英雄を選ぶことも出来るし、お店を始めることも出来るなんて。前の世界にいたら、出来ない事ばかりだよ」

そうお礼を言って、またおかしくなってハルは笑った。



楽しそうなハルの笑い声を聞いて、ドンチャ王子はホッとする。

「はい。クロイハル様が何不自由なく過ごせるようにお力添えさせていただきますよ」


笑いすぎて涙が出た目を擦って、ハルは彼に話しかけた。

「ねえ、ドンちゃん。『様』も敬語も要らないよ。出来ればたまにでいいから、話を聞いてほしいな」

「………」


「あれ?聞こえなくなっちゃった?」

「いいえ。聞こえていますよ。…ああ敬語はなしだな。少し驚いただけだ。クロイハル、いつでも話を聞こう」

「ありがとう。じゃあ早速今からでもいい?」

「もちろんだ」



そしてドンちゃんアプリという無料通話で、思いがけなくハルとドンチャ王子はおしゃべりを始めた。

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